自生シイタケに挑戦も一興
屋外でのキノコ採集は毒キノコとの誤食がとても怖い領域です。挑む際は種の見分けが簡単なものかキノコに詳しい人と探すようにしましょう。
シイタケにはツキヨタケという死亡事故につながる毒キノコがあります。かならず2種の違いを理解してください。
シイタケは根気があれば自生のものを探すことが可能です。その採取にはシイタケが生態系の分解者であるという視点を理解することで遭遇しやすくなります。
今回の記事ではシイタケの探し方と見つけるために役立つ生態的な視点、そこから生態系の中でシイタケがこなす役割などを紹介していきます。
昨今は魚が切り身で泳いでいるという勘違いをしている方もいるように、自然と人間が切り離された時代です。生き生きとしたシイタケの本来の姿を見ていきましょう。
シイタケとは
シイタケはかつてはドングリの木である椎(しい)の木から出現することから名づけられました。
エノキタケやマツタケ、松露(しょうろ、トリュフ)などを始め一部のキノコには関連した植物の名がつけられています。
現在はクヌギやコナラ、サクラを始めとする広葉樹の樹木に菌糸を打ち込んで栽培する原木栽培が主流です。
しかし本来はクヌギやコナラを中心とした薪炭林環境に出現し、枯れ木を分解する菌類です。
白色腐朽菌(はくしょくふきゅうきん)と呼ばれる菌糸が白い菌類の仲間であり、木材内部に存在するリグニン、セルロースなどを始めとする養分(いわゆる食物繊維)を分解することができます。
いわゆるシイタケの可食部は子実体(しじつたい)と呼ばれる次世代の胞子を飛ばす部分で、その本体は木材中に存在する菌糸です。
彼らによって木材は長い年月をかけてボロボロにされ、次世代の木々を育てる栄養源となります。この性質から分解者として非常に重要な存在です。
シイタケの出現条件や環境について
まず時期が重要です。
スーパーで年中手に入ることから1年中探すことができると思われがちですが、本来のシイタケは真冬頃の12月前後と、冬の終わりごろの1月下旬~3月頭頃にかけてピークが見られます。
次に重要なのが探す場所の環境です。
シイタケは前述の通り木材腐朽菌であるため、その出現に枯れ木や太めの枯れ枝が不可欠です。
つまりそれらの枯れ木が定期的に除去されてしまうような環境で目にすることはとても難しいです。
都市部やその公園環境で観察していくのはかなり難しいと言えますね。
なので探す場合には適度に放置された雑木林環境もしくは山の中を探す必要があります。しかししいたけ栽培というのは人気が高いことからイベントとして行われていたり、切った枝の再利用活動としてシイタケの榾木を利用しているケースがあります。
そうした環境が付近にある場合天然と呼べるのか不明ですが、シイタケが付近で発見されるケースもあります。
さて環境が整っていても菌糸があるだけですぐにシイタケが出るわけではありません。菌床栽培ではおよそ菌の打ち込みから発生まで2年~3年ほどの期間がかかります。
つまりそれだけの期間菌が侵入した材が残っていなければなりません。
しかし関東圏においてはナラ枯れによりブナ科樹木が立ち枯れする現象が広範囲で起きています。
この現象は2018年ごろから神奈川で目立ち始めたものであり、被害がひどくなった2021年ごろからおおよそ3年ほどの月日がたち、枯れ木のコンディションはシイタケにとっていいものになっていると考えられます。
シイタケの難しさは乾燥に弱い所にあります。
ただでさえ冬場の乾燥した時期に出るため、シイタケが出ても干からびてしまうケースも見られます。このことから冬の雨も重要な条件となります。
今回は運よくシイタケの発生材を自然下で発見できました。クヌギコナラの薪炭林だった場所で、間伐とナラ枯れの被害が確認された雑木林です。
隣に立ち枯れ木があり、よく見れば丸いシロスジカミキリの跡がありますね。
このカミキリは枯れ木の中で3年過ごすカミキリなので、同時期に倒れたと仮定すればこの材も3~4年は立っていると考えられ。シイタケの発生に十分な条件がそろっています。
発生している場所に注目してみると何が分かるでしょうか?
