人気の甲虫カミキリムシを探すなら
子供たちの人気はカブクワに負けますが、大人人気がかなり高いのがカミキリムシの仲間です。
カミキリ採集はまさに自然との知恵比べ。中でも面白いのが種毎に利用する植物が違うということです。
カミキリが取れるようになるということはそれと同時に植物に関する知識や昆虫の生態的な理解が深まっていることを意味します。
しかし「虫だけでも大変なのに植物もいるの~?」と初心者には敷居の高さが問題となります。
今回の記事では初心者がカミキリムシ採集に興味を持つきっかけとして、色々なカミキリが取れる方法から専門的なものまで見つけるためのプロセスを紹介します。
昆虫採集に挑戦したい方は必見です。
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カブクワ編はこちら。大ボリュームで基礎を網羅しています。
準備編
本題に入る前に虫取り入門として危険生物対策や虫網の使い方など紹介しています。特にカミキリは網の性能が成果に直結すると感じます。
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安全面の確保が屋外活動では最優先なので、あまり知らない方は目を通しておいてください。
カミキリムシとその採集のために
カミキリムシは日本全国山地~平地まで幅広く分布している甲虫のカテゴリーです。
カブクワと圧倒的に異なるのがその種数であり、正確な数は不明ですが日本には約900種類いると言われています。
幼虫は幅広い植物に穿孔(せんこう)し、短いもので1年、長いものでは3年もの月日を植物内で過ごします。
樹木内で羽化した新成虫は木に羽脱孔(うだつこう)という特有の脱出痕を残し活動を始めます。
カミキリムシには広食性(こうしょくせい)で色々なものを食べるものと特定のものを食べるものがいます。
このことからカブクワと異なり雑木林に行けば適当に見つけられる種類は限られています。
見つけるためには見つけたい種類を事前にリストアップし、その種がどんな植物を利用するのか?といった生態的な理解が不可欠です。
この点が敷居を高くしている要因ですが、逆に言うと圧倒的な種数により種毎に異なる戦略が楽しめる大変熱い虫なのです!
カミキリは物によっては出現期が2~3週間程度しかないものも多いです。
活動は3月ころから色々な種を狙えるようになるので、およそ秋の終わりまで様々な種類を狙ってカミキリ採集が楽しめます。
カミキリムシ採集で重要なこと(例アリ)
平地のカブクワ採集と比べ1ステップ進んだ昆虫採集になります。
種のピックアップ→利用環境を理解→出現時期の理解。この3ステップがおすすめです。
具体的にはまず捕まえたい種類を選びましょう。
カミキリムシは特定樹種につくものが多いため、初心者が現地でアドリブ的に捕まえるというのが難しいです。
書籍の図鑑やwebでの図鑑などで興味あるものや美しい種類などを探してみましょう。
例として美しいフチグロヤツボシカミキリを取りますと、このカミキリはホオノキという巨大な葉を持つ樹木を専門とするカミキリです。
身近なカミキリですが、名を聞いたことのある方は初心者ではいないでしょう。
小さいながらもエメラルドのように美しいですよね。
このカミキリの詳細を話すとホオノキの葉を専門に食べるカミキリです。
出現期は4月中旬~6月上旬ごろまで。個体数は4月中が多いですね。
この2点さえ押さえておけば捕まえることができます。どちらかが欠けると出会えません。ホオノキは初心者でも巨大な葉や花で見分けやすい植物です。
ですがホオノキにはカミキリ以外の虫があまり付きません。つまりフチグロヤツボシカミキリという対象を先に知っておかなければ虫を探す対象の木に入らないのです。
初心者が特定樹種のカミキリを探す場合にはこうした分かりやすい種を使うものを探すといいと思います。
もしくは虫網での花掬いや土場での枯れ木に来るカミキリを狙うことで色々な種類に出会うことができます。
フチグロの例では
綺麗な緑のカミキリだな~これにしよう!
