蓼食う虫も好き好き

知っているとちょっとお得で日々の観察が楽しくなる自然の魅力を発信します。画像の無断転載は禁止です。

スイセンの花弁は何枚なのか?花びらとガク、虫へのアピール方法などの多様性を観察

冬の代名詞的な植物、スイセン

白と黄色の清楚な印象を受けるスイセン。花はどこでしょう?

スイセンを始め花びらをブワッと広げる植物は多いです。しかし花に見えるその部分、実はお花ではないなんてこともあるんです。

今回は冬の代表的なお花であるスイセンの花を例に取り、お花の構造の面白さを見ていきたいと思います。

観察しやすいスイセンでじっくり眺めてみてはどうでしょうか?



スイセンとは?

スイセンはヒガンバナの仲間に所属する植物です。

畑などで混成すると間違えて採集してしまうのだろうか?

全草に有毒成分を含んでおり、細長い葉がニラと似ていることから毎年食中毒が発生している植物でもあります。

多年草の球根植物であり、一度植えてしまえば長期間その姿を楽しむことができます。

原産地は地中海沿岸地域であることが指摘されています。

ヒガンバナ科の特徴としては代表種ヒガンバナのように地中に鱗茎と呼ばれるうろこ状の特有の根を持つことです。

大型のラッパズイセンは春に咲く

これは玉ねぎを小型にしたような印象を受ける部位で、事実として玉ねぎやネギの仲間の鱗茎として間違われて食中毒を起こした例があります。

葉が細長いのもこの科の特徴です。花は花びら3枚ガク3枚からなります。

スイセンの花弁は何枚あるのか?

スイセンのお花は何枚に見えるでしょうか?答えはシンプルで6枚あるように見えます。

印象的な話ではなく植物の花弁の構造的なお話なのでやや難しいかもしれません

が、花弁は3枚というのが正解です。

正確には花びら3枚ガクが3枚からなっています。

どうみても花びらが6枚じゃないか!というのが植物の面白い点で、実際のところ分けたところで何か意味があるのかと言われれば機能的にも効果は無いように思われます。

スイセンの花びらに見える部分の付け根を見てみると、ガクの部分がない

これは花の形態にまつわるお話の部分になり、正直めんどくさい部分でもあるのですが、花弁というのはガクより内側の花を形成する器官とされています。

つまり花の構成としてはガクがまずあり、それと違う形のガクのようなものが花びらであるという視点です。

花びらの付け根部分(細いところ)にガクがある例としてサクラ

この視点があるためにお花にはキンポウゲ科に代表されるようなガクだけからなる花という一見矛盾したような形を持つ花が出てきます。

ガクだけの花の例としてキクザキイチゲ。キンポウゲ科の植物

一方で花びらだけを持つ花というのは実はないんですね。

ガクとその内側の花弁 これを覚えておけばOKです。

ではスイセンのお花を見ていきましょう。

花びらとガクがおなじに見える植物は、そのつく位置がズレている

どうでしょうか?スイセンの花は6枚の花弁に見えますが細部を見てみると実はついている位置が違うことに気が付きます。

手前側に3枚、奥側に3枚がそれぞれ1つ飛びの感覚でついていますね。

これこそまさに説明していたガクが先にあり(茎側)その内側に花びらがあるを表している状態です。

しかし次の疑問がわくはずです。でもガクと花びらが同じ色じゃない?と

同花被花というジャンル

植物の多くはガクと花びらの姿は大きく違っています。

異花被花(いかひか)の例。花びらとピンクのガク部分で形が異なっている

分かりやすい例でいえばサクラの仲間はこの例でいうと赤っぽいガクとピンクの花弁ですよね。

ガクの多くは緑色をしている場合が多いのですが、すべての植物に当てはまらないのが多様性の面白い所です。

一方でスイセンのようにガクと花びらが同じに見えるものは同花被花(どうかひか)と呼ばれます。

ヤマユリを始めユリの仲間も花びらとガクが同じ形をしている植物

人気の植物であるアヤメやユリの仲間によく見られますね。ノハナショウブ、カキツバタ、アヤメ、シャガなど初夏を代表するアヤメの仲間やヤマユリなどのユリ科にもみられる花のタイプで、実は日頃目にする機会の多いカテゴリーだったりします。

この同花被花(どうかひか)という植物はガクと花びらが同じ役割をしているとてもユニークな植物なんですね。 

ここまでの説明で花の見え方も少し変わってきたのでは?

