秋や春に茶色のトノサマバッタを発見
トノサマバッタそっくりな姿をした茶色の大きなバッタがいます。
バッタにしては遅い10月下旬以降も目にする大型種で、なぜこんな時期にいるんだ?と思ってしまう昆虫です。
このバッタはトノサマではなくツチイナゴと呼ばれるバッタで、身近なバッタと異なる性質を持つ面白いバッタです。
今回の記事では身近で目にする晩秋のバッタ、ツチイナゴを紹介していきます。
ツチイナゴとは?
ツチイナゴは体調5cm程のトノサマバッタ状の姿をした大型のバッタ類です。
その見た目は知らない人が見ればトノサマバッタのイメージにそっくりですが、細部は大きく異なります。
分かりやすいのは頭部の見た目で、ツチイナゴには複眼より下の部分に涙が垂れたような模様があるのが特徴的で、これにより簡単に種類を特定することが可能です。
イナゴと付くことから佃煮でおなじみのイナゴ類と同種なのでは?と思う方も多いと思います。姿はトノサマバッタに近いですが、バッタの仲間としてはイナゴの仲間です。(イナゴ科)
出現期間はバッタ類としてかなり特殊で、卵はおよそ6月頃に孵ります。他のバッタが成体になる真夏~9月頃までは幼体が多く、それらの虫が減ってくる秋以降に成体になります。
越冬性のバッタ
ツチイナゴはバッタの中ではかなり珍しい越冬性のバッタです。
自然観察が好きな方は春にススキなどの植物群落から大きな虫の鳴き声がするのを聞いたことがあると思います。
春に虫の鳴き声がするのに違和感を覚えませんか? これは越冬性のクビキリギスやツチイナゴなどのバッタ類が厳しい冬を超えて再び活動を始めた合図なんです。
越冬は自然界では厳しいものにはなりますが、多種のバッタとのエサ資源の競争においては優位なものになります。
春に生体となっているバッタは少ないですから、芽生えの植物を独占することができますよね。
ツチイナゴは主にマメ科の植物で目にしますが、ススキ原や植木のマリーゴールドなどでも目にすることがあり、広食性だと思われます。
広食性であればあるほど生存には有利ですね。
越冬性であれば他のバッタが減ってきた秋以降の植物も利用できます。
その後枯れ草が多くなる冬の環境で密かに過ごすため、ツチイナゴは茶色のものしかいません。
食性がトノサマと異なる
ツチイナゴは夏から秋にかけてトノサマバッタやクルマバッタなどの大型のバッタ類と出現が重なっている時期があります。
同じイナゴ科は水田環境におなじみの昆虫であり、水分の多い環境を好みます。
一方でトノサマ類とは出現環境も被っており、主にイネ科の草原環境ではトノサマ類のほうが優勢です。
これはエサ資源の競合では不利です。
ツチイナゴはススキでも目にしますが、それ以外の草地でも目にします。
つる性植物が多いような、藪的な環境で目にします。
どうやらマメ科植物が好きなようで、よく観察すると出現の割合が高いところはクズ、ヤブマメといったツル性のマメ科植物が多い草地である場合が多いです。
我が家の鉢植えを例に取るとツツジを育てているのですが、鉢のリビングマルチとしてシロツメクサをたくさん植えています。
やや高い階層のベランダなのですが、今年ははるばるとツチイナゴが来てくれました。ここではシロツメクサを食べています。
イネ科食草を主体としているならばわざわざこんな所に来る必要はないのと、ツルでなくともマメ科類を幅広くエサにしている可能性があります。
また、環境は変わりますが花壇のマリーゴールドを食べている場面にもよく遭遇します。
イネ、マメ、キク科の植物は最も普通な植物群であり、あらゆるところで目にすることができます。
越冬性で食資源に乏しい時期でも、これらの広食性を利用すれば食べ物には困らないと言えるでしょう。
トノサマバッタとの違い
ツチイナゴの存在を知らない人はこのバッタをトノサマバッタだと思っているようです。
トノサマバッタやクルマバッタにも茶色の個体はいます。バッタ類として見るなら細部の違いを知る意味は薄いですが、せっかくの多様性ですから違う点を抑えておきましょう。
前述の通り頭部に注目するのが分かりやすくておすすめです。
ツチイナゴの目の下にある涙状の模様は特有のもので、トノサマ類にはありません。
色合いも特徴的です。トノサマ類には緑と茶色のものがいますが、ツチイナゴの成体には茶色のものしかいません。
幼体は緑色をしているのですが、この時期はむしろ目の涙模様が目立つため、とても簡単に見分けられます。
成体で緑ならツチイナゴではありません。
茶色の場合には背中に白い線が入っているのが分かりやすいですね。
出現環境での比較は正直難しいです。
芝生的な環境でツチイナゴは目にしませんが、背丈の大きいススキなどが混じってくるとツチイナゴも混じってきます。
トノサマ類はイネの仲間、ツチイナゴはマメの仲間を好んで食べる傾向がある程度に捉えておくと良いでしょう。
ツチイナゴを捕まえたい
トノサマ型のバッタ類は多くの子供達に愛されるバッタたちです。
バッタ類の多くは9月10月頃がピークで、それ以降はあまり目にしません。
ツチイナゴは日差しさえあれば11月以降でも目にすることが可能です。
暖かい日差しのある日には捕まえに行ってみましょう。
とはいえいきなり秋に草地に行っても成果を挙げにくいというのが悩みの種です。
おすすめなのは他のバッタ類が多い夏の時期に、大型種のショウリョウやトノサマを探しつつツチイナゴの幼体を探しておくという方法です。
前述の通りツチイナゴとトノサマ類は一部生活圏が被っているので、条件が良ければいると思います。
こうして夏に目をつけておければ初冬の時期までバッタ採集が楽しめますよ。
ぜひ試して見てください。
探す場所がわからない場合はイネ(ススキやオヒシバ)にマメ(クズ、ヤブマメ)が絡む環境、すなわちやや荒れた草地やフェンスなどから見つけるものがある場所の近くを探してみるのがおすすめです。
平地の普通種なので、一度見つけられれば数を見つけられると思います。
まとめ
ツチイナゴはマメ科類を食べるトノサマバッタのような姿をしたイナゴの仲間です。
成虫越冬をし、広食性の性質を利用して他のバッタ類とは異なる生存戦略を取っています。
類似の大型種との見分けは簡単で、目元の涙模様に注目しましょう。
探す場合は夏に幼体を探し、秋に再度訪れるのがおすすめです。
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