トンビではない白い猛禽類
冬はバードウォッチングが楽しい時期です。
対象で人気なのは圧倒的に猛禽類で、そのかっこいい顔つきや雄大な羽など魅力あふれる種類です。
しかしいざ探してみれば茶色のトンビばかりというのはバードウォッチングあるあるですよね。
今回は主に河川環境に現れるミサゴという真っ白な猛禽類を紹介していきます。
こんな鳥がいるんだ!と驚くこと間違いなしですよ。
ミサゴとは
ミサゴは羽を広げた全長が1.5m近くにもなる巨大な猛禽類です。
トンビほどの大きさでハヤブサやハイタカなどよりも一回り大きい印象を受けます。
留鳥として年中観察することが可能なのですが、魚食であるために出現環境が川沿いなどの水辺に限られます。
淡水域に限らず海水域でも観察が可能で、葛西臨海公園に代表されるように海辺の野鳥観察をしていると目にする機会もあります。
神奈川においては多くはない鳥で、県レッドデータにおいて絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。あまり見かけません。
体色は白の割合がかなり多く、顔のあたりに黒いひげのような模様が見えます。類似種にはノスリがおり、羽の模様の違いなどから飛んでいても判別は可能です。
トンビとの違い
バードウォッチングをしているとたびたび猛禽類を目にしますよね。
空を飛んでいる鷹の仲間は平地であれば見られる種類はかなり限られてきます。
まずはトンビを疑ってみましょう。
ミサゴとトンビは大きさ的にはとても似ています。しかし前述の通り下から見上げた際の色合いが全然違います。
トンビはとにかく茶色い姿をしています。
一方でミサゴは白いんですね。自身の視力や動体視力にもよりますが、数百m離れていても日の低い時間などであれば判別できます。
トンビ大の鳥を見かけた場合割合は体感90%くらいがトンビで、水辺があればミサゴ5%ノスリ5パーセントくらいの割合です。
類似種にノスリもいる
難しいのはここからです。
白い猛禽にはノスリというこれまた神奈川では絶滅危惧種Ⅱ類の猛禽類がいます。
サイズ感もミサゴと同程度であり、出現割合も多くないことからとてもややこしい種類です。
2種は白色だけでの判別が難しいです。
白の中にある黒模様の位置で判別していくのがいいと思います。そのため、正午など飛翔している猛禽のお腹側が見えない時間帯には判別がやや難しくなります。
ノスリは両羽の付け根辺りに黒い模様が1つずつついています。
ミサゴは首のあたりにひげのような黒い模様がついています。
飛んでいる段階で分からなくても写真で抑えておけば後々に十分判別が可能ですね。
また、食性から判断することも可能ですね。
ミサゴは魚を食べるのですが、ノスリはネズミや小鳥などのお肉を食べる生態です。生活圏が若干違うと思われます。
ミサゴは飛翔していなくても水辺付近の木やダムなどの人工物であれば湖内に浮上している浮き輪や堤防?なんかに止まっている場面も多いです。
そうした生活圏の違いから探っていくのも面白いですね。
ミサゴの出現環境は特殊
私自身の観察地が海沿いではないのであくまで山地をベースに話をします。
タカ類やハヤブサなどはふらりと雑木林上や山地で目にしますが、魚食のミサゴに関してはやはり付近に大きめの川やダムなどがある場所でないと目にしない印象ですね。
神奈川でいえば相模川やそれに流れ込む中津川沿いは目にします。
また、その上にある宮ヶ瀬ダムや宮ヶ瀬湖畔園地から続く早戸川林道もミサゴの有名観察スポットです。
猛禽類は上昇気流を利用して移動するため、舞い上がりさえすれば別のダムや河川に移動する可能性もあります。しかしミサゴは一夫一妻制である可能性があり、特に営巣しているならばテリトリーをわざわざ変える必要性も薄いと考えます。
実際当地ではミサゴが定住しており、一年中同じ環境で目にすることができます。
ノスリやハイタカなどもある程度は定点的に観察できると思いますが、ミサゴはより局所的な印象を受けますね。
海辺では魚食の魚を食べるカモ類が多く、それを狙ってオオタカやノスリなどの肉食性猛禽類も魚食性のミサゴなども共に良く観察できるようです。
ダム湖は広い割にカモ類や小鳥の密度が低いからか多数の猛禽類が飛び交うような場面には遭遇しませんね。もちろんトンビは別ですが。
空から魚が降ってくる事例の犯人ではないか
珍事件として時折空から魚が降ってきたという話を聞きますよね。これの犯人はミサゴではないかと推測しています。
魚食性の鳥としては代表的な鵜がいますよね。カワウなどは魚を丸のみする性質から鵜飼いでアユを取りますよね。
