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ひっつきむしの正式名称は? 細長いひっつきむしの正体は外来種、センダングサ

服に張り付く引っ付き虫

おなじみのセンダングサ。服につけて怒られた方も多いのでは

子供のころに草地に入り虫取りをしていたら服がトゲだらけ!なんていう楽しい思い出をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

引っ付き虫の名で有名な彼らには実にたくさんの種類がおり、詳しく見ていくとなかなか面白いものです。

今回の記事では残念ながらも最も身近な引っ付き虫となった外来種のセンダングサの仲間を紹介します。

引っ付き虫とは?

軽く触れるだけで刺さる。チクチク痛い。

引っ付き虫って何?という方はあまりいないとは思いますが、概念としては服などに張り付く種を持つものです。

今回紹介するものはセンダングサの仲間ですが、およそ秋ごろ~冬にかけて草地などには多数の引っ付く虫たちがいます。

イノコヅチ。外側にフックの役割のトゲがある

代表例をいくつか挙げるとマメ科のアレチヌスビトハギやオナモミ、イノコヅチが身近な種類です。

引っ付き虫には在来種と外来種がいますが最近目にするのは外来種の方が多いです。

センダングサとは?

センダングサの仲間はキク科の植物です。

アメリカセンダングサと思われる。テングチョウとこんにちは

種類がかなり豊富で、ざっと上げてもアメリカセンダングサ、コセンダングサ、コシロノセンダングサ、センダングサが挙げられます。

このうち3種は外来種で、我々が目にするセンダングサのほとんどは悲しいことに外来種です。

花としてはかなり小型で、1つの花の塊に2種類の花を持つ変わった植物です。

筒状花は本当に大人気

1つ目の花は筒状花(とうじょうか)で、花の黄色い部分です。

筒状花は花粉運搬戦略上非常に優れており、キク科の多くの花に見られます。

ゆえにセンダングサの花数は1つのお花でおそらく30近い花たちの集合体ということになります。

コシロノセンダングサ。白い花びらがあるため分かりやすい

種によっては写真のように白い花びらのようなものがついています。こちらは舌状花(ぜつじょうか)といい花びらではなく花本体です。

花は受粉後針のように細くなり種となります。

花後に筒状花らしいたくさんの種ができる

種の形は種によりますが、いずれにしてもギザギザ状のフックとなる部分が外側につき、獣の毛や繊維などによく張り付きます。

毒は無いようでシカなどに食べられていました。

なぜひっつくのか

引っ付き虫はなぜ服などに張り付くのでしょうか?これはセンダングサ類の種子散布戦略になります。

センダングサはプラグのような方から刺さる。小さなぎざぎざがある

根を下ろす植物は移動することができません。

かといって足元にばかり種をまいていたのであれば自分自身が子の成長場所に影を作ってしまい次世代を育てることができません。

ならばということで移動できる獣類に張り付きやすい形状をして代わりに運搬してもらおうと考えたのがセンダングサの仲間です。

種子散布戦略上は動物散布なのですが、外来種の旺盛な勢力ゆえか真下に落とす重力散布でもうまくやれてしまっています。

酷いと畑などの一面にセンダングサ

そのため発生地では恐ろしい密度で発生し、そのとがった種により人間を生息エリアに寄せ付けない武器としての側面もあるように感じます。

センダングサにやられた方は分かると思いますが、この種は結構痛いです。

この種子散布はとても賢い方法で、外来センダングサの生息範囲拡大はある種納得してしまいます。

鹿に食べられたセンダングサ。密集していれば種まみれのはず

例えば神奈川西部エリアではシカによる食害が深刻化しているのですが、シカはセンダングサ類を積極的には食べていません。

食べ物が減ってくる晩秋頃から食べられ始めるのですが、その頃には立派な種が凄まじい密度でついています。

おそらく葉を食べようとしたシカの顔は種まみれでしょう。

すると母体は食べられてしまいますが種子の散布には成功してしまいます。

これにより西部エリアではセンダングサ類がかなりの密度で生えています。まさに戦略勝ちと言わざるを得ません。

