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ハヤブサの観察。絶滅危惧種の猛禽類と鳥インフルエンザの感染について考察

冬は希少なハヤブサ観察のチャンス!

冬は木々の葉が落ちることから絶好のバードウォッチングタイミングです。

ハヤブサの写真はかなり少ないです。撮影条件が厳しい

中でも人気なのがかっこいい猛禽類、すなわち鷹やハヤブサの仲間ですね。

都市部では観察が難しいと思われている猛禽類ですが、生息環境や彼らの生態を考えていくと思ったよりは簡単に遭遇できます。

今回は猛禽類であり、生態系における重要種であるハヤブサの紹介と猛禽類にも影響を与える高病原性鳥インフルエンザの考察をします。




ハヤブサとは

ハヤブサはハヤブサ科に所属するハト程度~やや大きい程度の鳥です。

早朝に捉えたハヤブサ。朝or夕方出ないと日の角度的に撮れない

傾向として♀の方が大きいのですが、飛んでいる場面ではサイズ感は分かりにくいです。

日本には留鳥としてとして年中いるのですが、平地における観察では冬季にかけて見かける機会が増えます。(自分がこの時期に鳥に集中するだけかも)

総じて自然度の高い方が良いが、都市部でもカラスやハトを食べている。町中で襲われた死骸を見た

出現環境はとても幅広く、開けた草地、河川環境、山地などなどに見られます。町中にある中規模の雑木林環境の上空で目にすることもあり、都市部へ適応しつつある鳥なのではないかと思います。

肉食性の鳥で、小鳥やカモ類、ヘビやネズミなどの小型哺乳動物を捕食します。

水禽類(カモ類)は非常によく狙われる印象。まさにいいカモ

ハヤブサの仲間は紫外線が見えているとされており、草地でネズミの尿に反射した紫外線からネズミの生活圏を把握して襲うという話が話題に挙がりましたね。

生態系における上位種であり、土地開発時の環境アセスで対象とされることも多い種類です。

都市部~山地まで見られるよい食料源、ヒヨドリ。

程度は不明ですが小鳥やネズミ、ヘビなどの個体数の調整に大きく貢献しているものと思われます。

ハヤブサ(左)とハイタカ?(右)あくまで傾向であり、タイミング次第で変わるので注意

翼を広げると1m近い大きさになり、下から見上げてもかなり目立ちます。ハヤブサの仲間は飛翔時に羽先がそろっている(気をつけ!の状態)ため、ハイタカやオオタカに比べるとだいぶ分かりやすい種類と言えますね。

ハヤブサの面白さ

ハヤブサに限りませんが猛禽類の観察は他の鳥と異なりとても面白いです。

出会えても撮影に適したタイミングとなるとなかなか少ない

出現場所、環境、時間、季節などにある程度の傾向はあるのですが、出会えるかどうかは運の要素も大きいです。知識を持っておけばこの確率を高められるのですが最終的に運の要素が絡むため、毎度ドキドキさせてくれます。

ハヤブサの面白さはその狩りの様にあると思います。上空で獲物を探すハヤブサは地上から発生する上昇気流に乗っています。

気流に乗っていた猛禽類(ノスリ)珍しいのに3匹もいた!

気流は上に渦を描くように発生するため、ハヤブサ(猛禽類)は弧を描くように飛翔します。

その後獲物を求めて旋回するか、別の気流を目指してあっという間に滑空して移動してしまいます。

猛禽類がいる場所といない場所がある。それこそまさに気流の有無が可視化されている

これは逆に言うと猛禽類をセンサーとして我々の眼には見えない気流の流れを読むことができます。運が良ければ鷹柱といって複数の猛禽類が同じ気流に乗る様に遭遇できますよ。

