外来種のカマキリがいる?
カマキリは我々の身近な昆虫の1種です。
小さい頃に夢中で捕まえて、自慢の鎌で挟まれた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
かっこいい姿から子供たちへの人気も大変高い昆虫ですよね。
しかし今、身近なカマキリにそっくりな外来種のカマキリが在来種となり替わっているのです。
今回の記事ではハラビロカマキリと秘かに入れ替わりつつあるムネアカハラビロカマキリを紹介します。
ムネアカハラビロカマキリとは?
ムネアカハラビロカマキリ(以下ムネアカ)は中国を原産とする外来種のカマキリです。
姿と形は在来のハラビロカマキリに非常にそっくりであり、さほど昆虫に興味のない方には見分けるのは困難と言ってもよいでしょう。
ただし明確な違いが見られる部位があり、それが胸の部分の赤味と口が黒くない点です。
性質も在来のハラビロと似ており、樹上性である点も共通しています。
それゆえ出現環境での見分けは困難で、ハラビロカマキリを見つけたら1匹1匹確認していく地道な作業が必要になります。
体長は比較しないと分かりにくいですが在来のハラビロより大きくと思われます。
外来種であることを除けば中々にかっこいいカマキリだと思います
ハラビロカマキリは?
在来カマキリの代表種です。
やはり樹上性でセミなどの大型昆虫、樹液に来るチョウなどを捕食しています。
ハラビロの名の通り腹部がかなり幅広く重たそうに見えますが、動きに関してはかなり俊敏です。
体色はほとんどが緑色をしていますが中には茶色の個体もおり、体感の割合としては緑:茶=9:1程の感覚です。
私の観察地域ではハリガネムシの寄生率もとても高く、水辺と陸地をつなぐ栄養源としての価値もとても高い昆虫です。
出現時期はおよそ8~11月ほどで晩秋までかなり長く見ることができる昆虫です。
2種の違い
見分けのポイントは口が黒いかどうかと胸に赤みがあるかという点です。
カマキリ類は♀がかなり大きく♂は小さめです。
ムネアカとハラビロはムネアカの方がやや大きいのですが、遠目で正確なサイズを測ることは難しいことから判断は困難です。
一度捕まえて胸部を観察するのが確実な判別方法になります。
判別ポイントが明確なので手元にいれば確実に見分けられます。
比較的新しい外来種
ムネアカはかなり新しく発見された外来種であり、2018年時点で約20都道府県で発見されています。
この侵入には中国から輸入している箒に卵がついていたとされています。
カマキリの卵は乾燥体性もあり、とりつきもかなり丈夫ですからこうした国をまたぐ移動にも強い点には納得がいきますね。
おそらく最初の確認は2000年の八王子市におけるもので、この発見を景気に2010年ごろには様々な場所で発見されるようになっています。
輸入性の昆虫でありながら全国で散発的に発見されるということは、最初の1例をきっかけに外来種として認知されることで目を向けられるようになり、発見される機会が増えたということだと思います。
つまりムネアカは見つけられていなかっただけで全国的に既に定着していた可能性が高いのではないかと思われます。
ムネアカの侵入経路について
前の項でムネアカが散発的に全国で見られたことと箒に卵がついていたという話をしました。
ここではその侵入経路の裏付けとなる根拠を見ていきたいと思います。
ムネアカの侵入については研究がなされており、この研究では実際に中国産箒を輸入している現場での卵の割合とその孵化について調べられています。
同研究にて420本の箒を輸入したところ卵は13個も発見され、割合は3%とサンプル数的には安定した割合とは言えませんがカマキリの卵は多数の幼虫が出てくるため、全国で同程度の割合であるならばその拡散性は恐ろしいものです。
孵化の割合は明記されていませんが1つの卵から200ほどの幼体が生まれたと記されています。
箒の販売現場で卵が付着していたことから侵入経路の1つとして間違いないことが分かりましたね。
神奈川における分布について
神奈川での初発見は2015年の秦野が初です。かなり新しい外来種であることが分かりますね。
2019年までに川崎、相模原、秦野、小田原などから発見されています。今回は新たに県西部でもムネアカを発見したため、かなりの速度で侵入エリアを拡大している可能性が高いです。
昆虫の分布は昨今世間を騒がせたナラ枯れや、それにより大量発生したと思われたアカアシオオアオカミキリのようにじわじわと北上、南下していく場合が多いです。
ムネアカの発見はやはり散発的で箒を輸入する機会が多そうな大都市くらいしか共通事項が見られませんね。
ムネアカの悪い点について
昆虫の外来種の中には在来種に悪影響を与えるものがいます。
ムネアカの在来ハラビロへの影響についても既に研究がされており、侵入から数年程度の僅かな時間でハラビロを駆逐してなり替わってしまうことが指摘されています。
これは我々の身近な植物である在来タンポポが気づかぬうちに姿そっくりの外来タンポポに入れ替わっているのと同じで、近々在来のハラビロカマキリはその姿が知られないまますり替わってしまうかもしれません。
外来昆虫において、競合の可能性があると推測されるケースは多々ある(アカボシゴマダラとオオムラサキなど)のですが、影響が明確に成果として出ているパターンは珍しいです。
成果が分かっている以上、なんとかしてムネアカを食い止めてハラビロカマキリを守っていきたいものですね。
皆様の近くにもハラビロカマキリはいると思いますので、ぜひその個体がムネアカではないか調べてみてください。もしかしたら近くのハラビロは既に外来種へと変わってしまっているかもしれませんよ。
参考文献
ムネアカハラビロカマキリの非意図的導入事例 中国から輸入された竹箒に付着した卵鞘
神奈川県におけるムネアカハラビロカマキリの新産地と分布拡大に関する生態的知見
pljbnature.com
この時期ホットなハリガネムシとカマキリの関係です。水と陸をつなぐハリガネムシの役割を紹介しています。
pljbnature.com
他のカマキリについて。身近には4種ほどのカマキリがいます。