春の道端で目にする紫色の可愛い花々
春の心地よい気候の中を歩いていると様々な紫色のお花を目にしますよね。
植物は種数の分母が多いのでどの種類だろう?と絞り込むのも大変です。
今回は春の近場で目にする紫色の花と観察がより楽しくなるようなお花とそれを取り巻く生き物たちとのつながりを紹介します。
ショカッサイ
ムラサキハナナやオオアラセイトウなど様々な呼び名を持つ外来植物です。
様々な場所で野生化しており、道端の端、畑の端、河川敷などのやや湿度がある環境で目にします。
アブラナ科の植物であることから自慢の紫色の花にもその特徴が表れており、花弁が4枚上下対象になるようについているという特徴があります。
アブラナ科はサラダ油やマスタードなど我々の日常にもなじみの深い植物です。
アブラナ科の植物らしく蝶の仲間が良く訪れています。
特に赤系に嗜好性を持つクロアゲハ系の蝶が訪れていることが多いですが、モンシロチョウやツマキチョウなど、産卵にアブラナ科を選択するような種類もよくやってきます。
ムラサキケマン
ムラサキケマンは細長い特徴的なお花を持つ早春の植物です。
房状にいくつも花をつけるので同種のエンゴサクの仲間を除いて似たようなお花というのはありません。
しかもムラサキケマンは普通の植物が好む日当たりのよい環境にはあまり生えません。
半日影もしくは一日中日影ではあるものの明るいような草地に生えていることが多いです。
このお花は2月のやや早い時期から葉を出して活動を始めています。そして6月に入り気温が上がると地上から姿を消してしまいます。
お花がとても細長く、この形により訪花性の昆虫を選択していると考えられます。
早春の植物にはこうした細長い形をした花が多く、ビロードツリアブや各種蝶の仲間、口の長いハナバチの仲間などに花粉の運搬を頼っています。
例えばビロードツリアブは1年の内3~4月の僅かな時間しか見ることができません。
この虫は体に毛が多いことから花粉運搬に大きく貢献し、さらに非常に口が長いのでこの時期の花の多くにマッチしています。
植物と虫がお互いに有利なように形態を進化させてきたのでしょうね。
ムラサキケマンは有毒植物です。ケシの仲間に所属する植物は多くが有毒植物で、ケシ科の一部の植物は育てることが違法になる場合もあります。
ムラサキケマンにそのような事例は該当しませんが、こうした毒植物というのは逆に利用されるケースというのもあります。
この植物はウスバシロチョウというアゲハチョウの仲間の食草でもあります。
この蝶はムラサキケマンを摂取することで体内に毒を貯めて捕食される機会を減らしていると考えられています。
トキワハゼとムラサキサギゴケ
やや湿り気のある草地にて見かける淡い紫色のお花です。田んぼの畔や畑地の水が多い所、水分の多い側溝などで目にします。
ゴマノハグサの仲間であり、舌をベーっと出したような特有の舌状花(ぜつじょうか)を持ちます。
2種は非常に似た姿をしていますがムラサキサギゴケの方が明確に花のサイズが大きく、濃い紫色をしています。
2種の似た植物ですが、性質的には異なっておりトキワハゼが茎ごとに株が分かれているのに対し、ムラサキサギゴケは茎を横方向に伸ばして設置した場所から別の根を下ろすランナーという性質をもちます。
雰囲気が似た植物なのですが、花の違いやランナーの有無などに寄り違いは分かりやすい植物であるため、多様性の観察に向いた植物です。
カラスノエンドウ
1月~5月頃まで目にする野生のマメです。
マメ科の植物であるため、つるを伸ばして他の植物に絡みつくようにして成長します。
これは移動できない植物において革命的な戦略であり、早春から始まる地表面での太陽光の取り合いを有利なものにします。
特にスタートで遅れてしまっても取り返せる点が優れており、後から芽生えたカラスノエンドウが大きな植物の上で群生しているのを見ると優れた戦略であることを実感できるはずです。
アリの仲間と共生しており、茎と葉の付け根の部分が黒くなっています。
