神奈川における幻のカミキリ
環境の変化で昆虫たちはあっという間に姿を消します。一度途絶えた虫はなかなか復活せず、消えた虫が戻ったという話もあまり聞きませんよね。
しかしながら朗報です。
神奈川上部エリアにてアカアシオオアオカミキリを発見しました。
神奈川における絶滅危惧種事情
アカアシオオアオカミキリは里山管理で現れる台場クヌギという大径木のクヌギに現れるカミキリでしたが、それら環境の減少により神奈川において数十年レベルで記録の無かったカミキリムシです。
これまでの神奈川におけるレッドデータのランク(2006年版)は1B類ということで、オオクワガタとかクモガタヒョウモンなどに匹敵するランク付けです。
お隣の東京でも元々は少ないカミキリだったはずですが、近年大発生しているという話があり、東京に隣接する神奈川上部に来るのも時間の問題では?と睨んでいました。
現在神奈川の発見地区ではまだ数も少なく、クヌギの大径木も少ないことから見られる木は限られていました。
しかし決して少なくない数を見ることができ、思わぬ出会いに胸が踊りました。(いると思わず見つけたときに思考停止しました)
かつての珍品アカアシオオアオカミキリ?
アカアシオオアオカミキリは夜行性のカミキリです。
樹液性の昆虫であるため、遭遇するには夜にクヌギの大径木から発生した樹液を探す必要があります。
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樹液の探し方はこちらの記事が分かりやすいと思います。
神奈川上部では彼らの好む太い木は少ないかと思いますが、ようやく訪れたアカアシオオアオカミキリ観察の機会です。
非常に美しいカミキリです。
まるで昔からこの地にいたような樹液の当たり前の顔ぶれとして馴染めているように感じます。
ギラツキの強い緑の金属光沢、スラっと伸びている赤い足、トラカミキリのように非常に素早く動き回る姿。特筆すべきはやはりその金属光沢でしょうか?
いやぁ~見惚れてしまいますね。
アオカミキリの仲間らしく特有の柑橘系の香り成分を分泌します。
苦味のある柑橘のような感じでクセになる香りです。
現在東京からどの程度まで神奈川に南下しているのかは不明ですが、恐らく一時的な大発生になるのではないかと思います。
今のうちに貴重なサンプルを採集しておかねばなりませんね。
大発生は ナラ枯れが原因ではないか説
東京神奈川では2021年頃よりナラ枯れが深刻化しました。
アカアシオオアオカミキリはクヌギの樹液に集まり、幼虫もクヌギの生木を食べて成長します。
ナラ枯れによって成虫の餌資源である大径木の樹液が供給され、幼虫の成長環境も用意されました。
それにより都内の生息域において数が爆発的に増えたのではないでしょうか?
本来ならばその狭い範囲で完結していたでしょう。
しかしナラ枯れは関東規模で広がっており、成虫が飛翔して移動しても彼らの生活できる環境が準備されているため、ここまでの大発生をもたらしたのではないかと推測しています。
そしてご存知の通りナラ枯れにより大径木のブナ科樹木はどんどん枯れています。
今回発見できたのは多数の樹液が出る木があるエリアにも関わらず大径木のクヌギわずか1本だけでした。
今でこそ大量発生していても、彼らの好む大径木のクヌギが大量に枯れてしまえばかつてのように成虫の餌資源がない環境に戻ってしまいます。
そうなれば急激に個体数を減らし、かつてのように見られなくなったなんてことになってしまいます。
貴重なアカアシオオアオカミキリを観察しておこう
神奈川においておおよそ30年ぶり?程度に発見されたアカアシオオアオカミキリ。
非常に美しく良い虫であることからぜひ多くの方に見ていただきたいと思います。
そして数が多く見られるなら標本として記録しておくのもいいと思います。
一時的な発生であっても未来においてこの場所にアカアシオオアオカミキリがいたという情報が残るのは大変うれしいことです。
願わくば絶えることなく見られるよう個体群が維持できるといいですね。
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アカアシではないアオカミキリはこちら。害虫扱いされることもありますが、大変美しい良いカミキリです。
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カミキリ寄生のウマノオバチはカミキリという虫が他の生き物とどう繋がっているのかを観察するのに適切です。
薪炭林の衰退などアカアシオオアオカミキリと関連も深いテーマです。