越冬昆虫観察をしてみよう
冬は昆虫観察ができないと思っている方も多いことでしょう。
これは逆で、むしろ冬にしか観察できない昆虫の姿を見る絶好のタイミングです。
人気の昆虫オオムラサキを始めとするゴマダラチョウの仲間は要点さえつかんでおけば雑木林環境で簡単に見つけることができます。
この冬は落ち葉を掘り返して可愛らしい幼虫を発見してみましょう!
3種のゴマダラチョウについて
ゴマダラチョウの仲間にはオオムラサキ、ゴマダラチョウ、アカボシゴマダラの3種が身近なものとして挙げられます。
成虫の姿は大きさ、色合い共にかなり異なるものの幼虫期にはどれも非常に似ています。
このうちオオムラサキとゴマダラチョウは在来種なので見かけたらうれしいものなのですが、アカボシゴマダラに関しては特定外来生物に指定されている外来種の蝶です。
アメリカザリガニやウシガエルほどの侵略性は無いと推測されますが、特定外来生物ゆえに生きたままの運搬や飼育などが禁止されています。
拡散しないように頭の中に入れておきましょう。
オオムラサキとは?
オオムラサキは大人の手のひらほどの大きさを持つ日本の代表的な蝶の1種です。
♂は紫色の美しい姿を、♀は黒っぽくひときわ巨大な姿を見せてくれます。
成虫出現期は6月下旬~8月上旬でクヌギやコナラなどの樹液を吸います。
幼虫の利用樹木はエノキに限られており、春~秋までは樹上で過ごし冬になると幹を伝い地際の落ち葉の裏で越冬します。
つまりオオムラサキの出現は樹液の出る木とエノキの2つの条件が必須で、かつ冬季の強い風をしのげる様な下草が生えている環境が必要です。
幼虫には対になる突起がついており、これにより種の見分けが可能です。オオムラサキは突起が4本あり、それぞれの大きさが均一です。
町中の公園では落ち葉が掃かれてしまったり、樹液の出る薪炭林が減少することやカミキリムシ類の減少がそのままオオムラサキの減少につながっています。
アカボシゴマダラとは?
アカボシゴマダラはオオムラサキと同じ仲間です。
放蝶により意図的に撒かれたものが野生化し定着するとともにエリアを拡大することで現在では関東エリアではどこでも目にする種類となってしまいました。
特定外来生物に指定されており、利用樹木がエノキであることからオオムラサキやゴマダラチョウとの競合が懸念されるとの考えを出している団体も多いです。
成虫は5月~9月頃まで出現し早期のものが春型(白い)それ以外のものは黒字に赤の点を持つ夏型です。
やはり幼虫はエノキの地際で越冬します。都市部での出現はアカボシゴマダラの方が圧倒的に多いです。これは外来種としての侵略性ではなく、都市部環境により適応しているというだけの話であると考えられます。
幼虫の突起は頭側から2個目が大きくなります。それぞれの大きさがバラバラなので知っていればある程度見分けは付きます。個体差により判別が困難な場合があります。
エノキの根元にある葉を探してみよう
エノキの落ち葉を探す場合には霜がしっかりと降りる機会を待ちましょう。
越冬性の昆虫は冬の間に餌資源がありません。なので間違って目を覚ましてしまうことはそのまま死につながります。
そのため葉が落ちて非常に寒い気候となり、確実に地際に降りた後に探すのが見つけるためのコツです。
探し方にはコツがあります。まず可能であれば夏場にオオムラサキの成虫を見つけておくのが望ましいです。
樹液でも飛翔でもその存在を感知できていればどこかのエノキにいることが分かります。
この情報のあるなしでだいぶ成果は変わってきます。
もし夏場に見つけていない場合にはその雑木林の樹種に注目します。
クヌギやコナラがあり、木々から樹液の出たような跡があれば樹液性のゴマダラチョウがいる可能性は高いです。
もし樹種が分からない場合には近年であればナラ枯れを起こすキクイムシの後を探してみるのがおすすめです。
いそうな雑木林だと分かればエノキの落ち葉をめくっていきます。
先ほど述べたように越冬性の虫は目覚めないように気を付けています。
目覚めの要因として大きいものが気温、すなわち太陽の光です。
オオムラサキの幼虫は東西南北のおおよそどこにいるかが明らかになっており、半数以上が北側の寒い場所に潜り込みます。
少なくとも日当たりのいい南側はあまり見なくてもいいので、掘る場所は覚えておきましょう。
一枚一枚丁寧に掘り返していけば主にアカボシゴマダラは発掘できるはずです。
この際注意していただきたいのは葉の裏で越冬するのはゴマダラチョウだけではないという点ですね。
