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スプリングエフェメラル、ビロウドツリアブと春の植物に見る生態系

春の代名詞ことスプリングエフェメラル

待ちに待った春の到来です。

ベニバナアセビにやってくるビロウドツリアブ。一年ぶりの再開

自然好きが皆待ち焦がれるスプリングエフェメラル(春の妖精)を知っているでしょうか?

一年の内出現するのが早春の僅かな時期に限られる魅力的な虫たちです。

今回は意外と名が知られているビロウドツリアブという昆虫を紹介し、春のお花に多い筒型の形と花粉運搬者としての昆虫の側面を見ていきましょう。



ビロウドツリアブとは?

ビロウドツリアブはおよそ3月中旬~4月中旬ごろまで見られるハエ目ツリアブ科の昆虫です。

葉の上やアスファルトの上で日光浴をしていると思われる

スプリングエフェメラルとして春先に現れる昆虫としてはとても速く、ビロウドツリアブの出現からコツバメ、スギタニルリシジミ、ギフチョウやミヤマせせりと繋がっていきます。

春のコツバメ。ビロウドツリアブと同じ春の楽しみ

体長は1㎝程度と小さいのですが、ホバリングをする性質とお花の蜜にやってくる性質から春に散歩や花壇などを見ていると自然と目に入ってくる昆虫です。

体はマスコット感が強く、茶色いマリモのような見た目と、体より大きいくらいの口が目につきます。

ミツマタなどのジンチョウゲ科は人気

同時期にホバリングをする虫としてはクマバチやヒラタアブの仲間がいます。

クマバチは色合いや大きさが全く異なりますし、ヒラタアブは細長いので簡単に見分けられるはずです。ビロウドツリアブを探すならば茶色く丸い物体を探しましょう。

出現時期の限られる人気昆虫

ビロウドツリアブの出現は早春の3月中旬~4月程度に限られており、一般的な初夏頃からの虫取りを行うような方は遭遇することもできない虫です。

ツツジも大好きらしくよく来る

しかし出現時期さえ理解しておけば都市部を始め普通に遭遇することが可能です。

私的な意見ですが春の訪れといえばビロウドツリアブによってもたらされると思います。

春の昆虫にはキリガの仲間など、蛾をやっている人にはもっと早くから探せる虫もいるよとお考えの方もいるとは思います。

ビロウドツリアブはようやく出てきた山野草の花や園芸の花などに3月の暖かい陽気と共にやってくるので非常に春らしい空気感を伝えてくれるんですよね。

こうしたスプリングエフェメラルには寒い時期に出てくるからか、もこもこしたものが多いです。

モコモコでホバリングする虫は少ないので見分けは簡単

これは受粉戦略にも役立っていますし、詳細は不明ですが我々が冬に切るモコモコな服のようにも見えます。

例としてコツバメやスギタニルリシジミを紹介します。 彼らもビロウドツリアブと同じ時期に出るのですが、体の基部には他のシジミチョウよりも濃い毛が見られます。

体の当たりがもこもこなコツバメ。スプリング・エフェメラルのモコモコ感は共通

朝晩の冷え込みが厳しかったり、場合によっては雪が降るなどもありますから生存上有利な何かなのかもしれません。

ミツバチと注意

ビロウドツリアブは無害な昆虫なので見分けられれば触ることもできます。しかし初心者はミツバチと間違えないように注意してください。

アブは2枚の翅(左)ハチは2枚の大きな翅の後ろにもう1対の合計4枚の翅(右)

判別ポイントはアブとハチの違いを見ましょう。
蜂は翅が4枚アブは2枚です。
ビロウドツリアブは口が長いです。ミツバチには花粉団子がある場合が多いです。

ビロウドツリアブ(左)とミツバチ(右)口の大きい左と花粉団子が目立つ右

こうしたポイントをうまく使って安全な虫かどうか見分けてください。分からない場合には眺めるだけにしましょう。



ビロウドツリアブと春の戦略

このアブの特徴を一言で述べるならば長い口でしょう。

外国のハチドリのような印象を受ける

ビロウドツリアブはその長い口によって多くの早春の植物を訪れて蜜を味わっています。

例えば春はスミレが多い季節です。

身近なスミレの内コミヤマスミレのような初夏頃まで目にできる物や高山性の種類を除いてその多くが春に花期を集中させています。

早春の林床に咲くナガバノスミレサイシン。ビロウドツリアブが現れる環境

スミレの花はやや異質な形状をしています。花の後ろの部分がキュッと反りあがっており、距(きょ)と呼ばれますがここに蜜を貯めるとされています。この蜜を舐めようと思えば当然長い口が必要となるか、一部のハチのようにかみ切るしかありません。

