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セイタカアワダチソウとオオブタクサは同じ外来種だけど何が違う?。黄色い花と間違われるブタクサの戦略を紹介

間違われる2種の外来種の違いは?

実はブタクサではなくセイタカアワダチソウという

秋になると花粉症で嫌だ嫌だという方も多いのではないでしょうか?秋の花粉といえばイネ科とブタクサが有名ですよね。

ブタクサのあの黄色い花のせいでくしゃみが止まらない!と黄色い花をにらみつけていても、その花はブタクサではないんです。

今回の記事ではなぜかブタクサと勘違いされているセイタカアワダチソウとブタクサを紹介し、2種の違いやその生存戦略、あまりに強い繁殖戦略を紹介します。

セイタカアワダチソウとは

セイタカアワダチソウは気候が涼しくなる9月下旬ころから目にする機会が増える黄色い泡状の花をつける外来種です。

あらゆる場所で目にする外来種

植物としてはキク科の植物であり、昆虫により花粉を運搬してもらうという点では在来のキク科と共通の性質もあります。

非常に賢い植物で、他の在来種が衰退を始める時期に旺盛に成長し、開けたスペースにとてつもない大群落を作ることで優占します。

その後他の植物の成長を抑制する物質を根から分泌することで周辺の植物の成長を抑え、やがてセイタカアワダチソウの群落に成り代わります。

群落形成するが、一部のイネ科とは相性が悪いらしい

この分泌物質の総称であるアレロパシーが非常に強く、彼らの群落では他の植物が負けていく様子を観察することができます。

種子散布戦略も非常に強力です。セイタカアワダチソウが花をつける時期には特に平地環境において昆虫の蜜源となる植物があまりありません。

そのため蜜利用の昆虫類たちの視線を集中的に集めることができます。虫媒花((ちゅうばいか)虫による受粉)を非常に効率よく行っている様を観察することができます。

細かい花に多数の虫がやってくる

極めつけはタンポポと同様に綿毛のある種子を飛ばすことで新天地に入り込み、同様のサイクルを繰り返します。

特定外来生物にはまだ指定されていませんが、その侵略性能は驚異的です。

こうした点から目にする機会が非常に多く、世の人たちからはこれがブタクサに違いないと勘違いされています。


オオブタクサとは

オオブタクサも同じく要注意外来生物に指定されている外来種の植物です。

3m近い大きさのものもいる正に「大」なブタクサ

実は夏の植物で、8月頃から河川敷環境を中心に目にします。

ブタクサ花粉症を引き起こす張本人ですが、その存在は勘違いによりあまり知られていないように思えます。

オオブタクサもキク科の植物ですが、種子散布戦略は異なります。

風媒花((ふうばいか)風による受粉)であるため、虫などに頼らずとにかく花粉を飛ばすことで受粉することを戦略としています。

見るからに細かそうな雰囲気

風媒花の植物は飛ばす花粉量が虫媒花と比べると段違いに多いので、スギやハンノキ科などを始め多くの花粉症の原因となる散布方法です。

ブタクサの花はセイタカアワダチソウに比べると非常に地味で、緑色をしています。

ある意味キク科らしい密度

このきりたんぽの様なものには隙間が多数あり、ここから花粉が大量に放出されます。

見にくいが重そうな種

オオブタクサは主に河川敷の厄介者であり、街中で見かける機会はやや少ないです。これは結実した種子が重力により散布されるためです。

上流部にあるともう手がつけられない

タンポポのように風には乗れないため、川の水の流れや荒れ地などであれば大雨時の水の動きなどに乗って長距離を移動する戦略を取ります。

オオブタクサもまた非常に厄介な外来種です。

根本的な勘違いによる風評被害

ここではなぜセイタカアワダチソウがブタクサと勘違いされたのかという点を推測していきます。

少なくとも見た目はぜんぜん違う

前述の通りブタクサとセイタカアワダチソウは生活圏が若干異なります。

より詳しく言うとオオブタクサはその種子散布の都合上河川敷や水辺に多く、街中で見られる場合には土木工事などの開発などで外部から土砂が持ち込まれた場合や、牧場隣接地で家畜の飼料として持ち込まれたものに種子が入っていてそれが野生化した場合が多いです。

