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黄色い蝶の正体は?キタキチョウとモンキチョウの見分け方と遺伝的多様性の面白さを考察

おなじみの黄色い蝶は実は2種類

黄色い蝶といえば知名度はモンキチョウが圧倒的に上です。

黄色いチョウでも最も普通で派手な模様がないキタキチョウ。端に黒い模様がある

しかし見かける機会を考えるとキタキチョウという黄色い蝶の方が良く目にします。

黄色い蝶は飛んでいると同じ種類にしか見えませんが、実は雰囲気の似たもので2種類いるのです。

今回の記事では身近な2種の黄色い蝶、キタキチョウとモンキチョウを紹介しその違いや利用する植物などの生態面を掘り下げていきます。

また、似た種なのになぜ違うのか?を遺伝的多様性の視点から考察し黄色い蝶観察が楽しくなるようにしていきたいと思います。

キタキチョウとは?

キタキチョウはシロチョウ科に所属する中型の蝶です。

およそ秋頃に見かける機会が増える

黄色い姿をして様々な環境に幅広い期間出現することから、多くの人にモンキチョウと間違われている蝶です。

以前はキチョウと統一されていたのですが、2010年代に遺伝的に異なる南方系のキチョウが見つかったため、キタキチョウとミナミキチョウに分けられました。

大きさは大人の指でokを作ったくらいのサイズ感です。出現環境は平地の草原~山地まで幅広く、これには利用植物がマメ科である点が関係しています。

マメ科は草地のクローバーや山地のクズなどあらゆるところに生息しているためですね。

秋の草地にて。マメ科と蜜源となるセンダングサがある場所にかなりの数がいた

出現期間は3月~11月下旬までとかなり長く、成虫越冬を行います。

タテハチョウを除き、こうした成虫越冬を行うものは珍しいです。

暖かい日であれば冬でも見かけることがあり、ほぼ通年を通して観察することが可能な蝶です。

総じて出会いやすくて捕まえて綺麗ないい蝶であると言えるでしょう。

モンキチョウとは?

モンキチョウはモンシロチョウの黄色い番という印象が強い蝶です。

モンキチョウは黄色いチョウでも派手派手な印象。こちらも普通種

いうまでもなく黄色い蝶の代表的な存在であり、親子層にもよく知られている人気の蝶です。

名の通り翅に丸いもんがあり、分かりやすい特徴です。

キタキチョウとは姿が似ているように感じますが、あらゆる点が異なっています。色合い的にはヤマキチョウ(珍しい種)などの方が近いように感じます。

縁にピンクの色合いと紋の名の通り白い丸模様がある

というのもモンキチョウはピンク色を混ぜたような特有の色合いをしているんですね。

身近な種でありながらしっかり見るとかなり美しい種類であると言えます。


かつては越年蝶(おつねんちょう)の名がありました。

モンキチョウが利用するマメ科の植物。山地性のジャケツイバラ。

これは成虫越冬をすると思われていた生態に由来しますが、冬に幼虫で過ごしていることが分かったことで今はあまり呼ばれないようです。

幼虫越冬であるためキタキチョウと比べるとやや出現期間の短い蝶です。

利用植物はやはりマメ科であり、草地のクローバーなどを利用しています。草地でよく見かける種類で、マメ科利用なことからキタキチョウと同じ環境に出現します。

似た印象を受けるチョウ。どこが違う?