ビロウドツリアブやアゲハチョウの仲間などにその口を生かして花粉の運搬を任せている可能性は考えられます。

他にもジンチョウゲの仲間なども冬~早春に花を付けますよね。

ジンチョウゲ科の人気植物、ミツマタ。昆虫がたくさん来る虫媒花

ジンチョウゲ科は白や赤、黄色などの色が多くこれらの色は紫外線を反射したり赤や紫はアゲハの仲間が蜜源の植物として学習する植物であったりします。

昆虫に花をアピールすることで虫をおびき寄せ、その中でも口の長い虫にだけ蜜を渡しているのです。

冬を越してごちそうを味わうアカタテハ。嬉しそうにも見える

例えば3月に花を咲かせるミツマタには越冬性のタテハチョウの仲間や早春のコツバメ、スギタニルリシジミなどが来ていることもあります。

これにビロウドツリアブもよく来ており、ミツバチやハエの仲間なども目にします。

ビロウドツリアブも他の虫に混じってよく来ている

ジンチョウゲ科の仲間は花粉が花の入り口付近についているので、より広範囲の虫に花粉運搬を頼んでいる印象を受けますね。

春の代表種、サクラも筒状の細長い花をしていますよね。さすがにビロウドツリアブには大きすぎる気がしますが、サクラも花の入り口が大きいためにビロウドツリアブ、ミツバチなどの虫も利用することができます。

桜を利用するハチ類。自然の中であればビロウドツリアブも来ていると思われる

もちろんアゲハの仲間や鳥などは主要な運搬者だと思います。

その他、春に目にするアブラナ科やせり科、ツツジ科、キブシ科などなど細長い形や花自体が下を向いていてホバリングを前提としていたり、脚力を求めるなどお花は色々な形で虫を選択しようとします。

キブシは春の代表種。ベニバナアセビのように壺形をしており、長い口を持つ虫を選択している

しかし口が長すぎるというのも場合によっては欠点となります。例えばツツジに来ているハナバチ類を例にとると頭から花に突っ込んでいて頭が花粉まみれになっているケースというのはかなり多いです。

一方でホバリングをするビロウドツリアブは私の観察してきた範囲では花粉まみれになっている個体というのには遭遇したことがありません。

ホバリングの虫は盗蜜が上手すぎて、花粉の運搬に貢献していない可能性

これは仮説ですが、同じくホバリングするオオスカシバのように長すぎる口はおしべに触れる面積を減らすことにつながり、結果的に受粉効率は悪くなっているのではないかと思うのです。

花粉の接地率は悪い代わりに訪花数が多いなどでカバーしていると面白いと思うのですが、実際どうなのでしょうかね。

場合によってはビロウドツリアブは実は受粉には貢献しておらず、生存のためだけに口を伸ばしたなんて面白いケースもあるのかなと思います。

ビロウドツリアブとハナバチ類の吸蜜方法の違い。接地面積が大きく違うことがわかる

これについてバラ科のイチゴ栽培における訪花性昆虫の受粉とその結実を調査した研究によれば、ビロウドツリアブやモンシロチョウがイチゴのお花を訪れても受粉に関して有意な差が得られなかったとの記述が見られました。

この研究ではビロウドツリアブのバラ科における検証でしたが、少なくともイチゴにおいては送粉にほとんど関与していないようです。
蜜とりが上手すぎるのも悩みどころですね。


ビロウドツリアブと春のお花

ビロウドツリアブを見かけるお花について詳しく見ていきましょう。

ほんのり薄暗い林床と隣接した花があれば遭遇できるため、環境により来る花は大きく違う

私の地域ではミツマタが大人気です。

神奈川では西武側にミツマタの有名地があります。そうした場所では早春の時期にたくさんのビロウドツリアブがホバリングしている様子を目にすることができます。

また、ツツジにもよく来ていますね。

早咲きでミツバチなどが少ない時期によく来ていた。

ツツジは4月頃に咲く印象が強いと思いますが、実際には温かい気候などで3月頃からまばらに咲いています。そうしたツツジを狙いに来ているビロウドツリアブは多いものです。

それから林縁にもいることが多いですね。寒いことの多い3月の気候では日向ぼっこしている場面に遭遇することも多いです。

草地でのんびりしていた。春らしい。

この場合にビロウドツリアブはたいして飛翔せずにのろのろと落ち葉や岩の上に止まっています。

意外な花がオオイヌノフグリですね。林縁や草地などで普通に見かけるこの植物に止まる?ケースというのをよく目にします。

身近な青い花、オオイヌノフグリ。ヒラタアブなどが選択的に来ている

後は王道のショカッサイタネツケバナなどのアブラナ科のお花でしょうか。
林縁の薄暗い場所では湿度が多いためにこうした植物に来ている印象です。

総じて出会いやすくかつギフチョウやコツバメのように特定種に限らないので観察しやすいおすすめの昆虫と言えます。

見分けは簡単なので戯れてみると思ったより可愛いですよ。私もビロウドツリアブクッションなどあれば欲し位には好きな虫なのでおすすめです。


参考文献
セイヨウミツバチに代わるオランダイチゴの在来送粉昆虫の探索
香取 郁夫・島岡 良治・林 賢太郎・塚本 太郎


pljbnature.com
ハナバチ類の代表種クマバチが同時期に道端でホバリングします。その理由を説明します。
pljbnature.com
ホバリングする代表的な虫として、ハチドリのような蛾の仲間を紹介します。また、ハチとの吸蜜方法の違いを見ることで昆虫の多様性を学べます。虫たちの賢い一面も紹介。