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サワガニの採集と探し方。山の保水機能を理解して地形から湧き水の場所を探してみよう

地味に人気の高いサワガニという生物

見つけて嬉しい食べておいしい人気の生物としてサワガニという生き物がいます。

大物のサワガニは見つけると嬉しくなる自然の恵み

都市化の進む近代では見かける機会の減ったカニですが、要点さえ押さえておけば遭遇することは可能です。

今回はサワガニを捕まえるのに役立つポイントと探す視点を紹介します。

サワガニとは?

サワガニは体長3~4㎝程の淡水に生息するカニです。

上流部の湧水で普通に見つかるカニ。いる場所には多数いる

主に河川の上流域から中流域に生息しており、水が湧き出す場所に昔から生息しています。

各河川の支流となる沢や水辺が無くとも滴る程度の湧き水があれば十分観察することができ、湧き水のある公園など意外な場所で目にすることもあります。

夜行性であり、雑食のカニです。

上流域の浅い沢沿いの岩や岩壁の隙間によくいる

昼間は岩場の隙間や岩の下などに潜んでいることが多く、見かける機会は少ないです。

そのため環境への理解がとても重要となります。サワガニがいそうな場所の勘を鍛えていきましょう。

出現する環境について

サワガニ探しで重要となる要素です。前述の通りサワガニは夜行性であるため、サワガニを目で見つけていくというのはなかなかに大変です。

ヤマメやイワナが生息しているような水質と昆虫餌資源が多いような場所にいる印象

サワガニのポイントは湧き水と隠れ家、一年中それなりの湿度が保たれる環境です。

探す場所は河川沿いの上流域や中流域となり、それぞれでやや戦略が異なります。

上流域の沢の本流。水はゆるく流れるくらいのほうがいる印象

上流域は侵入できる箇所が限られるなど沢のやや険しい条件が障害となりますが、安定して生息している場合が多いです。

サワガニは水の指標生物として扱われており、同じランク帯にいるのはカワゲラやトビケラという大変美しい水質を好む生物たちです。

厄介なブヨやアブなどもサワガニと同じく最高クラスの水の指標生物。嫌な生き物だが参考になる

この美しさはホタルの生息環境よりも上であり、中流域帯のような生活排水が流れ込んでくるような場所には見られないのです。


上流域の沢は岩盤を抜けてきた水が湧き出してできたものです。つまり水質汚染がほとんどなく、隠れ家となる岩場も多いためそれなりの数を見ることができるわけです。

湧いたばかりのきれいで雪解けの水が入り込む環境にいたイワナ

山に降り注いだ雨はその山の地下に溶けこみ、地下水脈となって下にたまります。そしてあるところで湧き水となって出てきます。つまり山の際となる場所は水がとても湧きやすいのです。

上流域を探す場合にはこうした沢沿いを見つけるためにグーグルアースの利用がおすすめです。

山地と生活圏(道路沿いなど)の際の部分を見ていくことで湧き水が流れる環境を探り当てることが可能です。

一方で中流域においては川の本流ではまず見かけず、水深も深くなることから水中の分布も不明です。中流域帯の本流では水質が厳しいのではないかというのが私見です。

新潟の八海山などの地際から湧いた水。魚沼のうまい米を育てる湧水

唯一目にするのは直接水が湧いてくる場所です。
山地は地形図を読むことで沢の場所を読み取れます。しかし平地では土地の高低差というのをイマイチ認識しにくいです。

ですが改めて山の保水機能を思い出せば問題ありません。

山に囲まれた魚沼の田んぼ。山地の麓に水田を作るのは山の保水機能をうまく利用する知恵

木々が根を張り水を土中に保水しているとその付近に高低差があれば地下の水は低い方へ流れます。マップで木々があるところから河川沿いに向けて高低差があるような場所を見つけられればその付近には水が湧いている箇所がある可能性がありますね。

平地の場合にもこうした観察地を探すのにグーグルマップやグーグルアースが役立ちます。

想像力は必要ですが水をためる木々と流れ込む河川の2つの要素から地下を流れる水の動きをイメージしてみましょう。

目に見えない地下水脈は山~川の高低差の間を流れる。地形を読むと水の流れもなんとなくイメージができる

サワガニ探しはこの保水機能と水の湧きだしの視点を取り入れることでサワガニを取ることだけではなく、サワガニを通じて森~海までつながっている生態系を認識することができるのが魅力であると思います。

