枯れ葉が信じられないことに飛んでいる?
秋に落ち葉の上を歩いているとびっくり!枯葉が飛んでいる場面に遭遇することがあります。

ホラー映画のポルターガイスト?と思っているとそれは羽ばたいているではありませんか。
擬態の名人クロコノマチョウです。
今回の記事では身近な虫の中でも特に擬態上手な蝶を紹介します。
クロコノマチョウとは?
クロコノマチョウはタテハチョウの仲間に所属する大型の蝶です。

タテハチョウの仲間にはアサギマダラやオオムラサキなどの大型種がいますが、クロコノマチョウは彼らと異なり越冬を行う蝶です。
大きさはアカタテハなどの中型種より一回り以上大きく、手の甲ぐらいの大きさがあります。
飛ぶのは非常にゆったりとしており、長期間飛ぶというよりは止まって飛んでを繰り返すイメージです。

成虫越冬の性質から秋~初冬にかけて見かける機会が増えます。落ち葉が体積していれば条件は満たしているようで、明るい所~暗い所まで幅広く目にします。

多くのタテハチョウ科が止まるときに翅を開いてくれるのに対し、クロコノマチョウはほとんど翅を広げません。
後ほど詳しく述べますが、枯葉に擬態する戦略を持つためではないかと思います。
幼虫はイネ科のジュズダマを利用しているとされます。ジュズダマは見かける機会の減った植物で、私的には水辺環境に近い場所で生えている植物です。
ハトムギの原種で、実は馴染みのある植物だったりします。
擬態の名人

クロコノマチョウは数ある擬態昆虫の中でもトップクラスの擬態を見せてくれる昆虫で、同じ枯葉擬態の昆虫と比較してもその溶け込み具合は見事であると言わざるを得ません。
大型種でありながら地面に降りていれば御覧のとおり、どこにいるか分かりませんよね。
写真だとエリアが狭いのでばれちゃうかもしれませんが、広大な落ち葉の中では分かりません。
一方で見事な擬態をしているのに対し、非常に敏感な一面を持ちます。

クロコノマチョウに近づいてみるとかなり警戒心が高く、大抵の場合飛んで逃げられてしまいます。
飛ばなければ見事な擬態なのですが、よく飛んでしまうためとても目につきます。

同じように枯れ枝に擬態するトゲナナフシは落ち葉の中で全く動かないのでその場にいると本当にわからないのですが、デメリットとして人に踏みつぶされやすいというものがあります。

捕食対象のメインとして鳥を考えるならば、鳥の眼は落ち葉の上でごまかし、それ以外の捕食者(哺乳類など)からは飛んで逃げるというのはある意味理にかなっているのかもしれません。
唯一の天敵は人間ですかね。
昆虫の擬態戦略について
なぜ擬態をするかと言われればそれは天敵の眼を欺くためと言えるでしょう。


食物連鎖で成り立つ自然界では生き物たちはどうしたらより生存できたのかという方面に進化していきます。
クロコノマチョウは越冬性の蝶であるため、秋から翌年までの期間が生存における要因だったのだと思います。
例えば春~夏ごろまではチョウ類を始め非常に多くの昆虫類が出現するため、クロコノマチョウという蝶自体が襲われる確率は薄くなります。

しかし秋~冬の期間にこれだけ巨大な蝶や蛾は数えられるくらいしかいません。
なので冬季生存に有利な姿へと変化していったのではないかと思います。長年の歴史が自然のものにそっくりな姿へと変化していくのはとても面白いですよね。
生物の進化として有名なのはダーウィンの進化論です。
それに習えば数千年前にはきっと今よりももっと鮮やかなクロコノマチョウもいたはずです。

それらは生存に有利でない結果淘汰され、生き残れたのは偶然的に枯葉に近い姿のものだったのでしょう。
その系統が代を重ねることで見事な落ち葉の姿へと進化したのですね。
南方系だったクロコノマチョウと分布拡大の要因
クロコノマチョウは近年では神奈川の上部でも普通に目にすることができるチョウとなりました。

しかし元々は南方系の種類でクマゼミなどと同じく神奈川には生息していなかった蝶です。
ジュズダマは幅広い環境にある植物ではありませんが珍しい植物でもありません。
餌資源があることで生息域を広げることは可能です。

これは街路樹のカシを利用するムラサキシジミやムラサキツバメ、パンジーを利用するツマグロヒョウモンなどと同じことです。
南方系の種類ということで本来はシイ類が生えているような薄暗い林床にいたのではないかと思います。

生き物の分布拡大には地球温暖化が影響していると捉えられることが多いのですが、クロコノマチョウのようにもともと越冬する生態を持つ者は遅かれ早かれ分布域を広げていたのではないかと思いますね。
例えば先ほど挙げたツマグロヒョウモンは越冬ができないため、その分布は関東以西に抑えられています。温暖化で気温が上がればこの領域が拡大していきますね。

一方で越冬できるクロコノマチョウは自身の越冬できる強度の氷点下までであれば温暖化関係なく移動してきたのではないかと思います。
そんな仮説を立てたのですが、調査してみると東北には偶発的程度の分布しか無いようです。もしかして越冬は暖地に限られるのでしょうか?
生き物の分布は難しいですね~。

言われてみると春に見かける機会というのは越冬性のアカタテハなどと比べると圧倒的に少ない気がします。
関東あたりが北限で、ウラナミシジミと同様にこの地で死滅している可能性もありますね。
まとめ
クロコノマチョウは大型のタテハチョウの仲間です。
およそ秋ごろから目にする機会が増え、枯れ葉そっくりの姿に擬態しています。
元々は南方系の蝶で生息域を拡大している蝶です。同様な生態を持つツマグロヒョウモンと比べ食草がややニッチなものであることから探さないと出会えない虫ではあります。
とても面白い昆虫なのでぜひ探してみてくださいね。
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街でも目にするオレンジの蝶、ツマグロヒョウモンもクロコノマチョウと同様に南方系で分布を拡大しています。
しかし食草の影響でより広い範囲で観察することができるようです。
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越冬性の蝶としてヒメアカタテハの紹介です。秋によく目にするチョウは越冬性のものが多いですよ。
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タテハチョウの代表種アサギマダラの紹介です。秋にも観察のチャンスがあります。