ここは河川敷に近い場所。ブタクサが多い

オオブタクサは種子の持ち込みが限られるので目にする範囲はやや狭いんですね(大型河川などを除く)

一方でセイタカアワダチソウは風による種子散布のため、いくらでも生活圏を広げることが可能です。

河川敷はもちろん道路沿い、荒れ地、街中のあらゆるところでも生息が可能です。

草地~荒れ地まで種子戦略の通りどこにでもある

ブタクサの花が地味な緑色である一方、セイタカアワダチソウは真っ黄色のお花でしかも他に花の少ない時期に目にします。

しかもセイタカアワダチソウの花はよく知らずに見てみるともこもこしていて、花粉をよく飛ばすイネ科の植物にそっくりな印象を受けるんですよね。

こうした様々な要因が重なることでブタクサはセイタカアワダチソウに勘違いされているのではないかと思います。


驚異的な外来種としての2種

植物の違いを確認した後は外来種的な視点で見ていきましょう。

ススキには負けるセイタカアワダチソウ。自然界の競争

オオブタクサもセイタカアワダチソウもどちらも元々国内には存在していなかった植物です。

なぜそんな植物がここ最近になって急に日本の自然下でブイブイ言わせているのか気になりませんか?

実は同様の現象は外国でも起こっています。

外国で恐れられるクズのお花

例えばクズというマメ科の植物(葛切りの元)やコイは外国の環境で天敵がおらず、勢力を広げています。

外来種に対する有名な仮説として天敵からの解放仮説というものがあります。

原産地では天敵がいることにより勢力が抑えられていたものの、新天地ではそうした抑制勢力がいないためにそのポテンシャルを最大限発揮してしまうという見方です。

アレロパシーで領土拡大中

これにより本来防御的な面に回していた養分をより成長に注ぐことが可能となり、一層繁茂する可能性があります。

同様に在来種の側としても新しく入ってきた新参者に対する防御機構などを設けていないので、対処することができず、甚大な被害をもたらしたりします。(外国のコイや、日本のアメザリ、ウシガエルなど)

日本の在来生態系は長い歴史の中で様々な生き物が絡み合うことで進化してきたものです。

絶妙なバランスの一端が壊れることで、簡単に既存のバランスは壊れてしまいます。
ブタクサは重力落下による種子散布で、定着場所からどんどん勢力を広げます。

セイタカはどこでも群生している

セイタカアワダチソウは侵入した場所からアレロパシーという成長抑制物質を出すことで他の植物の成長を阻害します。

また、ブタクサやセイタカアワダチソウの成長速度というのは在来種との競合においてとても優れています。

3月の植物は小さく柔らかいものばかり

オオブタクサはまだ他植物が芽生えていない3月の上旬ごろに芽生えを行い、いち早くエリアの太陽光を独占します。
成長速度が速いブタクサに在来種が太陽光の取り合いに勝てることはないので、彼らの侵入は在来種の衰退につながります。