フチグロヤツボシカミキリ→ホオノキ→4~6月ですね。
網の性能も重要
カミキリ採集=網の性能と採集知識と言えるくらい網の性能が響いてきます。
なぜかというとお花や葉を網でガサガサ掬うことが多いので、長ければ長いほど掬える高所のお花が増え、成果に直結します。
同様に網は広ければ広いほど同時に掬える範囲が増えるので取りこぼしが減ります。
私は5mの網に50㎝直系の網しか長竿はありませんが、これで苦い思いをする機会は多いです。
しかし5mは取り回しがとてもよく価格も手ごろであるため、ついでにカミキリ採集をしたい方は5m程度から始めてみるといいと思います。
がっつりカミキリをやりたいならば、それはもう長ければ長いほどいいです。私的には8mあればカミキリ以外にもいろんな虫に応用がきいていいだろうなぁと感じています。
網は難しい所で、花を掬う用のカミキリムシ用と葉を掬うタマムシでは扱いが若干違います。
タマムシの場合より激しく葉先を叩くので、大口径過ぎるとそれはそれで強度の問題で網が壊れる可能性もあります。
50㎝の口径ではもうちょっと欲しい感が正直あるので、今持っていない方は志賀昆虫最大の60㎝が良いのではないかと思います。金属製なので強度が高いです。
採集時期とコンディション
採集時期は種数により変わります。
カミキリは種数は多いですが出現期間は結構短いものが多く、同時期に出てしまうことも多いので手を出せる範囲が限られてしまいます。
図鑑でピックアップして時期を確認し、同時期に狙えそうなものをまとめて探していくのがおすすめです。
天気は可能なら晴れ一択です。これは観察しているとよくわかることなのですが花に日差しが当たっているかどうかで昆虫の飛来数が全く違います。
採集するならば晴れ一択で妥協の曇りですね。ただ圧倒的差が有るので基本は晴れにしましょう。
後述しますが土場などの飛来を待つ採集などでも晴れの方がいいです。
カミキリ採集はハチと送電線に注意
もう1点これは長い網を使う場合の注意点です。まず死ぬのが送電線です。
長竿網を利用する際には必ず絶対に送電線があるか無いかを確認して使いましょう。
竿を伝って電気が流れ、死にます。どんな虫も命には代えられないのでここだけは絶対に守ってください。そういう環境では子供には長い網は持たせないようにしましょう。
カミキリ採集は花や葉などを叩くことがあります。同時期にはスズメバチやアシナガバチが巣作りをする時期なので念のためポイズンリムーバーなど持参しておきましょう。
採集方法について
他の虫取りにも共通する網の使い方や虫の探し方に関するパートです。
スウィーピング
長竿ならではの採集方法です。
咲いているお花や、木の先端の枝などに網をかぶせてガサガサと揺らし。ついている虫を網に落とします。
花粉を食べに来るハナカミキリの仲間採集では必須ともいえるテクニックであり、これを掬うために網の長さと口径が欲しくなります。
カミキリの場合花についていればあまり警戒せずにいてくれるため、丁寧に他に振動を加えないようにして揺らすのがコツです。
振動が他に行くとぽろぽろ落下して台無しです。
枝先の場合にはすっぽり入る程度に覆って揺らします。花と比べると成果の上がらない虚無期間が長いため、初心者は花を中心にやると楽しいでしょう。
ルッキング
カミキリが付きやすい場所というのはおおよそ決まっています。
例えば地際の太い所、ひこばえや新芽の若い所、葉の表裏などなどカミキリの好む場所を見ていきます。実物がいなくとも痕跡を見つけられればokです。
痕跡とは羽脱孔や食痕などです。
樹木から樹液が出ていれば、幼虫が木の中に潜んでいるのかもしれません。
そうした可能性を探偵のように探っていってください。
また、観察という意味で花などにスズメバチがいないか、葉裏にハチの巣が無いかなどなどを見ていくことも重要です。
自然の活動はルッキングで得られた情報を活用していくものなので、常に情報収集をしていきましょう。
外灯
一部のカミキリには紫外線への嗜好性が見られます。有名なものでいえばヨコヤマヒゲナガカミキリの♂ですかね。
