ネクタイをした鳥がいるらしい?
身近な鳥の中には社会人顔負けなネクタイをバッチリ決めた鳥が見られます。
シジュウカラという鳥は街中でも普通に見ることができる鳥でありながらそのユニークな模様から人気の高い鳥です。
一方で生態面もとても面白く、別種の鳥と共に群れをつくったり、巣の中に他の昆虫が生息していたりと多様性の観察にもばっちりな鳥です。
今回の記事ではネクタイを持つシジュウカラの魅力と色々な生き物をつなぐ視点をお届けします。
シジュウカラとは
シジュウカラはおよそスズメ程度の大きさを持つ白と黒の印象を受ける鳥です。
刺し色のように緑色も含まれています。
頭から尾の先まではおおよそ15㎝定規分位の小型の鳥です。
留鳥で一年中目にすることができ、生息地はちょっとした緑のある場所から山地まで幅広いです。
植生は雑食性で、主に昆虫を捕食している場面と果実を食べている場面に遭遇することが多いです。
最大の特徴は首元から胸にかけて入る黒いネクタイ模様とパンダのように白い顔の一部分だと思われます。
色合いで似た鳥はいますが、特に平地で見かけた場合にはシジュウカラと判断して大丈夫です。
かわいいネクタイ模様について
シジュウカラは可愛いネクタイを持ちます。
正直なところ鳥の仲間は似ていたりややこしいものが多かったり、そもそもそこまでの興味がない方も多いのでスズメとツバメくらいしか知らないという方も少なくはないはずです。
シジュウカラのネクタイ模様は鳥の中ではシマエナガと並ぶ(言い過ぎかも?)くらいには人気があると感じており、テレビやネットで目にする機会は他の鳥に比べると多いと思われます。
このネクタイ模様は♂♀で違うことが明らかとなっています。そして♂のネクタイは太く♀のネクタイは細い傾向にあります。
野外で見かけるとネクタイをはっきりと目にする機会は少ないかと思いますが、太ネクタイと細ネクタイどちらなのかに注目してみてください。
また、根拠となる論文などは見かけていませんが、♂はネクタイが太いほどモテるという記述も目にします。
クジャクの羽の美しさや、ダンスのうまさなど鳥の中には♀へのアピールとして色々な手段を持つ者がいます。シジュウカラの場合にはネクタイなのかもしれません。
シジュウカラは小さい鳥であり、混群という5種類ほどの小さな鳥からなる群れをつくる傾向があります。
そのため、接近することは大変なのですがかなりかわいいので間近で観察してみてほしいですね。
秋や冬であれば冬芽をかじっていることが多いので、透けた樹木の中で待っていたら大群で来てくれるかもしれませんよ。
シジュウカラは朝うるさい鳥の1種
トピックは移り、身近な鳥としての側面を紹介していきます。
朝うるさい鳥がいますよね。ピーヨ↑と甲高い声でうるさいのがヒヨドリです。
pljbnature.com
うるさい鳥第一号ヒヨドリも掘り下げるとかなり面白いので、今回の記事の様な視点を楽しめるならばぜひ。
身近な朝うるさい鳥には他にも2種ほどおり、1種がハトです。そして残りがこのシジュウカラです。
ただ奇声のようなヒヨドリの甲高い声と違ってシジュウカラの鳴き声はかなり小気味良いです。
ツピー↑ツピー↑ツピー↑ツピー↑。
と周期的に発するのでノリがよく飽きが来ません。
かなり大きな声なのでまさかスズメ程度の鳥が発しているとは思わず、外を見てみたらそんな鳥がいない。という経験は皆さましているのではないでしょうかね。
例えばセミの音を日本人は風情がある、夏らしいものとしてとらえますが外国の方は騒音のように聞こえるらしいです。
こうした鳥や秋の虫の声は非常に大きいものですが我々にはとてもなじみが深く、騒音のように感じることはあまり多くありません。
これに関して面白いものがあり、入院中の患者に様々な音声を聞かせた研究があります。
それによればシジュウカラの音声というのはおおよそ36~55dBであり、夏のアブラゼミが36~44dB程度です。セミより大きいとは驚きですよね。
面白いのは患者に様々な自然環境音のみ、騒音のみ、自然環境音+騒音(シジュウカラなら44~61.5dBまで増加)でそれぞれを聞かせてその不快指数を求めたところ、シジュウカラに関しては騒音のみよりも不快さが低かったと指摘されていました。
私もヒヨドリの声に起こされるとイラっとするのですがシジュウカラに起こされるといい声じゃないかぁとちょっと得をした気持ちになります。
日本人にはこうした音は何か遺伝子レベルで刻み込まれているものなのかもしれませんね。