この部分から蜜を分泌することでアリをおびき寄せ、アリに蜜を上げる代わりに外敵の昆虫などから身を守ってもらうようふるまいます。
実際にはアブラムシなどが来ていることも多く、アブラムシがアリとも共生しているためにカラスノエンドウの蜜が機能していないと感じる場面もありますが、それはそれで戦略なのかもしれません。
マメ科なので蝶形花(ちょうけいか)という上下にガッチリとかみ合った特有の花を持ちます。
春の植物の多くが口の細い虫に花粉の運搬を頼るのに対し、マメ科は体重の重いハチ類などに花粉の運搬を頼っています。
ガッチリはまっている下の花弁に虫が乗ると、重さで花弁が垂れて隠されていたおしべなどが出てきます。
また、根にも面白い特徴が見られます。マメ科植物は菌根菌と呼ばれる空中の窒素を土中に固定する菌類と共生しています。
これによりやせ地でも空中から生命活動に必要な窒素分を確保できるのがマメ科の強みであり、高速道路や河川敷などの工事が入りやすい場所でマメ科樹木がすくすくと育てる理由でもあります。
このことから農業的な視点ではカバークロップとして注目されている仲間であり、土中の窒素分を増やしたい場合に植えられるケースもあります。
様々な視点から春の自然観察にお勧めできる一種と言えます。
カラスノエンドウは日当たりの強い草地環境によく出現するので、よく探してみましょう。
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ミミガタテンナンショウ
半日影、もしくは日陰環境に出現する細長い筒型の奇妙な花を見つけた場合本種の仲間の可能性が高いです。
ミミガタテンナンショウは文字通り横から見ると人の耳をかたどった様な特有の形をした仏炎苞(ぶつえんほう)という食虫植物の様な部位が特徴的です。
一見するとお花のように見えるのですがこの部分は真の花を守るための部位です。本当の花は線香のように突き出た白い棒でもなく、その棒の付け根部分にあります。
白い棒状の部分は付属帯と呼ばれ、真のお花が放つやや臭い香りにおびき寄せられたハエの仲間などを花へと導くものです。
ミミガタテンナンショウは残酷な受粉戦略を取ります。
この植物は土壌の栄養条件により雄花か雌花になります。
雄花の役割は花粉を運搬してもらうことであるため、花粉まみれにした後に脱出して雌花に行ってもらわなければなりません。なので雄花には脱出口がついています。
一方で雌花は受粉することが目的です。花粉を付けた虫が仏炎苞の内部にいればいるほどうれしいです。
なので雌花の花の付近は狭くなって脱出しにくくなっている上に、雄花に見られた出口がありません。
取り込んだら最後、死ぬまで受粉に貢献させられて死ぬのです。
こうしたユニークな特徴を持つのが我々の食材としてもお馴染みのこんにゃくの仲間です。
テンナンショウの仲間は皆こうした筒状の姿をしています。春には似た姿のウラシマソウやムサシアブミを目にするので探してみてください。
注意点としてこんにゃくの仲間はその液に鋭い物質を持ちます。
液に触れればヤマノイモのように痒みが出たり、おいしそうな実を誤飲したりするとひどい痛みが襲うと言われていますので、特にお子様には注意が必要です。トウモロコシみたいで美味しそうなんですよね。
ムスカリ
小さいぶどうの様な花を見つけたならば本種の可能性が高いです。
ムスカリは園芸種なのですが、もはや野生化しており様々なところで目にします。
花付きを良く見てみるとそれぞれコップを逆さにしたような姿をしています。
つぼ型と言われたりしますが、この逆さのつぼ型の形状は昆虫に花粉の運搬を頼る戦略です。
その中でも脚力の強い虫を待っているのです。
春~初夏にかけてこうした下向きの花は目にします。例としてはアセビの仲間はつぼ型で下を向いた低木です。これにはシジミチョウの仲間やハナアブ、ハナバチなどが訪れています。
花の形状から直接内部に入ることは不可能であり、蜜を取るためにはぶら下がる必要があります。