1段低い水路を作ることで水を誘導する田んぼの水路

昔の人は山のふもとを低く掘ることで水を誘導するなどの知恵を持っていました。しかし最近は水はスーパーなどで購入するものとして自然と切り離されてしまっているように感じます。

この記事にたどり着いた方はサワガニに興味のある方だと思いますが、湧き水利用の生物というのは目に見えない水の流れを知るとてもいい題材になります。

サワガニに見る生態系

サワガニ採集においては環境を見つけることが最大の壁であり、いい環境が見つけられれば普通に捕まえられます。

サワガニは色々なものを食べてくれる

場所さえ発掘できれば雑食である生態を利用してザリガニ釣りのようにイカの天日干しや魚肉ソーセージの設置などなど比較的簡単に捕まえられるはずです。

ここからは視点を変えてみましょう。まずサワガニは指標生物であるため、その存在自体が水の綺麗さを証明してくれます。

これは逆に言うと同じ指標の生き物がいればサワガニもいる可能性があるということです。

上流域の代表的な昆虫カワゲラの仲間

カワゲラやトビケラといった生物は種により多少なりとも生息する水質が変わるため一概にはいえないのですが、ざざむしとして食べられてきた文化がある長野県に代表されるようにその存在は一定の水の美しさを保証してくれます。

もしカワゲラの成虫などがたくさんいるようならば潜在的にサワガニがいる可能性は高いでしょう。

私は神奈川でもサワガニを見かけますが、やはりその地域には大型河川にもカワゲラ類がおり、支流にも多数見つかります。

分解者としての側面も持つ

サワガニは雑食性の生物です。

上流域の緩やかな水。底には落ち葉を始め様々な有機物が溜まっている

自然界において雑食性の生き物というのはとてもありがたい存在で、例えば死肉を食べるトンビなどは大きな栄養の塊を細かな塊に細分化し、土中へと返す速度を速めていると捉えられます。

サワガニやプラナリアなどの底生生物が分解している

サワガニは自然下では藻類や昆虫類、魚類などを食べると言われています。彼らの生活圏は水中だけでなくある程度の湿度さえあれば陸地にも進出することから幅広い有機物の分解に貢献しているのではないでしょうか。(主観)

ウェステルマン肺吸虫

サワガニは生食してはいけません。

小さいながらも決して侮ってはいけない。サワガニの寄生率は地域差もあるが結構高かった記憶

これは自然に詳しくない人でも知っている1種の常識のようなものですよね。しかしなぜ生食がダメなのかと問われると確かになぜ?と思いませんか?

サワガニにはウェステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫という寄生虫がいます。

これはイヌ科やネコ科の哺乳動物を終宿主とする寄生虫で、虫卵を持つフン→貝類→カニ→哺乳類→フンというサイクルを持ちます。

水辺は生き物が縄張り主張でフンをすることも多い。フンに虫卵が含まれサイクルが始まる

イノシシなどはサワガニを好んで捕食することが知られており、本来の終宿主ではないものの加熱不十分の肉を食べることで寄生される事例もあります。

カニを食べる可能性がある野生哺乳類はこれを持っている可能性があります。ジビエにおいてよく火を通すことが言われますが、その一端と言えますね。

カニはやや可哀そうな存在で、水中を一次宿主の貝類と共有していることから寄生されます。特に特定の何かを食べたり食物連鎖を通じた感染ではないのがミソです。

かつて終宿主が哺乳動物で猛威を振るった日本住血吸虫というものがありましたよね。風土病と呼ばれたアレも貝類を一次宿主として田畑などに素足で入った人の肌から寄生したと聞きます。

水中で環境を共有しただけで寄生されてしまうというのはかなり恐ろしい存在です。

山と水は繋がっている。湧水利用の生き物はその自然のつながりを象徴するような生き物である

このようにひとえにサワガニを見るだけでも地理的特徴、地下水脈、森の保水機能、食物連鎖、寄生者、指標生物などなどの様々な角度から見ていくことができます。

せっかく生き物を対象に何かをするならば多角的な視点から掘り下げていくとより楽しくなると思いますよ。

学んだご褒美にはサワガニの美味しい素揚げやから揚げなどをいただいて多様性の恵みに感謝ですね。もちろん毎年採れるような個体群を維持できるような採集を心がけるのが重要です。


宮崎大学における寄生虫症血清診断からみた
肺吸虫症の最近の動向
丸山 治彦
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山地が育む豊かな生態系を観察できる新潟の生物観察記事です。

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