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ツツジの鉢植え雑草カバークロップと体感した効果。

鉢植えでカバークロップ!

春ということで昨年1年間行ってきたリビングマルチ、及びカバークロップを漉き込みます。

鉢でリビングマルチをやっている人は少ないと思われる。成果を報告

また、昨年継続したカバークロップのリビングマルチの効果について実際どんなものであったのかを紹介します。

今回は体感の記事なので参考程度にお願いします。

リビングマルチ、カバークロップとは?

本来は畑の畝周りや、不耕起栽培という耕さない特殊な農法で使われる

リビングマルチは通常のマルチと異なり、生きている植物を畝や畑の外周、庭などに植えて土壌の流出やぬかるみを避けたり、栄養の保持などを狙う生きたマルチです。

日本にはあまり適していないと思われる不耕起栽培に通ずるものであり、本格的にやる場合にはカバークロップと呼ばれる植物を利用します。

カバークロップは諸外国では有名な耕作方法で、年中土をむき出しにせず、生きた植物の根を張り巡らせることで根圏という土中環境を維持するやり方です。

土に生きた根を維持し続けることで根圏の微生物環境を維持したり、水はけの改善などが見込める

例えばマメ科なら窒素を空中から固定する能力がありますし、イネ科ならケイ素の吸収によりアルミニウムと腐植の結合を増やす、深根性の植物による土質の改善などだけでなく、カバークロップにより根が増えることで土中の根圏を中心とする微生物層をより活発にできるため注目を集めているジャンルです。

これについて外国の不耕起栽培を紹介している本によればカバークロップは増えれば増えるほど土質が良くなることが確認されており、うまみが別のうまみと掛け算で味の深みを増していくように多種多様なものを使うのがいいと言われています。

種によって根圏の微生物相が変わるらしく、多くの植物があるほどよいと言われている

育てたリビングマルチの役割は、年中土の中に根を始めとする根圏ネットワークを維持することです。

これにより土中の水分保持や栄養の供給、Phの調整や共生菌による利用可能範囲の拡大などなどの様々な恩恵を受けられます。

植物の根には目に見えない要素として土の流出を抑えるというものがあります。

むき出しの土、掘り返した畑などなど根がないと水が染み込んでいかない

例えば雨により表土が流出したり水がしみ込まなくなることでぬかるみの発生などを引き起こします。作物収穫後の畑や、緑が無い庭に水がしみ込まないなどが身近な事例として挙げられると思います。

また、畑は土の養分で育てたものを回収するので養分の移動を考えると畑から持ち出される一方なのですが、リビングマルチを同時に育てそれを土に漉き込むことで土壌の栄養の一部を土に返すことができます。

そうした視点から持続可能性が問われる現代に注目を集めているのがリビングマルチやカバークロップです。

鉢でリビングマルチ?

これはかなり斬新だと思うのですが、単純に興味があったので鉢でリビングマルチをやってみました。

せっかくなのでめちゃくちゃにしてみた。養分競合が起きるなら花は咲かなそうなレベル

当然大きくないので畑のようにカバークロップの種数は増やせませんが、こうしたマルチを行う上で気になる養分の競合や微生物層の具合などが分からないので検証してみることにしました。得られた情報は完全な主観です。

まずリビングマルチとしてはシロツメクサを選びました。

匍匐系を出す都合上アカツメクサやクリムゾンクローバーがあればよかったのですが、これらの散布期が秋であったため、春の始動に間に合いませんでした。

昨年の春に種を撒いた。

他には地下茎に栄養を貯め徐々に放出するカブと、なんとなくでミツバを選択、候補としてはヒマワリが良いと聞いていたのですがちょっと深さや鉢のサイズで厳しそうだったので諦めました。あとは稲の仲間も欲しいのですが、どれも背丈が高く、これも鉢の都合で断念です。

カブの葉。小さいカブができてそれを放置することでカブの栄養が鉢に戻る

3月に種子をまきおよそ1年ほど様子を見てきた報告です。

リビングマルチの成果

まず養分の競合という視点です。栄養の競合は一番心配になる部分ですが、意外なことにマルチをしているツツジの花付きは減りませんでした。

昨年とは剪定のやり方が違うため、確実とは言えない。しかし花つきは昨年よりかなり良い

見ての通り大丈夫か?というぐらいの生え具合なのですが、問題ありませんでした。

一昨年と今年では剪定の強度が違うので、マルチが要因とは言えないのですが、花付きという点だけで見ればかなり今年はいいです。

マルチの強度が低いんだろう?と疑問がわくかもしれませんが、この鉢にこれだけシロツメクサが繁茂している状況です。

シロツメクサの滝とでも名付けたい

ツツジの花付きには窒素やリンが重要であると聞きます。

そのため花後には骨粉入りの油粕などを撒いてお礼肥えとして与えます。
3月にシロツメクサを漉き込むためにあまりにも群生していたので一部引っこ抜いたのですが、根には根粒が確認できました。

窒素供給がどの程度なのかは不明ですが、目論見通り鉢の中でも空中から窒素固定をしてくれていたようです。

根の確保がリンの確保に貢献している可能性は考えられそう

また、リンの供給にも貢献しているのではないかと推測しています。

鉢植えの問題は頻繁な水やりにより栄養分が流出しやすいことにあります。

例えば水質汚染の例として化成肥料の過剰な散布による地下水への硝酸イオンやリン酸化合物の流出などはよく聞きますよね。

赤潮の原因ともなるやつです。

夏の様子。

土中に蓄えられている養分は非常に小さな粘土やコロイドといった粒子状の土に張り付いているのですが、カルシウムやカリウムなどの植物に欲しい要素というのは水と共に流れて行ってしまいます。そのため鉢植えというのはとても栄養が流れ出やすい環境です。