つぼ型で口径を決めることで侵入する虫の大きさまで選定していることを考えるとこちらもかなり特定の虫を相手に選んでいると推測できます。
しかし実際に観察していると虫はあまり来ていないようです。
カキドオシ
地面を這うように葉を広げる様子が垣根を通すようであることからカキドオシという名がつけられています。
半日影もしくは木漏れ日が差し込むような環境で目にするため、多少の湿度が生育に必要であると考えられます。
カキドオシはシソ科の植物であり、シソのものとは異なりますがかなり強烈な香りが楽しめます。
葉を伸ばして設置した場所からランナーを伸ばし、旺盛に領地を広げていき、周辺の地上を優占します。
カキドオシが見られる環境ではカキドオシばかりしか見られないということも少なくありません。
花は上下に分かれた典型的なシソ科の形です。
面白い点は花の上側におしべがあるという点で、蜜を取りに来た昆虫の重さを利用して受粉を狙います。
シソ科の多くのお花は細長い形であることが多く、虫は蜜を取るために足場となる下の花弁に乗ります。
そうするとその思い出花が垂れ下がり、上についたおしべが虫の背中にタッチするのです。
マメ科の受粉戦略と似ていますね。
シソ科の植物は大葉のように香りを持つものが多いです。シソ科の葉を見るとブツブツしたものが観察できます。ここに香り成分が含まれており、幼虫などの葉を食べる虫が齧ったときに香り成分が放出されます。
強烈な香りのものが多いのでカキドオシも虫にはあまり食べられていないようです。
ホトケノザ
1月頃から畑地を始め開けた草地環境でよく目にします。
濃い紫色をした人のようにも見える特徴的なお花が複数立ち上がっているのでなかなかに面白い姿です。
ホトケノザは花の形に由来するものではなく、葉の形に由来しています。茎を巻くように葉がついており、これが仏様が座る場所のように例えているようです。
前述のカキドオシと同じく細長い形をした花はその奥に蜜が蓄えられています。
花が小さいので蜜の量も少ないのですが、私自身が試したところかなり甘い蜜が蓄えられていました。
この蜜を取りに来た虫に花粉をつけるため、花弁の上側に花粉を持つというのはこの手のシソ科に共通するものです。
ホトケノザの奇妙なところは閉鎖花(へいさか)をつける所です。
これは生存戦略上有利なものであると考えられます。例えば花粉を介した受粉というのは別の個体同士で行う有性生殖です。
遺伝子が複雑になることで病気や害虫への対策になるものですが、受粉という手間がかかります。
一方で閉鎖花というのはクローンであるため、虫などの外的要因に頼らず確実に子孫を残すことができます。
こうした2種類の戦略を使い分けることでホトケノザは圧倒的な群落を作っているようです。
ヒメオドリコソウ
ホトケノザを茎や葉を含めて柔らかくしたような印象の植物です。
淡いピンク色が可愛らしいのですが、外来種の植物です。
花はシソ科らしい細長い姿をしたものですが、似た仲間の中ではかなり短いお花です。
上下に分かれている花の姿や奥に蜜を蓄えるなど戦略も似ています。
咲く時期が早いものでは1月頃からと早く、虫媒花である性質から多くの訪花性昆虫の餌資源として活躍していると考えられます。
外来種に特有の環境条件さえ整っていればあらゆる場所で目にすることができる。という点はそれらを利用する虫にとってはとてもいい蜜源なのです。
昔に主流であったレンゲ畑の蜜源としての役割がシロツメクサやヒメオドリコソウなどの外来種に代わってきているのかもしれません。
前述のホトケノザと並んでこの2種の種には美味しい部分が用意されています。エライオソームと呼ばれるのですが、種子においしい部分をつけておくことでアリなどに運搬してもらうという戦略です。
彼らの生えている環境をよく観察すると、アリの巣が近くにあるかもしれません。
キランソウ
キランソウはシソ科の植物で、日当たりのいい草地や斜面などによく生えています。
