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小さい黒いキツツキ? コゲラに見る生態系

小柄なキツツキを見つけた

キツツキが都市部にいるなんてと思うかもしれません。

平地の雑木林から山地まで最も身近なキツツキ

実はキツツキにも様々な種類がおり、近場で目にするのはコゲラという黒っぽいスズメほどの大きさの種類です。

このコゲラはキツツキの仲間ということで他の鳥とは異なる特徴を持っています。そしてその穴をあける能力で多くの生き物に関わっています。

今回は身近なコゲラというキツツキを中心に生態系を見てみましょう。

コゲラとは

コゲラはスズメほどの大きさをした日本最小のキツツキの仲間です。

立ち枯れ木を突くコゲラ

色合いは黒っぽい印象を受けますが、グレーとも取れるような色付きで白い斑点のようなものがあります。

鳴き声はグェー↑やギェー↑といったようなだみ声の様なかなり特徴的なもので、一度聞いてしまえばもう聞き間違えることは無いくらい強烈なものです。

多分鳴き声は聞いたことのある方も多いと思います。

平地よりは山地性の鳥であり、その食性が主に昆虫食であることが要因です。

枯れ木に生息するカミキリムシやタマムシの幼虫を狙っていることが多いと思われる

小柄でありながらキツツキらしいパワフルな掘りを見せます。コゲラが木をたたく(ドラミング)ことをすると50m位離れていても音が聞こえると思います。

同種の群れで行動することも多いのですが、特に冬場は混群というシジュウカラやエナガなど全く種類の異なる鳥たちと共に群れをつくっていることもあります。

留鳥であり、一年中見ることが可能です。身近なキツツキとしてバードウォッチングの対象としてお勧めできます。

キツツキの仲間の特徴

キツツキの仲間の特徴として足の形と尾の違いが挙げられます。

よくよく考えたらこの止まり方はかなり不自然。どう止まっているのか?

キツツキは他の鳥と比べると木の移動方法が異なります。

例えばシジュウカラを例にとると彼らは枝などの水平方向に止まり、幹や枝にいる昆虫や芽などを食べています。一方でコゲラは木に対して垂直方向に止まることが可能です。

キツツキの仲間は足がかぎづめのような鋭いものになっています。クワガタが鋭い爪を用いて樹皮などにがっしり捕まっているようにキツツキもまた幹を掴んでいます。

枝の上にも下にも自由自在。重力の影響を受けていないかのように動く

キツツキの足にはさらに面白い特徴があり、他の鳥が前に3本後ろに1本の足をしているのに対し、キツツキは足の1本の可動域が広いので前2本後ろ2本のようにバランスに応じて使い分けることができます。

これにより捕まる場所に応じて使い分けをしているのですね。
例えば偶蹄目のシカには蹄の後ろに斜面などでバランスを取るための副蹄(ふくてい)というパーツがあります。

これを利用してヤギなどは崖を登ったりしているのですが、足のバランスが変えられるというのはこうした使い分けにかなり有利であると考えられます。

しかし足だけではかなりのパワーが必要ですよね。

コゲラの写真が少ないので。3点で支えるとはいえ真横に張り付くのはすごい

この仲間はいわゆる尾の場所も移動に使います。2つのかぎづめと尾の3点を利用して体を支え、幹に張り付いたように移動することができるのです。

この点は他の鳥と明確に違います。

他にはハトやヒヨドリの様に活発に移動しない傾向も見て取れます。

飛翔をよくするヒヨドリ。コゲラは採餌中は大きく移動しない

観察地が彼らの生息圏であるからか、木々を渡るかのように細かく移動していきます。

飛翔が苦手という訳ではないようですが、脅かすように急に姿を見せたりしても隣の木に移ったり、木の上部へ移動したりと道案内をするかのようにちょこちょこ移動してくれます。

