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青色の冬鳥ルリビタキ。 なぜ青い?の不思議と生息地について考察

圧倒的人気を誇る青い鳥

自然下では何度遭遇しても目を奪われてしまう美麗種

自然下で目にする青い鳥は高い人気も納得の美しさで、何度遭遇しても目を奪われてしまう魅力的な種類です。

特に冬に目にするルリビタキという鳥は簡単には見られないものの平地でも観察することができ、頑張れば十分出会えるという点からも人気が高いです。


今回の記事では1つ抜けた人気を持つルリビタキを紹介し、彼らの青色の不思議やどんな場所で遭遇できるのか?生態的特徴は?などの視点を考察してみたいと思います。

ルリビタキとは?

ルリビタキはユーラシア大陸に幅広く分布している鳥で、夏には大陸北部、冬には南部で活動している鳥です。

冬の寂しい景色の中では異様に目につく

日本には冬鳥として訪れるものと漂鳥として高地と低地を行き来するものがいると推測され、主に山地側で目にすることができます。 

雑木林的な環境が残っていれば平地でも観察することは可能であり、例えば神奈川でいえば県央部の山などが無い大和いこいの森などでも毎年観察され、出現環境は広いと言えそうです。

鈍くて食べやすいと思われるクサカゲロウの仲間など

食性は雑食性で地面をついばんだり幹を突いていることから昆虫類や芽、果実などいろいろなものを食べていると思われます。

大きさはスズメ程度で、同じヒタキの仲間のジョウビタキなどと同じサイズ感です。

大きさは同じヒタキの仲間のジョウビタキと同じ程度

鳴き声はヒタキの仲間らしい甲高いヒッ↑ヒッ↑という声で鳴きます。音はかなり大きいのですが類似のジョウビタキのものとほぼ同じであり、神奈川西部にてヒッ↑という声を聴いた場合95%くらいはジョウビタキです。

ルリビタキはなぜ人気か?

ルリビタキにはカルト的な人気があると個人的には感じており、カメラを持った集団がいて何に向けているのか聞いてみればルリビタキであったという経験をする機会は少なくありません。

有名な地域では本当にカメラを構えて待っている人もいる

なぜここまで人気が高いのか?という要因を棚卸してみると青色というのが大きいように感じます。

特に身近な鳥の中でここまで青いものは珍しく、種類としてはコルリ、オオルリなどが青い鳥として挙げられます。

コルリもオオルリも共に夏鳥であり、その時期にはキビタキと並んで人気の鳥です。

壁に激突してしまったキビタキ。

しかし青い鳥で冬場に見られるのはルリビタキぐらいしかいません。

また、ルリビタキというのは遭遇難易度が絶妙な鳥で、サブターゲットに設定しやすいのも人気の要因なのではないかと思います。猛禽のついでとか、冬鳥のベニマシコやカシラダカのサブとしてとかですね。


さて青色が美しいルリビタキなのですが、なぜ青色をしているのか?という点はとても不思議ですよね。

青色をしている生き物は少ない。なぜ青を選んだのかは不明なものの青になるメカニズムは解明されている

おそらく「ルリビタキの青色が好き」という人は多くとも「それが何に由来するのか?」というところまでの興味は行かない方は多いのではないでしょうか?

以下よりちょっとした発色の説明を挟みます。

発色とは?

生き物の発色はまさに長い歴史の中で生まれた奇跡のような産物と言えます。

構造色の一種、ムラサキシジミのアメジストのような光沢

発色の例でいえばシジミチョウの仲間やタマムシの仲間など、自然界で違和感を覚えてしまうくらい美しい金属光沢を放つ者がいますよね。

一方で色の変化といえば紅葉に代表されるように緑→黄→赤といったような色の変化をしていくものもあります。

紅葉は角度を変えても色自体は変わらない

この点について掘り下げていくと色素による特定色の反射と、構造色による特定波長の反射に分けることができそうです。


色素と構造色
紅葉の赤色は赤色色素であるアントシアニンに由来するもの

色素は植物の葉緑素(緑色)やニンジンのカロチノイド(オレンジ、黄)、ブルーベリーのアントシアニン(赤色)などがおなじみです。

光は虹でおなじみの7色の波長をもっており、それぞれ反射のしやすさが異なります。

赤橙黄緑青藍紫と右に行くにつれて波長は短くなり拡散しやすくなります。

空が青いのは光の中の青色の波長が短いため、空気中の物質に光が反射してしまうから

日常で例えると空が青いのは波長の短い青色の光が空気中の物質にぶつかり拡散するからですし、夕焼けが赤いのは太陽への距離が遠くなる時間に長い波長をもつ赤色が届くからです。

我々は物体の持つ色素に反射した光を見ています。

緑の植物は緑以外の色素が吸収されているため、緑のみが我々に反射している

植物が緑色に見えるのはクロロフィルが青色や赤色の色素を吸収し、一方でそれ以外の色を反射するからです。(虹の7色の内青と赤が消えると反射した色は黄色や緑に見える)これが色素による色の見え方ですね。

ではルリビタキは青色に見えるので、青色の色素を持っているのでしょうか?

