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木に謎のこぶのような蓋ができている?その正体は樹木穿孔性害虫コウモリガ!

木にコブ状のできものが?

庭木や雑木林、河川敷などで自然観察を楽しんでいると木の幹に茶色いこぶ状のものができていることがあります。

河川敷でよく見つかる印象がある木についた蓋

お世話している木々にイボでもできてしまったの?と驚いてしまう光景です。

そのコブの正体はなんとコウモリガという蛾の幼虫が幹に穿孔(穴を開けて入っている)しているサインです。大型の蛾であり、甚大な被害になる可能性が高いのですぐさま手を打ちましょう。

一方で樹木に穴を空ける蛾としてクワガタなどの生き物とつながりの深い昆虫でもあります。今回はコウモリガを通じて害虫としての視点や多様な生き物とのつながりを見ていきましょう。

コウモリガとは?

コウモリガはコウモリガ科に所属する体長約5~7㎝程の蛾です。

今回の生態写真はコウモリガではなくキマダラコウモリ。

かなり異質な見た目をしており、その名の通りコウモリの様にぶら下がるかのような長い脚をもちます。

成虫はおよそコウモリガで9~10月頃に、キマダラコウモリで5~6月頃に出現します。

飛びながら産卵するというかなり異質な行動を取ります。

部屋で逃がしたら空中を旋回しながらプリプリと産んだ

産卵数は多く、石川県のコウモリガ防除試験によれば2000~10000との記述が見られました。

コウモリガのメスを捕まえて放つとかなりの勢いてBB弾の3周りぐらい小さな卵をぷりぷりと産みます。

一般的に蛾は壁などに卵を産み付けるものですが、コウモリガは生態が他の蛾とやや異なるため、この産卵が優位なものに働くようです。

孵化した幼虫は様々な草本類を利用しその後木本に穿孔します。

草地はもちろん、低木を扱っている庭木屋などの周辺でも見つかる

つまり草地とそこに木々があることが生育上不可欠です。

このことからコウモリガは適度に草と木がある庭木や植生遷移の途中にある河川敷や林縁などの環境でよく見られます。

体重がそれなりにあり面白い

毒はありませんので捕まえてぶらぶらすると面白いです。

コウモリガの症状とは?

コウモリガは実に特徴的な痕を木に残します。

くるみの蓋。おそらくコウモリガ由来ではないかと思われる

それが幼虫が木を掘り進んだ際に生み出される木くずと樹液を糸でまとめた蓋です。

木の幹に不自然なこぶ状の半円形物質があったら要注意です。

その基部にコウモリガが入っています。

コウモリガ由来の場合蓋を取ると内部には1cm程の道がある。ない場合は他の要因。

コウモリガの除去に関しては様々な場所でいわれていますが、カミキリムシと同じく針金などによる物理的な駆除とスプレー型薬剤による除去が有効です。

コウモリガに関しては蓋をどけてしまえば入口が明確に見えるのでカミキリよりも針金で除去がしやすいです。

抵抗が無ければ針金の使用をお勧めします。蓋をどけたら出てくる穴に差し込んでしまいましょう。

草地に無造作にばらまくのが戦略

コウモリガは前述の通り産卵数が2000~10000と非常に多いです。除去しないと更なる被害を生んでしまうので容赦は厳禁です。

庭木の視点で見ると厄介この上ないコウモリガですが、自然界では非常に重要な存在です。特にクワガタがお好きならば知らずの内に世話になっているはずです。

コウモリガと樹液利用の生き物たち

樹液は木々に外部から穴があけられることで流れます。

コウモリガなど木を傷つける虫由来の樹液に集まるハナムグリ

つまりコウモリガは雑木林や河川敷などで樹液の流出に貢献し、夏場の樹液酒場を作り上げる存在です。

しかしその出現は草本と木本を利用する都合上林縁や河川敷など偏っており、どこでも見つかるというものでもありません。

ですが適した環境では彼らの出現がクワガタの出現と強く関わっていると感じられます。

例として河川敷のクルミやヤナギを上げますとこの木は元々枝や樹皮が柔らかいためにクワガタやカブトが自ら木を傷つけて樹液を流していることがあります。
なのであまり関係ないと思われますが...?

隠れ家が好きなクワガタですが、自然界で洞は勝手に作られるものではありません。

ヒラタクワガタを捕まえた河川敷の小さな穴

ではどのようにして作られるかというと、コウモリガやカミキリを始めとする穿孔性昆虫が若木に穴を空けるとその部分がふさがらず、木が大きくなっていきます。

例としてモミの木を加害するオオトラカミキリが内部を食べた痕とその痕の数年後の姿。

そのまま木が大きくなると中心部まで続くクワガタなどの隠れ家として長く愛される洞ができるのです。(もちろん他の例もありますが)

河川敷のクルミの細枝や幹にはこのように彼らの穿孔を示す蓋が残されており、この蓋に潜り込む形でクワガタが隠れている場合も少なくありません。

細木に空いた穴は塞がらないと深い穴となり、クワガタ類の住処となる。

そしてこうして蓋がされている樹液というのは乾燥した空気にさらされることが少なくなりますので、長期間枯れることのない樹液ポイントとしてクワガタ類に餌資源を供給し続けるのです。同時に隠れ家にもなるなんて彼らからしたらオアシスですね。

穴が生む資源の循環 コウモリガによる木材腐朽

webページ、街路樹の病気と害虫、木材腐朽菌の中でコウモリガによる樹木や枝の枯損について触れられています。

穴が空くことで木材内部に菌が侵入するリスクが生まれる。

コウモリガが幹に穴を空けることで木々を枯らす木材腐朽菌が侵入しやすくなり、樹木が衰弱したり枯れる可能性が出てくるというものです。

庭木という視点で見ると木が枯れるのは絶対に悪です。

木材が枯れることは生態系において不可欠。クワガタやタマムシなど人気昆虫が利用する。

しかし自然のサイクルにおいて木々が枯れるということは他の昆虫の発生に強く関わりがありますし、木材の地表への養分供給や地表への太陽光の増加などの影響もあります。

木々が枯れることの影響はクワガタも例外ではなく、クワガタは腐朽菌により分解された朽ち木を利用して成長しています。

枯れた部分を利用するきくらげの仲間。死んだ植物の存在が不可欠。

河川敷でよく見られるコウモリガは、樹液供給という点でクワガタ類に関りを持っているだけでなく、幼虫の餌資源の供給という視点でも関わっている可能性があるのです。

幅広い樹木を加害することで知られているコウモリガ

同サイトにてコウモリガの主要な加害樹が挙げられていますが、ヤナギを始めクヌギやコナラなど雑木の普通種も指摘されています。

それらの枯れ木や衰弱木を利用する生き物と繋がりがあることを考えると非常に重要な昆虫であることが分かりますね。



庭木という視点から見れば害虫に過ぎないコウモリガも生態系というちょっとミクロな視点で見ることでクワガタなどの身近な例と繋がることが見えました。

コウモリガに限らず穿孔性の昆虫というのは多くの生き物と繋がりが見られますので、その世界をのぞいてみると面白いですよ。

庭木にとっては害ですけどね。

参考文献
国土技術政策総合研究所 研究資料「街路樹の病気と害虫、木材腐朽菌」https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn1059pdf/Ks1059019.pdf 2-16p 2024.12.18
松枝 章 コウモリガ類防除試験 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/ringyo/publish/kenkyuuhoukoku/documents/2-2_koumorigaboujyo.pdf 2024.12.18