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鳥の糞に見る生態系。白い鳥の糞の性質や栄養の供給などの視点を考察

鳥の糞の存在意義とは何か?

身近なハクセキレイという鳥。鳥の糞を視点を変えて様々な角度から考察してみよう

誰もが目にする不快な白い物質。それこそ今回のテーマである鳥の糞です。

鳥の糞をウンチという点で認識していても、そこからさらに視野を広げて考えてみる機会というのはないものです。

今回の記事では鳥の糞が一体生態系にどのような恩恵をもたらしているのかというのを考察していきます。 鳥の糞の見方が面白くなるような視点を増やしていただきたいですね。
(本記事は主観要素も多いので参考程度にお願いします)

鳥とは

鳥類は全世界に広く存在する一群です。

冬に大群で目にするイカル。果実や木の芽を好んで食べる

体表に羽毛があり、歯の無い嘴と飛翔にたけた翼をもつものが多い生物です。

生態系において昆虫類などの捕食による種の増加の抑制やツバキなどを例とした花粉の運搬役、および種子散布役として重要な一軍で、多様な生態系への貢献が推測される生物です。

食性も多岐にわたり昆虫類を食べるもの、花粉や蜜を食べるもの、哺乳類や小鳥などを食べるもの、草を食べるものなどなど様々な多様性が見られ、食物に応じて体を進化させてきたものも多いです。

以下うんち注意です。


鳥の糞の特異性

鳥のフンをテーマに見てきますが、まず鳥のフンが持つ他のフンと異なる性質を見ていきましょう。

白い部分と黒い部分、見かけるフンにもよるが性質的に言えば2種類あるように見える

通常排泄物には尿素が含まれます。体内で発生する有毒なアンモニアを無毒に変化させるプロセスで生じるものです。

多くの動物は小便と大便に分かれていますが、鳥は小便をするのでしょうか?

鳥は大小を同じ場所から同時に出します。鳥のフンを見ていくと白い部分と固形物の部分があることが分かるのですが、この白い部分が尿であると言われています。

雛がこうしたうんちをすれば巣はかなり汚れてしまいそうだが?

厳密にいうと尿酸というものですね。酸性度が強く物が溶けたりなかなか取れない厄介なものです。

ところで鳥の巣が排泄物まみれにならない理由が気になりませんか? ツバメなどは巣の下に排泄物がたまり不衛生だと思われがちです。

ところが巣の中に排泄物は無いんですよね。 

鳥の仲間には糞嚢というものがあり、私自身実物を見たわけではないのですが、カキをかなりスケールダウンしたようなプルプルな袋状ものに排泄物を出します。親鳥はそれを外に捨てるため巣が汚れないんですね。

鳥インフルも感染したフンから移っていく

鳥のフンというのは細菌やウイルスにまみれており、さらに排泄後からもまた残された養分を求めて不衛生な菌やダニなどの生き物もやってきます。そうした状況から身を守る術という訳ですね。

天敵捕食にも一躍買っているとも考えられ、例えばホバリングをするハヤブサの仲間にはネズミの仲間が出した尿に反射した紫外線を感知して獲物を生息圏を捉え補足するという話があります。

巣にいる雛はそうした天敵からも絶好の獲物であり、巣から糞を遠ざける行動はそれだけで生態系の中で生きやすくなる戦略なのではないでしょうか


排泄の段階で既になかなか面白いと言えます。


種子運搬に大きく貢献する

雛が成長すれば立派な大人の鳥になります。

秋に真っ赤に熟すカラスウリ。美味しいものではないが食べ物もないので仕方なく食べている?