冬の空気というのは大変乾燥しています。この乾燥はシイタケにとっても厳しいものです。発生場所を見てみると私的な観察では70%ほどが木の横~下にかけて発生していました。
土壌中は水分の割合が高く、冬場には落ち葉で覆われているため空気が乾いていても湿度が保たれています。地面に近い所では空中湿度も保たれているためキノコの発生には適した場所であるようです。
つまり材を見かけたらその上を見ているだけでは見つかりません。横や下も確認していきましょう。
また、探す日というのもとても重要です。
冬は晴れ間の続くことが多いですよね。こんな条件で山の中をいくら探しても見つかりません。(山中で雲が発生しやすいなど除く)
シイタケを探すうえで重要なのは雨の後です。具体的には雨後5日から6日ほどたったタイミングがベストであるようです。
材に1㎝程のシイタケが発生しているのを確認し、その後の成長を見守った結果は5日ほどで市販されている食べごろサイズのシイタケに成長しました。
これより短ければシイタケが育っておらず発見がより困難になり、これより遅ければシイタケは成長を終えて朽ちかけていると思われます。
まあ早い分には取れないですが遅い分には傘が開いてより大きくなっている分をお得(味は落ちると言われているが体感できるほどではないという私見)なことを考えるとちょいと遅らせた方がいいかもしれません。
雨数日後に探すというのはキノコの仲間を探すうえで有効なテクニックなので覚えておきましょう。
とはいえいきなり山へ行って見つかることはあまりないです。夏にクワガタを探したりしてよさげな枯れ木のあたりを付けておけば勝率は上がると思われます。
また、立ち枯れが多かったり土場としてクヌギコナラの丸太が置かれているような場所であるならば、シロスジカミキリというカミキリの脱出痕を目安にしてみるというのも有効かもしれません。
シイタケ菌は枯れてから2~4年程度の月日を経て出てきます。
シロスジカミキリはクヌギやコナラなどの枯れ木に3年穿孔するカミキリなので、それらの脱出痕があれば材の年数などの参考になると思われます。
シイタケと腐朽菌
シイタケの可食部はよく知られていますがシイタケの生態を知る人となればその数はかなり絞られるはずです。
シイタケ菌は自然界では白色腐朽菌として様々な樹木を分解する菌類です。
菌類も成長に糖類が必要となります。自然界にお砂糖やブドウ糖がないので何かから得る必要があります。
そこで彼らは死んだ植物に目を付けたのです。
我々からすると食物繊維の名で知られるものがセルロースやヘミセルロースというものです。
人はそれをほとんど消化できませんが、草食動物が草を食べることで糖類を得ているように植物にはたくさんの糖のもとがあります。
菌類の中でもシイタケを始めとする白色腐朽菌は特にこれらの分解にたけていると言われています。
木の厄介なところはリグニンという成分で、これは熱分解で500℃以上もの強烈な加熱が必要なほど分解しにくい物質です。
白色腐朽菌は自然界でこの物質を分解できる数少ない存在であり、この能力により地上が枯れ木だらけにならないのですね。
胞子だけでなく土中には多数の菌糸がネットワークを作っています。そうした菌類の活動により難分解性の樹木は次の栄養に分解されていくんですね。シイタケ様様です。
シイタケと昆虫
木々を分解するのが腐朽菌の仕事ですが、この過程により実に多くの昆虫が助けられています。
かつての燃料源としての薪炭林環境によく見られた虫がカブトムシやクワガタですよね。
カブトムシはクヌギやコナラを中心とした落ち葉が変化した腐葉土の中で発生します。一方でクワガタ類は朽木の中で発生しますよね。
朽ち木の発生には白色腐朽菌の存在が欠かせません。また、クワガタは朽木を食べて育っているという認識をしている方も多いと思います。実際には朽ち木と白色腐朽菌を食べて育っています。
これは菌糸瓶というクワガタを育てるための培養器を見れば明らかで、あの中は白い菌類がびっしりと張り巡らされていますよね。
また、木をボロボロにするというのも重要な視点です。例えばボロボロになることで昆虫の越冬場所として優れた場所になっているようです。
白い菌が付着した樹皮をめくったところカメムシ類が出て来たり、程よく柔らかくなることでスズメバチ類が噛み砕いて侵入するなどがあるようです。
また、菌類が入っている木の内部をよく見ると線状に潜り込まれた跡がよく見られます。
カミキリが先なのか菌類が先なのかははっきりとは分かりませんが、もしかすると新鮮な材に来る昆虫類ともつながりが深いのかもしれません。
昆虫類の中にはキマワリやキノコムシ、キノコゴミムシのように菌糸を食べる種類というものもいます。そうした生き物たちにとってはその存在自体が餌資源となりますね。
加えてしいたけ原木栽培を行うときに注意されるシイタケは菌との競争に弱いという点です。つまり菌同士の食物連鎖の中でも他の菌類の栄養源となっている可能性も十分考えられます。
人が管理していた里山環境に出現する色々な生き物というのはやはり種間におけるつながりが強いと感じますね。
もしシイタケを自然の中で見つけたいならばかつての薪炭林環境、つまり適度な木漏れ日があり、枯れ木があるクヌギやコナラの林を山中で見つけ、菌の性質を理解して雨上がりの5日ほどを目安として発生期の12月~3月頃まで探してみるのが良いと思います。
とはいえ自然下で探すのはかなり大変なので頑張ってください。
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