春におなじみの植物、タンポポ。しかし何かおかしい?
春の風物詩であるたんぽぽ。しかしよく観察してみると身近な場所で目にするものは外来種である場合がかなり多いのです。
在来たんぽぽは駆逐されてしまったのか?通常の有性生殖とは異なる在来と外来種の面白い繁殖方法の違いなどを紹介していきます。
春のたんぽぽについて見方がガラリと変わるはずですよ。
タンポポとは?
タンポポはキク科の植物で、日本人にとっては桜と並ぶ身近な植物です。
タンポポというものは黄色い花を咲かせるタンポポの仲間の総称のことであり、カントウタンポポやシロバナタンポポなど細かく分けていくと在来種だけで22種類、または日本のたんぽぽをまとめたハンドブックでは約30種あると言われています。
本記事の重要な視点として有性生殖を行うもの(2倍体という)とクローンで増えるもの(3倍体などが多い)がおり、2倍体が13%、3倍体などが87%とクローン増殖の種が多いのが特徴です。
我々の身近なカントウタンポポは花期が3~5月であり、それ以外の季節にお花を見ることができません。
花は虫媒花で昆虫に受粉を頼っています。タンポポは舌の様な姿をした舌状花(ぜつじょうか)がいくつも重なって1つの花を形成しています。
タンポポの綿毛は球形に無数できると思いますが、その種1つ1つが花だったものです。
よく知られるように種子は風に乗って長距離を移動する風散布です。これにより移動できない植物の弱点を克服しています。
訪花性昆虫が数多く訪れ、重要な餌資源となっています。
セイヨウタンポポとは?外来タンポポはなぜ強いのか
セイヨウタンポポは環境省に要注意外来生物に指定された外国由来の植物です。
形態的には花の付け根の部分(総苞)の部分が反り返っているという特徴が指摘されている場合が多く、この点は花をひっくり返してみると簡単にわかります。
同じキク科で姿形も似ていながら繁殖戦略で在来種よりも強い特性が見られます。
まず在来タンポポの花期が3~5月ほどの春の時期であるにもかかわらず外来種は1年中花をつけることができます。
種子は風散布のタンポポの綿毛であるため、花期が長く花を咲かせられる機会が多い分、草地などの空地への侵入に大きく有利であると考えられます。
また、在来種が有性生殖をおこなうのに対して外来種はクローンで増殖できるというのも非常に強いです。
クローンは害虫や病気によりやられやすくなるというデメリットもありますが、草地の様なエリアの取り合いが行われる環境においてはいかに占有するかが重要であるので、空間を取れる機会が多いというのはそれだけで強いです。
外来タンポポを研究したものによれば、カンサイタンポポとセイヨウタンポポにおける形態的な特徴の違いとして例えば開花時間がカンサイで10~11時がピークであるのに対し、セイヨウは一日中ピークがあります。
カンサイは夏季に休眠するのに対し、セイヨウには休眠特性がありません。
発芽後に開花するまでカンサイは2~3年ほどかかるのに対し、セイヨウは5~10か月ほどで花が咲いてしまいます。
そして外来種らしくセイヨウはかく乱の大きい場所に出現する傾向が見られています。
分かりやすく在来種と異なる点をピックアップしましたが、これらの性質によりセイヨウタンポポは在来のタンポポよりも勢力を広げやすく同種間の競争に強い可能性が見えてきますね。
では外来種に関するトピックに移りましょう。
外来種のタンポポは在来種と入れ替わっている?
外来タンポポとの見分けポイントとして花の付け根が反り返るかどうかという点をお伝えしましたね。
では身近なタンポポの裏側を確認したことがあるでしょうか?おそらく多くの方はNOだと思います。
タンポポは我々の日常圏でも馴染みのものですが、その裏側を見てみれば反り返ったものばかりであることが分かります。
この視点から在来種が外来種に乗っ取られてしまった!雑種が生まれてしまっている!といった理由から外来種問題の題材となりやすいのがタンポポを取り巻くお話です。
外来種のタンポポの出現により在来種は気が付かないうちに入れ替わってしまったのでしょうか?