ハヤブサの狩りのシーンにはめったに出会えないのですが、それは見事なものです。

ハヤブサ科は空中でホバリングすることができます。

ホバリングのイメージ。空中で停止して地上の獲物に狙いを定める

これは同じ科のチョウゲンボウの方が良く行う印象なのですが、獲物を見定めるときに固定されたような姿で羽ばたきながら宙に浮きます。

その後時速300km以上をも超える速度で仕留めにかかります。カメラから消えるような速度で驚きます。

地上の対象となるヘビ類(シマヘビ)や空中で仕留められるハト類

ハヤブサの狩りには地上の狩りと空中の狩りがあり、それぞれネズミなどの動物と小鳥などを狙っています。

地上の狩りはレアケースという印象で実際どのようにとらえているか分かりません。カモ類を狙った例では首を攻撃して絶命させるなどの話を聞いたことがあります。

狩りのイメージ。写真はカラスだが、このように上空から300kmの速度でケリを入れる

上空での狩りは見事の一言です。音速で小鳥に蹴りを加えて失神させた個体を空中で捕食する技を見せてくれますね。

このようにハヤブサは飛翔時も狩りの時も移動すらも面白い生き物なのです。


肉食性で食物連鎖の頂点にいる鳥

生態系には食物連鎖という概念がありますよね。

アブラムシとテントウムシは捕食関係にある。アブラムシは身を護るために蜜を出してアリを呼ぶ

アブラムシを食べるテントウムシ、テントウムシを食べる小鳥、小鳥を食べるヘビ、ヘビを食べる猛禽類などある生き物は時に食べ時に食べられます。

猛禽類はこれら食物連鎖の上位にいます。上位にいる生き物は下位にいる生き物と深く結びついており、個体数の調整に買っていると捉えることもできます。

昆虫を食べる小鳥がおり、小鳥を食べるヘビがいる。ヘビの個体数は昆虫によっても支えられている

ハヤブサの食物連鎖はどのようになっているのでしょうか。

まず上位種だからと言え敵がいないわけではありませんね。同一の捕食者であるタカ類やフクロウ、場合によってはカラスにやられることもあると思われます。

タカ類を初め猛禽はどの種も気流を使いエサ資源も似ている

昆虫界の上位捕食者オニヤンマ、スズメバチ、シオヤアブがお互い食う食われるの関係であるようなものです。

一方で下位のネズミやモグラなどに対しては一方的な捕食圧をかける生き物ですよね。ヘビは捕食される対象ですが逆に雛などを捕食するケースもあるので一方的ではありません。

ネズミのエサ資源となるくるみの実

一方的な捕食圧がかかると、その場所のネズミやモグラの個体数に大きな減少が起きます。するとどうなるでしょうか?

逆に猛禽類も餌がなくなることで死んでしまいますよね。つまりネズミやモグラは上位捕食者に食べられすぎればいなくなってしまうし、少ないと上位捕食者の数に影響を与えてしまいます。

鳥に食べられて卵を移動させることが明かになったナナフシの仲間。食物連鎖を利用している例

食べられてネズミが絶滅しないためには今度はネズミの個体数を支える昆虫などの下位の生き物たちが必要です。その虫を支えるために...とどんどん続いていきますね。

今見たのは猛禽と小動物をつなぐ僅かな1例であり、自然の中にいるあらゆる生き物に数万年の自然の歴史が作り上げた見事なバランスがあります。

うっとおしいアブラムシ(雪虫)なども大切な生態系の一員

これこそまさにあなたの知らない小さな生き物がいなくなってはいけない理由であり、放置すれば水面下で進んでしまうものです。

どこかのバランスが崩れると連鎖的に影響が起き、やがて上位捕食者へしわ寄せがいってしまいます。

ということは猛禽類の個体数の把握や営巣を把握しておくことは環境条件を表す指標になるうるのですね。

神奈川県絶滅危惧種1類のハヤブサ。神奈川では草原性の生き物や深い森が必要な生き物などが衰退している

なので環境アセスでは猛禽類を対象としていたり、環境保全の対象としてサシバやオオタカなどが分かりやすい多様性の指標として扱われることが多いです。

個人的には彼らを支える生き物たちももっと注目されて欲しいものです。



ハヤブサの減少と餌資源

ハヤブサの減少要因としては河川環境の改変や都市化に伴う開発、山地を切り開く工事などが挙げられています。

開発などの影響は直後に出てこないのが難しい所。自然相手なので数値化なども難しい

かつて猛威を振るったDDTにより昆虫たちにDDTが蓄積した時期がありました。アメリカやイギリスでは食物連鎖を通じて高濃度のDDTが集まり、上位捕食者であるハヤブサの数が減ったと指摘する話があります。人の活動が生態系を通じて影響を与えた事例ですね。