セイタカアワダチソウはそもそも侵入エリアの地下茎から抑制物質を出すため、事前に侵入した場所では他植物が育ちにくくなります。

外来植物が優占しているのにはやはりそれなりの理由があるんですね。そして残念ながら駆除することも難しい植物なんです。

駆除の難しさ

ブタクサ花粉症対策にオオブタクサを駆除すればいい!侵入されて厄介ならば入る前に防除を!と唱えるのは簡単なのですが、非常に難しいです。

駆除経験があるが、正直終わりのない戦い

まずブタクサ類の駆除は現実的ではないのでは?というのが個人的な視点です。

前述の通りブタクサは重力散布です。例えば河川敷中流域帯のオオブタクサを除去したとしてもこのエリアへの種の供給はさらに上のエリアにある可能性が高いわけです。

河川敷上流部のセイタカアワダチソウ。もはや標高は関係ない

もしかしたらそれぞれの支流の上流部にもブタクサがあるかもしれません。

それを除去せずに中流域のオオブタクサを除去してもケガの根本を直さずに傷口に絆創膏を張っているようなものでキリがありません。

刈り取られたあと、非常に素早く芽を出すことで優先することも

また、植物駆除には刈り取りでしょう!という視点もあるかもしれませんが、地下茎を持つ植物においてはそれがマイナスに働くケースもあります。

地上部を刈り続けることで地下茎に栄養がたまっていき、翌年以降さらに旺盛になってくるという場合があります。

侵略的外来生物の駆除はとにかく年月がかかり大変なんですね。

外来種がもたらす恩恵はあるのか?

河川敷のオオブタクサ。人よりもでかい

花粉症、生物多様性の減少、景観の悪化、植生の単一化、本来いない病原菌や生体の持ち込みなどなど様々な悪影響が目につく外来種ですが、いい面はあるのでしょうか?

これに関しては評価することが難しいと言えます。

例えばセイタカアワダチソウは秋の蜜源植物となっており、多くの花の蜜を食べる広食性昆虫が良く訪れます。

秋の貴重な蜜源と見なすこともできますし、優占することから本来そこに生えていたはずの在来種がいた分を奪っているとの考え方もできます。

他にも広食性の昆虫はこうした外来種を食べるケースもありますが、特定種のみを食べる専門食の昆虫は外来種に侵入されて餌となる特定の植物がなくなれば生存することができなくなってしまいます。

自然界は複雑ですよね。

セイタカの生える場所には他にもキク科がある事が多い

外来種と在来種が同じ科であるというパターンもあります。

こうした場合には既に事例があり、外来のランを育てていた場所にラン加害のゾウムシが発生すると、外来ランの付近にある在来種のランも食害される可能性が高くなるというものです。

外来在来問わず食べるような広食性の虫の場合には被害が増加してしまう可能性があります。

また、外来種食いの昆虫が逆に在来種に影響を及ぼすケースもあります。

中流域のオオブタクサ

オオブタクサにつくブタクサハムシは1960年代に日本に侵入してきた外来の昆虫ですが、ブタクサがキク科の仲間であることからヒマワリなどを始めとする数種類のキク科への加害が認められています。

外来植物がそれに伴う虫の侵入につながり、在来種も食べられるというケースです。

実はセイタカアワダチソウにも同様の例がおり、セイタカアワダチソウアブラムシというものです。

こちらもセイタカアワダチソウにつくのですが、専門なわけではなく、近隣のキク科植物からも汁を吸います。

このアブラムシも日本では天敵が少ないので捕食される機会が少ない厄介な持ち込み事例と言えます。

多様性を考えさせられる群生

なかなか外来種のメリット的な視点を探していくのは難しいのですが、ニセアカシアの蜂蜜や蜜源としての餌資源として奪われた在来種の代わりになっているのは良い点かと思いますね。

ただこうした蜜源の虫は、いろいろなところで見られるものになりがちで単一化してしまいがちなのが残念な点ではあります。

まとめ

セイタカアワダチソウとオオブタクサは、一方が派手な見た目をしていることから勘違いされやすい植物です。

黄色いお花は花粉症のもとではないので気をつけましょう。

ただしいずれも要注意外来植物に指定されている強力な植物で、それぞれ異なる繁殖戦略を持ちます。

外来種がこれだけ繁茂している理由もなんとなく理解していただけたのではないでしょうか。

オオブタクサはそろそろおしまいですがセイタカアワダチソウはまだまだ見ることができます。

近づいてもくしゃみは出ませんので、ぜひ日本に侵入した彼らの驚異的な生存戦略や蜜源としての側面を観察してみてください。

参考文献 植食性昆虫を介した外来植物と在来植物の相互作用(坂田ゆず)