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黒と赤のカメムシ? 桜で目にするヨコヅナサシガメは外来種で人も刺す!

赤黒の派手な色合いをしたカメムシ?

冬にサクラで目にするヨコヅナサシガメの幼虫

晩秋でも目にする昆虫の仲間、カメムシ。その中でも赤と黒というとにかく派手な色をし、かつとんでもない集団で越冬をするカメムシ類がいます。

その名もヨコヅナサシガメ。明らかに強そうな名の通り他のカメムシ類と異なる生態がいくつか見られる昆虫です。

今回の記事では冬~春にかけて安定してみられるヨコヅナサシガメを紹介し、外来種としての側面や生態を紹介していきます。

ヨコヅナサシガメとは?肉食性のカメムシ

ヨコヅナサシガメはこの見慣れたフォルムが示すようにカメムシの仲間です。

撮影が冬なので幼虫しかいませんが成虫は3倍位の大きさ

農業害虫として有名な小型カメムシ類よりも大きく、大人の人差し指の第一関節程度の大きさがあります。

色合いは赤と黒で幼体~成体までこの派手な色合いが見られます。これは外敵に危険を示す警告色であり、スズメバチ類の黄色と黒の色合いのようなものです。

恐ろしいほど巨大で太い針を持つ

つまりこのカメムシは危険です。

植物食(左)と肉食(右)肉食のほうは捕食のためガッチリしている

カメムシの仲間には植物食のものと動物食のものがいます。ざっくりと植物食をカメムシ、肉食をサシガメと呼びます。
(海外には吸血性がおり、これが主に重篤なシャーガス病を媒介する)

ヨコヅナサシガメはサシガメの仲間であり、通常のカメムシよりもはるかに強力な口器を持ちます。

捕食のイメージとしてシオヤアブの狩り。獲物に針状の口を突き刺し溶かす!

イメージとしてはタガメが分かりやすいのですが、この口を相手に突き刺して消化液を流し込み、体液を吸い取ります。

獲物の皮膚を容易に貫通するその口は、人にとってももちろん有効であり、冬の活性が低い時期を除いて人も普通に刺します。

外国へ行く方は地域の虫由来の病気は必ずチェックするべき

外国ではこうしたサシガメ類の被害は有名なものであり、中にはシャーガス病といった重篤なものもありますので覚えておくといいでしょう。

ナンキンムシでおなじみのトコジラミが代表的な吸血性のカメムシの仲間ですね。

生態的にはやはりカメムシの仲間で、成虫越冬を行います。

集団越冬の準備中。まだ活性が高く人に反応して逃げる

幼虫期が非常に長く、12か月の内10~9か月ほどが幼虫です。成虫は春~夏ごろにかけて目にします。ちょうど冬明けで蛾やチョウを始めとする昆虫類が増えてくる時期ですね。

利用樹木は前述の通りサクラ類が圧倒的に多いです。

ソメイヨシノはかなり凸凹が激しい樹木

これは凸凹の激しい樹皮が越冬環境に適しているためではないかと推測しています。

同じく凹凸の激しいクヌギにいた個体

冬にはやはり凹凸の激しいクヌギの樹皮で目にしたこともあり、越冬場所の選択条件の1つに日差しを避けられる凹凸のある場所のような条件があるように感じます。

ツルツルのエノキに何故いるのかは不明

一方で、成虫幼虫共に活動期にはエノキで目にすることもあります。これは桜に隣接している場合が多く、偶発的なものなのかそれともエノキを選択しているのかは分かりません。

姿を見たい場合にはサクラに隣接しているこれらの樹木を見ていくのが確実です。


外来種のカメムシ

ヨコヅナサシガメは名前は知らなくても多くの人が目にしたことのある虫だと思われます。

サクラ類といえばお花見が楽しい植物

理由はシンプルでサクラ類を利用するためです。

お花見で有名なサクラはとても変わった植物で、この時期は植物に興味のない人ですら花を楽しんでいますよね。

そんな幹に集団でおり、しかも黒と赤という印象に残る色をしているのですから見たことがある!と覚えやすいのです。

よく探せばそこら中にいるヨコヅナ

このヨコヅナは窪みへの選択性が高いらしく、サクラの幼木よりも凹凸の激しい成木を好むことが分かっています。

このカメムシは1930年ごろに中国からやってきたものだということも遺伝子解析の結果わかっています。

神奈川東京においては既に普通種として浸透しているものと思われ、もちろん街中でも目にする可能性はありますが、本来は森林性の昆虫であるため、山地の方が個体数は多いです。

