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かわいいミツバチ、いなくなるとどうなる? 受粉を助ける重要な昆虫と人への貢献具合を紹介

ハチなのに可愛い?ミツバチ

3月から11月まで長期間働き続けるミツバチ

ハチといえばアナフィラキシーショックで死亡する事例や、スズメバチのように集団で襲ってくるなど非常に怖い印象が先行してしまいますよね。

しかし非常にかわいいハチもいます。

蜂蜜でおなじみのミツバチ君です。

多くの植物が実をつけるためハチ類に依存している

ミツバチにもアナフィラキシーの症例などはありますが非常におとなしく、こちらが何もしなければ向こうも何もしてきません。

そして我々が日々口にする食べ物作りにも大きく貢献してくれている重要な生物です。

今回の記事では一生懸命花粉を集める可愛らしいミツバチの姿と生態系における重要な役割、我々の生活を支える昆虫を紹介していきます。

手早く読みたい方は「ハナバチ類が作り上げる食卓」をクリック!

ミツバチとは?スズメバチやアシナガバチとの違い

ミツバチはおよそ3月~11月頃まで目にする小型のハチです。

11月のグミ科にて。最後の花粉集めの時期

ミツバチ科のハチで、スズメバチ科のスズメバチやアシナガバチとは異なるカテゴリーのハチです。

多くのハナバチがミツバチ科に所属し、ほとんどが穏やかな性格をしています。

触覚が長いニッポンヒゲナガハナバチ(左)や春にホバリングしてるクマバチもハナバチ類

この仲間は毒こそ持ちますが、服や髪の中に入ってしまうなどの事故がない限り刺してきません。

そのためとても安心して観察することができるハチ類の入門種です。

体は毛が多く、花粉が付きやすい

ミツバチは社会性の強いハチで1匹の女王バチを基に多くの働きバチで巣が構成されます。

およそ春ごろに新女王バチが新しい巣を作るために分蜂と言って大量の働きバチを連れて移動します。(分蜂)

たびたびこれが危険だと扱われますが、ほんの少し滞在しているだけですぐに別の場所へ移動してしまいます。

春にツツジ類をよく訪れる

巣作りを始めた働きバチたちは幼虫たちのために花粉団子を作りそれを分け与えます。

そのため非常に幅広い植物の花粉を集めるため、この姿をとてもよく目にします。

非常に愛嬌があり、表情のあるハチです。

外見的な怖さは全く無いと言える

スズメバチのような剛健さやどっしりとした雰囲気はない代わりに、おっちょこちょいでドジな雰囲気があります。

花を見ていると忙しなく花粉を集めているちょっと応援したくなる場面によく出くわします。

多数のミツバチの中にいたが、事故は起こらない

臆病で大人しいハチですがその針には毒があります。

これは自身に危険が及んだ際の最終兵器であり、相手には命と引き換えに1発しか打てません。

この点がスズメバチ科のハチと異なっています。

スズメバチ類は流石にミツバチのようには近づけない。性格が全く違う

その代わり毒は強力でアナフィラキシーショックも引き起こすことがあります。

穏やかな子だからと舐めてはいけませんが、基本的に刺すことは無いので安心して大丈夫です。

ハチ類に共通する話となりますが、この毒針は産卵管が進化したものなので♂のハチには毒針がありません。

野外で見かけるハチは、春のクマバチを除いて基本♀だと思うべき

しかし巣のほとんどを占める働きバチは♀で、野外で見かけるのもほとんどが♀です。

♂は巣内に潜んでおり、ほぼ交尾するための存在です。

姿はちょっと特殊で複眼が大きいのですが、写真を撮ることは養蜂家でもないと厳しい気がします。

花粉を集める

ミツバチの大仕事が花粉を集めることです。

ミツマタの花粉を集めているミツバチ。足には花粉団子が!