♂は外灯に来ると言われますが♀はイヌブナに産卵に来た個体を取るのが王道とされています。
同じ種類であっても嗜好性が異なる場合もあるのが面白い所です。
夏場ならばカブクワと並行してやれるのも面白い所です。
紫外線への嗜好性などのコアな内容についてはそこまでカミキリを採集していないので詳細は不明です。
しかし高尾山などでは外灯周辺の木々を前述のスウィーピングして100数十種ものカミキリを取っている方に遭遇したことがあるので、外灯はかなり有効なようです。
吹き上げ
やや限られた採集方法です。
山の上の開けた尾根沿いや谷沿いの上などの上昇気流が発生する場所では、風に乗ったカミキリが打ちあがってくることがあります。
町中で虫がブーンと飛んでいますよね。あれが凧のように風にあおられて高い所まで来ている感じです。
このことから気流のある場所で開けていれば虫が地面をうようよしていることがあります。西部の宮ヶ瀬ダム上などではカメムシや蛾の仲間、カミキリなどが吹き上がってきていることがあり、意外な採集の切り口として使えます。
具体的な採集手段
上記の基本採集方法から具体的なカミキリ探しの方法をお伝えします。
利用樹種のルッキング
初心者には難易度が高いです。
カミキリムシが持つ専門的な嗜好性を利用して、対象樹木を見て回ります。植物に関する知識を深めるほど成果が上がります。
例えばアオカミキリはイタヤカエデやイロハモミジなどカエデ科の一部の樹木を利用するカミキリなのでカエデの仲間を見ていきます。
前述のフチグロヤツボシならばホオノキです。特定樹種を利用するカミキリはその木に多くの痕跡をこのします。
そうした気配も探していきましょう。具体的には以下です。
羽脱孔
幼虫~成虫までを特定樹種に依存する種類は成虫が木の内部から出てきた痕が残されている場合も多いです。
カシの木などブナ科を利用するシロスジカミキリの羽脱孔。大型種のものは分かりやすい。
図鑑で捕まえたい種類を見つけたら、痕の形も調べてみましょう。
食痕
葉や葉脈、樹皮などカミキリにより使用する部位が異なります。
しかし特定樹種利用のカミキリはその樹種の何かしらを食べています。
その痕が食痕として残っています。
フチグロヤツボシカミキリならば写真のように細い線形の食痕が葉に残されます。カミキリ本体が見えなくともこの跡さえ見つけられればいる可能性がありますね。
花(初心者向き)
多くの花カミキリを始めとするカミキリムシが訪れます。
また、カミキリ以外にも多くの虫が来ているのでガチャガチャみたいに楽しいです。
特におススメの花
4月頃はモミジの木がおすすめですね。
おおよそ上旬遅くても中旬ぐらいだと思いますがカミキリがよく来ています。
ゴールデンウィーク頃になるとウツギなどの白いお花に多数の虫が来ています。その次がヤマボウシ。ヤマボウシは街中にも多いのでいいですね。
5月終わりごろになればクリが楽しいです。多数の虫が来るので思わぬ発見が毎年あり、私も楽しみにしています。
5,6月はミズキ科の樹木が暑いですね。クマノミズキは6月頃に咲いてくれるいい花です。白いモコモコした花はこの時期少ないはずです。
真夏頃は山地ならノリウツギ、平地から身近な山地程度ならカラスザンショウにたくさんの虫が来ています。ここで挙げた花は覚えておいて損はありません。
枝先(慣れたら)
葉につくカミキリムシが休んでいることがあります。
怪しい枝先に網を伸ばしてガサガサとやってみれば何か虫が入るかもしれません。
モミジの仲間でアオカミキリを狙ってみれば入るのは広食性のゴマダラカミキリばかり、珍しいイタヤカミキリなんて入りません。
枝先が枯れたりしているようならば枯れ木を好むカミキリなどがついている場合もあります。知識が増えれば増えるだけ目の前の物事に対応する術が増え、それが選択肢として増えていきます。
土場(初心者向き)
平野部で土場があるというのは稀ですが、もし山地などで運よく新鮮な樹木がまとめておかれているような土場を見つけたら数mの距離から様子をうかがってみましょう。
晴れた昼間で新鮮な木材があるならば枯れ木性の虫たちで賑わっているはずです。
