緑色カメムシの代表種ツヤアオカメムシ

大量発生で話題のカメムシ類、その中でも緑色をしたこれこそまさになカメムシがいます。
ツヤアオカメムシと呼び、中型の緑色をしたカメムシの代表種です。
農業害虫としてよく知られるこのカメムシの大量発生には当然要因があります。
今回の記事ではなぜ大量発生するのか?農業害虫としての影響は?など関心の高いテーマを扱っていこうと思います。
要点を押さえたい方は「大量発生と食草の関係」をタップ!
ツヤアオカメムシとは?
ツヤアオカメムシは初夏~晩秋まで目にする機会の多い緑色の中型カメムシです。

大きさは1㎝ちょっと程で、翅全体にかけてニスを塗ったような艶が見られます。
他種と同様に越冬性のカメムシであり、晩秋になると集団で越冬するために葉の隙間などに集まり、密集した姿を見つけることができます。

成虫越冬したツヤアオは翌年の初夏に産卵し、秋にかけて個体数が増えていきます。
成虫発生のピークが秋であり、カメムシ類の多くが似た性質を持つため大量発生します。
食性は植物食で幅広い木々の果実を利用します。主要樹木としてスギヒノキが挙げられ、チャバネアオと同様にスギヒノキの果実を食すことが成長上重要となります。

難しい点はスギヒノキだけで発生しているわけではないという点で、近年の研究によりコブシやクロガネモチといった平地の普通種や庭木でも生育可能な事例が出てきています。

主要な木々がスギなどであることからチャバネアオと並んでスギヒノキなどの植林地での害虫ともされ、果実の胚を吸われたスギヒノキの発芽が低下することが明らかになっています。

成長した成虫は餌資源として非常に多くの果実を加害するため、チャバネアオ、クサギと並ぶ果樹加害の主要昆虫と呼ばれます。特にカキやモモでの被害が多いようですね。
大量発生と食草の関係
植物利用性の昆虫の発生要因として最も重要なものは、餌となる植物がどれだけあるかというものです。

過去に大量発生した昆虫を例にとると、キアシドクガやアメリカシロヒトリのように良く生えている植物を利用するもの(食性が狭い)や、マイマイガやクスサンのように20種以上もの植物を利用する

(広食性)ものなどおおよそ2タイプの発生方法があります。
ツヤアオカメムシの利用植物はスギやヒノキであることが明らかになっています。

受粉したスギヒノキの成長途中にある球果を利用し、それが減ってくると果実類を利用するようになると指摘されています。
成長過程における重要な餌がスギヒノキである(他種も考えられるが)ことからキアシドクガやアメリカシロヒトリのような特定種に成長過程を依存していると思われるカメムシですね。
これが意味することはスギヒノキがあればあるほどツヤアオカメムシは発生することができるということです。

ツヤアオの事例ではありませんが、チャバネアオカメムシにおいては前年度の夏のスギヒノキ結実量を見ることで翌年のチャバネアオが大量発生するかどうかを予測することができる可能性が示唆されています。
数の多い植物利用昆虫の利点でもあると言えますね。
大量発生昆虫を見かけたらその虫の生態的な部分に注目することで納得がいくはずです。
そしてこれは私見ですが、カメムシ類の大量発生は今後も続いていくのではないかと考えています。
まず餌資源は花粉の飛散元である雄花の量で決まるわけです。

花粉の飛散量は毎年右肩上がりで増えているという印象が強いかもしれませんが、神奈川県が出している花粉資産量データを参照すると年によるアップダウンが激しいもののこの調査における花粉の結実具合はある程度一定であることが分かります。

資源面が変わらないのであれば変化する影響を与えるのはカメムシ側です。
前述したキアシドクガは相模原にて大量発生し、周囲の雑木林にあるミズキ全てが丸裸になるまで増加しました。その後餌資源の不足により自然と個体群が維持できるレベルに落ち着いたのです。

カメムシの場合にはどうでしょうか?今年大量発生しているカメムシをツヤアオと仮定した場合、彼らもまたスギやヒノキの資源がなくなるまで増えることが可能です。
スギやヒノキは地域差もあると思いますが、植林の多いエリアでは山の70%近くがスギヒノキであったりとほぼ無限に近い数の餌資源があります。
そのため今年大量発生したエリアではグラフにあるように雄花の生成量が激減するタイミングが来るまでは発生が続くものと思われます。
雄花の生成には猛暑が関係していると記述されていることから、来年もカメムシは大量発生しそうですね。
あくまで推測です。

これに比較的新しい知見である庭木利用の視点が加わると森で発生し、街中に移動したカメムシが街中で餌資源の限り増殖する可能性もありますよね。
スギヒノキが主要であるのには変わりないですが、広食性なだけあって調査次第ではまだまだ利用植物が見つかりそうです。
ツヤアオカメムシに似た身近なカメムシ
ツヤアオカメムシは緑色のカメムシなのですが、緑色の身近なカメムシにはほかにも何種類買います。

やや小型のチャバネアオカメムシは同じく農業害虫で、さらにヒノキ依存性が強いカメムシと性質や出現環境も似ています。
ただチャバネの名の通り翅に茶色い模様が入るため見分けやすい種類ですね。

瓜二つな種類としてはアオクサカメムシと、ミナミアオカメムシがいます。
太陽のもとであればツヤアオに見られる光沢で判別が可能なのですが、暗所や隠れた姿では判別が難しいなと感じることもあるとても似た種類です。

