人気のカブクワ、初心者は違いが分からない?
夏の人気昆虫であるカブトムシやクワガタ。
なじみの深い人ならばいまさら何を言っているんだ?と疑問が湧いてしまう今回のタイトル、カブトムシとクワガタは何が違うのか?ですが、形態的な違いこそ知っていても少し深堀してみるとへぇそうなんだという違いがあったりします。
今回の記事では虫を全く知らない入門者から少し採取を始めた初心者を目処に2種のカテゴリーの虫の違いを掘り下げていきます。
決定的な違い<形態>
カブトムシとクワガタの何が違うでしょうか?と聞いて虫を知っている殆どの人が挙げるのが形態の違いですよね。
クワガタはハサミのような1対の大あごをもち、カブトムシは1本の巨大な角を持っているという点です。
それぞれ樹液でのエサ取りの際に戦いを繰り広げる際の武器として利用することがよく知られています。
一般的にはカブトムシの方が強いと言われており、詳細な戦績は不明ですが屋外でカブトムシの出現時期になるとクワガタがいなくなるというのは当たっています。
なので体感としても間違っていないかと思います。
形態的な違いを掘り進めていくと,、クワガタには自身のサイズによる内歯(ないし)の違いや大あごの形の違いなども挙げられます。
内歯はノコギリクワガタのノコギリを彷彿とさせるあの顎のギザギザのことで、この違いの差がクワガタの人気に貢献しています。
一方でカブトムシは大小問わず角の形はほぼ一緒です。
角にギザギザや突起が出ることは無く基本的には立派な1本角と胸にあるもう1本の角の構造は変わりません。
しかしながら角の先端の形には多様性があることが分かっています。
国立遺伝学研究所の記事、「カブトムシの角の形を決めるメカニズムを明らかに~折りたたみ方を決めるメカニズム~」というプレスリリースの中で、角形成時に重要となる原基が折りたたまれているとき(カブトムシの角は蛹時折りたたまれている)の皴の深さや方向が変わるケースがあることを発見しています。
これに基づくと角の形態が多少開いたり長くなったり反ったりしている個体に遭遇する不思議が解けますね。
一般的にはクワガタ程の形態差がないと考えられるカブトムシにも意外な個体差が有ることが分かりました。
樹液を出す方法
カブトムシとクワガタでは樹液の流出方法が違うことも挙げられます。
時折住宅街のシマトネリコやムクゲなどにカブトムシが大発生しているニュースが取り上げられることがあります。
本来関東圏では利用樹種ではないこれらの植物ですが、なぜ利用するのか不思議ですよね。
本来樹液というものはカミキリムシやタマムシ、蛾類の一部など樹木に穿孔(穴を空けて潜り込む)する昆虫が内部を傷つけることで細胞が傷つくと流れます。
もちろんシマトネリコやムクゲなどにも穿孔性昆虫はいるのですが、異質なのは大量発生するという点です。庭木にナラ枯れ(キクイムシによる数千単位での穿孔)のようなことは起こりません。
これはカブトムシが樹皮を傷つけて樹液を流出される能力があることに由来します。
2006年に京都大学の京都大学フィールド科学教育研究センター Field Science Education and Research Center, Kyoto Universityが発表?なのか不明ですがwebデータベースに存在している記事に「Bark carving behavior of the Japanese horned beetle(Yoshihito Hongo 2006)」というものがあります。
barkはバーク堆肥でおなじみの樹皮、carvingは削ることを意味します。
サンプルとして挙げられていた動画に乗っているものはシマトネリコです。
つまり穿孔性昆虫由来の樹液を舐めていると考えられるカブトムシが、自ら木を傷つけ樹液を舐めるという行為を確認したものです。
http://www.momo-p.com/showdetail-e.php?movieid=momo050525td01a
クワガタの場合にはヤナギやクルミなど柔らかい樹皮の場合には顎を利用して樹皮を傷つけ、樹液を流すような行動が見られます。
しかしそれがカミキリなど穿孔性昆虫が産卵時に傷つけたものやスズメバチ類の噛み痕を広げているのか、全くの無傷のものを傷つけるのかどうかは不明です。
♀の形態と産卵場所
カブトムシとクワガタの大きな違いとして形態的な部分の話になりますが、♀の顎の形が違う点が挙げられます。
これは2種の産卵場所の違いが深くかかわっています。
クワガタの♀には強力な小さい顎があります。
カブトムシの♀には顎はありませんが、前足が太くなっています。
クワガタの♀は朽木に産卵します。産卵時に朽ち木をほじって卵を産み付けるので顎が発達しているんです。
種により産卵箇所の違いも知られており、ヒラタやミヤマの様に根の方に産卵するものなどもいます。
一方のカブトムシは腐葉土やおがくずの堆積した場所に産卵します。朽木の中ではないのがポイントです。
こうした場所は柔らかい地面であるために、掘り進むのに有利なよう前足が発達しています。
産卵場所の違いが生存に有利なよう形態に現れている事例ですね。
ここでは詳細は省きますが、どちらも植物由来のタンパク質と炭水化物を摂取しています。
その分解には菌類の協力が不可欠であり、これが彼らが朽ち木(生木ではない)や腐葉土(生葉ではない)に出現することと関わっています。
詳しくは別記事にて
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フェロモンを使用する
大量発生で話題となるカブトムシ。