ルリビタキと青色

これに関しては私自身が分析した訳ではないので知恵をお借りすることにします。

青色は色素か?構造色か?鳥のように激しく動き回る生き物では分からない

ルリビタキの羽の特性を分析した論文によればルリビタキの青色は構造色によるものだと言われています。

構造色は前述のシジミチョウやタマムシの仲間などを始めとしたさまざまな生き物で見られる特徴で、宝石のようなギラギラした光沢を出すものが多いです。

構造色は非常に小さな穴や凹みなど色々な理由を基に特定の波長帯の色を反射するものです。

ギラギラに照らしてみると、点描のようなモザイク状の無数の穴が分かる

例としてヤマトタマムシの羽を拡大してみると小さな穴がたくさんあることが分かります。

色素と異なる点は特定光の反射であり、光は波長が異なるため見る角度を変えれば色が変わるという特徴があります。

構造色の反射によるヤマトシジミ♂の光沢

シジミチョウの羽の反射を角度を変えてみれば色が変わるのは、彼らの羽が色素ではなく構造による反射だからですね。

一方で色素による反射のニンジンなどは吸収したそれ以外の色を反射しているため、角度を変えても色が変わったりはしませんよね。

ルリビタキの青色は羽の先端にのみ見られるらしい。

本題に戻すとルリビタキの羽の場合には羽を構成する繊維の中にサイズの異なる空気孔があるそうです。これがタマムシの穴のように光を反射する役割をしています。

論文中ではこの空気孔の有無で光の反射を測定してみると、空気孔があれば青色の反射率が高くなり、無い場合には他の色合いの反射率も上がったと指摘されていました。

こうした微細な違いが構造色による発色の違いをもたらしているのかもしれない

このことからルリビタキの青色の発現にはこの羽の先端の微小な空気孔が不可欠だと結論付けられています。つまりは構造色による青色波長の反射で青色に見えているということです。

羽の先端にこの空気孔が密集している都合上ルリビタキの羽は先端部のみ青いことが推測できますね。(この点に関しては抜けた羽を見たことが無いです)

顕微鏡レベルで見なければ分からないような一見何の意味もなさそうに見える微小な穴にこんな機能があるというのは何とも神秘的なものですよね。


ちょっとイメージが付きにくいかもしれませんが、ここでは自然界の発色に色素と構造色によるものがあると触れておけば大丈夫です。

冬季普通に目にするマガモ。ギラギラ輝く緑色の頭部が特徴的

ちなみにルリビタキだけではなくこうした構造色を持つ鳥はおり、例えばマガモの頭部は緑色に輝いていますよね。

あれも構造色です。
町中のカラスの羽は黒いですが艶々していますよね。ああしたものも構造色です。

我々が認識していないだけで意外と身近なものに感じますよね。その中でも青色反射というのは珍しいように感じます。

ルリビタキと出現環境

面白い色合いの理由を見た後は実物に遭遇して観察したいと思いますよね。

なかなか出会えないもので写真のレパートリーがありません。

ルリビタキを探す場合にどんな点に注目していくのか?というのを紹介していきます。

まずルリビタキ自体は山地よりの鳥であるという印象が指摘には強いです。丹沢山系の麓付近のエリアはお勧めできますし、私自身もその辺のエリアで見る機会が多いです。

今回のルリビタキの写真はどれもあいかわ公園のものです

私はあいかわ公園や早戸川林道で発見したことがあり、あの辺のエリア一体で運が良ければ遭遇出来る鳥と認識しています。

最初に述べた大和いこいの森や多摩地区の小山田緑地などでも見ています。

視点を神奈川レベルに広げればいろいろな観察事例が出てきます。県央の座間谷戸山や横浜の方でも緑があれば観察できているようです。

ということで彼らの食性が雑食であることを考慮すれば、都市部であっても雑木林に足を運べば十分観察できると推測できますね。

人気の生き物は事前の情報収集で勝負が決まると言っても過言ではありません

ルリビタキは人気の鳥なのでSNSを始め情報が出やすい種類です。加えて縄張り意識の強い鳥であるため一度見つかれば何日か見られる可能性も高いです。

その辺は自身で足を運ぶよりもまず情報収集に徹してしまった方がよいでしょう。野鳥観察に限らずあらゆる物事は情報収集で8割ぐらい決まると思います。

青くないルリビタキの不思議

ルリビタキはこれまで散々述べたように青い構造色を持つ鳥です。

ルリビタキ?らしい雰囲気を持つ鳥。何者?