キタキチョウとモンキチョウは飛翔時には似た印象を受けるチョウです。

個々で見れば黄色いチョウにしか見えなくとも、比較すれば一目瞭然

しかし2種には明確な違いが見られます。まずキタキチョウにおいては派手な模様などがありません。

写真でいうと翅左側縁沿いに見える黒い模様がキタキチョウの特徴

この種においては翅の表側の淵に黒い模様がつく(個体差が激しい)ことと裏側に微妙なもじゃもじゃ模様が散るようについていることくらいしか特徴がありません。

飛んでいるときに黄色だけの主張が強ければキタキチョウであると分かります。

一方でモンキチョウについては模様の主張が強いです。

丸模様。動体視力が良ければ飛んでいても判別可能

翅の表裏ともに共通して丸い紋模様が見られ、上部に黒点、下部にオレンジ色と分かりやすいです。

淵にある黒模様はモザイク状になっており、べたッと塗ったようなキタキチョウとはこちらも異なります。

そしてモンキチョウは鮮度にもよるのですが新しい個体はかなりピンク味が強いです。

翅の表側には黒いモザイク状の模様がある。ベタ塗りのキタキチョウとはここも違う

モンキチョウ自体大人の手でokを作ったくらいのサイズ感の中型蝶なのですが、この体の淵や頭胸腹にピンクの色合いが見られるため、黄色緑ピンクを混ぜ合わせたようなグラデーションがきれいな蝶となっています。

真っ黄色かややグラデーションを感じるかという感覚的な視点でも判別は可能です。

キタキチョウとの見分けではありませんが、モンシロチョウの見分けとも注意が必要です。

これはモンシロチョウ。モンキチョウのメスには白身の強い個体がいる

モンキチョウの♀は黄色をしていないもしくは限りなく薄い黄色の個体がおり、これは♀の姿です。

翅先につくモザイク状の黒模様が分かりやすいのでここを覚えておきましょう。

もし動体視力が優れているなら♂♀ともに飛翔時の翅の開閉を見ることで判別が可能です。

出現環境や時期について

キタキチョウとモンキチョウは似た環境に現れます。前述の通りマメ科植物を利用するためです。

マメ科が草原環境に多い都合上、黄色いチョウも草地に現れる

2種はともにちょっとした草地があれば十分目にすることが可能です。こうした草地にはシロツメクサ(クローバー)、アカツメクサ、ヤハズソウ、ウマゴヤシの仲間などありふれたマメ科植物が多数生息しているため、彼らの餌資源が豊富なのです。

私的な観測地でいえばモンキチョウは草地性が強く、キタキチョウは山地や外来種のマメ科も利用しているためにより生息範囲が強いという印象です。

山地のクズ。葛粉の原料でおなじみのマメ科ツル植物

例えば山地のクズやネムノキ、ジャケツイバラといった普通種~やや珍しい植物であってもキタキチョウは見かけます。

似た姿をしたシジミチョウである平地性のヤマトシジミと山地性のルリシジミのように(2種は食性が違いますが)同じような姿をしていてもわずかに生息圏をずらすことでうまく競合を避けているのではないかと思いますね。

草地のヤマトシジミ。類似のルリシジミとは草地と山地で生息圏が分かれている。モンキとキタキチョウも棲み分けしているのでは?

時期については年中発生こそしますが、発生のピークというものはあるように感じます。

蝶は卵→幼虫→蛹→成虫という段階を踏みますよね。冬を越す生き物には例えば寒さを入れた後に気温が一定数上がるや、寒さを入れた後に積算温度が〇度以上上がる、日照時間が〇時間以上になるなどの越冬から目覚めるトリガーがあります。

それにより発生のタイミングが同じになるのでサイクルもある程度固定化されます。(主観)

そうした理由からか秋が発生のピーク。キタキチョウはあらゆるところで目にすることが可能

私的には幼虫越冬であるモンキチョウは初夏に1度ピークがあり、晩夏にもう一度ピークがあるという印象です。

キタキチョウは成虫越冬のためピークがまばら(気温で動いたり動かなかったり)という印象ですが、10月上旬~11月上旬ごろまでは明確に個体数が多いですね。

11月下旬に岩の上に停止していた個体。寒くて動かないが生きている

それ以外は通年ぼちぼち見かけます。

キタキチョウは外来種も利用しているようでイタチハギという外来マメ科や、アレチケツメイと思われるものにも来ていました。

外来種利用ができる植物は現代の自然界において生存能力が高く変化にも強い印象。

外来種のイタチハギは特に都市部において土木作業による開発の土砂や運搬時の砂などから埋土種子で入ってくるため、道路沿いや荒れ地など様々な場所で目にする植物です。

こうした植物を利用できるかどうかは重要で、利用できない種類は草地性のヒョウモンチョウなどを例に衰退しています。
マメ科利用の黄色い蝶はうまく適応していると言えるでしょう。


