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ナナフシにトゲがある?単為生殖で増えるトゲナナフシ

茶色のナナフシにトゲがある!

トゲのあるナナフシ、つまりトゲナナフシ

ナナフシという昆虫はその特異的な姿により良く知られていると思います。

身近で目にする虫の中ではかなり上手な擬態をする昆虫です。

ナナフシの姿をよく見てみると、通常のナナフシモドキと比べて明らかに太く、トゲを持つ者がいます。

トゲナナフシというトゲのイガイガ感がかっこいい昆虫です。

今回の記事では秋にかけて見かける機会が増えるトゲナナフシを紹介し、クローン生殖や擬態といった面白い生存戦略を紹介していきます。




トゲナナフシとは?

トゲナナフシはおおよそ夏~秋にかけて目にする機会があるナナフシの仲間です。

大抵地面を歩いているが、木にいた

類似種であるナナフシモドキと比べると体が短く、太いという特徴があります。

ナナフシモドキが緑のものと茶色のものがいるのに対し、トゲナナフシは茶色のものにしか出会っていません。

ナナフシモドキとトゲナナフシはだいぶ印象が異なる

体にはトゲがあり、ナナフシが枝に擬態する昆虫であることからトゲ植物に擬態している可能性と、天敵捕食を避けるための武器としての側面があるのではないかと思います。

トゲナナフシは広食性の昆虫で、出現環境の推測からサクラやブナ科など幅広い植物を食べていると思われます。

ナナフシモドキはブナ科も食べる、トゲナナフシはトゲがあるバラ科?

葉を食べる性質から夏にはあまり目にしませんが、秋になると地面に降りて徘徊している個体に遭遇することが増えます。

ナナフシらしく自切をします。足は抜けてしまうとすぐには戻りませんが、幼体であれば脱皮の過程で復活します。

枝擬態向きではない。この擬態は落ち葉など地面で光る

有名な通り植物擬態の昆虫で、ナナフシがいると認識していれば見つけられますが、なんとなくではめったに見つけられないほどの素晴らしい擬態を披露してくれる虫です。

見かけた際にはちょっかいをかけましょう。

ナナフシモドキは夜、活発に行動している

生態的にはおそらく夜行性であると思われます。ナナフシは昼も夜も活発に行動している印象が強いですが、類似種のナナフシモドキは明らかに夜見かける機会が増え、活発に移動していました。

地面にいるときは休息時であるという推測

トゲナナフシの発見は殆どの場合昼間の地面や、植物の下などです。おそらくそういった場所を隠れ家として夜に新鮮な葉を食べているのではないかと思われます。

生息環境や出現期など

トゲナナフシは葉を食べているのですが、樹木の上で見かけることはあまり多くはありません。

発見の99%が地面。樹上で見つけたのはこれが初めて

私の発見はそのほとんどが秋の葉が落ちている場所になります。

茶色い体のトゲナナフシは、自然と茶色い落ち葉の上が安心するのでしょうね。

竹が混合してくるからか?ケヤキと竹の落ち葉の上などにもいた

見かける落ち葉に傾向はなく、サクラ、ケヤキ、竹、クヌギやコナラなどの平地で普通に目にする落ち葉の上で目にしています。

単為生殖で増える性質上同じような環境で継続してみられるのではないかと思います。

出現は早いものでは7月8月頃に成虫を目にしています。

見かけるピークはかなり遅く、11月に入ってから頻度が増えます。この時期には動きが相当鈍いので観察に適しています。

自然に溶け込む擬態の持ち主

ナナフシ類の観察で欠かせないのが擬態です。芝生や木の上などに置いてみればあら不思議。

意図的に芝生に置いてみた図

知らない人はもう気が付けないくらい溶け込んでしまいます。

ナナフシモドキはそれこそ頻繁にナナフシダンス(ノリノリで左右に揺れる)を披露するため目立ちますが、トゲナナフシはじっと固まって動かないタイプです。

トゲナナフシは動かない

こうして植物の上に止まられると気づけません。

ナナフシ類の擬態は見事ですが、これは目のいい鳥類などの眼を欺くためであると思われます。

肉食傾向の強いモズはトゲナナフシと時期も合いそう

近年ナナフシは鳥に食べられることで卵を運搬するという話が上がりましたが、最終的に鳥利用であっても大人になるまで(性成熟するまで)食べられてしまっては意味がありませんよね。

