カブトクワガタ、なぜか小さい
夏のアイドルであるカブクワを探していると、そのサイズには色々なものがいることが分かります。
ジャンボ個体を追い求めるロマン、最小個体に驚きの感動、各種クワガタには自然産のギネスレコードなんてのもあったりします。
しかしなぜ甲虫にはここまで極端な成長の差が生まれるのでしょうか?
今回はそんな疑問を考察していこうと思います。ただの私の主観です。
大きいサイズと小さいサイズ<出会う個体>
自然下で遭遇する機会が多いものは関東圏だとコクワガタ、ノコギリクワガタ、ミヤマクワガタ、カブトムシ辺りになるかと思います。
まずはここら辺で遭遇した最小サイズと最大サイズについてどれほど違うのかを紹介していきます。
コクワガタは最もよく目にする種類です。自然下では3㎝前後のものが多く、最小では2㎝を切り、大きいものでは48㎜のものが自己ベストです。
48㎜では厚みが強く、ヒラタクワガタだと思ったほどです。
小さいものはスジクワだと思いましたね。
ノコギリクワガタは小さいものは実はかなり小さく26㎜が最小、63㎜が最大です。(さぼり)同じ種類だとは思えませんね。
カブトムシも差が激しいです。最小が31㎜程度、最大が81㎜。小さいものは♀かと疑いたくなるような小さな角がある個体でした。
同じ環境で見かけるのに対し、なぜこんなに差が出るのか不思議ですよね。
しかし平均的な出現ラインがあり、最小最大共に外れ値として極まれに出てくる印象があります。要因を考えてみましょう。
なおすべてに共通するものではなくどの種かに当てはまるような考察も含まれます。
栄養不足説
まず思い浮かぶのは幼虫時代に栄養が少ないのではないかというものです。
カブトムシやクワガタを人に置き換えて考えてみると摂取カロリーが少ない人は細く、多い人は太いなど栄養面の摂取量がその個体の成長に大きくかかわっていると考えるのはたやすいですよね。
成長に特に必要なものは炭水化物とタンパク質です。腐葉土や朽ち木には少し難しいですが、枯れた植物由来の炭素と窒素の割合があります。
C/N比と言われ、堆肥などでよく聞く用語となりますが、チッソに対する炭素の割合を表したものです。
クワガタに関する根拠は不明ですが、カブトムシにおいては腐葉土(C/N比が20とバランスが良く、窒素割合が高い)とクヌギマット(C/N比が90と高く窒素が低い)の幼虫の生育比較実験で窒素割合の高い腐葉土の方が幼虫は10%ほど大きくなり、クヌギマットで窒素が不足すると体重が減少するという結果があります。
ここから考えるにカブトムシにおいては同じ腐葉土であってもその腐葉土に由来する成分次第ではカブトムシが大きくなれない可能性があります。
最近堆肥化を学んでいるのですが、堆肥には熟す段階というのがあります。
未熟堆肥、中熟堆肥、完熟堆肥とそれぞれ呼ばれ、未熟~中熟(C/N30~60程度)のものは土にまくと逆に畑などから窒素を奪い、窒素飢餓(窒素が少なくくボトルネックになる)につながると言われています。
あくまで屋外で土を見ている主観的なものですが、カブトムシの幼虫がやたらといる堆肥や、堆積場所があるように思いますが、もしかすると堆肥などの腐熟具合や何かしらの方法で炭素や窒素の割合を感知しているのかもしれません。
カブトにおいては炭素窒素の割合で成長に差が生まれることが分かっているのですからね。
幼虫期間説
次に思い浮かぶのが幼虫の期間によって成虫のサイズというのが変わってくるという仮説です。
ブリードなどをやられているとまず思い浮かぶかもしれません。
例えば年一化であるカブトムシ幼虫ですが、成虫の出現期間は5月~8月頃までです。
6月に卵が産まれ、食事を開始し、翌年の遅めとなる7月頃に蛹となる個体と晩夏の8月に生まれ6月頃に成虫となる個体では幼虫期間が異なるため、食事量にも差が出てしまうと推測できます。
前述の栄養不足説の部分とも絡んできますが、窒素分が極端に少ない場合には幼虫期間が延びても大きくなるとは限りませんが、炭素と窒素が程よく含まれているならば幼虫の期間が長ければ長いほど大きくなる可能性は考えられますね。
また、クワガタのブリードでは低温下で幼虫の飼育期間を延ばすことで大きくすることができると言われています。
ミヤマクワガタは年2化と言われていますが、環境条件により暖地~平地で年一化、通常は二年一化、極端な条件だと3年一化の事例もあるようです。
幼虫期間が延びれば伸びる程摂取できる養分が増えますので、飼育下ではギリギリを攻めていく事例もあります。
個人的には東北や北海道のミヤマクワガタに非常に大きいものが多いのは、山地の気温が低く幼虫期間が長いからではないかと考えています。
東京の高尾山はミヤマクワガタが取れることで有名ですが、真夏にも40度近くなる低山ということもあってか出現するミヤマは年一由来と思われる小型個体が大半を占めています。
地球温暖仮説
さて何かと生き物の異変があれば悪者にされる便利な言葉、地球温暖化です。
