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樹木に木くずを出す害虫たち。ミカンやバラ、モミジから出る木くずの形で害虫の種類が分かる!

樹木を加害する虫たち

コナラから出る木くず

お世話している大切な樹木たち。

ふと気が付くと穴が開いて木くずや樹液が流れておりあら大変!という事態は園芸をされている方ならば必ずしも経験するのではないでしょうか。

穿孔性(木に潜る)の虫たちへの対処は簡単ではありません。しかしその症状や木くずの状態から種を特定することができれば突破口は見えます。

今回の記事では幅広い樹木に穿孔する広食性の昆虫類を紹介し、その典型的な症状と対処方法を紹介します。

穿孔性の虫とは?

その前にまずなぜわざわざ大切な樹木に入るのかという点を紹介します。

ケヤキやイチジク、クワの害虫クワカミキリ

こうした穿孔性の虫は嫌われており、その生態が知られることなく死んでいくのは多様性の面からも惜しいからです。

今回紹介していく虫たちはいずれも幅広い園芸種を始めとする植物を加害します。

その目的は幼虫の餌資源である木の組織を確保する側面と外敵から身を守るための防御としての側面があります。

木の内部というのはこれら幼虫からすれば比較的安全度の高い環境なんですね。

穿孔性の虫は昆虫たちの生態系にも一躍買っています。

クヌギやコナラに穿孔するシロスジカミキリ

夏の代表的なクワガタ類を始めとする虫たちは後述するボクトウガの仲間やカミキリムシの一種が木を傷つけることによって流れるおいしい樹液を栄養源としています。

視点によってはこうした穿孔性の虫が多数加害することで巨大な樹木を枯れさせ、林床に光をもたらすことで次世代の森林づくりに貢献するという役目もあるのです。

キクイムシ穿孔により樹液が流出

最近でいうとナラ枯れはあてはめやすい例と言えますね。

しかし自然下ではよくても庭では許さないというのが本当のところです。

これは愛情をこめて植物の世話をしている身としてとても良く分かります。

そんなある意味では必要である意味では憎たらしい生き物たちを見ていきましょう。

木くずのパターンについて

実は穿孔性の虫たちは木くずの形によりおおよその仲間を推定することが可能です。

ただし確実なものではないのであくまで参考程度にしてみてください。

樹木穿孔性の害虫たちとその対処

カミキリムシ
イヌブナ利用のヨコヤマヒゲナガカミキリ。人気のカミキリ

樹木から木くずや樹液が出ている場合にまず疑うべきはカミキリムシの仲間です。

カミキリムシの仲間は広食性のものと特定種だけを食べるものがいます。

庭木による被害の場合広食性(色々食べる)の種によるものが多いですが、例えばモミジなどの場合にはカエデ科食のカミキリの場合もあり得ます。

樹種+カミキリで調べれば大抵の場合特定できます。

黒字に白い斑紋が入るゴマダラカミキリ

今回はモミジ類、バラ類、ミカン類、ツツジ類などの幅広い庭木を加害するゴマダラカミキリの例を紹介していきます。

ゴマダラカミキリはフトカミキリの仲間に所属するカミキリなのですが、このカミキリは脱出痕が丸い形になることから容易に判断が可能です。

地際に空いたゴマダラカミキリの脱出痕

もし樹木にこうした1㎝程の穴が開いている場合ゴマダラカミキリの可能性が濃厚です。

木くずはこのように線状で毛羽だったようなものになります。(ゴマダラの場合)これは種によって異なるので気をつけましょう。

積み上がる木くずをたどれば入り口が分かる

大抵食べる部分の多い地際の太い場所に見つかります。木くずをたどっていけばそれが排出されている小さな排出孔が見つかるはずです。

この孔から農薬のスプレーを撒くのが一般的な対処になります。

左のゴマダラと右のシロスジでは木くずの形が違う

ゴマダラの場合木くずの形状は細長い形になります。

もし重要な樹木がある場合木の太い部分に侵入できないようなネット状のもので防除するという取り組みもあります。

成虫は外部から産卵樹木にやってくるので、ネット以外での防除は困難です。

ゴマフボクトウ
違う種ですが、ゴマフボクトウの写真がないのでこんな感じの雰囲気というのを紹介