肉食性の鳥を除き果実を好んで食べる鳥というのは多く、身近な種でいえばヒヨドリやメジロ、ムクドリなどが挙げられますよね。

果実は鳥や哺乳動物に食べてもらうことでその種子を自身の行動範囲以上に広げることができます。

地下茎で増えるエビネ。生息域が狭く、密集して映えるので盗掘により激減。

例えばイチゴを例にとれば匍匐茎を伸ばすイチゴの種子拡散範囲というのは精々40㎝程度でしょう。もしも鳥に食べられたならば百km単位で移動する可能性も秘めています。

種子は果肉を美味しくすることでより遠くに運んでもらえるよう戦略を練っているわけですね。

これを裏付けるものとしてはケンポナシという植物が挙げられます。

ケンポナシの熟した花托。純米吟醸酒のようなかなり良い芳香がある

黒い大きな種子をつけるのですが果実自体には何も美味しい要素がありません。そこで種子の根元となる部分(イチゴの緑のへたの細い部分)ここは花托と呼ばれるのですが、ここに甘みを持つことで種子を運搬してもらおうとします。

おそらく種子散布の進化の過程であまり動物に選ばれない植物であったケンポナシの中で花托にちょっと甘みを持つものがおり、それが選ばれていったのでしょうね。

果実はこの丸い部分。ほぼ種で無臭。その下に香りの強く甘みがある花托

植物は鳥のフンを利用することで移動の手段を得ているのです。

さらに言うならば鳥の体内を通過することが発芽のトリガーであるという事例もあります。

日本の話ではありませんが、ドードーという鳥とそれの体内を通じることで発芽条件が整うカルバリアという植物の共生の話です。

ドードーが絶滅したことにより共生していたカルバリアも発芽できなくなり発芽できなくなってしまったという事例です。

ある種鳥のフンと多様性にまつわる話と言えるでしょう。

鳥の糞による栄養供給?

鳥のフンに限りませんが、動物のフンというのは堆肥化されたものを日常的に我々は使っていますよね。

動物のフンが堆肥化されたものを利用して育てられた作物を口にしている

例えば鶏糞、牛糞、豚糞、馬糞は身近なものと言えます。

鳥のフンで特筆すべきことはリンなのではないかと思います。 SNSで話題に挙がっていたナウル共和国は島の一部が鳥のフンなどの堆積によりできたリン鉱石でとても有名であった国です。

グアノと呼ばれるそのリン鉱石はとても需要が高いものでしたがその生成には化石燃料と同様に長い年月がかかるものであったため、急激な採掘により資源がなくなってしまったと言われています。

実際のところ鶏糞などを例にとると分かるのですが、鶏糞はリン酸の含有量がとても多いです。

鳥の糞?ではないかもしれないが種子の入ったフン。種子運搬だけでなく窒素やリンも多い可能性

千葉県農林水産研究センターによればふん主体(混ぜ物をしない)を考慮して各種糞堆肥の成分比較をすると牛、豚、鶏、馬のリン酸値はそれぞれ1.02,5.3,6.6,0.6%と鶏糞が豚糞を抜いて高いことが分かります。

鶏糞の使用については窒素過剰とリン酸過剰についての注意喚起があるなど窒素とリンさんに特に富む肥料であることが分かります。C/N比という炭素と窒素分の割合を表す数値があるのですが、

鶏糞はその数値が低く、とても分解されやすい微生物に利用されやすい糞であることが分かります。

鶏の傾向を野鳥にあてはめたりすることはナンセンスかもしれませんが、その傾向が見られるのであれば自然下で不足しがちなリン酸の供給に貢献しているのではないかと思います。

水辺である期間定住的に見られるカモ類は、水辺への養分の供給をしているとの見方もできるのでは?