キタキチョウとミナミキチョウ、遺伝的多様性の難しさと美しさ

最後にロマンあふれる話をしていきましょう。似た姿をした虫が違う種類であったというのはたまに聞く話です。

キタキチョウの遺伝が注目されたものの、すべての生物に遺伝的多様性はある

これについてやや複雑で難しい遺伝的多様性という話をしていきます。

これはなぜ別地域のホタルを私たちの地域で放してはいけないのか?に通ずる話でもあります。

高尾山麓のゲンジボタル。放されたものでなければ個々固有の遺伝子を持つ

生き物はその地域や特定の環境毎に遺伝子がわずかに異なっています。(遺伝的多様性)ここに別地域の個体を持ち込むと他地域の遺伝子が元の地域に入り、数千年の歴史が作り上げた地域の遺伝子がつぶれてしまいます。

丹沢に元々生息していたギフチョウが減り、多様性の知識がない人間が他地域のギフチョウを放った

例えば神奈川県のギフチョウは純粋な個体ではなく、日本海側の個体の放蝶により本来この地域にはないはずの形態が確認されるなどの問題が起こっています。

これに関してギフチョウが増えるからいい(ミクロな視点(点で見る))という人や遺伝的多様性の面からよくない(マクロな視点(面で見る))というような主張がぶつかり合うのは平行線で話が解決しない事例ですよね。

どんぐりも帽子の形が違うなど多様性が見られて楽しい

昨今話題に挙がったクマ対策に山へドングリを撒くというのもクマのために餌を撒く(ミクロ)とドングリの遺伝的多様性を損なう(マクロ)な主張であると私は考えています。

同様にホタルを撒く、川へ金魚や錦鯉を放つなども当てはまり、ミクロはその事象という「点」で物事を考え、マクロは生態系に考慮したという「面」で考えているのが大きな違いでしょう。

遺伝的多様性は目に見ることができません。

新潟県魚沼市のカブトムシと高尾山のカブトムシ。見た目は同じだが遺伝的には異なる

目に見えないものとなるとそれを認識するためには知識が必要です。

人も姿かたちは同じですが、遺伝子が異なることでわずかながら形態が異なりますよね。

ある地域で1匹の黄色い蝶を見た時と別の地域で同じ姿の黄色い蝶を見た時に、あなたはそれが同種ではあるが遺伝的に異なる種類であると認識できるでしょうか?この点が分かれば他地域の生き物を放つことの危険性が分かるはずです。

あなたはhuman beingの誰かであり、黄色い蝶もまたキタキチョウの誰かであるということです。


この見えない部分の理解がとても難しい要素でかつ面白い部分なんですよね。

キタキチョウとミナミキチョウも見た目はほぼ同じだった

ということは同質の姿をしていながらも実は遺伝子レベルでは別種であったという事例も出てくるわけです。これがキチョウがキタキチョウとミナミキチョウに分かれた理由です。

ミナミキチョウは奄美諸島などに分布している南方系のキチョウで、姿かたちはそっくりです。

先ほど地域や環境に応じて遺伝子が異なる場合があるという話をしました。

サンショウウオでは水系レベルで遺伝子が異なったり、カンアオイという植物では山脈レベルで遺伝子が異なるものがいます。

移動性に乏しく、地域変異が非常に大きいカンアオイの仲間

本州と島国で遺伝子が異なっていてもおかしくはないですよね。まさに遺伝的多様性により見出された違いだと思います。

この視点を把握しておくと生き物の観察がとても楽しくなります。

似た種類は何が違うのか?斑紋の違いや色彩変異の違いが見られないか?もしかしたら未記載種(いわゆる新発見種)なんじゃないか?などとあらゆるロマンを自然から感じられるようになるとともに、ニュースなどで見かける事例に対しても遺伝的多様性の視点から見るとこれはどうだろう?と物事を多角的に見ることができるようになります。

生物多様性が問われ始めたこの世の中でとても重要な視点だと思いますので、ぜひ身近なキタキチョウとモンキチョウからそうした視点を育ててみてください。


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