樹液や外灯に巨大なカミキリが!
夏の夜に雑木林などでカブクワを探していると信じられないほどの巨大カミキリに遭遇することがあります。
灰色と黄色の巨大カミキリの名はシロスジカミキリと言い、今では見る機会の減った昆虫です。
あまり知られていませんがクヌギやコナラなどの樹液流出に貢献してくれる虫であり、カブクワが採集できる理由の一端であったりします。
今回の記事ではあまり知られていない樹液の貢献者としてシロスジカミキリを紹介し、その魅力を発信します。
シロスジカミキリとは?
シロスジカミキリはフトカミキリ亜科に所属するカミキリムシの仲間で、日本のカミキリムシの中でも最大種となる大型カミキリムシです。
主にクヌギやコナラ、カシやシイ類などのブナ科を主体とする雑木林で目にしますが、河川敷で目にすることもあり、ヤナギ類を食べている様子を目にしたことがあります。
上記の樹木を利用することから樹液の流出に大きく貢献する昆虫であり、夏の人気昆虫との遭遇時には姿が見られない場合も多いですが、それらの虫の出現と生命活動の維持に大きく貢献している虫です。
体長はおよそ5~6㎝で体高もあり、明らかに大きいです。
親個体は主にクヌギやコナラ、シイカシ類の衰弱木の地際に横一列に並ぶ特有の産卵痕を残します。
幼虫は約2年の非常に長い期間を経て成長し、蛹から羽化します。その後成長した木の中で成虫のまま1年を過ごし翌年の春に木から出てきます。
つまり産卵から成虫まで最短で3年もかかるわけです。凄いですね。
シロスジカミキリが木から出た後はその体の大きさからも明らかなように非常に大きく、大人の親指が入るくらいの特大の穴が開きます。
これにより彼らの存在を察知することはとても簡単です。
シロスジカミキリと雑木林
ここからは主観的な話になりますが、里山環境の衰退と樹液性昆虫の衰退は関連しているように感じます。
これに大きく関わっているのがこのシロスジカミキリの減少なのではないかと思います。
昔ながらの雑木林ではシロスジやミヤマカミキリ、ボクトウガなどの樹木穿孔性の虫が木に穴を空けることで樹液は流れていました。
衰弱木を利用するカミキリ類は間伐や萌芽更新などで部分的に弱った様な樹木を利用していたのではないかと考察します。
しかし近年シロスジカミキリは個体数を減らしているとされており、例として神奈川を上げるならばこの種は要注意種として指定されこれはミヤマクワガタと並ぶ程度のランクです。
神奈川のミヤマクワガタの難易度を考えればいかに遭遇が難しい虫かが分かりやすいと思います。
管理された雑木林環境が減ることで大木の樹木が増え、外的要因の減少による大径木化と衰弱の機会が減ることで穿孔の機会が減り、このカミキリが減少したのではないかと思う訳です。
結果として樹液流出の機会も減り、カブクワを始めとする樹液性昆虫の出現数も減ってしまっているのではないかと感じます。夜の樹液を見てもこのカミキリを見る機会は本当に減ったと感じます。
近年ではナラ枯れが非常に猛威を振るっています。ナラ枯れは放置された大径木を優先的に攻撃し、これまでのカミキリ由来とは異なる樹液の流出方法を取ります。
神奈川ではナラ枯れが深刻化してから3~4年立ちますが、オオムラサキやアカアシオオアオカミキリ、各種平地の雑木林のカブクワ類の出現数は爆発的に増加していると感じられます。
例えば私の地域ではクワガタが4匹程度しか見られなかった場所がいまでは50匹以上見られるなど、明らかに樹液の流出がボトルネックとして個体数の抑制となっていたケースが見られます。
恐らくその地域でシロスジカミキリが豊富におり、これらが繁殖できるようなクヌギコナラの衰弱部位が発生していればその場所はナラ枯れ後と同様に多くの樹液性昆虫が観察できる場となっていたのではないかと思われます。
これはあくまで妄想ですが、樹液の流出とそれを起こす虫というのは樹液利用の虫と根強くつながっています。
もしこのカミキリを見つけた時には温かい目で見送ってあげて欲しいものです。
シロスジカミキリとミヤマカミキリ。2大巨大カミキリ