カメムシやクモ、運が悪いと毛虫の仲間などがいることもあります。なので素手ではなく皮手袋などの安全に配慮したものをつけてください。
発見できた時点で越冬性昆虫に共通する特性を理解することができます。気温や乾燥、冷たい空気をしのぐなどはテントウムシやカメムシなどの虫にも共通します。
更に幼虫ならではの特徴などにも注目してみましょう。発見したゴマダラチョウの幼虫は落ち葉にべったりと張り付いています。
自身の糸で体と落ち葉をくっつけているのです。
以下は私的な考察ですが
冬の北風は強く、時に落ち葉が吹き飛ばされます。
軽い落ち葉は平然と飛んでしまいますが幼虫の重さが風に飛ばされる可能性を低くしたり、自身が引っかかることで飛びにくくしているのではないかと考えています。
ゴマダラチョウの幼虫はおおよそ地際から30㎝以内の場所にいます。逆に言えば地際から離れすぎると移動距離が増えるので幼虫の生存率が下がります。
風に吹かれても大丈夫なように張り付くのではエノキのもとから離れた時点で死亡が確定してしまうので生存のための戦略としては弱いというのが私的な視点です。
その点、地際の根との間にできたポケットのような場所に重みのある自信を張り付けて葉が動かないよう努力するという視点は理にかなっているのではないかと思います。
3種のゴマダラチョウと棲み分け、アカボシゴマダラはオオムラサキの競合相手となるのか?
ここまでで探し方を紹介してきました。主にオオムラサキとアカボシゴマダラでしたが、エノキを利用するものとしてはゴマダラチョウというものもいます。
つまりエノキという樹木には3種の似た幼虫がいるのです。
このうち特定外来生物であるアカボシゴマダラはゴマダラチョウやオオムラサキの生息場所を奪っていると指摘されることがあります。図鑑などでもよく目にする記述ですね。
これに関しては実態は分からないというのが正直なところです。
棲み分けに関しては研究がなされており、アカボシゴマダラは中木のエノキ、ゴマダラチョウとオオムラサキは大木のエノキを好むことが明らかとなっています。
面白いのはアカボシゴマダラは中木を好む傾向にあるものの個体群密度が増加すると小木、大木も関係なく利用するようになるという点で、アカボシゴマダラの個体数が増加すると在来のゴマダラチョウやオオムラサキに餌資源上の競合が起こる可能性があるという点ですね。
低密度では3種は棲み分けしており、実際屋外で観察していてもその傾向はあるように感じます。
アカボシゴマダラをよく目にするのはアカボシゴマダラが中木を好むものの小木~大木まで幅広く利用できる生存上有利なものがあったのですね。
同研究では3種の競合が見られたエノキは全体の8~12%程度であったと指摘しています。これを小さいとみるか大きいとみるかは人それぞれでしょう。
町中に生える外来種の雑草のように環境に適応できるものはやはり個体数が増加していきます。
ここからは私的な推測となりますが、オオムラサキやゴマダラチョウの重要な減少要因となるのは鳥やサシガメなどの天敵による捕食と、人による採集圧の方が大きいのではないかと思います。(私の地域の話)
これは特に国蝶であるオオムラサキで顕著なのですが、エノキの地際の落ち葉を持っていく人間というのがいます。
オオムラサキは産卵数がとても多い蝶であり、1本のエノキから300近い個体が取れるなど産卵に好む木がはっきりしている種であるという印象です。
育てた成虫を標本にして数千円で取引されているのをネットオークションで目にしました。
これらの要因から生き物を金もうけに考えている人間にとって都合のいい対象のようです。根こそぎ取られてしまえばその地域のオオムラサキ資源は一気に減少してしまいますよね。
ただでさえ生息環境の条件が複雑な種類です。希少な昆虫の減少は環境条件と金目当ての人間による採集圧である場合は、ゲンゴロウ類やサンショウウオ類などの状況からも明らかです。
こうした背景を押さえているだけでも自然の見方が変わると思います。ぜひ持続可能な生物資源の視点を持っていただきたいですね。
参考文献
外来種アカボシゴマダラと在来種ゴマダラチョウとオオムラサキの越冬幼虫が利用する食餌植物のサイズ比較
松本祐樹 森貴久
pljbnature.com
夏のオオムラサキ成虫は誰もが憧れる一度は見たい虫ですよね。発見の要点を紹介します。
pljbnature.com
国内でも似た蝶というのがいますよね。モンキチョウとキタキチョウの比較から遺伝子の多様性などの視点を紹介します。