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ミヤマクワガタの飼育は難しい? 寿命が短いクワガタと越冬の可能性について考察

大人気のミヤマクワガタ飼育事情

夏の一大アイドルであるミヤマクワガタ。

大人も憧れるミヤマクワガタ。誰しも小さい頃に一度は捕まえたいと思うのでは

特に関東圏では捕まえただけでヒーロー扱いされてしまう超人気の種類ですが、飼育難易度が高い種類であると言われており、実際に飼育した方の中にはあっけなく死んでしまった方もいるのではないかと思います。

今回は過去の飼育事例をもとにミヤマクワガタの寿命や長生きのコツなどを考察していこうと思います。この記事は捕まえるための記事ではなく、捕まえた後の考察記事です。

ミヤマクワガタとは?

ミヤマクワガタは黒色の体に金色の毛をもつ美しいクワガタの1種です。

サイズ感も様々だが、捕まえて嬉しいクワガタ

顎の付け根に大きく膨らんだ耳状突起を持ち、その大きな体格と相まってとても迫力があるクワガタです。

発生は環境により異なると言われており、平地では年1化、高地や寒地では2年1化であることが知られています。幼虫期間が延びるため、2年1化の方が大型になると言われています。

寒地のほうが幼虫期間が長いためか大型個体の多い印象

高標高地のクワガタという印象が強い本種ですが、実際には標高よりも森の深さが重要であると言われており、ある程度の広い山があれば神奈川のような山地の少ない場所でも生息しています。

有名産地である高尾山。中腹以上で入るのが大変なのと、楽をするためにお金がかかるのでくだらない業者などを見ない

適温は20℃前後と言われていますが、平地や山地でも標高の低い高尾山などが有名産地と知られており、現地ではピンピンとしています。
関東圏のミヤマは高温にも適応しているのではないかと思われます。

低地でもしっかりと生存しており、他のクワガタと同様にクヌギやコナラ、カシやシイ類などの様々な樹液の出る木を利用しています。

ミヤマクワガタの飼育は難しい?

一般的にミヤマクワガタの飼育は難しいとされています。

今年捕まえた65mmミヤマ。10月中旬頃まで生きた

これはグーグル検索などで調べてみるとサジェストに難しいという表現が出てくることからも分かります。

なぜミヤマクワガタの飼育が難しいのかという点をいくつか推測してみます。
1,寿命自体がそもそも短い
2,環境条件にシビア
3,野外個体は交尾済みのものが多い

以上の3点がミヤマが短期的に死亡してしまう原因なのではないかと推測します。

寿命自体がそもそも短い

ミヤマクワガタを捕まえて育て始めた方が最も経験するのは数日~数週間程度でぽっくり死んでしまうということではないでしょうか?

ミヤマクワガタはぽっくり死んでしまうこともある

事実として野外で捕まえてきたミヤマクワガタを虫かごなどで飼育してみると、エアコンなどの温度条件が変化していないのにもかかわらずぽっくりと死亡する場合があります。

これに関してはミヤマクワガタの寿命自体が野外のものではかなり短い説を推したいです。

8月上旬にもなれば山の上は秋の気配。この時期には外灯個体はメスが多かった

野外のミヤマクワガタの出現状況やピークを今期の高尾山にて2か月ほどにわたり調べてきました。

その結果ミヤマの出現は6月下旬ごろから始まっているようで、個体数確認のピークは7月の16日程度まででした。

7月中旬まではおおよそ4~5匹程度に安定して出会えていた

7月下旬や8月以降は明らかにがっつりと出現個体数が減少しており、自然下におけるミヤマクワガタの寿命はわずか2~3週間程度しかないのではないかと思われます。

通常クワガタ類は発生初期に紫外線への嗜好性が強く外灯に集まりやすいと言われています。

明かりにやってきやすいのか単純に個体数が多いだけなのかは不明

発生後期に当たる7月下旬以降は外灯ではなく樹液に来ている可能性も考慮して外灯+樹液の両方の線を追っていたのですが、8月上旬の樹液での個体確認を最後に多数のミヤマに出会う機会は終わってしまいました。