この擬態は細ければ細いほど効果があるように感じます。細いナナフシは葉脈そっくりですからね。

体だけつかめば移動は簡単。暴れも少ない

擬態しているナナフシを見つけたらうまく捕まえてみましょう。

捕まえるコツはボディをしっかりつかむことです。足などは切れてしまうので掴まないようにしましょう。

掌にのせたりするのもおすすめです。空腹時には噛まれることがあるので注意しましょう。

単為生殖で増える

ナナフシの生態で面白い点はそのほとんどが♀であるという点ですね。

当然この個体も♀。割合で言えば99%以上が♀

ほとんどの生物は雌雄で交配します。ナナフシもごくまれに雌雄で交配をしますが、ほとんどの場合単為生殖という増え方をします。

これはヤマノイモのむかごなどと同じで、自身と100%遺伝子情報が同じクローンを残す繁殖です。

ムカゴは有性生殖ではなく、遺伝情報が母体と同じクローン

ナナフシ類を飼育すると分かるのですが、ウンチに交じって大型の卵が産み落とされます。

これをうまく管理することができればそれだけで次世代を育てることが可能です。

左が卵、右はうんち

ただしクローンは病気などに非常に弱いため有性生殖もたまに必要です。普通なら♂もそれなりにいるべきだと思うのですが、このナナフシ類は♂をほとんど見ることができません。

トゲナナフシの♂の事例はかなり少なく、3例ほどしか見つかっていません。

直近のものは2022年の飼育下での事例で、ナナフシの♂はもし見つけることができればちょっとした話題になるくらい印象のあるトピックです。

鳥散布の判明で、実は単為生殖でも遺伝的多様性に富むのかも

生存戦略的な視点でいえば♂の割合があまりにも低すぎてこんなに有性生殖しなくても大丈夫なのかと思ってしまいますが、ほとんどが単為生殖だというのは珍しいですよね。

卵は飼育していれば簡単に手に入りますので、見かけたらちょっと時間を置きつつ観察してみれば手に入ります。ウンチとの違いも見ておきましょう。


ナナフシの繁殖戦略

ナナフシのは♂の希少性に関しても面白いのですが、その卵運搬の戦略もかなり面白いです。

単為生殖で増えるナナフシには利点があります。

ナナフシモドキの卵。何もしなくても産む。

有性生殖の昆虫の場合産卵の直前に受精するケースが多いのですが、これはいかなる時も相手がいないとダメというデメリットがあります。(一部昆虫は蓄えることもできる)

ナナフシの場合翅などがなく広範囲を移動できないという欠点があるのですが、鳥に食べられることで長距離移動を可能にしていることが2018年に明らかになりました。

単為生殖をおこなうナナフシの卵は非常に硬く、外側がシュウ酸カルシウムで覆われています。

ヤマイモで痒みが出る人はシュウ酸カルシウムが要因

シュウ酸カルシウムはヤマノイモなどヤマノイモ科のぬめり成分として有名ですが、その実態は針状の結晶です。

そのため堅いらしく鳥の消化管を経ても数パーセントの卵は無事に孵化できるそうです。

飼育下ではかなり頻繁に卵を産むナナフシですが、高い密度で産卵するということは捕食時にも体内に卵があるということです。

まさに単為生殖だからこそできる散布戦略ですね。

ジョウビタキのような冬鳥が11月のトゲナナフシを捕食すればかなり移動できる

話によれば680㎞も移動した例があるようで、単為生殖の昆虫ではありますが、その地域で見られるトゲナナフシの遺伝的な多様性は広いのかもしれません。

本来ならば食べられて死んでしまっていると考える場面ですが、食べられること自体がワーストシナリオにおける散布戦略であるというこの研究結果は、生態系の複雑さを身近に感じられる最適な例であると言えますね。

まとめ


トゲナナフシは初夏から秋の終わりまでとても長い期間目にする事ができるナナフシの仲間です。

その割には見かける機会が少ない昆虫ですが、単為生殖を行う点や擬態の戦略がとても面白い昆虫です。

特に♂を探すロマンが楽しく、見かけるたびにほんのり期待してしまういい虫です。

まだまだこれからの季節も見つけられるので、足元の落ち葉を注目してみてください。

参考文献 science portal ナナフシは鳥に食べられて卵を遠くに運んでもらうのか?