蓼食う虫も好き好き

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ピンク色のコガネムシ。その正体はオオセンチコガネという糞虫

珍しそうなピンクのコガネムシ

美しい金属光沢が魅力の甲虫

都市部にはいませんがキャンプや自然豊かな場所に行くとピンクの光沢を放つコガネムシに遭遇することがあります。

特に秋ごろに見かける機会が増える虫で、日頃目にしない人は貴重な虫だと勘違いするはずです。

本日の記事では山野や牧場などで見られる綺麗なコガネムシを紹介し、生態系における役割や面白い生態などを紹介します。

オオセンチコガネとは

落ち葉の中にいると意外とわからない

オオセンチコガネは1㎝ちょっとの大きさをしており、関東では主にピンク~緑色の光沢をもつ甲虫の仲間です。

コガネムシの仲間ではありますが草食性の彼らとは異なり、動物のフンを食べるというとてもユニークな生態を持ちます。

彼らの役割は生態系における分解者です。

土中にフンを運ぶ珍しいシーン

特にメスは動物のウンチを地中に運んで産卵するという性質があり、有機物の分解に大きく貢献していることが推測できます。

オオセンチコガネは他の糞虫類と同じくとても長い期間見ることが可能で、5月頃~11月頃まで観察が可能です。

シカフンで見つかることが多い

食物が動物に依存するため、牧場などの糞が多量にある環境や野生動物がよく見られる自然豊かな場所で観察することが可能です。

色合いの面白さ

ピンクにやや緑が交じる個体

私は関東圏なので色の紹介は限られるのですが、オオセンチコガネは地域により色が異なるという面白い特徴があります。

関東周辺ではピンク色の光沢を放っており、これがベースの色になります。

滋賀などの一部地域では緑色や金緑色の個体がいたり、紀伊半島(奈良)では青い光沢を放つ個体がいたりと同じ虫でありながら地域性に富み、マニアも多いいい虫です。

別個体。頭部は黒ずんでいる

神奈川では主にシカ密度の高い西部丹沢エリアで普通に見られ、この地域ではピンク味の強いもの~やや緑が混じったようなものが見られます。

同じピンクのオオセンチコガネでも頭部は色が薄かったり淵だけ色が違ったり、そもそもピンクの強度が違ったりとかなり観察していて面白い虫です。

実は鳴く虫

意外なことにオオセンチコガネは鳴きます。

掴むとキーキー鳴く

ただしスズムシのような交尾相手を求めるためではなく、掴んできた捕食者などに対して発する威嚇音です。

これは知っていればカミキリムシのキーキー音と同じものであることが分かります。

天敵避けに効果があるメタリックな色?

派手な色合いを持つオオセンチコガネですが、金属光沢を放つ虫は自然界では多数見られます。

翅の複雑な構造が光を反射する

玉虫色が代表的だと思いますが、これらの光沢は畑につるしてあるCDのように光を反射することで天敵となる鳥類の眼へ影響を与えるものだと思われます。

しかしながら鳥類の眼は赤色をよく見ることができると言われています。

秋の貴重な栄養源、ヤマボウシ

これは秋以降栄養の必要な時期につける果実は多くが赤色をしており、紫外線が見える鳥たちからすると光を良く反射し、それが鳥類の目に入りやすいことに由来します。

赤色で色を反射するからなのかオオセンチコガネは鳥類によく食べられており、多産地では鳥が吐き出したペレット(消化できないものを吐き出す)に赤色のオオセンチコガネのものが含まれています。

しかしわざわざ生存に不利な色合いを獲得しているとは、ダーウィンの進化論的にも考えにくいです。

タマムシのように自然に溶け込むようにも見えない

異なる色合いを放つことからこれらが光の反射によって起きていると推測でき、タマムシなどと同じ構造色であることも分かります。

残念ながら現状持ち合わせている情報ではなぜ鳥に見つかりやすい赤色をしているのかというのは分かりませんね。

糞虫による排泄物の分解

オオセンチコガネは自然界で重要な分解者の役割を持つ昆虫です。

シカフンに集まるオオセンチコガネ

動物のウンチは巨大で毎日大量に出ますよね。しかし土の表面がウンチだらけかと言われるとそんなことはありません。

ふんの分解には土中の生物が関わっていますが、土の表面にあるウンチと接触できる土中の菌類はわずかです。

栄養のあるうんちが土中へ運ばれ、分解される

しかしオオセンチコガネなどの糞虫が産卵のために土中に持っていけばウンチという有機物が接する土中の面積は大きくなります。結果的に分解されやすくなりますね。

糞虫と牛肉の意外な話

ふん虫は虫になじみのない人にはとことん関わりのない昆虫だと思います。

そこで我々の生活ともなじみの深い話をして、糞虫への理解を深めていただこうかと思います。

我々が日々口にするオーストラリアのお肉はOGビーフを始めとする牛肉の有名産地となっていますが、この背景には実は糞虫が関わっています。

オーストラリアにも糞虫はいましたが、もともと乾燥地に適応した種類だったので、牛糞のような柔らかいものを分解できなかったのです。

そこでヨーロッパから牛糞を分解できる糞虫を持ってくることで牧場のフン問題が解決し、オーストラリアは牛肉の名産地として知られるようになったのです。

こういった話を聞くと糞虫がとても身近な存在に感じられるのではないかと思います。

ぜひオーストアリア産の牛肉を食べる際には想像してみてください。

まとめ

角度で輝きが変わり、飽きないいい虫

オオセンチコガネは山地や牧場で見ることができる糞虫です。

金属光沢を放つ虫で地域差も大きく、非常に探しがいのある虫といえます。

糞虫はなじみがないように思えますが、我々の生活ではオーストラリア産牛肉に代表されるように知らないだけで身近なものです。
こうした小さな生き物たちが生態系を支えているんですね。見かけたらぜひじっくり観察してみてください。

触ったら手は洗いましょうね。


参考文献 土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて(藤井一至)

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同じフン虫のゴホンダイコクコガネ。外国産カブトムシを小さくしたようなかっこいい虫です。

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土の世界は小さく目に見えませんが、ダンゴムシなどの大型動物が分解者として働いてくれています。
その一部を紹介しています。