カブトムシの♂は集合ホルモンのようなものを出して仲間にいい樹液の場所などを知らせている可能性が明らかとなっています。(テレビなどで一時期話題となりましたね)
前述のトピックで挙げた庭木のシマトネリコにおけるカブトムシの大量発生などは聞いてもクワガタの話は聞きませんよね。
クワガタの場合もフェロモン使用の可能性は考えられます。(ヒラタクワガタの洞における♀待ち等)
しかし現状集合フェロモンの使用が分かっているのはカブトムシだけです。(クワガタで集合フェロモンの事例があったらすみません)
発生年数が違う
発生年数とは馴染みが無いかもしれませんが、いわゆるライフサイクルのことです。
カブトムシは卵から成虫までが一年になっています。つまり夏に生まれた卵は翌年の夏には成虫のカブトムシとなって出てくるということです。
一方でクワガタは種により環境条件によって発生年数が異なります。
これによりサイズ感が変わるなど奥深さがあり、ブリーダーが多いのも納得がいきます。
例としてミヤマクワガタを上げると通常は2年一化(成虫まで2年)なのですが、平地などで気温が高いと年一化、寒い地域などでは3年一化の場合もあると言われています。
ノコギリクワガタも通常年一化ですが、飼育下や晩夏の産卵のケースでは2年一化になることもあります。
身近なコクワでさえ年一、2年一があると言われており、大小さまざまなサイズが見つかる楽しさが深いのもいい点ですね。
飼育下では低温で管理し、食事期間を増やすなどの試みもあるようです。逆にカブトムシは短期間での勝負なので良いサイズを出すのに回数をこなせて面白そうです。
赤色系統を掛け合わせたスーパーレッドカブトムシなど、遺伝的な系統を確立するにはサイクルが早い方が有利ですよね。
越冬形態と寿命が違う
年一化(成虫まで一年)のカブトムシと複数年かかるクワガタでは越冬の形態が違うものもいます。また、それに合わせて寿命が違います。
人気の大型種、ノコギリクワガタやミヤマクワガタの寿命は一年近いこと知っていますか?
これは実は成虫までに複数年かかることが原因です。
カブトムシの成虫期間はおよそ2か月。冬場は絶対に幼虫です。
しかしミヤマクワガタは幼虫と成虫の可能性があります。2年一化を例にとると実は1年目の冬前ごろに彼らは成虫となり、木材の内部にて翌年の初夏頃の目覚めを待ちます。
ノコギリ、ミヤマは新成虫が越冬をし、翌年6月頃に脱出、秋口まで生きるとおよそ1年ほど生きていることになります。
ここからは個人的な仮説ですが、時折いるやたらと寿命の長い個体はこの秋口の羽化が遅かった個体なのではないかと思っています。
コクワガタやヒラタクワガタでは新成虫ではなくとも越冬するものもおり、冬場には必ず幼虫であるカブトムシと比べると楽しめる期間が長いのも2者の違いと言えます。
種数が違う
カブトムシとクワガタの大きな違いはその種数にもあります。
多くの甲虫が当てはまるコガネムシの仲間ですが、コガネムシ科のカブトムシとクワガタムシ科のクワガタと別れます。
詳細な種数は私自身すべてに出会っていないのですが、クワガタで50前後、カブトムシは島の亜種を含めれば6種ほどいることになります。
このうち亜種を除くとクワガタで40種前後 カブトムシで1種になります。
種数の多様性からクワガタの方が出会えるバリエーションが多いという魅力がありますね。
カブトムシは本州ではどう頑張っても出会えるものが1種ですが、クワガタであればコクワ、スジ、ヒラタ、オオ、ヒメオオ、アカアシ、ノコギリ、ミヤマ、オニ、ネブト、コルリの仲間など非常に多くの種数がいます。
この種数の違いもカブトクワガタの大きな違いといえますね。
さて一部分ではありますがカブトとクワガタを様々な面から比較してみるとこんなに違いが見つかりました。形態的な部分は知っていても生態面や少し踏み込んだ部分の違いには驚くようなものもあったのではないでしょうか?
そういう視点こそ自然のものを学ぶ楽しみだと個人的には思います。
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(ブログ内カブクワ関連の殆どがこの記事より読めるようまとめました。情報収集にぜひどうぞ。)
参考文献
国立遺伝学研究所「カブトムシの角の形を決めるメカニズムを明らかに〜「折り畳み方」を決める仕組み〜」,2020,
https://www.nig.ac.jp/nig/images/research_highlights/PR20201029.pdf,2024.12.21
本郷儀人,大阪市立自然史博物館「カブトムシによる樹皮の削り取り行動」,2006,
https://movspec.omnh.jp/ethol/showdetail.php?movieid=momo050525td01a,2024.12.21
カブクワ考察記事
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途中で顎の形の違いを紹介しました。そこをより掘り下げてどうしてサイズの違いが生まれるのかを考えてみる記事です。
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カブクワの幼虫が何を食べているのか?というのを紹介しています。生態面をより知りたい場合に役に立つ記事です。採集面でも発生木等の視点で役立ちます。
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魅力的な多数のクワガタたちに出会え、大人気のミヤマを狙える高尾での観察記もおすすめです。虫取りしたくなりますよ。
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