害虫駆除という1つの視点で物事を見ると、生態系を通じた生物濃縮などは見えてこない。(農薬を否定する意見ではありません))

これは生物濃縮というもので、海洋における水銀がイワシなどの小型種よりもより大型の魚介類にたまりやすいという話や、水をろ過して不純物をためやすい貝類への赤潮の影響(毒素の濃縮)などにもみられるものです。

陸上の生き物を食べる猛禽類は生物濃縮により化学物質やウイルスなどの影響も受けやすいのでしょう。

カマキリにハリガネムシが寄生するのも食物連鎖を利用した寄生プロセス

最近でも鷹狩りに利用していた猛禽類が高病原性鳥インフルエンザにより死亡したという事例がありましたよね。これも可密度な酪農が自然の生き物へ与えた影響です。

幅広い食物を利用するということは生存の面では有利でありますが、寄生生物や細菌、生物濃縮的による化学薬品、人間活動などの影響を受けやすくなってしまうというデメリットもあります。

ダム開発などは環境アセスが入る。

こうした話を押さえていくと土地開発(人間活動)が猛禽類の個体数を減らす理由というのも見えてきますよね。

すなわち都市開発により緑のある環境が減れば昆虫類を始めとする食物連鎖の下位が減り、それを餌とする生き物が減ります。他にも物理的な営巣場所の減少なども考えられます。

猛禽類の営巣問題は界隈ではかなり有名。

特に猛禽類は人の気配に敏感であり、野鳥撮影のマニアが巣に近づいたことによる営巣放棄なども問題となっています。

食物連鎖内で起こる下位の知られる生物間の変化は知識のある人の目にしか映りません。

そして誰もが分かる結果として食物連鎖の上位種である猛禽類などの減少という形で現れるのですね。

カエル類の衰退や田んぼ環境に住むゲンゴロウ、トンボ類の衰退など生態系の上位にいる生き物が減少している裏の話を見る必要がある

ただ近年では状況も変化してきているようで、ハヤブサを始めとする猛禽類の中には都市部の人工物で営巣するものも出てきています。

ダム天端を狩り場としている猛禽類も多い。(写真はトンビ)鳥の羽や血痕が見られた

まさにダーウィンの進化論が示すところであり、今後都市部環境に適応した個体がより増えていくと、ハヤブサは人工物で営巣する鳥になるかもしれませんね。


鳥と鳥インフルエンザについて

毎年話題に挙がる鳥インフルエンザ。

養鶏場の鳥が大量処分されてなぜ?と思う方もいるかもしれません。原因には渡り鳥や冬鳥が示される話もあります。

私も疑問に思っており、資料を探してみました。

鳥インフルエンザウイルスはシベリアのカモ類に普通に見られるとのこと

日本野鳥の会によれば鳥インフルエンザ自体は自然界でもありふれたウイルスで、主に北方のカモ類(水禽類)から普通に検出されるもののようです。

別の研究ではシベリアにいる水禽類からは鳥インフルエンザが普通に発見され、インフルエンザAウイルスがカモ類と共生している可能性が示唆されています。

北方より来る冬鳥がウイルスの原因なのだろうか?

一方で鳥インフルエンザのイメージとしては冬季に発生することから冬鳥が運んでくるのでは?という疑問がわくはずです。

高病原性鳥インフルエンザに影響を与えるのは養鶏場のような過密下で飼育されているニワトリ(鶏)たちで、通常の鳥インフルエンザが過密化で何度も感染を繰り返すうちに狂暴化したものと言われています。

一部国外から来ると言われるオシドリ

裏付ける情報として鳥取大学農学部附属鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターによる高病原性鳥インフルエンザの研究があり、もともとカモ類が保持していた鳥インフルエンザウイルスが鶏につくと最初の内は無害である物の、やがて体内で増殖するウイルスに変異し、のちに致死率100%のウイルスへ変化することが指摘されています。

