楽しいドングリ拾い。時期間違えちゃった?

秋の自然で人気の高い遊びとしてドングリ拾いがあります。
夏にカブクワ採集をした木が落とすドングリは8月頃から10月頃に集中しており、今年はもうドングリ拾えないかもと考えている方も多いのではないでしょうか?
ドングリを落とす木々はクヌギやコナラだけではありません。それ以外の樹木に注目すれば12月頃までしっかりとドングリ拾いを楽しむことができますよ。
今回の記事では季節ごとにお勧めのドングリ拾いができる木々を紹介していきます。
ドングリとは?
ドングリは夏から冬にかけてブナ科樹木が作る果実の総称です。

身近なものとして見られる種類はクヌギに代表される丸いドングリやボウリングのピンのような楕円形の形をしたコナラのものが有名だと思います。
また、おいしいドングリとしてはクリなども挙げられます。

いずれにしてもこのドングリたちに共通する点は、堅い殻に囲まれたナッツ様の実とそれを包む堅い袋のような殻斗(かくと)と呼ばれるパーツです。
ドングリ類は拾って楽しいものであると同時に次世代を育てるための種でもあります。
地面に落ちたドングリはおよそ冬頃に芽を出して地面に突き刺さります。冬にドングリの多い場所を観察すると逆立ちするような奇妙なドングリの集団を目にすることができます。


ドングリの季節的には晩夏のクヌギコナラ、秋のカシ、冬のシイがあります。
すべて含めると半年近い長期間ドングリ拾いが楽しめるので、それぞれの特徴を押さえて楽しいドングリ拾いをしましょう。
晩夏のクヌギコナラ
ドングリの代名詞的な存在です。

クヌギコナラ自体がもともと燃料としての薪炭林で身近なものであったため、雑木林的な環境を探せば普通に目にすることができます。
クヌギは特に人気が高く、座布団に包まれたような特徴的な見た目の殻と丸いドングリの姿をしています。

同じ環境に見られるコナラも楕円形の代表的な形をしており、ドングリといえばこの形のイメージにぴったりな種類です。
この2種は身近なドングリではありますが、雑木林環境で真夏に拾うのはなかなかに骨が折れます。

同時期においてはクヌギやコナラから樹液が出ているため、ハチなどもいます。
薄暗く雨も多い夏の雑木林はジメジメしており、蚊も多いことから途中で嫌になってしまうケースも多いと思います。
挙句の果てには3種のゾウムシ類にドングリが利用されるため、外れ率の高いドングリの可能性が高いというのも残念です。

有名な種類ではあるのですが、9月中旬以降の終盤のドングリ拾いをお勧めしたい種類ですね。
クヌギはその特有の冠斗、コナラは帽子がスポンジのようなぶつぶつ模様がある点で判別するのがおすすめです。
秋のカシ類
カシ類はとてもおすすめのドングリです。

およそ9月下旬ごろからドングリが落ち始め、秋の運動に適した気候と相まって快適なドングリ拾いが楽しめます。
クヌギやコナラが陽樹と言って明るい日差しのある環境を好むのに対し、カシ類は暗所的な環境を好むドングリの仲間です。
同じブナの仲間でも棲み分けをうまくしているようですね。

カシ類はコナラに近いドングリをしています。ただカシの仲間は種類が多いので、これだと言える代表的な形はありません。
特に目にするのはアラカシとシラカシという木です。

丈夫で1年中葉をつけていることから街路樹や神社などに植えられています。
カシ類は大型になりますが、背丈の低いうちからドングリをつけるため、木から直接採集することも可能です。新鮮なドングリが取れ、果物狩りのようで楽しいですよ。


カシ類のピーク時には既にクヌギコナラは殻ばかりになっているので、特に意識しなくてもこれがカシかな?と分かると思います。
一応帽子の形が特徴的で、横線が入るというユニークな模様があります。
冬のシイ類
シイの仲間はさらに遅い時期までドングリ拾いが楽しめます。

11月終わりごろから年末ごろまででも全然取れます。
シイ類自体は暖地を好む植物で、海岸沿いなどの南側にてよく見られる植物です。
そのため実をつける時期が遅いのではないかと推測します。
シイの仲間の代表種はマテバシイという種類で、今回紹介している楕円型のドングリの中では一回り以上大きいです。
実の付きぶりも非常に多く、一年中葉をつけているという性質から簡単に種類の特定ができます。

