赤と黄色の目立つヘビ、ヤマカガシ

赤と黄色の非常に派手な色合いをしたヤマカガシというヘビがいます。
身近なヘビの仲間でありながらアオダイショウなどと異なり強力な毒を持つことが判明したことで話題になりました。
ヤマカガシは派手な色の警告色や、カエルの毒を利用する生態、生息環境の違いなどから種の多様性の観察にとても適したヘビと言えます。
今回の記事は意外と知らないヤマカガシの面白い話を紹介していきます。
ヤマカガシとは?
ヤマカガシは水田環境や沢沿いなどの水辺環境で最もよく観察されるヘビの仲間です。
その色合いは日本のヘビの中で唯一無二の派手さであり、黄色、赤、黒の警告色で危険さをアピールしているヘビです。
しかしヤマカガシに毒があると判明したのは1970年頃と比較的最近です。
これはヤマカガシの牙が奥にあるため、噛まれても深くなければ毒が注入されにくいことが影響していると思われます。
食性はカエルが大好きで、これが水辺付近で見られる理由でもあります。
故に昔ながらの畑地環境やクヌギコナラなどの薪炭林環境と馴染みの深いヘビであり、かつては我々の生活に馴染み深かったヘビであると言えるでしょう。
無毒だと思われていた毒蛇
ヤマカガシと毒の話はこのヘビの肝であるというくらいユニークです。

ヤマカガシは大人しい傾向が強いヘビ(個体による)でかなり臆病な種類です。
臆病かつ奥歯に毒があるということで実害が出にくい種類だったので、その毒の発見は1970年代頃に専門家間で議論されるようになったとの記述があります。
ヤマカガシの面白いところは牙だけでなく首の後ろ辺りにも毒を発する器官があるということです。

この毒はブフェジエノライドという名の毒で、ホタル類やヒキガエル類に由来する毒素です。
つまりヤマカガシはエサとして利用しているヒキガエルが持つ毒をリユースしているのです。
持続可能性が問われるこの時代になんと先進的な取り組みをしているのでしょう。素晴らしいですね。
カエル毒の利用
先程ヤマカガシの首の毒はヒキガエル由来であるという話をしました。

これを裏付けるのはヒキガエルのいない地域である宮城県の金華山で捕獲されたヤマカガシの首にはブフェジエノライドがないという話と、完全飼育状態で育て、ヒキガエルをエサとして与えなかった場合にも毒を持たなかったという研究から明らかです。
生物毒の利用としてはフグのエサから来るテトロドトキシンなどが有名ですが、陸地においても身近なヘビで見られるのです。
大変面白い生態系の妙技だと思います。
余談ですがヒキガエルの生息していない中国のヤマカガシ類は、この毒を求めてホタルの仲間を捕食するという面白い話があります。
ヤマカガシは本能的にこの毒を求めるようで、ヒキガエルを積極的に求めることが分かっています。
生息環境や好む餌
ヤマカガシはヒキガエルを求めるヘビであるという話をしました。

このことから乾燥地ではなかなか見られず、大抵ジメジメした環境や沢沿いの近く、田んぼなどのカエルが産卵に来るような場所で見られます。
これはエサ資源によりヤマカガシの出現が抑制されているとも言えます。
カエルがいなければヤマカガシは見られないため、水辺及び里山環境の減少とともにヤマカガシも個体数を減らしているのです。
平地の普通種であるアオダイショウは鳥の雛を狙い、樹上性であることからヤマカガシよりも幅広い環境に適応している種類だと言えます。
これに従い都市部で見かける機会が多いのは圧倒的にアオダイショウのほうが多いのです。
アオダイショウとの見分け


ヤマカガシとアオダイショウは生息環境が大きく異なる種類ですが、ヘビ初心者には見分けが難しいと思います。
この2種は色合いが決定的に違うという点はありますが、目玉や頭部の雰囲気は似ています。特にヘビに関してはアオダイショウくらいしか知らない方も多いですよね。


まずヘビを見かけたならばそのヘビをどこで見かけたのかに注目してみましょう。
初夏にかけてカエルの鳴き声が聞こえてくるような場所であればヤマカガシの可能性も出てきますが、カエルがいない乾燥した地である場合にはほぼアオダイショウです。
環境を見た後はヘビ本体の色合いを見ます。


青緑色の単色である場合にはアオダイショウで、ヤマカガシには黒、黄色、赤の派手な色が見られます。
普通種のアオダイショウとヤマカガシはとても簡単に見分けられるので、見つけた際にはぜひ違いを探してみましょう。
赤いヘビのジムグリとの違い
さて、赤色のヘビにはやや希少ですがジムグリというものもいます。

写真は大人なのですが、子供のジムグリは赤褐色をしており、知らない人が見ると毒蛇に見えます。
この場合には赤褐色だけが目立つのか、それとも派手な3色が目立つのかという点で見分けるのがおすすめです。
しかし見分ける程度に留めておいて触れないことをオススメします。
ヘビ類は毒の有無に関わらず様々な生き物を捕食しているため、傷口から感染症にかかる可能性があります。
破傷風などのリスクもありますし、爬虫類はサルモネラ菌などのリスクもありますからね。
ヤマカガシが語る生態系
ここまでヤマカガシとカエルの話を共にしてきました。

ヤマカガシは生態系の上位捕食者であり、その存在を支えるのは下位のたくさんの生き物たちです。

ヤマカガシがいるということはヒキガエルを中心に多数の生き物が見られる証であり、ヒキガエルはその存在が見られなかった父島などで生態系に大打撃を与えるほどの大食感な生き物です。
ヒキガエルの存在はその場所の昆虫類が富んでいることも示しています。

そして里山環境はノスリやオオタカを始めとする猛禽類の重要な採餌場所でもありますよね。ヘビ類の存在はタカ類の存在に必要不可欠です。
まとめ
ヤマカガシは有毒なヘビであることから名前だけが独り歩きしているヘビだと言えます。
その毒には2種類あることはあまり知られておらず、毒の一つは他の生物に由来することから普通種のアオダイショウとは全く異なる性質を持つヘビであると言えます。
こうした類似の生き物が持つ多様性こそが自然の中の生き物を見ていく面白さであると私は考えています。
数万年の歴史の中で作られてきた生き物の違いに注目し、ぜひ目の前の1種の生き物が持つ形態的な特徴をじっくり観察してみてください。
参考文献 生物が作り出す毒 どくどくしくない毒のはなし
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身近なヘビであるアオダイショウはヤマカガシとかなり生態が異なります。似た種の違いは自然観察の醍醐味ですよね。
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ヘビのエサともなるトカゲ類の観察もオススメです。エサとなる生物の理解はヘビの遭遇にも繋がります。
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アオダイショウと並ぶ平地のヘビ、シマヘビの紹介です。瞳が茶色でとてもキレイなんです。