お盆以降あたりからはもはや見られないのが普通であり、コクワガタなどとはずいぶん違う寿命の具合を実感しましたね。

昆虫採集においては定点的な採集をしている人というのはかなり限られてくると思います。特にその虫のシーズン中に通い詰めるような人は更に限られるでしょう。

8月中に唯一外灯遭遇できた新成虫の♂

今期の高尾山ミヤマの定点的な観察(6~8月で15回訪問)ではミヤマの出現と寿命に関する傾向が何となくつかめた気がしますね。

これはわずかな今期だけの記録でしかないので私見が強いものですが、寿命がそのわずかな期間であるならば捕まえた個体がすぐに死んでしまうというのも納得がいきます。

環境条件にシビア

一般的にミヤマクワガタは適温が20℃前後、この辺のエリアでいうならば奥多摩や丹沢湖などの低温+水辺が場所として上がるのではないかと思います。

山地の沢沿いなど水分量の多いイタヤカエデやヤナギなどにいることも

高温が苦手ですぐ死んでしまうという話も聞きます。

確かに真夏にエアコンもつけずに飼育していてはすぐ死んでしまうでしょう。

例えば夏の高尾は39℃にもなるような低山特有の猛暑が厳しい環境ですが、昼間でもミヤマは見つけられます。

ミヤマの環境条件にシビアであるという点は、環境変化に弱いということを指しているのではないかと個人的に考えます。

寒暖差などのストレス条件がある説

野外で採集をして熱く蒸し暑い外の環境からエアコンで涼しく乾いた環境に持ち運ばれる。

小さい虫にとってはかなりのストレスでしょう。夏の期間はエアコンの温度も昼夜で変えたりしますよね。

さらに言えば霧吹きなどは湿度を保つために行われますが毎度一定の湿度を保てるわけでもありません。

霧吹きをした時をピークにかご内の環境条件が変化する環境が出来上がります。

転倒防止程度で条件を揃えて下手な手を加えずに育ててみた。特に仲良しだったペア

こういった考察を想定してここ2年ほど捕まえたミヤマクワガタの環境条件をいじらずに飼育してみました。

夏季はエアコン設定ドライ27℃、秋以降は冷暖房を使わずに自然に近い気候化で過ごさせる。霧吹きをせず温度変化をさせない。

野外個体は交尾したものとして想定しペア個体と単独で育てるものに分けてみる。ゼリーは切れたら補充。これらの条件で育ててみたのです。

サンプル数が圧倒的に足りないものの単独のほうがペアよりも生きていた

ペア飼育してみた個体は8月中には死んでしまいました。ミヤマの♂は驚いたことに複数回の交尾行動(おそらくメイトガード)を取るようで、中には非常に仲睦まじいペアも見られました。

ただ仮説の通り交尾個体は死亡が速いように感じました。もしかすると回数も寿命に影響するのかもしれません。

単独飼育のものは9月に1個体10月に2個体死亡しました。これらも交尾済みと想定していましたが、頻繁に交尾行動を取っていたものと比べると長生きしているように感じます。

早期に栄養豊富なゼリーを与えられれば長生きする?

餌資源が樹液から昆虫ゼリーになることで単独飼育で長生きしたのか、交尾しなければ自然下でもこれくらいまで生きるのかは不明です。

最長個体は2月の14日まで生存していました。敷いている砂はどれも潜れるものではなく、常に活動し続ける条件下でです。

サンプル数が少なく、私見の強いものになってしまいますが、環境条件の変化というのは条件を統一した検証の結果あまり関係ないように思えます。

特に湿度に関してはミヤマの飼育では乾燥させないことが重要とよく聞きますが、一切しようしないという条件ながら9月10月まで普通に生存しています。

サイズ感と生育期間には関係がなさそうであった。年越し個体は60mm

環境条件の急激な変化として霧吹きは悪影響を与えるのではないかと考えますが、肯定はできずとも否定もできないのではないかと思いますね。

そして今年の事例では変化を少なくすることで死亡率もペアを除き低かったです。

このことから今年の飼育から得られた仮説は交尾回数が寿命に大きく影響するのではないかということです。

長生きさせる場合は交尾を避ける?