コゲラに関してはほかの鳥と比べかなり観察しやすいです。

最大の特徴はキツツキが行うドラミングです。頭を打ち付けて木の中にいる昆虫を捕食します。

コゲラは可愛いものですが、大型種のものとなるとかなり強烈で、谷を挟んでも余裕で音が聞こえます。

その音はココココココッというような小気味のよい連続音で、自然界では違和感を覚える音です。なのですぐにわかります。

枯死木とキツツキ カミキリムシの利用

キツツキの仲間は主に樹木に潜入するカミキリムシの仲間やタマムシの仲間を利用していると考えられています。

おそらくこうした小型カミキリなどを狙っているのではないだろうか。

カミキリムシの多くは枯れ木を好みますが、生木や衰弱木(枯れてはいない)を好むものもいます。

キツツキは木の中に虫が潜んでいることは知っているようで、頻繁にコツコツと木々をたたいています。

キツツキの大きさによりもちろん差が有りますが、木を突付いた後に穴が空いていることも珍しくありません。

この空いた穴はまさに獲物となるカミキリムシが潜んでいた痕です。

こちらはカミキリの最大種、シロスジカミキリの脱出した後。コゲラの突いた後くらい大きい

大型のアオゲラともなるとさらに巨大になり、穴は円錐形をしています。

しかしキツツキはどうやってカミキリムシがいる場所を当てているのでしょうか?

これについて観察しているとカミキリが潜伏している場所は分かっていないと考えられます。

飛来したコゲラを観察していると木々の枯損部は分かっているように感じられますが、その後探るかのようなコツコツといった行動を繰り返していることが多いです。

コゲラが突いたと思われる穴のようなものも見える

つまり彼らはこのコツコツを利用してカミキリムシを探り当てていると考えられますよね。

例えばグラスハープという楽器があります。コップに水をためて、摩擦で音を奏でるものですね。

グラスの口径や水の深さにより音が変わるというものなのですが、これに近いことをやっているようです。

ご存じの通りカミキリムシは木に穴を掘り進みます。内側には空洞ができており、カミキリムシの幼虫がいる所は音の響きや大きさが違うと思われます。

木の内側には大きな空洞ができており、音の響きが違うものと思われる

文字通り音の違いで当たりをつけてココココココッという本掘りを始めるのでしょう。観察していると飽きの来ない鳥です。

この木に口ばしを叩きつけることをドラミングと言いますが、さえずり等を持たないキツツキの仲間にとっては♀へのアピールであったりもします。

ドラミングの違いなんてものがあったりするのかもしれませんね。



しかし硬い木にこれだけの穴をあけるのは相当なパワーが必要です。


キツツキの木突きの不思議

人間が木に頭を打ち付ければ全力ならば1発で倒れるでしょう。

カッカッカッカと響く音でコゲラを見つける。大型種だとスコココココと谷を挟んでもわかる

キツツキは文字通り全力で木に嘴を打ち付けていますが、気絶したりはしません。なぜでしょうか?

これについてキツツキの骨格を研究したものがとても面白い仕組みを明らかにしています。

キツツキの突きは1秒間に18~22回もの打ち付けを行うそうです。普通なら気絶してしまいます。

まずキツツキの嘴は植物の繊維が走る縦方向に合わせて縦寄りになっているらしく、道具のノミのようになっているそうです。

骨に関してはさっぱりなので割愛しますとくちばしから発生した衝撃が首ではなく全身に分散させることができるようになっているそうです。

小さいからだなのにとても木を突くのに効率化されているようだ

我々は頭部で叩くキツツキを見ると人の尺度で脳に影響がいくと考えてしまいますが、論文を見ると嘴から来た衝撃は下半身の方へ移動するようです。

脳自体も人のものと異なり、移動しなかったり髄液が無いなど我々でいう脳が揺れるようなことが起きない仕組みになっているようです。

キツツキが木に嘴を打ち付けて体調を崩すような杞憂は不要であるということですね。正直仕組みは読んでもよくわかりません。

コゲラと生態系

コゲラを始めとするキツツキの仲間は多様な生き物とつながりが見られます。

その中でも掘る穴を中心としたものを上げます。

樹木に入るもう1種のメジャー種にはタマムシの仲間もいる

まずは樹木害虫であるカミキリムシの駆除ですね。カミキリムシは非常に厄介な生き物です。畑や農業、庭木ではおなじみだと思われますが、生木食いのものは生きた木を枯らしてしまいます。