しかし現地に足を運んでみると青くないルリビタキを目にすることがあります。

もしかするとルリビタキであるとすら認識していなかったこの鳥がルリビタキの可能性があります。


これに関しては彼らの面白い生態を理解しておきましょう。

ルリビタキの♂は巣立ちからの年月に応じて体色が変化する

まず青くなるのは♂です。ということは茶色いのは普通に考えれば♀ですよね。

しかしルリビタキは性成熟の度合いで♂の色合いが変わるという特徴があります。

具体的には巣から離れた1年目は茶色く、2年目で青色になります。

ルリビタキ観察経験が浅すぎて未熟♂なのか♀なのか不明

繁殖するのは性成熟の関係から青色の個体だけかと推測していたのですが、サントリーの愛鳥活動の説明によれば1年目でも繁殖するそうです。
ぱっと見♀と♀が繁殖しているように見えてユニークですね。

つまりルリビタキは♂が年月により色の変化をするとても面白い鳥なんですね。ルリビタキは幸運の鳥と呼ばれることもありますが、これまでの背景を理解しておくと確かに幸運な気がします。

巣立ちの生態について

せっかく♂の成熟などの話をしたので生態に関してももう少しユニークな点を紹介したいと思います。

地上のブッシュをうまく利用している傾向が見られる

ルリビタキは樹上ではなく地上に巣をつくるというかなり変わった生態を持ちます。

ルリビタキの巣立ち雛が捕食された貴重な事例を記した論文によれば、ルリビタキの雛は巣内での日時次第では巣立ち直後に羽が不十分で飛び立つことができないという指摘もあります。

地上で採食しているルリビタキの♂?若々しい雰囲気がある

そのためルリビタキの雛は巣立ち直後には空を飛ばずに陸上を徘徊して小動物を捕まえて成長していく場合があるそうです。鳥の雛は樹上に巣をつくり巣立ちとともに親に狩りの仕方などの生き方を学ぶ印象があったのでこの点は驚きでした。

もし地上を徘徊する期間があるならば自然界の陸上というのはヘビやタヌキなどを始めとする哺乳動物、論文タイトルのツミを始めとする猛禽類などなど天敵まみれですよね。

加えて近年ではアライグマやノネコの問題など本来は日本の生態系の枠組みにいなかった問題なども出てきています。

高尾山などでもノネコが見られる。影で鳥を捕食している可能性もある

彼らの繁殖期は夏であり、その時期には涼しい高標高地に移動しているようなので平地のようなノネコの問題などは薄いのかもしれませんが、ルリビタキのような性質の鳥がいれば外的な影響というのも考えられそうですね。(主観)

今回は人気の鳥であるルリビタキを紹介してきました。その色合いから注目される鳥ではありますが、なぜ?という部分に注目してみるとより魅力的な鳥であることが分かりますね。

平地での観察は冬の間に限られるので、興味がわいた方はぜひ探してみてください。

参考文献
ル リ ビタ キ の 羽 の 構造 色 の 光学 特 性 解 析
藤井 雅 留太 林 佑樹 植田 毅 森本 元 中村 正行

地上営巣性であるルリビタキ Tarsiger cyanurus の
巣立ち雛へのツミ Accipiter gularis による捕食
森本 元*
サントリーの愛鳥活動 ルリビタキ
東邦大学生物分子科学科 色素

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青っぽいという意味でイソヒヨドリは似た鳥と言えます。こちらも実物はかなり美しい鳥です。本来は海にいる鳥なのですが、近年内陸部に見られるようになりました。その謎を考察していきます。
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オレンジ色のヒタキ、ジョウビタキもとても人気の鳥です。かなり見やすい鳥なので目にしたことのある方も多いはずです。
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ルリビタキと同じく夏に高地、冬に平地へ降りてくるモズという鳥の紹介です。漂鳥仲間ですね。縄張り意識の強い鳥です。