このうちミナミアオも広食性であることが知られており、群馬県農業技術センターによれば32科145種もの植物を利用すると言われています。
嗜好性についてはアオクサはマメ科、ミナミアオはイネ科が高いようで、ツヤアオやチャバネとは嗜好性をそらすことでうまく棲み分けしているのかもしれません。
農業害虫としてのツヤアオカメムシ
カメムシ類の研究はたびたび更新されているため最新のものではないのですが、ツヤアオカメムシは古い論文で12科17種の植物を利用すると指摘されています。(1976年とかなり古い)

カメムシ類の加害は品質低下に関わるため、農家さんには死活問題です。例えばカメムシに吸われたお米のまだら米などは被害として分かりやすい例です。
ツヤアオはかんきつ類やバラ科など非常に広い果実を利用します。

おそらく何を加害し、どれを加害しないのかは不明瞭だと思いますが広食性であるため何を食べても不思議ではないのが正直なところですね。
ツヤアオの不思議なところはチャバネアオやクサギに比べ、農作物に対する研究が少ない所です。紹介した事例が1976年のものであることからも情報の少なさが見えます。

また、各県が出している情報もチャバネアオやクサギ、ミナミアオなどの方がよっぽど多いです。
これはおそらく優先度の問題と思われます。
私は果樹加害の現場を見たことが無いのであくまで推測となりますが、チャバネアオやクサギの果樹加害がより強烈なのでそちらがよく研究されているのではないかと思います。

カメムシ類なので果樹園においてはその2種のおまけで対処されてしまうのではないでしょうか?
カメムシ類の加害が他の害虫と異なる点は、幼虫と成虫の出現場所が違うという点です。
前述したキアシドクガは食草のミズキ周りで幼虫成虫共に完結していますし、アメリカシロヒトリもサクラ周りで完結します。
すなわち幼虫の駆除=成虫の駆除です。

一方でカメムシ類はツヤアオの場合スギヒノキを主要とし、成虫が果樹園にやってくるというパターンです。成虫の駆除≠幼虫の駆除なんですよね。
害虫駆除の面で見ると防除しにくい昆虫だと思います。
逆に言うと果樹園周りの対策に集中すれば種類問わずカメムシ類を駆除できます。
そのための手段が農薬や目の細かいネットであり、ツヤアオはクサギとチャバネ対策のついでに除去されているのではないでしょうか?というのが農家の現場を知らない私の仮定です。
天敵について
カメムシ類の防除が難しいという話をしました。食物連鎖的な視点に目を向けてみると必ず捕食者はいます。

カメムシ類の数を大きく抑制する要因が卵における寄生バチです。カメムシの卵といえば円状に産み付けられる粒粒が有名ですよね。
この卵を利用する寄生バチ類や寄生ハエ類がカメムシの天敵です。
卵の寄生性は自然界ではよく知られており、記憶もあいまいですがアゲハチョウの事例では100の卵の内半数近くが外敵によりダメになっていた事例があったと思います。

カメムシの場合に関しては面白いものがあり、季節変動の影響はあるものの8月9月の恒温条件で採取された野外産の卵ではサンプル数30の内28もの卵が寄生バチにやられていたと報告されています。サンプル数や季節感の差異など比較は必要だと思いますが、なかなかに衝撃的な数字ですよね。
このタマゴクロバチの仲間の強烈な抑制がなければカメムシはさらに発生していることでしょう。
この話をするまでタマゴクロバチの仲間というハチのカテゴリー群を知らなかった方も多いのではないでしょうか?
こうした影の案役者が多数の自然界の生き物を抑制しているんですね。なのでよく知らないからとか興味がないから、存在意義が分からないからといった人の都合で判断してはいけないんです。
今回の記事でもカメムシを様々な視点から見てみました。
皆様もぜひ1匹の虫を見かけたなら視野を広く持ち、害虫?なぜ大量発生する?餌はなんだ?天敵は?環境は?
食物連鎖でどんなものとつながる?などと考えてみてください。私もまだまだ勉強中ですが、自然というものの繋がりが見えてきて面白いです。
まとめ
秋に目にする緑のカメムシには身近なものが4種おり、ツヤアオカメムシは光沢感から判別できる種類です。
成長過程ではスギ・ヒノキを利用し、成虫が果物を加害します。
大量発生には餌資源が深く関わっており、スギ・ヒノキが多いことからしばらく発生し続けるのではないかと思います。
身近な事例として昆虫の大量発生や、天敵捕食の関係などを学べるいい題材なので、秋の自然観察でおすすめの対象です。
参考文献 香川県ミナミアオカメムシの生態と防除について
群馬県農業産業センター ミナミアオカメムシの発生を確認しました
果樹を加害するカメムシ類に関する調査 チャバネアオカメムシとクサギカメムシのスギ及びヒノキでの発生形態(小田道宏・杉浦哲也・中西嬉徳・柴田叡弌・上住秦)
神奈川県 令和5年春のスギ・ヒノキ花粉飛散量は多い
カメムシ類によるカキの被害と加害種の生態について(池 田二 三 高*・ 福 代 和 久)
ツ ヤ ア オ カ メ ム シ の 発 生 生 態 と 生 活 史 に 関 す る 研 究(本 田 知 大)
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