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ゴホンダイコクコガネは絶滅危惧種で珍しい? 採集するなら生態を理解して外灯採集がおすすめ

珍しい糞虫ゴホンダイコクコガネ

外国産のカブトムシを小型化したような非常にかっこいい糞虫(ふんちゅう)がいます。

ゴホンダイコクコガネという名前なのですが、あまり知られていない虫です。

県によっては絶滅危惧種にも指定されており、糞虫という変わったカテゴリーの虫であることから遭遇難易度は高い部類に入る虫です。

今回はその面白い生態と採集する場合のポイントについて紹介していきます。

ゴホンダイコクコガネの特徴と珍しさ

五本という名の通り、角が五本あります。

トリケラトプスのような反り返った面の4本と、カブトムシの角のような立派な一本を持ちます。

姿は外国産のコーカサスオオカブトを思わせるような立派な姿ですが、惜しむべきはそのサイズ感です。

ゴホンダイコクコガネは成虫で1㎝程度の非常に小さな虫なのです。

ウンチを利用するという性質から発見は非常に困難で、牧場環境や野生動物などの多い山でないと遭遇することはできません。


カブトムシやクワガタと同じく♂には角があり、♀にはありません。♀は不思議な見た目をしていますよね。

糞虫の♀はウンチに産卵するわけですが、その際にこのシャベルのような形をした頭が役に立ちます。

何千年もの月日がこの生き物の生存に有利なように形を変えてきたと考えると、知られていないのがあまりにも惜しい特徴ですよね。

絶滅危惧について

レッドデータブックによれば福岡、香川、長野で絶滅危惧種として登録されています。

長野はちょっと意外ですね。それ以外では要注意レベルの県がいくつかということで、これは神奈川でいえばオオムラサキやミヤマクワガタに該当します。

神奈川のミヤマなんて捕まえたことのない方が大多数ですよね。

そこそこ珍しい虫といえるかもしれません。

とはいえレッドデータ登録の有無にかかわらず、遭遇するのは難しい種類の昆虫です。

発生時期について

ふん虫は比較的出現期間が長いです。

ゴホンダイコクコガネは早ければ5月頃に見たことがあります。遅い時期では9月に見つけたことがあります。写真は8月下旬です。

いずれにしても糞虫の定点観察をしている人というのは相当なマニアで、情報が少ない種類です。

もし探してみたい方はウンチではなく外灯採集をしてみるのがおすすめです。

糞虫と生物多様性(うんち注意)

ここであまり聞きなれない糞虫という虫と自然のつながりを見てみましょう。

糞虫とは文字通りウンチを利用する生き物のことです。

(テンのうんち)
動物の排泄物は汚い印象が強いですが、生き物が食べたものはそのすべてが消化されるわけではありません。

分解された残渣は栄養をとりやすい形で排泄されるため、エネルギー摂取という面から見れば決して悪い選択肢ではありません。

(多分イノシシのうんち)
通常ウンチは腸などの嫌気性環境を経て出てくるため、腐敗に近い成分を含みます。(スカトールなど)

一方で土壌改良に使われる発酵した牛糞堆肥などはウンチであるにもかかわらずにおいはきつくありませんよね。

腐敗と発酵は似た過程であるものの、環境の差で変わります。酸素の無い場所では腐敗が起こり、酸素があれば発酵が起こります。

糞虫は腐敗環境のウンチを利用します。

例えば同じ糞虫であるオオセンチコガネはよくシカ糞やテンのウンチを持ち運んで土中へと持っていきます。有機物の分解は土と接する面積が多いほど有利です。

土壌の表層においてあるウンチと、土中で周囲が土に囲まれているウンチでは、土中の菌糸や微生物などが利用できる面積が違います。

土中は土の表面と比べれば酸素は薄いですが、砂利や有機物の結合などで細かな穴が開いており、酸素がある環境です。

そのため、発酵が起こり、多くの生き物がウンチの栄養を分解しその過程で熱を発すると、70度近い温度になりウンチや土中で発生する有害な病原菌などが死滅します。もちろん抗生物質の出現など複合的な要素の結果ではあります。

私の好きな書籍によれば、発酵堆肥に豚コレラや口蹄疫の組織検体を入れた所、その全てが死滅したと記されています。

多様な生物が存在する土中ネットワークだからこそできることだと思います。

糞虫はウンチを栄養として自然に返すというプロセスにおいて大きく貢献している訳です。

発生のピークについて

副産物的に得られた情報なのですが、私は夜の高尾山に頻繁に通っていました。

およそ7月頭~8月下旬まで計11回足を運び、外灯採集をしてきたのですが、8月下旬になって急にゴホンダイコクコガネが外灯に来るようになったのです。

8月下旬以前は全くいなかったことから彼らの発生ピークは8月中旬~9月上旬ごろになるのではないかと推測しています。

昆虫には光に集まる正の走行性と光から逃げる負の走行性があります。

地中に潜る糞中は負の走行性を持つと思われがちですが、このゴホンダイコクコガネは正の走行性を持つようで、ピークの時期を把握したうえで、餌資源であるウンチを出す野生動物がいる山の外灯を訪れることで比較的簡単に遭遇することができます。

まとめ


絶滅危惧種で珍しいと思われていますが、もしかすると実態があまり把握されておらず(糞虫がマイナーカテゴリー)調査の手が入っていない種類なのではないかと思いますね。

こうした虫はいる所にはいていないところには全くいないものです。そのため認知度も低いのが現状です。

確かにミヤマクワガタやヨコヤマヒゲナガカミキリを求めて夜の高尾に登る人はいても、ゴホンダイコクコガネを探しに来ましたという人には出会いませんでしたね。

実物はとてもかっこいい虫なので、興味のある人はぜひ探してみてください。ウンチと自然をつなぐ重要な虫ですよ。

参考文献 生きている土壌(エアハルト・ヘニッヒ)

pljbnature.com

フン虫の代表格、ピンクに輝くオオセンチコガネの紹介です。牛肉生産に貢献するフン虫の話なども面白いですよ。

pljbnature.com
土に興味がある方はダンゴムシの土への貢献に関する記事がおすすめです。