全ての花がガクであるキンポウゲ科は植物の文化の中でも進化が遅い種類であると言われています。
逆にガクと花びらがはっきり分かれているものは進化が進んでいるとされます。

植物的に進化しているとはいえ、今後時が進んだとしても決してガクと花びらには分化しないように感じますね。

同花被花は前述の通りアヤメの仲間やユリの仲間によく見られるものなのですが、独自の進化を遂げていると思われます。

テッポウユリと思われる花の付け根にある色の違う模様。紫外線反射で虫によく見えると思われる

多くの仲間の各花びらの付け根にはネクターガイドと呼ばれる特有の模様や、色の変化を示すものがついているのです。

これは人の目には綺麗な模様にしか映りませんが紫外線を捉えることのできる昆虫たちの目からすると全く別の色合いに移っています。

花の基部の色が変わっており、昆虫たちにここに蜜がありますよということを示しているんですね。

スイセンにはネクターガイドのような模様は見られない?

ネクターガイドは同花被花にだけ見られる特徴ではありませんが、代表的な仲間の多くに見られる特徴です。

アヤメ科もユリ科も良い香りを放つ植物であり、昆虫に多方面からアピールしている花です。

花の形について紹介しました。

もしかするとスイセンのガクは白のもので、内側の花弁が黄色の部分なのではないのか?と疑問に思う方もいるかもしれません。とてもいい着眼点です。

スイセンの花びらは想像以上に複雑な造形

この黄色い部位は副花冠(ふくかかん)と呼ばれるもので、花弁の形質が変化してできたものと言われています。つまり花びらより内側にできる花の形質を持った部位ということです。(複雑です)

位置関係でいうとまず外側のガクがありますね。ガクより内側にあるものが花びら。花びらより内側にあるものが副花冠と非常にややこしい状態です。

白いガクと白い花びらが3枚ずつ。それより内側にあるものなので黄色い部分はまた別のパーツ

しかしこの副花冠の機能は明確です。先ほどアヤメやユリにはネクターガイドがあるという話をしましたね。

紫外線が見える昆虫に蜜のありかを教え、花粉の運搬を助けてもらうという役割のあるマークです。

前のものは模様の例でしたが色味によるアピールというものもあるんです。

これはまたチャネルの違う話になりますが光の話になります。

反射率の高い白の電柱に集まるテントウムシ

色によって紫外線反射の程度が実は異なっており、紫外線の反射という点で見ると白、グレー、黄色は良く反射します。

言葉だけでは分かりにくいかと思いますが、これは夏の暑い服涼しい服という視点を想像すると分かりやすいです。

黒や青は紫外線を吸収するために熱くなるのですが、白めの服や黄色の服は紫外線を反射するために体感温度が15度近く違うという話もあります。

色にこうした意味合いがあるという視点は、植物だけを見ていても気が付けない

つまりスイセンは白いガクと花びらを利用して花をアピールし、副花冠の黄色をネクターガイド代わりにして蜜の個所を昆虫に教えているということです。

複雑な話になってしまいましたがスイセンの花からは植物間の多様性や訪花性昆虫へのアピールの手段などの面白さ、そして機能を理解してもらえると他の花の観察の楽しみも大きく増えます。ぜひ注目してみてください。



pljbnature.com
花の形と受粉戦略の視点に関してはハチドリのような蛾の記事がおすすめです。ハチと蛾、それらに受粉を頼る花の形の戦略を紹介します。