非常に珍しい変わった色のスズメバチ
スズメバチなんて危険だから絶滅してしまえばいい。
自然に馴染みのない方にはそういう思考の方もいるかもしれません。
しかし、本当に絶滅しそうな種類がいるということはあまり知られていないのではないでしょうか?
今回は絶滅危惧種で他のハチの巣を奪い取るユニークな生態を持つチャイロスズメバチを紹介します。
スズメバチなのに絶滅危惧種?
スズメバチといえば初夏の5月頃から遅ければ11月下旬の初冬まで見ることができる昆虫です。昆虫採集ついでに怖い思いをした人も多いことでしょう。(ヒメスズメバチ)
樹液の普通種スズメバチ
フィールドに出てしまえば樹液、花、そこら辺の草地などなどで普通に目にすることができますよね。日頃目にするスズメバチの姿はどんな色でしょうか?
おそらくほぼ全ての人が黄色と答えると思います。そうです。
日本の雑木林や花壇などで見られるスズメバチは黄色なのです。
今回紹介するスズメバチがこちらのチャイロスズメバチというハチです。
このスズメバチ、例えば神奈川県では絶滅危惧2B類に登録されているためとても希少なハチなんです。
分かりやすく言えばヒラタクワガタと同ランクです。
偶然出会うことはなかなか難しく、チャイロスズメバチを探していかないと出会うことはできません。
チャイロスズメバチの面白い生態
スズメバチらしくない色合い
チャイロスズメバチはその存在を知っていれば遠目からでも視認できます。茶色い種類は唯一で、特に腹の部分の黒さに関しては類似の種類がいません。
カカオ含有率の高いチョコレートのような色合いをしており、一種の樹皮への擬態なのではないかと思われます。
事実として樹液が出たグジュグジュの樹皮の雰囲気に似ており、時たま気が付かないことがあります。
ダーウィンの進化論的に言えばこの色合いは生存に有利な何かしらがあって発色しているわけですから、天敵への擬態説はあるんじゃないかと思います。
寄生性
チャイロスズメバチを知っている人はテレビや図鑑などで特集された際に知ったのではないかと思います。
このスズメバチは自分で巣は作らず、モンスズメバチなどの小さいスズメバチの巣を乗っ取ることで巣を利用します。とてもユニークですよね。
両種とも閉鎖、開放環境両方に巣を作ります。
とはいえ野外でチャイロスズメバチに乗っ取られた巣を見ることというのはほとんど不可能です。
スズメバチの巣事態見つけるのが難しいうえに、並行してチャイロがいるような環境を見つけるのも難しいからです。
このスズメバチに出会えたこと自体がもはや幸運なのです。
寄生生活をする虫は変化に弱い?
寄生性の昆虫というのは非常にシビアな多様性の中に存在しています。
寄生の例で例えるならば同じく神奈川レッドデータリストに登録されている蝶が分かりやすいでしょう。
県絶滅種のゴマシジミはワレモコウという植物を利用し、かつ幼虫がシワクシケアリというアリの巣の中で育つ寄生性のチョウです。
もはやこの条件だけで厳しそうだというのが伝わりますよね。
ワレモコウのある草原環境とアリのいる両方の環境の維持は開発の多い現代ではとてもシビアゆえに絶滅しました。
寄生性の昆虫は要因が崩れるだけで簡単に姿を消すので、個体群の維持がとても難しいのです。
チャイロスズメバチでいうならばスズメバチ類の生息できる環境と餌資源となる樹液環境の維持でしょうか。
樹液に依存するカブクワなどの甲虫類やオオムラサキなどのチョウ類の減少はさんざん言われています。
開発による里山環境などの減少と雑木林の乾燥化、樹液流出に貢献するシロスジカミキリやボクトウガなどの衰退、などなど要因は複雑で遅効性で効いてきます。
餌資源の減少はスズメバチ層の衰退にもつながりますし、開発により営巣地も減りつつありますよね。
こういった背景が寄生性のチャイロスズメバチの減少につながっているのではないかと思われます。
とはいえ神奈川では最近増加傾向にあるようで、特に今年は多く見ました。
チャイロスズメバチがいると樹液の前で腕を組んでうんうんとうなずきたくなりますね。嬉しい多様性です。
仲良し
このチャイロスズメバチですが、樹液に来ている個体たちが非常に仲良しです。(主観)
スズメバチは社会性の昆虫ということで、樹液にしろ巣作りにしろ頻繁に業務連絡を取り合っています。(触覚を合わせるとか)
チャイロスズメバチは私の見かける所では単独でいることがあまりなく、複数匹で樹液を占領しています。
他のスズメバチに比べ占有時間が長く、朝から午後の終わりまでずっと占有しています。
他の虫が来ても数の暴力で追い払っています。
これがとても仲良しに見えます。可愛いです。
発見環境と考察
県内では僅か2か所でしか見つけられていません。
1か所は意外にも相模原市街中の緑が残っている場所でした。
こんなところにチャイロいるの!?と思わずにはいられない場所でしたが、モンやキイロが営巣でき、樹液の出ている環境であればナラ枯れが多発している神奈川で条件を満たすのは難しくなさそうです。
もう1か所は宮ヶ瀬のエリアです。
ここに関しては植生は単調ですが広い山が連なっているのでいてもおかしくないです。今年は数が多く見られ、ハッピーでした。
この2か所は私がフィールドとして活用していることもあり、自然と触れることが多いエリアです。そのため目にしているのだと思います。
あとは高尾山でも今年は見かけましたね。
寄生性の昆虫とはいえ比較的条件は緩い種類ではあるので、チャイロスズメバチを認識した状態でフィールドに出れば予想以上に見つかるのかもしれませんね。
この記事をご覧の方で、身近に生息していたら教えていただけると幸いです。
pljbnature.com
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