カブクワに関してはおそらく影響があるものと思われます。
実は野外で採集を続けていくと色々な人に出会います。中には何十年も採集をしているような人もおり、クワガタが小さくなった、や、虫が少なくなったというのはよく聞きます。
この小さくなった要因として考えてみると先ほどの幼虫期間説と絡んできますが、温暖化により山間部の気温が上がり、クワガタの出現が速くなったという可能性は考えられます。
例として30年前の気温を上げますと(1980年東京)30度を超える日で見ても6月で4日、7月で7日、8月で5日です。
一年だけの抜粋故根拠としては薄いですが、2024年八王子では30度を超える日は6月で10日、7月で25日 8月で29日と数値で見るとあまりにも悲惨です。
悲惨すぎて幼虫のライフサイクルが早くなるのではなくて死滅しているのではないかとさえ思えてしまいますね。
とはいえ平地のコクワやノコギリ、カブト辺りはわんさか出ていますから、温度に厳しいミヤマを除いて他の種類は問題ないのでしょう。
この気温上昇により南方系のヒラタの生息が広がっているという話もありますからね。
ということで1年単位の比較ですが、ここまでの話で幼虫は温度で生育スピードが変わることが推測できます。
地球温暖化で気温が大幅に上がり、その影響でライフサイクルが早まった結果小さくなっているとする説です。
木々の大径木化説
これはそもそもクワガタ自体が減ったという本記事の趣旨とはやや離れたものとなりますが、山に手が入らなくなった結果クワガタがいなくなるという主張です。
自然のシステムは山から海まで見事なつくりとなっています。現代ではソーラーパネルが自然に優しいからと山を切り開いてどんどん緑のある場所が減ってるように感じますよね。
日本の自然面積を林野庁のデータベースから見るとおよそ2502万ha。森林面積ベースで見ると実は大きく変わっているわけではありません。
この内訳をみていくと人工林が4割近くを占めており、残り6割が天然林となっています。
日本の森林なのですが、森林面積は変わらずに森林蓄積が増えているという特徴があります。これは森林を構成する樹木の材積(材料としてみた時の木材面積)のことを指しますが、面積は変わらず森林蓄積が3倍近くに増えているのです。
ということは各種木々が巨大化していることを指します。
巨大化した木々は樹木を枯らすカミキリなどの影響を受けにくくなり、枯れにくくなります。
これにより発生材などの資源利用の機会が減り、大きい小さい以前に発生数が減っているのではないかという視点です。
クワガタ採集などされる方は体感していると思いますが、樹液は太すぎない木々の方がよく出ます。(ナラ枯れを除く)
この比較的若い木にカミキリムシやボクトウガなどの穿孔性昆虫が穴を空けることで樹液が流れます。虫が隠れる樹洞などは木が小さいときにこれらの虫から攻撃を受け、木々が成長することでその穴も外側に広がっていくのです。
しかし木々が巨大になると穿孔性昆虫は堅い樹皮を利用できなくなり、樹液の供給がなくなります。
昨今の木々はあまりにも大木が多すぎます。(若芽を好むウラナミアカシジミの減少など他生き物から見ても体感できる)
これにより発生木となる木々はあるものの、餌資源が不足している状況が日本の自然下で起きているというのが木々の大径木化説です。
私的な裏付ける体験としてナラ枯れによるクヌギやコナラの大径木の枯損及び樹液の流出により、各地でカブクワが大発生しているのを見ても一理あるのではないかと推測しています。
巨木の枯れ木が増えたことで良いサイズのものが見つかるような気はします。
やはり適度に人の手が入り、若い雑木林を維持することがカブクワの出現と成長の場所を提供するということで重要なのではないでしょうか。
最後の話は少しずれましたが、甲虫の小型化には色々な視点から推測が出来そうで面白いですね。
小さくなっているならその虫に出会える可能性があるのでまだいいですが、最後のトピックの様にその種に遭遇できないような状況に移行しつつあるような気がしてしまいます。
その機会を減らすためにもカブトムシやクワガタを題材として生き物の大切さを学んでいきたいですね。
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(ブログ内カブクワ関連の殆どがこの記事より読めるようまとめました。情報収集にぜひどうぞ。)
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参考文献
森林・林業学習館
カブトムシ幼虫の腸内環境と微生物の相互作用(和田典子 2021)
https://www.shizecon.net/award/detail.html?id=561
林野庁
https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/keikaku/attach/pdf/231013-2.pdf