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オレンジ色の大きなアゲハチョウ? パンジーの害虫ツマグロヒョウモンとタテハチョウの仲間。

オレンジ色のアゲハチョウがいたら


町中にも関わらずオレンジ色の大きなチョウを目にすることがあります。

柑橘利用のアゲハチョウの仲間かな?と思いきや、ヒョウ柄が美しいタテハチョウという仲間のチョウです。

今回の記事では町中のパンジーを起点に北上し続けるツマグロヒョウモンという面白い蝶の生態と、類似種を紹介していきます。




ツマグロヒョウモンは毒蝶擬態のチョウ

ツマグロヒョウモンは主に5月頃から11月頃にかけて幅広い場所で観察できるチョウです。

♀は翅先が黒い。

♂と♀で姿が大きく異なる特徴を持ち、♀は沖縄に生息するカバマダラという毒蝶に擬態をしています。

本州エリアで例えるなら毒持ちのジャコウアゲハに擬態しているアゲハモドキと同じ生存戦略を取っています。

(左:毒持ちのジャコウアゲハ、右:アゲハモドキ)

しかしカバマダラは本州にはいません。

ではなぜ彼らは本来のエリアを超えて移動するようになったのでしょうか?

その前に一つ。

もし黄色い蝶を見かけたけれど、このツマグロヒョウモンではないという場合には恐らくキタテハだと思われます。似ているのでお気をつけください。

(別種です)

生態について

南方系

毒蝶のカバマダラに擬態するツマグロヒョウモンですが、近年では擬態先のチョウがいない場所でも姿が見られます。

これには地球温暖化が関わっているという指摘もあります。しかし生き物の拡大要因は温度だけではありません。

蝶類の生息には食草という制限があります。そのため、気温が上がっただけでは生息エリアが拡大することはありません。

ツマグロヒョウモンはスミレ類を食草としていますが、ツマグロヒョウモンの拡大が話題となった1990年代の同時期に、園芸ブームによって各地でパンジー(スミレ科)が植えられ、それがツマグロヒョウモンの拡大に貢献したことが指摘されています。

また、冬季の気温上昇も要因とされています。

(ムラサキツバメがいないので代用ムラサキシジミです)

似たような形で温度と食草の拡大が分布の拡大に関連していると見られる事例は多いです。
ムラサキツバメ(街路樹にカシ類の増加)

ナガサキアゲハ(庭木にミカン科の増加)

クマゼミ(気温と幅広い食性)
等が挙げられます。

近年ではナラ枯れを引き起こすカシノナガキクイムシなども南方系で、太いブナ科を引き金として拡大している例ですよね。

南方系の種の拡大は拡大の要素を見ていくとなかなか面白いのです。

 

毒蝶擬態の戦略

ツマグロヒョウモンの♀を見たことがあるでしょうか?つま先が黒いのですが、模様としては♀だけが黒いのです。

彼女らは毒蝶に擬態しているため、飛翔時にその特徴をまじまじと見せつけます。

あまり羽ばたかずにトンボのように滑空するような形で飛翔する場面に度々遭遇します。

本場のカバマダラがいる沖縄では有効なのでしょうが、それ以外のエリアではどんな効果があるのかは不明です。

ジャコウアゲハの擬態と違い、効果が恐らくない擬態だと思うんですよね。

食草はスミレ類


ツマグロヒョウモンの拡大要因で述べたように庭に植えられたパンジーなどのスミレ類をエサとして分布を拡大しています。

蝶の出現は多くが食草と関連しています。

平地の町中でも姿を見られるチョウということは、食草も町中にあるということです。

アゲハチョウならミカンの仲間を食べますし、ヤマトシジミはコンクリートの隙間に生えるカタバミを利用しています。

お庭のパンジーにトゲトゲした幼虫がいたら、それはツマグロヒョウモンの幼虫です。
(画像はヒオドシチョウという似た種です)

