カメムシは寒くなると消える
今年の秋はカメムシが大量発生しましたね。
身近なカメムシにはスギやヒノキを利用するものがおり、それらの多い日本で見かける機会が多いのは必然と言えます。
しかし10月や11月にあれだけ盛り上がっていたのに対し真冬に入った現在ではどこへ消えてしまったのやら全く姿を見かけなくなりました。
今回は消えたカメムシはどこにいるのか?という点を実際に自然の中で活動しながら見かけた箇所に基づいて紹介します。
カメムシとは?
カメムシは植物の汁を吸う特殊な口器を持ちカメムシ目の仲間に所属する幅広い虫のことを指します。
カメムシ目自体はかなり幅広く、水生昆虫であるタガメや昨今世間を騒がせるトコジラミなどもカメムシ目の昆虫です。
思い浮かべてみればそれらも口器を用いて獲物の体液や血を吸いますね。
今回紹介していくものは皆さま嫌いなカメムシ亜目、カメムシの名を聞いて思い浮かぶ特有の台形のような形と臭気を放つ虫のことを呼びます。
彼らも特有の口器を用いて主に植物の汁や果実を吸います。
しかし中にはサシガメを始めとする肉食性の種類もおり、世界では肉食性や吸血性のカメムシが起こす感染症、シャーガス病が危険なものとして知られています。
ユニークな見た目の種類が多く大変楽しい昆虫のカテゴリーと言えるでしょう。日本では約1000種類ほどがいると言われています。
カメムシの生態や形態的特徴
カメムシは普通に見つかる昆虫ですが、マイナスの印象が強い虫です。
それゆえ彼らの生態を知る方というのは少ないです。
基本的な生態を紹介しておきます。
臭いにおいを放つカメムシ類はその多くがおよそ初夏頃に卵から孵ります。
卵から孵った幼虫は果実や草本などの植物から汁を吸い成長していきます。
およそ真夏に新成虫が出始め秋以降まで発生が続くことから個体数は秋に多く見られます。カメムシの成虫はその後産卵して死亡するものと成虫で越冬するものがいます。
形態的な話も見てみましょう。
幼虫は成虫と比べると変わった姿をしています。
形は異なるものの既にカメムシらしい姿をしており、臭気を発することもできます。
カメムシの成虫は腹側(うつぶせの方)に臭気を放つ器官を持っており、ここから臭気を出します。一方で幼虫は背中側から臭気を出す不思議な生態があります。
成虫にてようやく翅が生える不完全変態の都合なのではないかと思います。
匂いには捕食者に対する忌避効果や、仲間に自身の場所を知らせるフェロモンとしての機能もあり、一方で成分には毒性があるのでカメムシを試験管などで密閉すると自身の毒により死ぬという現象が見られます。
半翅目(はんしもく)の昆虫であり、外観は甲虫のように見えますが翅の上部のみ固く半分は柔らかいという面白い特徴があります。
翅上部が甲虫のように固くなっており、ここにいわゆる薄い翅をしまうのがカメムシの面白い点です。
論文においてはこの性質により水面からの表面張力による翅の展開ができないといった問題を解決していることが指摘されています。
秋に大量発生するカメムシのなぜ?