ドングリの性質も異なります。クヌギやカシ類などのドングリには苦み成分であるタンニンが豊富に含まれているのですが、シイ類はあく抜きしなくても食べられてしまうほどタンニンが薄いです。
このため、動物たちからはとても好まれるドングリだと思われます。
これはシイの実の結実が遅いことと関連していると推測していて、もし9月頃にシイの実ができているならばおそらくほとんど食べられてしまっていると思われます。
シイの実の中でも結実期の遅いものが生存していった結果、捕食者が冬眠しているような遅い時期にドングリをつけるようになったのではないかと考えています。
マテバシイ以外にもスダジイやツブラジイなどのシイがありますが、こちらも公園や街路樹などで目にすることがあります。
ドングリ類は時期によっておおよそ見分けることも可能なので、覚えておいてください。
ドングリを拾おう!
それぞれのドングリ出現期を理解したならば実際に探したいドングリを求めて雑木林へ行ってみましょう。
木々が分からなくてもドングリが落ちていたり実っている様子を発見できれば簡単に手にすることことができます。
ドングリが持つ多様性の観察
3種の身近なドングリ類を紹介してきました。
これらドングリたちは微妙に生活圏を分けることでうまく棲み分けをしていますね。


具体的には陽樹として雑木林環境で見られるクヌギコナラ、暗所で1年中葉をつけるカシ類、陽樹ではあるものの海岸などの南方を好むシイ類です。
紹介していない例としても低地に対するコナラと高地で見られるミズナラなど、長い歴史の中でドングリの出現はうまく分かれています。
おそらくドングリが作られる時期がずれているのも繁殖上の戦略なのでしょう。

ドングリ類の運搬はリス類や鳥類が加えて隠したり持ち運び中にこぼすことで移動します。
同時期に落ちているドングリの割合が高ければそれだけ運搬される可能性は低くなってしまいます。
時期をずらすことでうまくお互いの数が減った隙間のタイミングを狙っているのではないでしょうか。

また、同じドングリの仲間でも暗所を好むカシ類のドングリは暗所での発芽率が上がるなど面白い傾向も観察できます。
それぞれのドングリがそれぞれの環境に合わせて進化してきたのですね。
樹木としてのドングリの木
ドングリの木は自然界においてとても重要なものです。

ドングリはその果実中の60%ほどが炭水化物であり、自然下においては貴重な栄養源です。
植物側もそれを理解しているのか、食べられないようにタンニンという成分を含ませることで捕食されすぎないようにしています。
例えばアカネズミの例においてはドングリを食べすぎたネズミがタンニンにより食中毒を起こし、死亡しています。

別の例では黒毛和牛の牧場においてドングリ類を集中的に食べた牛が肝機能や腎機能の障害を起こして死亡した事例があります。
こうした事例からも分かるようにドングリは栄養に富みますが、食べすぎると死ぬほどの成分が含まれているのです。
ゆえにあく抜きができない自然下において大量に消費されることがあまりありません。
逆に考えると長期間利用できる炭水化物源と考えることもできますね。
動物や人間の食料としてのドングリ
大量に摂取される機会の少ないドングリですが、その代わりに幅広い生き物たちの栄養源として用いられます。

ざっと上げるだけでもアカネズミやリスなどのげっ歯類、カケスなどの鳥類、ゾウムシなどの昆虫類、シカ、イノシシ、クマ、サルなどの名が上がります。

これは推測にすぎませんが、近年におけるイノシシやシカ、クマなどの人間生活圏への進出にも影響しているのではないかと思います。

ブナ科樹木の萎凋病を引き起こすナラ枯れにより母体が大量に消えていますし、近年のソーラーパネルによる大規模な山地の開発や、土地開発による山地の乾燥化による立ち枯れなど、ドングリが減少する要因がここ数年で増えているように感じます。
山中の貴重な栄養がなくなれば動物たちは脂肪を蓄えられず冬を越せなくなります。
ちょうどこの時期に山で不足した栄養を求めて町に降りてきているような気がしてなりませんね。
話を少し変えて人間的な視点でドングリを考えてみましょう。
ドングリの貴重なでんぷんは縄文時代の食器に残されたでんぷんからこれらが利用されていたことを示しています。
実際にあく抜きされたドングリや、あく抜きせずに食べられるシイ類のドングリは食べることが可能です。
私自身もマテバシイの実を茹で、焼いて食べたり、粉末にしてコーヒーにしたことがあります。
なかなか素朴な味わいで特徴はないのですが、お腹がものすごくすいていたらおいしいかな?と思えるくらいの味わいです。
砂糖などを入れれば十分においしく食べられると思います。

時期によってはシイの実は拾っている人がいます。
正直なところ食利用するならばシイの実一択なので、食べるのに興味がある人は冬を狙いましょう。
そしてこれはクリなどに使えるテクニックなのですが、クリは冷蔵庫で冷やしておくとどんどん糖度が増しておいしくなります。
ドングリ類も発芽するために糖分を蓄積するのではないかと予測しているので、せっかく拾ったなら一手間をかけて見ましょう。
縄文人の資源利用と土地理由に関する生態学的研究(神松幸弘)
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