トピックとしてはうるさい鳥として紹介しましたが、実際にはそこまで不快感を感じない鳥です。布団の中で鳥の声が聞こえたら、それが不快なものかどうかで考えてみても種を特定できるかもしれません。
シジュウカラと混群
シジュウカラの声の次は生態的な面に入っていきましょう。
シジュウカラの代表的なものが混群です。この鳥は単品で見かける機会よりも群れで見かける機会の方が多いです。
例えばイカルのように同種で群れをつくる鳥というのは多くいます。
しかしシジュウカラのように異なる鳥の間で群れをつくるというのは珍しいです。
混群の中にはヤマガラ、エナガ、コゲラ、メジロなどがいることが多く、これらは皆似たようなものを食べています。
また、サイズ感も皆スズメ程度のものでほぼ同じ大きさをしています。
特に秋から冬にかけてはカラスザンショウで見かける機会が抜群に多いですね。
なぜ混群を形成するのか?については不思議な点が多いのですが、これについて島根県松戸市にある21世紀の森と広場のパークセンターの記事にて自然解説員の方が記した記事が参考になりそうです。
特に有力そうなのが39℃の体温を維持するために食べ続けなければならないという点ですね。
例えばモグラはエネルギー消費が速すぎることから12時間食べ続けないと餓死すると言われています。
冬の寒さであれだけの小さな体を維持していくためには熱を生み出すためにたくさん食べなければならないのでしょうね。
そのために混群というものを利用して天敵を発見する目を増やし、同時に餌を発見する目も増やしているのかもしれません。
また、似た食事をとると言っても種が違うため、その傾向は異なると考えられますよね。
例えばコゲラはキツツキの仲間で枯れ木を突いてカミキリの幼虫などを食べます。ヤマガラは観察の限りでは種への嗜好性が強いように感じます。
種ごとに嗜好性が違うのであれば群れて同じ環境を利用しても違う資源を使うので競合を抑えられる可能性が高いと思います。
もし同じ嗜好性であるならばいればいるだけ混群の中で餌資源の取り合いが起きてしまいますよね。
シジュウカラを見るには?
シジュウカラは都市部でもちょっとした緑がある場所にて簡単に見ることができます。
しかしそれでは面白みに欠けるので私なりの探し方を紹介します。
まず前述の混群にいることが多いので、混群の構成要素となる鳥を探すのがおすすめです。
特にコゲラとエナガは混群のキーパーソンと言いますか、分かりやすいです。
コゲラはキツツキの仲間なので木をたたくドラミング音がかなり大きいです。そのため、どの辺にいるかというのが分かります。
エナガは混群の中で一番数が多いので、雑木林の木々の中に小鳥の気配を多数感じたらエナガの可能性が高いです。
そうした群れの一端を見つけることで効率よくシジュウカラを見つけることができます。
また、うるさい鳥で紹介したように鳴き声で探すのもおすすめです。町中の木々や電線でツピーツピーと鳴く声が聞こえればシジュウカラで間違いありません。
今現在ではスズメよりも簡単に出会えると思いますので探してみてくださいね。
模様の特徴がはっきりしているのでバードウォッチング向きな鳥です。
シジュウカラと見る生態系
都市部の身近な鳥であり、山地の普通種でもあるシジュウカラはあらゆる生き物とつながりを持つ重要な鳥です。
その視点を紹介していきます。
上位捕食者から見たシジュウカラ
シジュウカラは重要な餌資源です。
都市部から山地まで広く分布するため、猛禽類やヘビの仲間には欠かせない存在です。
特にシジュウカラは低木や木の密度が高いような環境から庭に取り付けた巣箱まで幅広く利用します。
鳥の巣にはフクロウのような樹洞につくるものと比較的開放空間につくるものがおり、シジュウカラは後者です。
襲われるリスクが高いもののその分孵化~巣立ちまでの期間が2週間ちょっとと早いのも特徴です。
この性質からも天敵に捕食される機会は多いと思われ、特に低い場所にあるものなどはアオダイショウなどの樹上性のヘビによく捕食されていると思われます。
都市部にも多いことから近年都市部に適応した猛禽類の一部にも食べられていることでしょう。
町中という点ではカラスなども強力な存在であると思われます。ごみ漁りの印象が強いカラスですが、他の鳥や小さい生き物なども利用します。
シジュウカラの営巣と環境
鳥の巣を見ると分かるのですが、実によくできているものです。
我々が冬に毛布や羽毛布団を使い熱効率を高めるように彼らも体温を逃がさないような工夫を巣に施します。
欠かせないものがコケです。