寿命の短い生き物たちにおいて交尾の活動というのはある意味最後の輝きでもあります。

かなりの頻度でメイトガードしていたミヤマペア。メスを挟むペアなどがいる中で非常に印象に残った子たち

秋に放精して死を迎えるシャケや♀のカマキリの栄養となることで卵胞を大きくするカマキリの♂など寿命の終わりを意味する場合も少なくありません。

コクワガタやヒラタクワガタのような2~3年の寿命を持つ種とは異なり、ミヤマクワガタは自然下では数週間程度の寿命である可能性が観察から示唆されました。

コクワやスジクワのような長寿のものも交尾次第で生存期間が変わりそうな予感

僅かな寿命の中で交尾を行えば大量のエネルギーを利用してしまいます。

しかしながらミヤマ自体は活動しなければ長寿命なクワガタです。

年2化の地域では新成虫は成虫の姿で蛹室の中で1年間を過ごすことからも成虫の寿命自体の長さは明らかです。

樹液の栄養源と昆虫ゼリーの栄養源は確実に差となる気がしている

これを考慮してみるとこんな可能性が思い浮かびます。

1,樹液の栄養源が不足しており、行動量分を賄えていない。
2,交尾で大量のエネルギーを使い果たしてしまう
3,代謝が悪くエネルギー消費量が多いため、行動するとすぐに死ぬ

こうした可能性が考えられるのではないかと思います。

とりあえず今年の検証では交尾の影響がかなり大きそうなので今後検証したいものですが、屋外で交尾していない個体を捕まえるのは不可能だと思うので困ったものですね。

越冬と年越しの可能性

飼育下では最長でバレンタインデー2/14日までの期間を土に潜らせたり、暖房化に置いたりすることなく飼育することができました。

その要因は不明です。

イメージとしての別ミヤマ。長期生存個体は11月以降の寒さの中でもゼリーを頻繁に食べていた

その個体は60㎜程度でミヤマとしては普通程度の大きさです。捕まえた時は新成虫の金色の毛がバッチリ生えており、7月20日の捕獲個体でした。

生存期間は約7か月と圧倒的な長さを誇ります。そして前述の条件に従いゼリーの変え位しか世話はしていません。

10月まで生存した2匹

今年同条件で飼育した個体は10月には死亡してしまいました。

ミヤマは屋外では9月下旬に95%ほどは死んでいると思われます。

自然下10月中旬採集の69mmミヤマ。発見時にはもう死にそうなくらいヨボヨボで数日で死んだ

成虫初期の段階から昆虫ゼリーを与えた個体、交尾を指せなかった個体である程度サンプルを出せれば面白いデータが取れそうな気がしますね。

ただ、これをやるには自分でミヤマを発生させる必要があり、難しそうです。

また、クワガタには酷なものですがミヤマのエネルギー消費効率が悪いものであると仮定した場合に低温下で成虫を育てることで寿命を長く持たせることができたりするのではないかと考えました。

来年以降根気があればやってみたいものです。

今回の記事で落とす考察としては環境条件の変化をなるべく抑えて、新鮮な個体に栄養に富むゼリーを与え、交尾を控えることで長期の生存が可能になるのではないかと言うところを課題として残したいと思います。

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ミヤマクワガタ採集を行うならば高尾山がおすすめです。取りやすく、人も多いとても楽しい採集ができますよ。

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屋外採集での最遅記録は10月の20日となりました。自然下でも長期間生育する個体はいるようです。
私的にはお盆以降はかなり渋いクワガタであると感じますね。

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クワガタに限らず虫の何かを取りたい場合には基礎の部分の理解が重要です。クワガタには大きな網は必要ないです。