越冬性昆虫らしく日当たりのない風を避けられる場所にいる

私の観察地域は山に隣接したサクラなのですが、写真のようにかなりの集団越冬を目にすることができます。

ヨコヅナサシガメは外来種です。

サクラやエノキなどの雑木林の普通環境にはそれこそたくさんの生物が生息しています。

エノキには外来種のアカボシゴマダラもいる。おそらく捕食されている

肉食性のサシガメはそれらを食べてしまうので、外来種による在来種の捕食を引き起こします。

特にエノキにおいてはオオムラサキ幼虫やゴマダラチョウの幼虫が犠牲になることもあり、なかなかに問題だと思います。

希少なオオムラサキ幼虫。ヨコヅナに捕食される

ヨコヅナもカメムシ類なのでにおいを放つのですが、この匂いがかなり特殊でケミカルでよくない感じがします。

これだけ数が多いのも外来種として天敵が少ないからなのかもしれませんね。

外来種の有名な仮説として天敵からの解放仮説がありますが、ヨコヅナのここまでの大量発生も原産地にいるような天敵が日本では少ないからなのかもしれません。捕食されている場面をあまり見かけません。

捕食のため、春~初夏にかけて活発に動き回る

ヨコヅナは飛翔性もかなり強いです。

タマムシ科採集でナラ枯れの立ち枯れ木を観察していると高い頻度でヨコヅナが飛んでいました。拡散性も高いのだと思います。

不快害虫としてのサシガメ

サシガメは不快害虫や衛生害虫として認められています。

ヨコヅナに限らず、サシガメ類全般が不快害虫

通常の草食性カメムシ類もたまに人を刺すことがありますよね。(セミの例など)

私はサシガメを認識しているので刺されたことはありませんが、経験談によればかなり痛いそうです。

たまたま見かけた茶色いサシガメ

特に子供は虫が好きなのでうっかり触って刺されるというケースがあります。

単体でも厄介なのですがヨコヅナの異様性は、その圧倒的な集団性にあります。

運がいいとこれの20倍くらい見つけられる

木の幹を始め、樹名板の裏などにも100匹単位で越冬していることがあり、虫が大丈夫な私から見てもうおっと驚いてしまうこともあります。

虫の集団性のレベルとしては白アリなどに並ぶレベルのぞわぞわ感が味わえます。この点が不快害虫として名を連ねる理由でしょう。

日本ではシャーガス病のような厄介な病気は見つかっていませんが、サシガメ刺咬症という傷口の腫れや斑点の出現などが認められています。

中々に厄介な虫なので、触れないように気をつけましょう。

外来種VS外来種

ヨコヅナサシガメのような外来種は在来生態系に影響を与える可能性があるというのは、既に日本に定着しているアメリカザリガニやウシガエルなどの一部の事例からも分かりますよね。

ヨコヅナサシガメは同じくサクラ類にて発生するヒロヘリアオイラガ防除に利用できる可能性が示唆されています。

サクラ利用の幼虫とサクラ利用の肉食性昆虫ということで珍しくかみ合っており、特に成虫期である6月頃のイラガ成虫が、成虫期のヨコヅナに捕食されることで次世代の抑制につながる可能性があるようです。

外来種にも条件次第ではお互いに干渉しあうわけですね。

まとめ


ヨコヅナサシガメは主にサクラで発生する外来種のカメムシです。

一年のほとんどが幼虫であり、成虫は4~7月ほどの短い季節に目にする大型種です。
肉食性のカメムシであり、人にも危害を加えるため注意が必要です。

参考文献
ヒ ロ ヘ リア オ イ ラ ガ と ヨ コ ヅ ナ サ シ ガ メ の 外来生物 問相互作用
東京都区部におけるヨコヅナサシガメ(カメムシ目サシガメ科)の分布

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