よく見られる環境


もしツマグロヒョウモンの捕獲に興味がある場合には花壇のある公園を訪れてみるのがおすすめです。

パンジーは花期も長く、よく植えられている植物です。

発生環境さえあれば秋のコスモス類やマリーゴールド、ブッドレアなどをよく訪れます。

11月頃まで長い期間見られる

自然下では他の訪花性昆虫と同じくキク科のお花に来ているのをよく目にします。






ヒョウモンチョウの仲間たち

生態的特徴

ツマグロヒョウモンと同じくヒョウモンと名のつく種類には複数の種類が見られます。

いずれもパンジーは利用せず、自生のスミレ類を利用するため、開発に伴い個体数がどんどん減少しています。

似た植物を食し、利用する環境も似ていることから姿もそっくりです。しかし、細部が異なるのが多様性の面白いところです。

ヒョウモンの仲間はどれも5月頃に年1度だけ発生します。

暑さの厳しくなる真夏には夏眠(かみん)といって休眠を取り、9月頃から再び出現します。これが真夏にオレンジ色の蝶を見かけない理由です。

いずれも白い花をよく好み、春はウツギで見かけます。

種の見分けには翅の裏側を見ることが有効で、表側ではなかなか難しいです。

種類

ミドリヒョウモン


平地で見かける機会は相当減った種類です。絶滅危惧種ではありませんが、それに相当する価値はありそうです。

翅の裏側が緑色をしている大きな特徴があります。

また、♂の表翅には4本ほどの特有の黒い線が入り(性標)分かりやすいです。

メスグロヒョウモン

同じく平地性のヒョウモンの仲間です。

♀は真っ黒な姿をしており、かなり特徴的です。ミドリヒョウモンと同様に絶滅危惧ではないのですが、平地で見られることはなかなかありません。♂には残念ながら出会えていません。

ウラギンヒョウモン


山地のヒョウモンチョウです。神奈川県では絶滅危惧2B類におり、ヒラタクワガタと同ランクです。

スミレ類の多い草地環境に依存しているため、いるところでは見られますが、平地などではほとんど見られないのではないでしょうか?

蝶類は環境の指標として優れており、こうした珍しい蝶の割合でその環境の自然度が分かります。

新潟に行ったときは神奈川で希少なウラギンヒョウモンが普通にその辺にいたので驚いたものです。
翅の裏側は緑っぽく、大きな丸模様が点在しているため分かりやすい種類です。

クモガタヒョウモン

ヒョウモンの仲間の中では最も珍しく、山地性です。

生息は局地的なようで、県西部では時たま見られる場所がありますが、それ以外の場所では見たことも生息している雰囲気もありません。

絶滅危惧種1B類に属し、分かりやすい例でいうとオオクワガタレベルです。

オオクワガタよりは全然見られる気がします。

翅の裏側に雲のような模様が入っているのが特徴で、白っぽく見えます。

出会えることはほぼないチョウですね。

私が遭遇できている似たチョウはこの4種です。

ひとえにヒョウモンチョウと言っても平地や山地でうまく棲み分けをしているんですね。

蝶類は開発の影響を受けやすく、タテハチョウの仲間の未来はなかなか暗いものです。

その中でツマグロヒョウモンはパンジーを食すことで生息域を広げたある意味珍しいチョウということです。

都市部に適応したオオタカのようにうまく人間生活に溶け込んでいるようです。

まとめ


ツマグロヒョウモンはパンジーを利用することで生息域を広げたチョウです。

類似のチョウが衰退しているにも関わらず食草という差別化をうまく図り都市環境に適応しています。

姿は毒蝶に擬態していますが、元の毒蝶はおらず、多分意味はないです。
蝶の出現は食草と必ず繋がりが見られるので、蝶を見かけたらそこの自然に目を向けてどんなつながりがあるのか想像してみましょう。

参考文献 ツマグロヒョウモンの北上に関する生気候学的研究(望月宏美、山口隆子)

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