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芝生に生える白いお花の正体は? シロツメクサとニワゼキショウを紹介。

芝生の緑の中に白いお花を発見。正体は?

春先になれば緑の芝生の中にいくつかのお花を目にすることができます。

芝生を白く染める謎の植物の正体はニワゼキショウ

この植物たち、よく見れば種類が偏っているようです。

今回の記事では身近な芝生環境で目にする白いお花を中心に紹介します。

ニワゼキショウとは?

ニワゼキショウは芝生環境で普通に見られる植物です。

紫のものと白いものがある。割合は白が圧倒的に多い

芝生のお花?と違和感を覚えてしまうほど芝生の中に溶け込んでいます。

ニワゼキショウはアヤメ科の植物であり、身近な例でいえばシャガやアヤメ、ノハナショウブなどが挙げられます。

ニワゼキショウのお花。アヤメ科なのでガク、花びらが同質に見える

花はアヤメ科らしく3枚のガクと3枚の花弁で計6枚からなります。花びら6枚に見えますがここはちょっと複雑なもので、こうした形質のお花を同花被花(どうかひか)と呼びます。

芝生になじんでいる要因としてはニワゼキショウが持つ細長い葉も挙げられます。

葉もイネ科みたいに細長い。知らない人が見たら芝だと勘違いしてしまう

およそ2月頃辺りから寿司やお刺身に入るバラン(緑の草みたいなビニール)のような葉が目立ち始め、それがニワゼキショウの葉です。

細長くやや硬いのですが、植物を知らない人は芝と勘違いしてもおかしくはないですね。

光を求めるニワゼキショウ

ニワゼキショウは芝生環境に現れることから明るい環境を好む植物だと分かります。

ニワゼキショウの出現は光量の強い環境に集中している

このことを裏付けるのはニワゼキショウの発芽特性などを調べた研究です。

これによれば照度15%と4%の差でも半分近く発芽速度が違うことが指摘されています。

種の発芽は芝生内の競争に関わってくる要因です。

芝生のように定期的に刈込が入るような環境であれば、刈込などの人的要因をトリガーとしてニワゼキショウは発芽し、芝生の背丈が高い時の競合を避けているのかもしれません。

定期的な刈り込みが入る環境でもある程度耐えられることから、生き残れる?

また、刈込耐性に関しても研究されています。

これによればニワゼキショウは5月から2週間ごとに刈込をした区画では5回目で芽の成長が確認できなかったと報告されています。

一方で4週、8週、12週ごとの刈込区ではその全てが生存していることが明らかとなっています。

自生種でありながらここまでの刈込に耐えられるというのはなかなかに驚異的な生存力ですね。

夏場の芝生は頻繁に刈込が入ります。

なかなか写真映えする植物。自然下で一面を覆う植物はあまりない

具体的には健康的な芝生管理にはこの時期には週に1度程度の芝刈りが推奨されています。この頻度では数回は耐えられるのでしょうが夏の途中にはきっと姿を消してしまいますね。

確かに春~初夏にかけて芝生でニワゼキショウを見かけても真夏頃になって芝刈りが活発になると見ない気がします。

これについて疑問に思ったので詳しく見てみるとこんな記述が見られました。

「また、観察の結果によると、関東地方の平野部における本種の自生個体の花期は、通常、5月から7月までに限られる」(養父、内田、萩原、石川,1991)
これによれば芝生環境に生えるニワゼキショウは芝生や他植物との競合により花期が通常のものよりも短くなっているとのことです。

夏以降にニワゼキショウを見ないのはそういう理由だったんですね。刈り取りの影響かと思っていましたので驚きです。




シロツメクサとは?