タンポポの例はこれに当てはまらない可能性がありますが、一般的に外来種は在来種の駆逐性が高いです。
分かりやすいのはアメリカザリガニやウシガエルなどの環境省に特定外来生物に指定されている生き物たちです。
旺盛な食欲と水草などの破壊により、前者はゲンゴロウなどの水生昆虫や抽水植物などに大きな影響を与えています。
植物の場合そうした特定種の減少よりもエリアに陣取ってしまうケースが多く、似た種であれば変化に気が付けません。
タンポポの雑種については後述しますが、タンポポの在来と外来の出現には外来種の影響よりも生える環境の方が重要であると言われています。
具体的にはカントウタンポポなどの在来のものは畑地環境を中心にやや酸性の土壌、湿度の高い環境を好むと、外来種はコンクリートや荒れ地環境でアルカリ性や乾燥地を好むことが外来性タンポポ種群(Taraxacum officinale agg.)
-学名から考える侵入・定着・交雑-
にて説明されています。
しかし在来タンポポと外来タンポポの外見は同じに見えますが、その生殖様式は違うことが指摘されています。
在来タンポポの身近な種類は2倍体と言って染色体が2組あります。(在来でも2倍体でないものもある)一方でセイヨウタンポポは3倍体(それ以外にも4倍体などもある)あると言われています。
3倍体の場合奇数で染色体が余るので種子を作る際に余分な染色体の残りができてしまうので、有性生殖ができません。
なのでセイヨウタンポポはクローンをつくるという行動をします。
しかしながらこの2倍体と3倍体の間で交雑したと思われる事例(花の裏が反り返るなど)が見られており、これにより在来種のタンポポに外来種の遺伝子が混じり始めているという見方が出ています。
外来種のタンポポは厄介なのか?
これは外来種に限らず在来種でも起こることなのですが、地域にいた個体群に外部から別の全く関係のない遺伝子が入り込むことで地域特有の遺伝子が壊されてしまいます。
確かに外来種が悪影響を与えるケースは多いですが、タンポポについては一概にそうとは言えない視点があります。
このテーマではタンポポの遺伝子がむしろ在来種から外来種(クローン増殖する種類)へ流れているという視点を紹介します。
タンポポの場合在来種の2倍体(有性生殖)の個体は形成される花粉が均一で花粉自体も多いことが分かっていますが、3倍体のものは花粉がスカスカで花粉自体が形成されないこともあると研究では指摘されています。
タンポポの仲間においてはクローン増殖の方が圧倒的に多く、タンポポの仲間の87%がクローン増殖です。(同研究より)
つまり元々の性質としてタンポポはクローンベースで増えていく種類なんですね。
しかし不思議なのは生殖形式が違うにもかかわらず、2倍体と3倍体間で交雑が見られているという点です。
交雑を想定すると考えられるのは、外来タンポポの花粉が在来タンポポのめしべに付着することで在来の遺伝子をかく乱して雑種が生まれるというのがまず浮かぶかと思います。
これに関して面白い記述が見られました。
タンポポの場合には2倍体(カントウタンポポなど)に3倍体(セイヨウタンポポ)の花粉を付けると、自己受粉による2倍体の生成と、3倍体個体との間による僅かな3倍体、4倍体種子が形成されることが指摘されています。
自家不和合成(じかふわごうせい)といいますが、植物は自分の花粉で受粉しないような工夫をしています。しかし3倍体の花粉がつくことでこの性質が弱まることが確認されたそうです。
2倍体タンポポに3倍体の花粉を付けた結果は一般的には受粉しないと思われがちですが、3倍体の花粉もほんのわずかながら受粉させることができ、僅かながら3倍体親の影響もうけて3倍体や4倍体の種子が作られます。
その種子を育てることで2倍体と3倍体親それぞれの形質を持ったタンポポができたのだそうです。
生まれた種のほとんどが自家受粉由来の2倍体であることを考えると、結果的に在来タンポポの遺伝子はほとんどかく乱されていないんですね。(2倍体の種子が87%生まれていた)
染色体の倍数については市販の種なしスイカなどの改良品種が有名です。種なしスイカの作り方について尋ねていた一般社団法人日本植物生理学会「スイカの3倍体」の記事では4倍体の遺伝子を持つスイカと2倍体の遺伝子を持つスイカを交配することで3倍の種なしスイカが得られると記述されていました。