別名ジゴクノカマノフタという名があるように地面にべたりと張り付いて立ち上がることはほとんどありません。
ヒメオドリコソウやホトケノザと比べこの植物が生存上強いと考えられるのは茎を伸ばさないという点であると考えます。
立ち上がる2種のシソ科は人間生活圏で考えれば踏まれることにとても弱いです。
キランソウは張り付いているので踏まれても茎が折れたりしにくいのです。
そしてこちらも種にエライオソームを持ちます。地面に張り付き、外敵条件(草刈りなども含む)に強いのに加えアリにより定点的に移動できることからキランソウは粘り強く姿を見ることができます。
特にシカなどの草食動物が多い環境を観察していると背丈のあるシソ科は食べられてしまいがちなのですが、キランソウは冬の間でも食べられることなく生存しています。まさに独自の進化を遂げた賜物と言えるでしょうね。
イモカタバミやムラサキカタバミ
花壇や道端で目にする機会が増えている外来種のカタバミです。
本来のカタバミは黄色いお花を咲かせ、葉自体もヒョロヒョロしたものが多いのですがイモカタバミは根茎で増えるという面白い生態を持ちます。
イモカタバミの巨大な株は根元がサッカーボールのように球形になっており、明らかに違和感を覚える姿をしています。
イモではありませんがムラサキカタバミやハナカタバミという大型のカタバミもおり、紫色のカタバミには3種ほど身近なものがあるということを把握していれば大丈夫です。
スミレの仲間
スミレの仲間も道端や側溝沿いでよく目にします。
スミレは園芸種なども紛れ込んでいるので難しい所がありますが、およそスミレ、アメリカスミレサイシン、ヒメスミレ辺りを見かける機会が多いと感じます。
どれも濃い紫色をしているのでややこしいものです。
スミレは葉がスイカバーの様な長い三角型であること、アメリカスミレサイシンはハートの様な大きな円形の葉をしていること、ヒメスミレは葉が1㎝程度と極小であること辺りで見分けることが可能です。
スミレ類は早春の植物であることから細長い特殊な距(きょ)という部位があり、ここの奥に蜜を貯めています。
それゆえ蝶の仲間やビロードツリアブが好んで吸蜜に訪れます。
加えてスミレの種は弾けるという性質があります。これにより重力落下よりも遠くへ種を飛ばせるほか、エライオソームを持つことから飛ばした種もアリによってさらに遠くへ運んでもらうことができます。
春の昆虫に受粉を頼る虫媒花として、そして種子運搬の戦略を見る対象としてスミレはとても優れています。
よく側溝などで咲いているものに関しては種が雨などで運搬されたものであると考えられます。
マツバウンラン
歩道の端や花壇など日当たりのよい環境で目にします。
細身ながら50㎝近く立ち上がることもあるのが特徴的で、その茎につく葉が松の葉のように細いからマツバウンランと呼ばれています。
類似のものとしてはツタの葉に似たツタバウンランがおり、花の雰囲気は似ています。葉は大きく異なるので見分けには苦労しないはずです。
花の雰囲気は一見大きく違うように見えますが、記事を通してみた方はトキワハゼやムラサキサギゴケにそっくりであることに気が付いたはずです。
ゴマノハグサの仲間であり、外来種の植物です。
ゴマノハグサの仲間は重力により種子を落とすため、マツバウンランのように背丈が高いということはそれだけ種子散布上で有利なものであると考えられます。
土壌に種子をまくという戦略上土の移動と共に種子が混入しやすいという点も他外来種と共通しており、何もしていないのになぜか生えてきた植物の1種としてよく目にするはずです。
春の紫色の花の中で特に目にしやすい種類を紹介してきました。ここに乗っていなくとも花は似た形質を持つ者も多いので、今日紹介したもののどれかに似ていれば科から種類を特定できるのではないかと思います。
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