これに関してカモ類の採食場所の工作水田地で籾を撒き、カモを誘致してカモのフンによるリン酸を評価した研究がありました。

カモ類を誘致した場所ではサンプル数の影響で詳細の数値化まではできなかったものの2倍程度にリン酸が増加していたとの供述があります。

リン酸は植物類の成長に不可欠であり、特に日本の黒ぼく土においては真っ先に吸収されてしまう不足しがちな元素です。

日本の土壌に多く見られる黒ぼく土はリンを速攻で吸収してしまう。リンが不足するため多量に使用して地下水に流れ、川の富栄養化につながる

土壌における糞によるリンの供給は土の性質上かなり厳しいと思われますが、水中に関しては貢献している可能性は十分あるのではないでしょうか。

水辺における可能性を考えてみるとリンの供給により植物プランクトンや水生、抽水植物の栄養に貢献している可能性が考えられます。合鴨農法というのは雑草の抑制や天敵の捕食などに加え、こうした糞による養分補給の側面などもあったのかもしれませんね。

水辺のカモ類を介して鳥インフルエンザは感染サイクルを繰り返すとの報告がある

また、話は変わりますが昨今話題となる鳥インフルエンザもシベリアのカモ類と共生しているという話があります。鳥インフルエンザウイルス自体はカモを始めとする水禽類に普通に見られるものであり、該当する湖からカモ類が移動しても水中にウイルスが残り続け、再び戻ってくると感染するというサイクルを繰り返しているようです。

このプロセスにおいては鳥のフンが水中に放出されるというのが重要で、ウイルスは糞とともに水に入り、再びの宿主が来るのを待つというプロセスです。

視点が目まぐるしく変わりますが鳥のフンから見るストーリーもなかなか充実していますね。


食物連鎖を通じた卵の運搬

つい最近の話としてはナナフシの仲間が食物連鎖を通じて鳥に食べられることで卵を運搬してもらうという話がありましたね。

単為生殖を行うナナフシモドキ。飼育下ではかなり頻繁に産卵する

果実を食べてもらって種子を運搬する植物の戦略に代わる命がけの運搬戦略ですね。

なぜそのような卵運搬を行うようになったのかは不明ですが、翅が無く長距離の移動を行えないナナフシの仲間が移動の手段として他の生き物を利用するのは理にかなっているように感じます。

ナナフシは有性生殖もできることにはできるのですが、自然下ではほとんど♀しか存在しない昆虫です。ゆえに飼育してみるとフンとともに卵をかなりの数生みます。

これは単為生殖によるものであり、言い換えるなら遺伝子レベルが同じクローンです。

同じく単為生殖するトゲナナフシ。オスの発見は過去3件ほどしか無い

卵の表皮は非常に硬く、シュウ酸カルシウムという針状の結晶で固められています。(とろろ芋の痒み成分でおなじみ)

単為生殖ゆえに体内にある段階から利用が可能で、かつ固い表皮があることから消化されずに済むのでしょう。こう聞くと鳥による生物の卵運搬はかなり難易度の高いものであることが分かりますね。

単為生殖の生き物じたいが鳥に食べられるものの中では少ないでしょう。この事例もまた鳥のフンの異なる利用の仕方と言えそうです。

なぜ大型でありながら単為生殖を行うのか不思議だったが、視野を広げると納得の行く理由と言えるかも

ナナフシは単為生殖ゆえにその場所での遺伝的多様性が固定されがちなのでしょう。しかし鳥に食べられ別の地域の個体が侵入してくれば多様性が確保でき、病気などにも強くなれると推測できます。

とはいえナナフシ自体は逃走の戦略として自切といって足を自ら切り離す行為をします。おそらく食べられた際の保険的な側面なのではないかと推測しますね。

鳥も重要な生態系の一員であり、そのフンも重要なものである

視点を変えていろいろな面から鳥のフンの生態系における役割を推測してみました。あくまで私的な考察ではありますが、鳥のフンでさえこうした一面を考えることができます。

他の生き物についても同様であり、我々が知らないだけで何かの生態系の維持に貢献していることは容易に想像できますね。

多角的な視点で自然を見ていくのはとても難しいと思いますが、こうした多くのなぜ?何?を把握していくことが生物多様性の把握には必要だと考えています。

そして複雑に考えるようになるとさらに複雑な世界が見えてきて、自然が生み出したバランスの凄さに驚かされるはずです。

生物多様性はいまとても注目されています。我々もその恩恵を受けていることを忘れないようにしましょう。


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