コケは自然界では湿度のある環境に生えていますよね。ふさふさしておりかなり保温性が高いです。巣の外側は熱を逃がさないためかコケが敷かれています。
そして山地であれば獣の毛や秋にできた綿のようなものなどを敷いていきより暖かい環境を作ります。
つまりどういう訳か自然のものの保温性を理解しているんですね。
これは鳥だけに見られる行動ではありません。
例えば大型の樹洞に巣をつくる生き物としてムササビが挙げられますが、彼らもスギの樹皮を雑に割いたもの→スギの樹皮を細かく割いたもの→鳥の羽やスギの樹皮を細かくしたものを混ぜたものというように中心にいくにつれて細かくしていく形が見られます。
自然の色々なものを巣材として活用しているので、それらがある環境というのが望ましいんですね。
自然の少ない都市部ではもしかするとペットの毛とか、他の鳥の羽などを利用しているのかもしれません。
昆虫とシジュウカラ
シジュウカラは昆虫も大好きな鳥です。
特に春の繁殖期に巣に帰ってくる親鳥を見ているとイモムシを取ってきています。
イモムシは卵で冬を越すものが多く、ご存じの通り大量に発生しますよね。
鳥の中には春に繁殖期を持つ者もおり、春を迎えて出てくる昆虫類も捕食されることを前提に数多く出てきています。
昆虫に対してはシジュウカラも捕食者としてその個体抑制に貢献していることでしょう。
また、鳥の巣というのは一部の昆虫の生息場所としても重要だったりします。
短期間とはいえ一定期間暖かい生き物が定住している環境というのは虫に取っていい環境です。
巣材があることから隠れ家もありますし、短期間で巣からいなくなるのでその後に脱出すれば安全面も何とかなります。
巣を利用するものとしては一部の蛾の仲間や甲虫の仲間などが挙げられます。こう言った生き物は腐食性であったりケラチン(鳥の羽を作るたんぱく質)食であると言われています。
それらの生き物にとっては鳥の巣というのは何もせずとも餌が供給される絶好の場所なのです。
例として鳥の巣を利用する昆虫に関して調べた研究を取り上げると、営巣放棄された巣よりも雛がしっかり巣立った巣の方が蛾類が発生しやすい(ケラチン利用のため)と指摘されています。
調査された62の巣材の内33の巣で何かしらの昆虫が発生しており、ケラチン食の昆虫に至っては巣に雛がいる期間が長いほど発見される割合が増えることが明らかとなっています。(捕食や営巣放棄された巣と雛が巣立った素で比較すると前者は3%後者は37%)
シジュウカラに限りませんが鳥は巣をつくって子育てしているだけで昆虫を抑制するだけでなく、その発生にも貢献しているんですね。
こうした営巣環境で発生する虫としては猛禽類の巣で育つアカマダラコガネ(アカマダラハナムグリ)が有名です。
しかし身近な鳥のレベルにおいても昆虫の発生に影響を与えているというのは驚きですね。
こうした生き物はスペシャリスト(特定のものを利用する)である傾向も強いので、鳥と共に長い時間を過ぎしてきたのでしょう。
鳥の巣で生活している昆虫類は振動を与えたりすると巣材の中へ逃げる性質や、そもそも夜間に行動するなど、巣材の中で安全な行動を理解しているようなふるまいを見せるそうです。
特殊な環境で育てられて生存のための技ですね。
このように身近なシジュウカラを例にとるだけでも実に様々な側面から生物多様性を見ることができます。
身近な生き物はまさに自然の知を探求するのに適した存在です。興味のきっかけはネクタイでもうるさい鳥でも構いません。
不思議に思う生き物がいたならばぜひいろんな角度からその生き物のなぜ?を追及してみてください。
病棟の騒音への認識に対する自然環境音の効果
松本 じゅん子
1),多 賀谷 昭
小鳥の生きる知恵「混群こんぐん」
自 然 解 説 員
直 井 宏
鳥の巣と昆虫の関係:鳥の繁殖活動が昆虫の生息場所を作り出す
濱尾章二 1,*・那須義次
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今回のような記事が楽しめた場合には身近な鳥に見る生態系シリーズが楽しめると思います。
メジロとツバキ科の関係などを取り上げた記事です。
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青色の鳥ルリビタキを対象に色の発色の不思議などを紹介していく記事です。
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