冬、むき出しの枝につく緑のモコモコ
冬場は落葉樹の葉が落ちるため、木の上にあるものの姿が非常に目につく季節と言えます。

例えば止まる鳥が見やすいからバードウォッチングに向いたり、蛾の繭が見つけやすかったり落葉樹と常緑樹の違いを観察しやすかったりするわけですが、それとは別に樹上に緑の物体が見える場合があります。
丸いブロッコリーのような姿をしたそれの正体はヤドリギ。面白い生体を持ちつつ、冬季に非常に目につく奇妙な植物です。
ヤドリギとは?
ヤドリギはビャクダン科ヤドリギ属の植物の総称です。

地上に根を張らず、植物の樹上にて枝先や幹などに寄生する非常にユニークな生態を持つ植物の一種です。
ポケモンなどでおなじみのヤドリギのタネという技の由来でもあります。
ヤドリギ類は常緑樹の植物であるため、その丸い葉は通常一年中見られるのですが、種子運搬の都合上木々の内部に寄生していることが多く春から秋にその姿を見る機会はあまり多くはありません。
葉の落ちる冬の時期になると、ヤドリギ類は落葉樹に寄生することが多いことから周囲の葉が落ちていつの間にか木の上に丸いモコモコが出現し、人々の疑問として浮かび上がるわけです。

一方でヤドリギは寄生先を殺すような完全寄生ではなく、自身が緑色をしていることからも分かるように光合成できる能力を持ちます。
寄生主を殺さずあくまで栄養の補助をずっと続けてもらうその寄生はある意味では完全な寄生よりも厄介かもしれませんね。
こうした寄生は半寄生と呼ばれます。
種子運搬は後述しますが鳥に依存しています。この種子が大好きな鳥がいるのです。
また、近年ではこのヤドリギの仲間を利用するチビタマムシの仲間が見つかるなど非常に注目度が高く自然の関りを紐解いていく面白い対象として活用することができます。
名前は知っているヤドリギのタネ
ゲームをする人ならばほとんど知っているのがヤドリギのタネです。

人気ゲーム、ポケットモンスターに出現する草タイプの技なのですが、相手に種を撒き毎ターンHPを吸収するという技になっています。
ヤドリギはじわじわと相手の栄養を奪っていくという性質を持っているため、ゲームにおいてその植物の性質が再現されていると言えます。
現在の効果は毎ターンHPの8分の一を吸収するということでなかなかに強力な効果と言えます。
ヤドリギは時に寄生主を殺してしまうことがあるのですが、ヤドリギの寄生先は大木であることが多いため、実際に木々を枯らしてしまうケースはそんなにないと思われます。

これはヤドリギが半寄生であり自身にも光合成により栄養を得る力があることや同じような寄生生物のネナシカズラなどと比べても種子散布の都合上一つの木に大量につくことが難しいことなどに由来すると考えられます。
つまりポケモン的に言うとヤドリギのタネは自然下のものよりも殺傷能力が高いと考えられますね。時間と共に相手を確実に仕留めてしまいます。
また、ポケモンにおいてはタイプ相性があります。
なんと草タイプのポケモンにはヤドリギのタネは無効化されてしまうのです。

ヤドリギは植物でありながら植物に寄生するというユニークな植物です。しかしゲームでは本来の寄生相手である草タイプには効かないんですね。
草タイプ限定で毎ターン4分の1HPを削るというようなヤドリギらしさがあるとヤドリギスゲー!再現度たかー!と喜ぶ人がいるかもしれません。
いや多分いませんね。
ヤドリギの奇妙な種子運搬
ここからはヤドリギの種子運搬についてみていきましょう。

なお樹上にあるヤドリギのタネを撮影するのは困難であり、かつ運搬者となる鳥の撮影も難しいのでここではイメージを交えながら紹介していきます。
鳥の仲間にはその種のタネを優先的に好む者たちがいます。代表例でいうとヤマガラのエゴノキ科利用やカケスのドングリ利用などが挙げられるかと思います。このヤドリギにも好むものがおり、それがレンジャクの仲間です。

黄色のキレンジャクやオレンジのヒレンジャクはヤドリギの種子を好んで食べることが知られています。
種子の運搬の主流はこの鳥たちであると考えられています。ではどうやって樹上に取り付くのでしょうか?
それが粘度です。
実はヤドリギのタネは糸を引く位の強烈な粘度があり、これにより樹種に取り付くことができます。