被害状況がカミキリに似るためカミキリムシと勘違いされているケースが多々あります。写真は別種ですが、これに黒の斑点を散りばめたような姿をしています。

ゴマフボクトウは樹木穿孔性の蛾の仲間、ボクトウガの仲間です。

イメージとしての樹液流出。クヌギコナラでこうしたくぼんだ樹液はボクトウガによる

昔の昆虫写真で、面状にえぐれた樹皮から流れる樹液に集まる虫たちの一枚がありますが、あの光景はボクトウガが引き起こしています。

生態系においては重要な種類です。

木に穴をあける蛾がいることはあまり知られていませんが、意外と身近な種です。

木くずが線状ではなく丸い場合は蛾の可能性

症状はカミキリムシに似ていますが、木くずがコロコロしているという特徴があります。

ユニークな生態を持ち、まず枝などの細い部分に穿孔しある程度の大きさになると可食部の多い地際に降りて再穿孔します。

この際地際~根にかけて食害を行うため、被害が大きくなりやすい種類といえます。ドウダンツツジなど良く枯れています。

成虫は外灯によく集まる種類であるため、写真のような成虫を目にした場合付近で発生している可能性があります。

幸いにも発生時期が9月頃の年1回だけで、かつ地際に移動した個体は除去しやすいので針金などを利用して駆除しましょう。

枝などへの被害抑制としては農薬の使用が推奨されますが、これに関しては私自身有効な農薬が不明なので農薬を使った対処もあるとだけ伝えておきます。

食害なのでオルトランなどの浸透移行性が効きそうです。


コウモリガ
秋口に発生するコウモリガと、6月頃から出るキマダラコウモリがいる

樹木穿孔性の幼虫としてはかなり巨大な種類です。

それゆえ被害も大きくなりがちですが幼虫の出す木くずがかなり分かりやすく、潜入している穴の特定が簡単なことから対処はしやすい種類です。

クルミ類にできる木くずの蓋

典型的な症状は木にできる木くずの蓋です。

前述の2種は卵が樹皮の割れ目などに埋め込まれ、小さな幼虫の段階から内部に潜入します。

下草で成長し、その後樹木に移行する

一方でコウモリガは小さい時期は樹木周辺の下草を利用し、最終的に樹木に穿孔する虫です。

そのため、体が大きく身を守る手段がないのです。それゆえ木くずに樹液や自身が出す糸を絡ませて外部への蓋をします。

コウモリガの蓋を除去した後

これをどければ内部の潜入孔が丸見えです。針金を突っ込んであげましょう。

また、下草で幼虫が成長していくため、これらの除去が有効です。

かなり大きい蛾だと分かるキマダラコウモリ。ぶら下がるさまをコウモリに例えた

成虫は外灯などにも飛来するため、姿を見かけたら確実に庭の養分にするのがおすすめです。

飛翔しながら卵を撒き散らし、部屋が卵まみれに!

コウモリガは寿命が短い蛾で飛翔しながら卵を撒き散らかすというユニークかつ園芸好きから悲鳴が上がりそうな技を見せます。

成長ペースは遅く、蛾としては2年もかかる長期成長の蛾なので、下草にいる段階で止めたいですね。

攻撃されやすい樹木

上記3種だけでかなり幅広い樹木への攻撃をカバーしています。

サクラ類

代表的なものでいえばサクラ類、ミカン類、モミジ類、ツツジ類、種名でいえば庭木に多いシマトネリコ、エゴノキ、ソヨゴあたりも狙われてしまいます。

庭木として人気の高いソヨゴ

広食性の昆虫はかなり食事の幅が広いので、常に警戒をしておきましょう。記録が少ないだけで利用できる樹種がない場合に使う樹木という可能性もありますからね。

まとめ

カエデに空いた穴も穿孔の証

樹木から木くずが出ている場合に多い広食性の昆虫とその被害状況について紹介してきました。

植物を扱う以上それを利用する虫との戦いは避けられません。それでも症状を理解しておくことで明確な対処方法が見つかったり、敵の生態的特性を理解することで被害を抑えることはできます。

おそらく危険度としてはゴマダラカミキリ>ボクトウガ>コウモリガになると思います。常日頃から植物を観察してあげることでなるべく早く少ない被害で抑えてあげられると嬉しいですね。
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樹木加害性の中で、一部のカミキリを利用するウマノオバチという10cm以上の産卵管を持つハチがいます。
樹木に空いた穴から繰り広げられる生物多様性の観察におすすめです。