巨大カミキリを見つけたもののこのカミキリではないというケースが多々あると思います。
その場合にはミヤマカミキリがまず考えられます。
茶色いカミキリで大きさは5㎝程度、触覚が非常に太いカミキリで夜の樹液や外灯に来ている場合が非常に多いです。
樹液の流出に貢献するという意味ではこのカミキリも重要種であるため、見つけた場合には自然の繋がりに感謝しておきたいですね。
一応巨大カミキリの見分けポイントを説明しておきますと、まず色が違いますよね。シロスジは灰色に黄色、ミヤマは茶色一色です。
細かい所を見ていきますとシロスジカミキリは大きな顎が下を向いていますが、ミヤマカミキリは前を向いています。
これはシロスジカミキリは樹液や昆虫ゼリーなども食べますが、樹皮や枝などの表皮を食べます。
特に木から出た後には樹皮を食べることで性成熟といって交尾ができる状態になるため、餌資源の確保が重要です。
齧るのに有利なようにシロスジの顎は下を向いています。
一方でミヤマカミキリの顎は前を向いています。
前向きの顎のカミキリは人気種としてルリボシカミキリや花粉を訪れるトラカミキリの仲間など多数が存在します。
樹液を舐めるミヤマカミキリやルリボシカミキリにはこの形の方が舐めやすいのでしょうね。
複眼の形も違ったりします。これはシロスジが一般的なサングラス型で、ミヤマが三日月型です。
三日月形はカミキリムシでも非常に少ないものでキマダラミヤマカミキリやアカアシオオアオカミキリなど一部のカミキリにのみ見られます。
面白いので観察しておきましょう。
シロスジカミキリと寄生生物
このカミキリを取り巻く面白い話としては寄生性のウマノオバチの話があります。
ウマノオバチは産卵管が非常に長いハチで15㎝近い体長を持つ巨大バチです。
このハチはシロスジカミキリとミヤマカミキリの両種を利用すると考えられていましたが、シロスジカミキリの研究が進み、成虫で最後の1年を過ごすことやウマノオバチの産卵期となる6月頃には既にシロスジは木から出てしまっている点、ミヤマカミキリは夏のカミキリで産卵のタイミングと合致するなどの情報がそろいパズルのようにウマノオバチはミヤマカミキリを利用していると分かったんですね。
もしどちらかのカミキリが絶滅していればそれを利用するウマノオバチの生態はよく分からなかったかもしれません。(ミヤマが絶滅したらウマノオバチも絶滅しますが)自然界ではこのようなよく知られていない生き物たちが多数おり、複雑に絡み合って生態系を築いています。
なので名も知らない興味の無いような生き物であっても絶滅させてはいけないんですね。
もしかしたらその種とその種が結んでいる生き物から未知の成果が生まれたかもしれないのです。
シロスジカミキリと羽脱孔
羽脱孔(うだつこう)はカミキリムシやタマムシなど穿孔性の虫が木から出た際に残る痕です。
樹種や大きさ、形などでおおよそ何の生き物が出たのか推測できます。
シロスジカミキリのものは異質を放っており、その虫の大きさから信じられない穴が開きます。
条件のいい木では数も多く、同じ木からは樹液が流れることからコクワガタやヒラタクワガタを始め多くの虫に隠れ家を提供してくれています。
ゴミムシの仲間が隠れていました。
この穴は奥深いもののめくれとは違うため人の手によって剥がされることがない天然の穴です。具体例は不明ですが、生態系サービスとして多くの昆虫の保護に貢献しているでしょうね。
今回の記事では雑木林の重要種としてシロスジカミキリを紹介しました。
カブクワ意外にも樹液で何かしらの虫を探したことがあるならば間接的にお世話になっている虫です。
個体数を減らす希少な虫となってしまいましたが、昆虫、人ともに色々お世話になっているいい虫なので大きい虫だからと怖がらずに触れ合ってみると楽しいと思います。
噛まれないようにだけ十分注意しましょう。
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寄生生物として紹介したウマノオバチ側の紹介です。この虫もナラ枯れでミヤマカミキリが増えることを考えると増えていることが推測できます。