外来種のセンダングサ

外来種としての側面から見ていくとセンダングサ類は動物のいない都市部のコンクリ沿いや荒れ地などでも普通に目にします。

コンクリの隙間からセンダングサ

つまり動物密度がなくとも狭い範囲内なら十分優先できる勢力を持っているということです。

こうした外来種は土木作業の際に持ち込まれた砂や土砂に埋土種子が入っているケースや、庭に持ち込んだ(購入した)土に種が含まれているなどの経路で入ってきています。

観察していると種として本当に強い植物です。

彼らが主に生えているのはコンクリ沿い、栄養の少ない荒れ地、礫地など他の植物が入りにくいような環境です。

こうしたコンクリに適応する植物は少ないので、生存上有利

これは推測ですが、センダングサが強いというのもそうですが、今の都市部の地面環境に適応できる植物だからここまでセンダングサが繁茂しているのでしょうね。

昔のススキ草原のような環境ではさすがに彼らも勢力が負けており、自分の勝てる領域で勝負するということの重要さを学べました。 

視点を変えてみると教材としてなかなか使える子かもしれません。

センダングサと秋の生態系

都市部や開発地に積極的に入ることから秋における貴重な蜜源となっており、生態系の乏しい都市部のオアシスとなっている場合が多いです。

数分でキタテハとヒメアカタテハの到来。蝶好きのオアシス

外来種でありながら多くの在来種が訪れるというのはちょっと複雑ですが、秋の生態系において欠かせないのではないかと疑わざるを得ないほど様々な訪花性昆虫が訪れています。

前述しましたがセンダングサは筒状花をもちます。

ハナアブ類のプーンという音も心地良い

これは細長い花で、ハナバチの仲間やチョウ、蛾類に訪花昆虫を絞るものです。

元々キク科は白や黄色が多く、昆虫によく認識される花なのですが、センダングサは花数がとても多く、チョウが夢中で1つの花序から吸蜜します。

アサギマダラも来ていてびっくり

観察地点では僅かな時間でチャバネセセリ、ヤマトシジミ、ベニシジミ、ウラナミシジミ、ウラギンシジミ、ヒメアカタテハ、ツマグロヒョウモン、アサギマダラが訪れました。

草地にあるセンダングサを利用した蝶は離れてもセンダングサを利用しており、黄色い花から蜜が取れることを学習しているようでした。

このことがまずますセンダングサの受粉を助けており、センダングサが侵入した場所は数年でセンダングサが優先する場所へ早変わりしていました。

セセリチョウ。忙しそうでかわいい

外来種と訪花性昆虫、そこに種子散布の戦略ががっちりとかみ合うことで、彼らは自身だけからなる群落を作っています。恐るべし戦略です。

駆除する人間も痛い種と引っ付く種のおかげでなんか嫌な気持になりますよね。 あらゆる方面で良い戦略を取る植物だなぁと感心してしまいますね。

まとめ

センダングサは細い引っ付き虫でおなじみの植物です。身近なものはほとんどが外来種で、そのお花は筒状と舌状の2種類あります。

引っ付くのは種子散布の戦略であり、それ以外にも重力散布を利用して種を撒きます。

食害にも強い植物で、一度侵入を許すと隙がありません。

また、都市部などの生物多様性が低い場所では昆虫類の主要な蜜源ともなっていそうです。外来種でありながら日本の環境に見事に合致することで今後も勢力を広げていくことが予測されます。

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引っ付き虫と並ぶ秋に人気の種はどんぐりです。まだまだ楽しめるどんぐり拾いと可能な時期や、時期ごとのおすすめ種類などを紹介。

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秋の大人気昆虫アサギマダラもセンダングサで吸蜜をするようです。

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ヒメアカタテハも越冬に向けて熱心に訪れます。環境的にも相性がいいようです。


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秋のシジミチョウの代表格、ウラナミシジミは秋のセンダングサで都市部にも出現します。