加えてリンはそれ自体が非常に他の物質とくっつきやすいという特徴があり、火山灰由来の日本の黒ぼく土にまくとすぐにアルミニウムや鉄と結びついて植物には使えない形になってしまいます。

私の鉢に使っているのは培養土の土は黒いですが、黒土と言われ、これは日本特有のリン酸吸収率が高い土です。

日本の土は黒い。黒い土は養分に富むが、日本の土はリンが不足する

これにより日本の土は養分には富むもののリンが不足するので作物を育てにくいという背景があり、そのためにリンを含む化成肥料を大量に撒き、その多くが地下水から河川に流出、もしくは植物に使えないまま土中に眠っています。

こうした利用できないリンを利用できるようにする効果を持つのが地下に広げられる根圏ネットワークです。

この根圏に生息する菌の中でもアーバスキュラー菌根菌(AM菌と呼ばれる)は自身の酵素により植物が利用できないリンを利用できるリンに変化される力があります。

根圏の表土で微生物が利用できるよう大きな養分を分解するダンゴムシ

それゆえ根圏を充実させることはリンの吸収率を大きく上げてくれるのです。

農研機構の記事によれば根にAM菌の寄生率が高い植物を前作とした場所(AM菌大)とそうでない場所(AM菌小)にて同じ作物を生育したところ、成長具合が大きく改善する前作効果が確認されたとあり、これによればAM菌大のエリアでは標準よりも3割もリン酸施肥量を減らしても収量の低下傾向が認められなかったとの記述がありました。

感染率が高ければ5割減も可能だとのことです。素晴らしいですね。

普通に考えればこんだけ繁茂していれば養分はなくなりそうなもの

目に見えない根圏で以下に重要な養分のやり取りが行われているのかがよく分かりますね。

こうした背景から培養土にリビングマルチを導入した結果1年目としてはおよそ養分の競合を受けていないように受け取れます。

花付きは元々樹勢の弱かった1種を除いて残り5種で大きく良くなりました。他の要因としては剪定を入れていないというのも大きいとは思いますが、明らかにマイナスと捉えられるような影響は今のところ出ていません。

観察した利点

土壌生物の増加

マルチをすることの利点として土壌生物が増えているように感じました。

これはダンゴムシですが、チビワラジの仲間やムカデ類、カビ類なども非常に活発に出現。日が表土に当たらないのが大きい

ツツジの花がらや生じた不要な葉などを漉き込んでいたのですが、それら有機物を分解するカビの仲間がうまれ、トビムシやムカデ、チビワラジムシや8本脚のダニ?などの数が明らかに増えました。

よくないと分かりつつも時折表層の有機物を持ち上げて観察してしまうぐらいには賑わっていましたね。

土壌動物層の豊かさはそのまま死骸としての有機物の供給にもつながります。副次効果としてツツジへの栄養の貢献をしていたのかもしれません。

水分保持能力の増加

これは確実に増加しています。根が増えて土壌動物が増えていくと、前述の通り根圏が形成されていくのですが、これに伴い土が柔らかくなります。

明確なメリットと言える

土壌孔隙が増えるとこの領域は水分が100%の空間なので土の湿度が保たれやすくなるというのがロジックとしてあります。

具体的には水やりの頻度が激減しました。

リビングマルチ前は夏など朝に1回夜1回上げないとダメでしたが、マルチ後は1日と半日は大丈夫でした。

春や秋は2日~3日に一度程度でも大丈夫であり、前述の通り水やりが減るということは養分流出が減ることでもあるのでとても助かりましたね。

おそらく直射日光が土に当たることを防いだことも要因としては上げられるのではないかと思います。

課題

まずリビングマルチの単一化が問題であると思います。

本当はヒマワリやイネ科も植えたい

カバークロップは多ければ多いほどいいという記述があり、実際種数が増えるほど多様な根が増えるので微生物層や菌の層も豊かになるようです。

一部のAM菌が寄生しない植物を除いて種数を増やしていきたいですね。

それから根圏の充実による土の酸性化が進んでいると考えられます。 

植物はコロイドや粘土から養分を得るときに水素イオンを出します。phは水素イオン濃度のことなので、根がこれだけ多い鉢植えのPhは結構上がっていそうです。

水素イオン濃度が増えると粘土の周囲に取り付けるカルシウムなどの席が減っていくので、今年か来年にはPhの調整が必要かもしれません。

ハダニやグンバイ、雑草食いの幼虫の発生

まず水やりの機会が減った結果、葉が乾燥している時間が増えたためにハダニやツツジグンバイが発生しました。

乾燥しやすくなることでハダニの被害が発生。一概に水やりが減るのはいいとは言えない

これは今年偶然の産物ではなく、一昨年は朝夕に2回水やりをしていたため水の影響で抑えられていたものです。

逆に言えばハダニやグンバイにより葉の葉緑素が減っても花付きに影響が無いくらいには養分があると捉えられるかもしれません。
ハダニの被害は強烈だったので対策したいところです。

また、下草のシロツメクサに恐らく蛾と思われる幼虫が湧いていることもありました。ツツジが食べられていることは無く、葉を食べてウンチをすると言うのは土の養分的には大丈夫だと思います。

幼虫には可哀そうですが、土に返すことで養分も還元しています。
その他マメ科食いのバッタが来るなど一昨年からは考えられないぐらい生き物が豊かでしたね。マンションの高層のベランダとは思えません。

まだまだ検証の余地がありそうですが、叢生栽培として果樹園などにも導入されるこうしたリビングマルチは、花付きを見たい植物に関しては良さそうな感覚を得ました。農作物だとまた違うと思いますが、興味があれば試してみてください。



参考文献
農研機構 土着菌根菌を活用することでリン酸肥料を削減できる