花粉の種類は特に問わないように感じますが、花側は花粉の運搬を昆虫に頼っているというケースは多々あります。

訪花性昆虫に来てほしい花は下向きで細長い花をしているという傾向があります。

ミツバチが来る植物は大抵他の昆虫も来ていますが、ミツバチの訪花性はこれらの虫よりもさらに強いようです。

ミツバチを呼ぶ花は虫媒花(ちゅうばいか)と言い、チョウなどもやってくる

ラベンダーなどのようにミツバチばかりが使っているような植物もあります。

ミツバチ類は足に花粉を集めるための部位があり、ここに花粉をまとめています。

粉である花粉は体表の毛にも絡みつきますが、より効率よく集めるために花の蜜などで毛を濡らし集めやすいようにしています。

花粉団子有りと無し。結構重たそう

ミツバチの成虫は蜂蜜だけでなく花粉も食べており、持ち帰った花粉団子は極上のローヤルゼリーへと変わり女王バチや幼虫の餌となります。私も食べてみたいです。

花粉を集めるプロセスに話を戻しましょう。

これはちょっと驚くと思いますが、ミツバチ類は非常に長い口を持っています。

ハナバチ類の一種、ニッポンヒゲナガハナバチの口。驚きの長さ!

訪花性昆虫に受粉を頼む植物は例えば春のサクラや秋のグミのように、非常に長い筒状の花であるケースが多いです。

こうした花から行動源である蜜を得るために彼らの口は長いのです。

虫媒花の例。花は下向きが多く細長いものが多い。一定の脚力と口の長さで来る虫を絞り込む

訪花性のハチの中には蜜が目的である場合も多々あります。

その場合クマバチなどの大きな種で多いのですが、蜜源までの根元をかみ切ってしまうというケースがあります。

昆虫側は得かもしれませんが、次世代を作れないことを考えると長期的にはマイナスだと考えられますね。

大型シソ科の根本を噛み切ろうとするクマバチ。

もし全ての訪花性ハチ類が嚙み切っていたら餌資源はなくなってしまいます。

小型のミツバチ類は噛みきりをあまりしないようで、お花の正面から突っ込む理想的な動きをしてくれます。

花の正面から花粉を受けるミツバチ。受粉に大きく貢献

とても受粉に役立っていることでしょう。


この受粉を助けている場面はミツバチ観察のとてもおすすめできる場面です。

ミツバチは翅が4枚あり、飛ぶのがとてもうまいのですが、訪花性昆虫を待っている花というのは大抵密度が高く、花に接近するのに苦戦しています。

たまに引っかかってもがいている。可愛いシーンにも遭遇する

上手く羽ばたけずに足が引っかかってじたばたしていたり、引っ掛かりを不快に感じて飛び去ってしまったりなんだか人間のような感情を彼らから取ることができます。非常にかわいいです。


ハナバチ類が作り上げる食卓

ミツバチが蜜を取りつつ植物の受粉に貢献している話をしました。

秋のヤマボウシ。初夏の白い花にはハチやハナムグリがたくさん

我々が日ごろ口にする植物由来の多くのものが、ハナバチ類の受粉によって生産されています。

例えばビニールハウスでのイチゴづくりでハナバチを放し飼いにしている場面などは有名だと思います。

秋の味覚、栗もたくさんのハチ類がやってくる

農作物の75%ほどがハナバチ類による受粉で生産されていることがFAO(Food and Agriculture Organization of the united nation)により指摘されています。

しかし、農作物を食べている人の中にハチ類への感謝の気持ちを持っている人はほとんどいないのではないでしょうか? 

むしろハチ類は刺すから嫌いだというおおよそ間違った認識を持っている方が多数でしょう。

クマやサルのごちそうとなるウワミズザクラ。ミツバチも大好き

ハチ類の影響は果実のようなはっきりと形取られたものに限りません。

コショウやケチャップなどの調味料などもハチのおかげで味わえるものですよね。

お酒に使われるブドウの仲間。受粉にハチ類が貢献しているのは知ってた?

面白い話を上げるとすると皆様大好きなハンバーガーがありますよね。

ハンバーガーを例にミツバチの偉大さを見ていきましょう。

大きく分けるとバンズ(パン)、セサミ、レタス、トマト、ケチャップ、マスタード、ピクルス、コショウ、パテ、チーズ。

ナス科のイメージにイヌホオズキの仲間。

サイドメニューとしてはサラダやポテトあたりでしょうか?シェイク辺りもいいですね。

穀類は風媒花であるため、ハチ類の影響を受けません。

風媒花であるイネ科(米や麦)と虫媒花のマメ科(多くの農作物)

一方でハンバーガーの要であるお肉などは牧草や飼料にマメ科(アルファルファ)などを利用しているものもおり、これらの受粉にはハチ類が必要です。 

マメといえば春のフジもマメの仲間。ハチがよく来ます

ウシとハナバチなんてあまりにも意外なつながりではありませんか?