多くの魚食性の鳥は魚を丸のみしてしまいます。
一方でミサゴの狩りはとても面白いです。
ハヤブサの仲間が獲物を狙い定めるためにホバリング(空中で停止したように羽ばたく)し、急降下するようにミサゴもまた水面の魚に狙いをつける際にホバリングをすることがあると指摘されています。
ミサゴは水面の獲物に突っ込み、その強靭な足で獲物をつかむのです。ある研究では50㎝以上もの巨大な魚を掴んだとの報告もあります。
その後捕まえた獲物を持って食事場所まで持ち帰るわけなのですが、獲物も掴まれたからといって絶命しているわけではありません。
ビチビチと暴れたり跳ねたりするわけです。ぬめりの強い魚が暴れることにより、うっかり落としてしまった場合に空から魚が落ちてくる珍事件が起こるのではないかと推測します。
実は同様の事件は魚以外でも起きており、空からヘビが落ちてくる話を聞いたことがあります。これはむしろオオタカやノスリなどの肉食性猛禽類が何かしらの要因で落としてしまった事例ではないでしょうか。
ミサゴの狩りについて
金魚すくいで効率よく金魚を取るには水面にいる金魚を狙う必要がありますね。
同様に狩りを成功させるためには水面近くにいる獲物に気が付かれずにつかみかかる必要があります。
水面にいる魚が人などの影を認識した瞬間に逃げるのは彼らの遺伝子に上空からの影に襲われるという経験が染みついているものだと思われます。
そのため狩場によってミサゴの狩りの成功率が大きく変化することが分かっています。
研究では27㎞もある河川において4mの水位差が有る堰で狩り全体の39%が行われており、期間中にとった獲物の43%がこの地点由来であったとと報告されています。
この地点の狩りの成功率は繁殖期非繁殖期を統合すると約75%と非常に高く、特に繁殖期において重点的に利用していることから獲物が取りやすい環境を学習して意識的に利用していると思われます。
具体的な要素については分からないのですが、少なくとも水深が必要であることや、堰は上流を目指す魚がたまりやすい環境であること、そうした環境にはサギ類やカモ類などの目印が多いことなどからもしかしたら魚食性の他の鳥を目印にしてえさ場としてより活用しやすい環境を定めているのかもしれません。
残念ながら私がミサゴをよく見る早戸川林道や宮ヶ瀬ダムの付近では活かせない情報なのですが、傾向として明らかである以上これを汲んでおけばミサゴの発見に大きく役立つと思われます。
ミサゴは仲良し?
生態がいまいち掴みにくい猛禽類ですがミサゴの生態については面白い情報があります。
前述の通り繁殖期においてミサゴは狩りに優位な堰を利用していました。周囲にいるミサゴたちもまたそこを利用しようとするわけですが、どういう訳か相手を追い払う、攻撃するような行動はせず、周囲で見守るという行動を選択していたのです。
その際にはお互いが100m以内にいるというある種緊迫した条件であるように思えるにもかかわらず、阻害行動が見られたのは206回の遭遇の内僅か2回だけであったと報告されています。
ミサゴは営巣時に種間でコロニーをつくる性質をもちます。
同じ環境を複数の個体が適度な距離間で共有して利用するイメージです。我々でいえばパブリックスペースのようなものでしょうか?
これが仲間意識なのかは不明ですが、少なくとも同種に対してはとても寛容な心を持ち合わせているようです。
陣取り合戦のイメージが強い自然界においてこうした協調性が見られるというのはとても面白く、賢いと言えますね。ある種社会性を持っていると言えるかもしれません。
個体数がそんなに多くないからだと思っていましたが、この営巣の性質からミサゴの観察地では他のミサゴもいる可能性が高いと言えます。
しかしながら確かにミサゴが喧嘩していたり、えさ場で互いに警戒しあうような場面には遭遇したことがなく、背景にはこうした理由があったんですね。
ミサゴという生き物をより深く知れたような気がしますね。
出会うのはなかなか難易度が高い鳥なのですが、猛禽類の中でもかなり面白い生態と圧倒的な迫力を持つ種類なので水辺を中心に探してみてください。
参考文献
吉野川のミサゴ~繁殖と採餌生態~
江崎保男・田 悟 和 巳
pljbnature.com
神奈川ではより貴重なハヤブサ。環境条件が広からかミサゴよりも目にする印象があります。観察のコツと冬季の鳥インフルエンザについての考察です。
pljbnature.com
猛禽類とよく喧嘩している印象のカラスとその賢さを裏付けるカラスや猛禽類の行動の考察です。