シロツメクサはマメ科に所属する外来種の植物です。クローバーでおなじみですね。

ちょっと不自然なシロツメクサ。本来はもっと過密についている

こちらの植物も芝生にてよく目にします。

マメ科の植物ということで特有の蝶形花(ちょうけいか)を持ちます。

虫媒花であるためにそのお花にはチョウを始め色々な虫が訪れています。


芝生の縁に生えていたシロツメクサ

シロツメクサはお馴染みの植物であるため良く目につきますが、実のところマメ科植物のいくつかの種は芝生によく現れます。

芝生環境というものが人工的につくられた環境であることが多いため、農地などとは異なる土環境である場合も見られます。

土などが持ち込まれた場合、その地下は農地のような黒ぼく土(野菜など育てる土)ではない場合もあると思われます。

そうした土地であってもマメ科植物は根に共生する菌根菌の力によって空気中から窒素を取り込むことができるので、生きていくことができます。

土質の悪いところで群生しているシロツメクサ。マメ科の戦略勝ち

この能力こそマメ科のがやせ地で繁殖できる理由と言えます。

芝生を掘り返すと分かるのですが、芝は匍匐系を出すために土の浅い所に根が密集しています。

これにより他植物が根をさらに増やして栄養を得るのが難しくなると私的には考えています。

芝生環境は入りにくい構造が出来上がっているんでしょうね。

芝生に生える他の植物も紹介

芝生には他にも植物が入ってきます。春~初夏にかけて見かける機会の多い種類を紹介します。

カタバミ

カタバミは芝生の中で黄色い花をしているため目立ちます。

5枚の花びらがある黄色いお花がカタバミ。そのへんで目にするお花

タンポポやクローバーと並んで平地の緑がある環境に普通に表れる植物です。

種子が乾燥により破裂する面白い特徴があり、種にある粘性により様々な環境に入り込むことができます。

都市部のコンクリートの隙間などにも定着できることから競合に強いと考えられ、うまく棲み分けをしていると考えられますね。

昆虫のヤマトシジミの食草であり、街中で白いシジミチョウを目にすることができるのはこの植物のおかげです。

葉にはシュウ酸が含まれており酸っぱいにおいがします。これを利用した草花遊び「10円玉をきれいにしよう」などが楽しめます。

この酸によりシカの進出する地域において食べられていません。

コメツブツメクサ

芝生環境や牧草地などに現れる外来種のマメ科植物です。

似た植物も多く厄介な植物。外来種なものの在来種っぽく見える

花はかなり小さく、緑と黄色の色合いが色相環上近いことから遠目で見ると気が付けません。

3mm程の極小のお花でありながらもその様はマメ科です。2mm程度の黄色いお花を見てみればクローバーと同じ蝶形花であることが分かります。

外来種の植物であることから芝生などの造成環境との相性がよく、おそらく持ち込みの土に侵入しているものだと思われます。

小型のハエの仲間やアブの仲間などがたまに来ているほか、マメ科を利用する小型のコガネムシの仲間なども葉を食べている場合があります。

ネジバナ

5月頃から芝生にタワー状のピンクのお花を見つけた場合にはネジバナの可能性が高いです。

よく観察してみると非常に美しいお花であることがわかる

身近ながらラン科の植物であり、ランのお花の観察に適した種類です。芝などの植物と土中で共生していると考えられており、その出現は芝生環境に集中しています。

最大の特徴はネジバナの由来にもなっているネジレであると思われます。

これには右向きや左向き、その程度の差、そもそもねじれないものもあるなど多様なネジバナの遺伝子を観察することができます。

ラン科のお花はまず花の付け根(柄の部分)が180℃回転するものとしないもので違いがあります。

よく巻いているネジバナの例。巻の程度も様々で面白い

花の中央には目のようなものがあり、蕊柱(ずいちゅう)と呼ばれラン科に特有のものです。おしべとめしべが同じ場所にくっついているというユニークなものでありその下の花弁には蜜のありかを知らせるネクターガイドがあることも多いですね。

芝生で出会えるランの仲間なので盗掘などの心配も薄く、楽しい植物です。

参考文献、引用文献
野生草花ニワゼキショウの種子発芽と生育習性,ならびに刈取り抵抗性に関する研究養父 志乃夫
内田 均
萩原 信弘