そうしたカミキリを自然界で除去するのがキツツキの仲間ですね。

しかし2種間で見れば除去したかのように見えますが、そうした穴からは結果的に木材腐朽菌などが侵入し枯らしてしまうケースもあると思います。

菌が入り、樹勢が弱まるとそれを察知してカミキリが産卵に来る。すごい

場合によってはそれにより樹勢が弱まって衰弱木にさらにカミキリが来るなんてこともあると思います。

カミキリ利用的には圧倒的に立ち枯れの木で見かける機会が多い鳥です。

枯れ木には様々なカミキリやタマムシなどが訪れます。特に特定種の嗜好性が強いカミキリやタマムシは、ここぞとばかりに大群で押し寄せます。

人間には邪魔な枯れ木も自然の中では多くの生き物の命をつなぐ場所。タマムシの産卵。

その多数こそがキツツキなどに食べられても食べつくされない戦略なのかもしれませんね。

枯れ木は分解までに数十年単位の時間がかかる栄養源なのですが、キツツキが穴を空ければその穴を通じて雨などが入り込み、腐朽菌の侵入などに貢献する可能性は考えられます。

アオゲラの営巣に使われたと思われる穴。穴から菌が入ったのか今はムササビが利用

キツツキは餌の確保に木を掘りますが営巣などにも利用します。

スズメ大の大きさの鳥が入れるくらいなので自然界で見れば立派な穴ができます。キツツキの子育てが終わって空いた穴は他の生き物の絶好の隠れ家となります。

自身では木に完全な穴を掘れないムササビ。営巣箇所は木の洞など。

例としてムササビやモモンガが挙げられますね。彼らは樹洞に営巣しますがその際の候補としてキツツキが掘った穴を使う場合があります。
ムササビの営巣事例としては九州のムササビの行動を研究したものが分かりやすいです。

これによればムササビはスギの枝が落ちた箇所から腐朽菌が入って朽ちた場所を齧って作る場合が多かったと指摘されています。

これが示すのはムササビ自身も木の朽ちた場所ならば掘り進めるということです。

木を分解できるキノコの仲間。木材分解の大貢献者

大型のキツツキが掘った穴は雨などで朽ちていきますからキツツキと腐朽菌を通じて大型のムササビを始めとするげっ歯類の営巣場所に貢献しているんですね。

カミキリムシが木を枯らすという視点もありますが、キツツキが穴を広げてそこから腐朽菌などを運搬するという見方もできますよね。

穴を開けるという独自の行為は自然の中にいる様々な生き物に恩恵を与えていると考えられそうです。もう時期営巣の時期を迎えると穴の中で子育てしていることもあるので、身近なキツツキを探してみてください。

参考文献
ム サ サ ど の 巣 と 造 巣 行 動
安 藤 元 一 ・日 右 折
キツツキの骨格構造 ・組織の力学的評価 と耐衝撃 システムについて*
尾 田 十 八*1, 坂 本 二 郎*1, 坂 野 憲 一*

木材腐朽プロセスと樹洞を巡る生物間相互作用:
樹洞営巣網の構築に向けて
小高 信彦
pljbnature.com
コゲラと混群を作るシジュウカラ。
同じ群れでたくさん目にする仲良しさんです。
pljbnature.com
町中でおなじみの鳥といえば緑のメジロ。ツバキ科の受粉に大きく貢献する鳥です。