乳牛も同様であるためシェイクやチーズなどもなくなってしまいますね。

つまり、残るものはバンズ(風媒花)とポテトでしょうか。

イモ類は受粉せず、いわゆるクローン(遺伝情報が同じ)のものもある

バンズにつくセサミすら受粉の成果なのでダメです。調味料も塩以外だめでしょうかね。(サラダ油などもハチのおかげです)

いつもありがとうと言うべき相手

日々口にしているものが俯瞰してみてみるとかなりハチ類に依存していることが分かりますよね。

ここまでのハンバーガーの例は「ハナバチがつくる美味しい食卓」を参考に話しています。

人のハチ依存度の分かりやすい例として紹介しました。

食材の裏にあるハチの貢献はあまりに偉大です。

食事だけじゃない!?

補足的な内容になりますが我々の服などもハチ類によって作られていますよね。

ハナバチ類の偉大さは物の背景を見れば見るほど分かってくる

化学繊維も出現していますが綿花はハチ類の受粉により作られています。日々来ている服がハチ由来だとは考えもしないのではないでしょうか?

ミツバチと受粉の影響は我々が意識できていないだけでとても身近なことが分かります。

ミツバチに起こる異変

そんな重要なミツバチですが、今数を急激に減らしていると言われています。

山間部では目にするものの、都市部では見かけない気がします

FAOにおいてもハチ類の減少が指摘されており、人間活動によりこれまでの100~1000倍の速度で絶滅の危機に瀕していると言われています。

特にハチ類やチョウ類の花粉媒介者の減少が顕著で、約40%近くが絶滅に面しているとのことです。

環境の指標として使われるチョウ類の多様性。草地性のチョウは衰退中

この要因として農薬の使用はもちろん、単一植生の農業形態や農地や土地そのものの利用方法の変化が彼らの生活環境に変化をおよぼしたと言われています。

水田やクヌギコナラからなる薪炭林は衰退

確かに稲策の窒素供給として馴染みであったレンゲ畑などを始めとする里山環境は消え、特定作物のみを育て続ける状況や、シカ害やソーラーパネルといった山の切り開きなどにより荒れる山など、山の状況はここ数年だけでも大きく変化しています。

山地の開拓や人工物による地下水脈との分断による土壌の乾燥化など、土地利用の方法は大きく変わった

これは草地性のタテハチョウ類の多くが絶滅危惧に瀕しているなどからも明らかですね。

また、輸入により国の境がなくなることで病気や害虫が蔓延しやすくなったことも影響しているようです。

国境の概念が薄くなることで多数の外来種とそれに付属する害虫類が入る。目に見えない細菌類が関わっててもおかしくはない

ハチ類の減少にはネオニコチノイド系の農薬による被害が目につきますが、他にも様々な要因があるということですね。

例えばハチ類に見られる不可思議なものとして蜂群崩壊症候群という奇妙なものがあります。

解明されていないものでありますが、この要因にはストレス説、病気説、農薬由来説、遺伝子組み換え作物由来説など様々なものがあります。

病気、農薬、遺伝子組み換えなど人間活動の結果が要因として組み込まれており、恩恵を受けている我々がむしろハチたちに対し害をもたらしてしまっている可能性がありますよね。

ハチ類への影響は、数値化されているわけではありません。ただ人との関わりはもっと知られるべきだと思いますね

それでもまだミツバチは知られている方です。

さらにマイナーなハナバチ類は存在すら知られずに絶滅していく現状です。

皆様もぜひ食事の際にはどれがハチ由来の食品なのか想像してみてください。そうすると野外でのハナバチやミツバチを愛する目で見られるはずですよ。

参考文献
FAO's Global Action on Pollination Services for Sustainable Agriculture
ハナバチがつくった美味しい食卓

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外来種の侵入例やその種子散布戦略、外来種本体に伴ってくる害虫類が在来種に与える影響などに関する記事です。
我々の身近にある外来種の背景やその影響を紹介しています。
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スズメバチ類についてです。身近な種類をまとめて知ることができます。ミツバチの天敵でもありますね。
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食物連鎖の視点から生態系を考察する記事です。ハヤブサ、小型哺乳類、昆虫を取り巻くつながりと生態系を利用するウイルス類などの考察です。