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ハチドリのような蛾はオオスカシバだけじゃない?類似の蛾ホシホウジャクの吸蜜とハチ類の花利用の違い

秋に見られるハチドリのような虫

晩夏になると変わった姿の虫を目にする機会が増えます。

外国にいるハチドリという非常に素早く羽ばたく小型の鳥のような印象を受ける昆虫がいるのです。

オオスカシバが有名のスズメガの仲間の中で、この季節目にする機会が多いのはホシホウジャクという種類です。

今回の記事ではこの蛾の飛び方や吸蜜の面白さを同時期に見られるハチ類と比較しながら生物の進化の面白さを見ていきます。

ハチドリ?蛾?

ハチドリは日本にはいない小型の鳥で、毎秒60回近く羽ばたく高速飛翔を行います。

長いくちばしを利用して花の蜜を専門に舐める鳥で、空中を自在に渡り歩くような飛翔で飛びます。

この印象を極小スケールに落とし込んだ印象を与えるのがスズメガの仲間です。

前述の通りハチドリは日本におらず、姿を見る機会がないため、人によってはこの蛾の仲間をハチドリと思っている方もいます。

代表種としてはクチナシを利用するオオスカシバが知られています。


秋ごろに見かける種類としてはホシホウジャクという茶色みの強いスカシバの仲間が現れます。

こちらは食草がヘクソカズラというかなり身近な種類であるため、様々なところで目にすることが可能です。

ホバリングができる特殊な蛾

飛んでいるホシホウジャクは、空中を自在に飛んでいるように見えます。

正確には不明ですが目では捕らえられない程の高速ではばたいでおり、カメラでも1/3000程の高速シャッターを切らないと捕らえられません。

この驚異的な羽ばたきによって、自信が空中に固定されているかのような状況を作り出します。

ホバリングと呼ばれ、オニヤンマなどヤンマ科の昆虫など一部の翅の性能が優れた昆虫のみ行える高等なテクニックです。

ホシホウジャクは蝶や蛾の仲間なので長いストロー状の口を持っています。

ホバリングで花の前に停止して口を差し込み、蜜をいただくという面白い吸蜜方法を取ります。

例えばアゲハチョウを例に取りますが、花に飛来したチョウは花に止まってから口を差し込みます。空中からは吸えません。

蛾は4000種近く日本にはいますが、空中で吸蜜するのはスカシバでしか見られないと思います。

かわいい吸蜜シーン

目視は可能ですが早すぎて難しいです。

紫色の花はシソ科の植物で、ハチや蝶などの口が長い昆虫に花粉の散布を頼る仲間です。

そのため細長い花の付け根に蜜を持ち、口が長い昆虫にしか蜜が飲めないような作りをしています。

花に来たホシホウジャクは見事なホバリングで花の入り口に停止し、その長い口を差し込んで花に止まること無く蜜を食べます。

シソ科の花は虫が止まると垂れ下がり、花びらの上にある花粉をつけるという戦略を取りますが、ホシホウジャクの前では機能していないことが分かります。

ハチドリのような蛾の好きな植物


この蛾の仲間はホバリングをして吸蜜する関係上背丈があって細長い花、もしくはマリーゴールドのように差し込み口が細い花にてよく見られます。

恐らくストロー状の口を持つ虫が利用しやすい植物であれば幅広く利用すると思われますが、私の観察地域ではセージ系(シソ科)やマリーゴールド、コスモスなどのキク科に来ていることが多いです。

他の蝶も来ている花なので、特にコレが好きというわけではないと思われます。

アゲハチョウは食事以外に産卵に来るミカン科で探すという方法が有効ですが、ホシホウジャクの場合ヘクソカズラで見かけたことは有りません。

一方でオオスカシバは幼虫の食草であるクチナシに頻繁にやってきます。この差は不明ですが、同じ科でも種によって傾向は異なるということですね。

ハチ類との吸蜜の違い

メドーセージ(シソ科)を例に取るだけで虫の吸蜜の多様性を見ることができます。

この花によくやってくるのはスカシバガの仲間とクマバチなどのハナバチ類なのですが、スカシバガは前述の通りホバリングをして蜜を採ってしまいます。

この方法では花は花粉も運搬されず、蜜だけ取られる形です。

一方でクマバチ類もなかなかに悪く、花の根元の蜜があるところを横から噛み切るというセコいことをします。

ただ、全ての個体がそうというわけではなく、正面から来てくれる個体もいるため、お花は花粉の運搬ができます。

最初は大型のクマバチだけがそうしたセコいことをするのかと思いきや、小型のハナバチ類も横から噛み切っていました。

花のサイズと蜜の取り方


面白い点はメドーセージはシソ科の中でもかなり大型の花をしています。

この花は横から噛み切られる率が高いです。

一方でチェリーセージという小型のシソ科は噛み切られず、かなり効率的に花粉の散布ができています。

ハナバチ類の口というのは実はとても長く、小型のものであれば口が届くのだと思います。

スカシバの仲間は口が長いのでこうした問題が起こりませんが、花の方は口のサイズを訪花の要因としてうまく呼び込む種類を分別しているようですね。

同じような事例は春の桜における鳥でも見られ、ヒヨドリのような下の長い鳥は桜の蜜をそのまま舐めますが、メジロやスズメなどの鳥は花の根元をかじり取ります。

まとめ


秋頃に目にする小さなハチドリのようなものはスカシバガという蛾の仲間で、ホシホウジャクです。

ホバリングという高等テクニックを使い、細長い花の蜜を食べます。

花も花粉運搬に来て欲しい虫に対する形状をしていますが、スカシバやハチなどの戦略によってはうまくかわされてしまいます。
これは自然界では鳥などにも見られる光景です。

毒などもない安全な虫なので、見かけた際には捕まえようとしてみてください。翻弄するようななめらかな動きに驚かされるはずですよ。

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類似種で代表種のオオスカシバの紹介です。クチナシを利用し、最も馴染み深いスズメガです。

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ホシホウジャクの天敵カマキリと、食物連鎖を通じた寄生に関する話です。とても面白いので暇つぶしに是非

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ホシホウジャクと同時期にも見られる小さなピンク色の蛾です。2019年に発見された外来種で、いまだよくわからない点が多い虫です。お住まいの近くにもいるかもしれません。


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