まとめると鳥インフルエンザウイルス自体は北にいる鳥たちに普遍的なものですが、これが鶏に関わると高病原性鳥インフルエンザへと変化するということです。

高病原性鳥インフルエンザこそが毎年冬に話題に挙がる致死性の高いウイルスなんですね。

野鳥もまた被害者であると考えられる

発生の経路を考えれば本来は鶏→野鳥に感染するものであると考えられますが、野鳥→鶏に感染するような印象を植え付けられます。

いくつかの事例をwebで調べるとやはり高病原性鳥インフルエンザの由来には渡り鳥に由来し、まるで野鳥が悪いかのような論調も目にします。

これに関して調べてみました。

猛禽類医学研究所においては高病原性鳥インフルエンザは鶏の疾病であると指摘しています。やはり経路はあくまで鶏→野鳥とみる方がよさそうです。

発生地に関しては野鳥の会のHPにて中国東南アジアの地域にて養鶏場などで発生した高病原性ウイルスが常在化している可能性があると指摘されていました。

高病原性鳥インフルエンザは当然日本だけの問題ではなく、他国でも発生しています。そのため、日本に移ってくる渡り鳥たちが事前に他国で高病原性に感染していると、日本に来た際に野鳥が高病原性鳥インフルエンザを振りまく張本人だと捉えられてしまうようです。

あくまで野鳥もウイルスの被害者であり、根本は養鶏場などの人間活動由来であるという点ですね。

しかしながら肉食性の鳥は感染した鳥と接触しやすいため、猛禽類にとってはかなり脅威となるウイルスですね。

鳥インフル(低病原性)自体は自然界に普通にあるものなので、犯人探し的な考えで野鳥が悪いとミクロな視点でとらえない方が好ましいと思います。

もちろんこれらの意見は一つの私見であり、参考程度にとどめてください。


ハヤブサ観察のコツ

ハヤブサを始めとする猛禽類から実に多くのことが学べることが分かりました。冬に観察してみたいという方もいるのではないでしょうか?

観察なら場所が、撮影なら時間が大切

ここからは私的なハヤブサ観察のためのTIPSを考察していきます。

まずハヤブサは出現環境がとても広い鳥で、このことが逆に見つけにくい要因でもあると考えています。

餌資源となるネズミやヘビ、小鳥がいそうでそれなりの規模の緑があればいる可能性があると考えてよいでしょう。

開けた水辺でカモ類が多かったりすればいる可能性はある

私の行動圏では動きの遅いカモ類やサギ類を狙っている印象が強く、川沿いにいる鳥という認識です。事実河川沿いは猛禽類の観察に適した場所と言えます。

ススキやヨシの生えている草地は適切な狩りスポットであり、ネズミ、鈍い鳥類を狙った彼らが良く飛んでいます。

気流の面から考えると平地よりも山地の方が有利です。朝日が当たり上昇気流が強くなる正午付近~午後には山地の谷沿いで目にする機会が多いです。

構造上上昇気流が起きやすい人工物や山の麓あたりも見やすい

ダムなどは人工物ですが構造的に上昇気流が起きやすくなっており、猛禽類全般のおすすめ観察スポットです。

時間に関しては出現の幅はかなり広いと言えます。これも私の行動の時間の影響が大きいかと思いますが、冬の8~10時ごろといった地表が温まり始めの時間に狩りをしている印象があります。

冬季は10時以前の時間なら空を背景にしてもよく見れると思われる

この時間は早朝よりも温かく、日の角度も低いためにお腹側まではっきり見えることが多いおすすめの時間です。

10時以降になると日の位置が高くなりすぎてもし見つけることができてもお腹側が黒くなってしまいます。

ヨシやオギなど古くから日本にある背丈の高い植物の多い環境を見ていくのがおすすめ

いかんせんここだ!という場所は示せないのですが、鳥の数が多い場所やネズミがひそめそうな草地などを意識してみればそこまで遭遇難易度の高い鳥ではありません。

ぜひ自分自身が生態系の中にいるつもりで上位捕食者の生活を想像して彼らの生息環境を考察してみてください。これがばちりとはまればあなたは人ながら食物連鎖の端を理解できるはずです。

ハヤブサからは実に多くのことが学べますね。素晴らしい観察対象だと思います。

参考文献
猛禽類医学研究所 原因究明鳥インフルエンザ
日本野鳥の会 正しく理解しよう 鳥インフルエンザ
高病原性鳥インフルエンザと野鳥の関わり伊 藤 壽 啓
pljbnature.com
生物多様性シリーズ、カマキリの食物連鎖を通じて寄生するハリガネムシの不思議を紹介。
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