神奈川の平地で土場を見つけ、許可をいただいて観察させていただきました。
平野なので種数が限られますがクビアカトラカミキリや、県要注意種のキイロトラカミキリ、ナガゴマフカミキリ、タマムシの仲間などが見つかりました。
山地ならば横にベースを張って休みながら虫の飛来を待ちたいものです。とても楽しくて初心者にもお勧めです。
立ち枯れ木(初心者向き)
この採集では倒木や落枝に十分注意してください。
森の中で枯れている木々というのは思わぬ昆虫の発見スポットです。その樹皮を見てみれば鮮度にもよりますが枯れ木性の虫が来ているはずです。
枯れ木性にも広食性もいれば特定樹種の枯れ木にしか来ないものもいます。立ち枯れを見るのは大抵の場合探したい種が決まっている場合ですね。
中型程度であれば飛来する様子が目につきます。それを追いかけて捕まえるという首がつかれる探し方です。
良い木を見つけた時が一番テンションが上がります。
採集の一例
アオカミキリ(特定樹)
イタヤカエデやイロハモミジなどのカエデ科樹木を利用するカミキリで出現期は5月~6月頃です。
このカミキリは希少なわけではないのですがなかなか見つからないカミキリで、該当地域にもいるだろうと思われてはいたものの成果はありませんでした。
イタヤカエデにそれらしい穿孔痕を発見しており、たびたびルッキングを繰り返していたところ日差しの当たるタイミングで大型カミキリが枝先を飛んでいました。
スウィーピングで捕まえるとアオカミキリで、当地域では久々の記録でした。
木に残る痕跡から成果を上げる事例です。
ヨコヤマヒゲナガカミキリ(山地の特定樹)
みんな大好きな大理石の様なカミキリムシです。
利用樹種がイヌブナということで標高がやや必要です。出現期は7月下旬頃~9月上旬ごろです。
♂に外灯の嗜好性があるとされ、♀はイヌブナの根元に産卵に来ることが知られています。どちらも夜行性であるため採集時間は夜となります。
場所は有名産地の高尾で、外灯を中心に探していたのですが何度やっても取れず、方法を変えて♀狙いにしたところ遭遇出来ました。
カミキリの生態に合わせた結果成果をあげられた事例です。
シロスジカミキリ(雑木の普通種)
シロスジカミキリは日本最大のカミキリで夜行性のカミキリです。
クヌギやコナラなどブナ科樹木を利用することからカブクワのついでに採れたというのは過去の話で、雑木林の衰退とともに神奈川では恐ろしいほど見なくなっています。
しかしナラ枯れの影響でコナラなどの枯れ木や衰弱木が増えていることから羽脱痕を見かける機会が増えました。夜樹液の多い高尾の中腹で外灯に来ているシロスジカミキリにも遭遇出来ました。
カミキリの背景にある樹液などの自然環境を理解することで成果を上げられる事例です。
キイロトラカミキリ(花や枯れ木)
新鮮な枯れ木に集まり、花粉を食べるために花にも集まるカミキリです。
広食性のカミキリ故狙って出会うことがちょっと難しいのですがそこは広食性を利用して土場にて張り込みです。
コナラや針葉樹を中心とした土場でしたが難なく遭遇出来ました。特定樹種の枯れ木を利用する種類の場合こうは簡単にいかないです。
一応県要注意種としてミヤマクワガタと同レベルのカミキリです。
カミキリムシの魅力とは?
幅広い樹種、幅広い種数、バラバラの出現時期などなどのたくさんの要因が重なることでカミキリムシ採集はとても面白いものになっています。
クワガタで種数を稼ごうと思えば大変ですが、カミキリは特定種への嗜好性を持つ者により多様性が豊かなので身近なところでもいろいろな種類を見ることができます。
また、スウィーピングなどの基礎的な捕まえ方を共通のものとしてそれを対象に応じて使い分けていくというのもカミキリムシならではです。
まず捕まえたいゴールを決めてそれに必要な手順を棚卸して目標に行動する。カミキリムシ採集は人生で生きていくうえで必要なあらゆる物事への取り組み方を教えてくれる基礎になります。
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