具体的にはレンジャクがヤドリギの種子を食べる→落葉樹などの樹上に移動する→粘土のある糞を落とす→枝や幹に着陸するというプロセスです。
どうですか?あまりにも効率が悪いと思いませんか?これこそ寄生植物でありながらヤドリギが一つの木の上に大量に覆うように生えない理由です。
ヤドリギは種子が定着できるかどうかを鳥の散布かつ落下地点がランダムという特異的な方法に頼っているので多く定着するのが大変なのです。
故にヤドリギというのは山地でも町中でもあるところにはあるしない所には全くないという面白い分布を見せます。

この流れについてみていきましょう。
まず鳥散布であることから可能性としてはどのエリアにおいてもヤドリギは見つけられる可能性があります。
しかし最初の散布はヤドリギを口にしたレンジャクが来てくれないと起こりません。
ヤドリギが1~数個見つかる程度ではこの偶発的に飛来してヤドリギが定着し始めた可能性が高い状態です。

しかし周囲に一つでもヤドリギが定着するとそれを目当てにレンジャクが来る可能性が高くなります。するとそのヤドリギを中心に食事をしながら糞をして周辺の樹種にヤドリギが増えていきます。
これが繰り返されることで都市部においてもヤドリギがやたらと見つかる場所が生まれていきます。
私の近くの神社でも同じようにヤドリギがたくさん見つけられてこんなところにヤドリギがこんなにあるなんてと嬉しくなりました。
ヤドリギと比べる寄生生物たち
ヤドリギの寄生例を軸に自然界で見られる寄生の色々を見ていきましょう。

実は寄生植物の寄生には色々なタイプがあります。

例えばマメ科植物に代表されるような菌根菌や多くの植物につくアーバスキュラー菌根菌(AM菌)のように根とそれを取り巻く形で植物は他の生き物と共生関係を持ち、持ちつ持たれつの関係を築いていることが知られています。
彼らもまた根に侵入していますがこれらは寄生とはまた違うお互いに利益を得る関係です。
しかし寄生もまた定義上は共生の一種であると言われています。寄生にもヤドリギのように半寄生である物から完全寄生や捕食寄生など色々なものがあり、面白いものです。

ヤドリギは葉緑素を持ち、自分自身でも栄養を作ることができます。

一方でギンリョウソウのような緑色をしていない植物の中では自身で光合成をおこなわずに栄養を他のものに依存しているものや、ライフサイクルにおいて寄生バチのように寄生先の体内で成長し寄生主を最終的に殺してしまうような寄生プロセスを持つ物など一重に寄生と言ってもたくさんの寄生の種類があるのです。

とはいえヤドリギ程破天荒な植物もなかなかないのではないかなと思います。
ヤドリギは前述のとおり粘度のある種子により鳥に散布されることで偶発的に幹にたどり着ければ寄生することができます。
確率的に言えば非常に低そうなものですし、レンジャクの仲間の個体数が減ればヤドリギの種子分散の難易度も上がってしまいますよね。

身近な生き物としてはヒメツチハンミョウのようなギャンブル性がありますね。
この生き物もハナバチ類の巣に移動してそこでハナバチが集めた花粉を食べて育つという生態を持つのですが、そのためにどのようにしてハチの巣へと移動するかというと花の上でハチが来るのを待ち、来た蜂にしがみついて巣へと移動します。

ヤドリギに負けないぐらいギャンブル性の強い種の存続方法です。
ヤドリギは糞により空から落ちてくるというのが寄生植物の中でも群を抜いて変です。

寄生植物の代表格、ネナシカズラのように地中で発芽して初期こそ根を持ちながらも寄生先にしがみついたら根を無くし、対象から栄養を奪い取るような面白いものもいます。
ヤドリギを初めて見つけた人はどうやってあんなところに定着したんだよと必ず思いますよね。それは植物は必ず地面から伸びていくという思い込みがあるからだと思います。
それほどに常識を覆すのがヤドリギの面白さです。
ヤドリギを探してみよう!
面白いヤドリギですが、どのように見つけていくのが良いでしょうか?

ヤドリギは常緑樹であることから冬季に大きな木を見ていくのがおすすめです。
ヤドリギの見た目は写真のようにかなり大きく、葉が落ちた時期ならば非常に丸い形で目立ちます。

性質上長くそこにある樹木にいついていることが多いため、今回のケースでは神社のケヤキにて観察することができました。エリアにて複数の木の上でヤドリギが観察されたことから散布者であるレンジャクも来ていると考えられます。
基本的には冬季に緑があるところにて葉の落ちた樹上を見ていけばいずれ見つけられると思いますよ。
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