3倍体のスイカには花粉を生み出す能力もないので、受粉には普通のスイカの花粉を使う必要が述べられています。
果実を作るためには3倍体の方が2倍体の花粉を必要としているんですね。
これらの2例をまとめたことが研究の中で引用されて述べられています。
「日本列島に定着したセイヨウタンポポ(3 倍体)と土着の 2 倍体タンポポ属植物の混生
集団においても,前者が後者から遺伝子を取り込むのではないか.森田(1997)」
タンポポの雑種というのはむしろ外来種のタンポポが在来種の遺伝子を取り込んでいるのではないか?という視点です。
3倍体、4倍体などの有性生殖能力を持たないセイヨウタンポポは、在来種とは交雑しても受粉能力が無いので在来種への影響は少ないと考えられます。
受粉の種子の中にはわずかながらに3倍体や4倍体といった2倍体以外のタンポポの種子が作られています。(作られる割合は12%程度と指摘されている)
つまり直接的な受粉ではなく、自家受粉の副産物として雑種が生まれているということでしょうね。
3倍体の例として今回の記事ではセイヨウを例にしましたが、日本にも多くの2倍体以外のタンポポがいます。(87%がそう)
つまり日本の自然下には在来種間の2倍体(13%)と複数倍体(87%)における雑種がおり、それに加えてセイヨウ(複数倍体)との雑種も見られるので、少なくとも屋外で見ている限りでは在来と外来のどちらの雑種なのかは分からないようです。セイヨウとの雑種だと思われていたものの多くが実は在来との雑種であった事例が報告されています。
タンポポの仲間はこの有性とクローン、そしてその2種間の受粉により有性→クローン側に遺伝子が流れていくことで僅かながら倍体の異なる雑種が生まれて多様な種類が生まれていたんですね。
外来2倍体タンポポの出現
難しい前トピックを読んだ方ならこのタイトルだけで不味さが伝わるはずです。
欧州では2倍体のセイヨウタンポポが見つかっており、東京で2006年ごろにすでに確認されています。
2倍体のセイヨウタンポポは在来の13%と同じく有性生殖をおこなうことができます。
そのため、今回の記事中で紹介した2倍体→3倍体への遺伝子の移行(在来種に影響が少ない)という視点は通じず、在来タンポポの遺伝子へと影響を与える可能性が高いと考えられます。
タンポポの2倍体と3倍体のように倍数が違っても形質的な違いは外見では分かりません。
論文の中で語られていたタンポポ類の調査によれば
「西日本で行われた最新のタンポポ調査の結果を参照すると,頭花の形態からセイヨウタ
ンポポとして同定された個体のうち,約 60%は雑種である(タンポポ調査・西日本 2015
2016).一方で,東北地方以北や中部地方の標高の高い地域においては,多くのセイヨウタ
ンポポが生育している(山野ら 2002).土着の 2 倍体タンポポ属植物が分布しないために,
雑種形成が成立しないことや,セイヨウタンポポの原産地である欧州の気象条件との類似
性により,生育が容易である可能性が考えられる.地域性はあるものの,多くの場合,セイ
ヨウタンポポは雑種の遺伝子型に,日本列島への侵入・定着の痕跡を残しているのである.」(芝池博幸.2016.)
外来種セイヨウタンポポの倍体数の違い、在来種タンポポの倍体数の違いと地域性が交わり、タンポポ類の雑種というのは親を特定するのが困難なほどに複雑に分かれているんですね。
野外では雑種のタンポポが数多く見られます。セイヨウタンポポらしい形質のものもいます。
しかしそれらが在来との交雑なのか外来との交雑化を見極めるのは遺伝子レベルで見ても難しいようです。その複雑さが多様なタンポポの仲間を生み出しています。
今回の記事では同質に見える生き物の遺伝子レベルでの違いを紹介してきました。カブトムシやクワガタを別地域で放してはいけない。別地域のホタルを我々の地域で放してはいけない。こうした話に関連してくるものの事例としてタンポポはいい勉強材料となります。
とにかく用語が難しいですが、しっかり理解しておきたい視点ですね。
参考文献
一般社団法人植物生理学会 スイカの3倍体
外来性タンポポ種群(Taraxacum officinale agg.)
-学名から考える侵入・定着・交雑-
芝池博幸
引用文献
外来性タンポポ種群(Taraxacum officinale agg.)
-学名から考える侵入・定着・交雑-
芝池博幸.70P