カメムシの仲間は秋になると途端に姿を見るようになります。
実のところ夏の外灯や樹木のあらゆるところなどなどカメムシ自体は夏にも多数いるのですが、秋になると不思議なことに壁などに密集する機会が多くなります。
カメムシは初夏から発生が始まり断続的に晩夏まで発生を繰り返します。
クサギカメムシに代表されるように発生期の日長が特定の時間より遅くなることで当年の産卵か翌年の産卵かが決まり、すなわちこれは成虫越冬するかどうかにかかわってきます。
ここからは推測ですがクサギのこの分岐が7月下旬頃の日長であることを考えると他のカメムシ類も近い時期を判断しているのではないかと思われます。
これ以降発生するカメムシは成虫越冬する可能性が高いカメムシたちであり、それらの成虫個体数のピークが秋となるので単純に秋に個体密度が高いのではないかと考えます。
壁や外灯周りで見かける機会が増えるのはカメムシに紫外線への嗜好性があるからで、これはカメムシに限らず多くの虫に共通する特徴です。
一方でカメムシは皆さまが嫌いな特有の臭気を持ちますよね。これには外敵への攻撃に加えて仲間への集合フェロモンという特徴もあります。
秋の寒暖差が大きくなる時期に越冬場所として良さそうな壁の端などでフェロモンを出して集団越冬の準備をしているのではないかというのが個人的な推測ですね。
また、前述の紫外線反射という視点で見ていくと壁などは白やグレーなどの太陽光を良く反射する色合いが多いので壁に寄せられているという考え方もできます。
こうした色による紫外線の反射という視点は十分あり得そうな話で秋の終わりに白い電柱に大量のテントウムシが飛来する例や黄色い壁にカメムシの仲間や蛾が来ている例はよく目にします。
夏の紫外線反射を服で見ていくと白やグレー、黄色といった服は反射率が高いことが指摘されていますから太陽光との関係は無いとは言えないのではないでしょうか。思い返せば秋にカメムシを目にするときって昼間の太陽光があるときですよね。
冬になると姿を消すカメムシ
カメムシたちは秋に大発生しているのに冬になると急に姿を消してしまいます。
あんなにいたカメムシたちがどこに消えてしまうのかというのは自然の中の不思議トリックの1つでした。
しかも探してみても全然いませんよね。彼らはどこに消えたのでしょうか?
まず成虫越冬する虫には越冬の傾向があり、冬の間に気温の変化が少なく、雨風に当たりにくい場所に潜む傾向が見られます。
この点秋に目にする壁などの場所は昼間太陽が当たり気温差が激しい、雨風の影響をもろに受けると相性が悪い環境です。
では彼らはどこに移動したのでしょうか?
落ち葉の下
広葉樹林において落ち葉の下というのは安定した越冬環境になります。
ポコポコたくさんは出てきませんが木の幹近くに堆積した落ち葉を掘り返して一枚一枚見ていくと思いのほか生き物が見つかります。もちろんカメムシも越冬している場合があります。
樹皮の下
自然下で越冬するカメムシ類の第一越冬候補なのではないかと推測します。
特にクサギカメムシ、ツヤアオカメムシ(他緑系のカメムシ)エサキモンキツノカメムシが私の地域ではよく発掘されました。
冬季のトゲフタオタマムシというスギの樹皮下で越冬するタマムシ採集の副産物的な成果ですが、主にクサギカメムシを中心に群れで見つかる場合も多く越冬場所としては第一候補のスポットなのではないかと思われます。
落ち葉めくりと比べて明らかに個体を見かける頻度は増えます。
前述のようにカメムシは臭いをフェロモンとして使うのですが、良い場所を見つけた個体が他個体を呼び寄せたのだろうと推測できるような光景を目にすることが多いです。
越冬せず死んでいる
これもかなり多いと感じました。
樹皮をめくって出会うカメムシの体感20パーセント程度は死亡していました。
カメムシだけに限りませんが越冬環境で見かけた虫の何パーセントかは死んでいます。思うにクサギカメムシの例を取ると夏の日長で産卵個体かどうかが分かれるという話をしましたが、産卵個体の中には意外と長生きなものがいるのではないかと思います。
秋以降も生きて越冬しようとするものの活動エネルギーが不足してそのまま永眠してしまうのかなと推測したりします。
越冬自体はタフなものなので、元気な個体でも死んでしまう割合が一定数出てくるとは思います。
今回の記事では秋にあれだけいたカメムシはどこへ行ってしまうのか?というものを実際に越冬場所として見つけたものの中から紹介しました。
こんなところにもいたよという話があればぜひ教えてくださいね。
参考文献
カメムシ学入門
榊 原 充 隆 1
pljbnature.com
緑の代表的なカメムシ、ツヤアオカメムシは光沢が美しいカメムシです。スギなどを利用します。
pljbnature.com
スギ利用の大量発生カメムシで農業害虫としても重要対策種、チャバネアオカメムシです。
pljbnature.com
臭いと言われるクサギカメムシの香りの検証記事です。最も身近なカメムシだと思われるので、生態を把握してみては?