イボタノキと白い蝶
初夏に人気の蝶としてウラゴマダラシジミという蝶がいます。
ゼフィルスの愛称で知られるミドリシジミの仲間の蝶なのですが、類似のアカシジミやミズイロオナガシジミがクヌギやコナラの林で遭遇できるのに対し、ウラゴマダラシジミはイボタノキというかなりマイナーな樹木を利用するため、この種を狙っていかないとなかなか観察の機会が無かったりします。
今回の記事では5~6月にだけ現れるゼフィルス、ウラゴマダラシジミを紹介し、その食草であるイボタノキの見分け方など含めて紹介します。
ウラゴマダラシジミとは?
ウラゴマダラシジミはシジミチョウの仲間でミドリシジミ亜科に所属する蝶の仲間です。
日本に25種がいるゼフィルスの相性の名で知られる蝶であり、チョウのカテゴリーとして圧倒的人気を誇ります。
ウラゴマダラシジミの出現は年一化であり、成虫は5月中旬~6月中旬くらいまで出現します。
食草はイボタノキであり、これを利用する虫は鱗翅の仲間ではウラゴマダラシジミとイボタガ程度なので知名度がない植物であることが問題となります。
姿は一見するとルリシジミに見えますが、ルリよりもずっと大きいです。ゼフの仲間なのでアカシジミなどが分かれば同じサイズ感です。開帳3~4㎝程あります。
(写真は乾燥標本ができたら乗せます)
翅を開くと光沢は他種と大きく違っており、ゴマを散りばめたようなややマーブルな模様と紫と白を混ぜたような上品な色合いが見られます。
ルリシジミの♀のような入り方で全面あるわけではありませんが、大変美しく人気なのも納得の美麗種です。
ミドリシジミ亜科とゼフィルス
アカシジミを始めとする年一化出現のシジミチョウの仲間のことを愛称をこめてゼフィルスと呼んでいる方が多いです。
日本には25種類のシジミチョウが該当することが知られています。
ゼフィルスはミドリシジミ亜科の蝶の多くが該当しているため、ミドリシジミ亜科の蝶はゼフィルスであると思われがちです。
しかしながらこの仲間にはムラサキシジミやトラフシジミ、カラスシジミなどのチョウも含まれておりそれぞれ年複数の羽化や春型夏型があるなどミドリシジミ亜科の仲間にもいろいろといることが分かります。
この違いに関してwebで見られる論文「初心者のためのゼフィルスの見分け方」では「ゼフィルスの前翅第 9 脈は第 7 脈から派生,共通枝は第 6 脈上から分岐するとある.」と指摘されており、標本や表翅の鮮明な写真があれば支脈の6脈と7,9がはっきり繋がっているゼフィルスと、分岐しているトラフやムラサキシジミと分類することができます。
これ以外にもゼフィルスの仲間は種により時間帯を分けてそれぞれ活発に行動する時間が入れ替わるなどの面白い生態も明かされています。
ウラゴマダラシジミが利用するイボタノキ
この蝶の発見で厄介となるのがイボタノキです。
イボタノキはモクセイ科の植物であり、ネズミモチなどが分かれば近い仲間になります。
特にイボタを知らない方にとって厄介となるのが同時期に花を咲かせているウツギの仲間であり、最初のイボタノキに出会うまでは結構悩ませられると思います。
イボタノキは花がジンチョウゲを連想させるような筒形をしています。ウツギは5枚の花弁であるため随分違いますね。
葉も画像などで見るととても似ているのですがイボタの方がより小型です。
また木のシルエットというのも大きく異なり、ウツギは低木としてしなだれていることが多いのですが、イボタノキは大型になると球形に近い形になります。
また、イボタノキはモクセイ科であることからかなり特有の香りがあります。風下に立ってみれば歯医者の待合室のようなかなり強烈な香りが漂ってきます。
イボタノキの生息環境としては低木であることから雑木林の中よりも林縁環境にあることが多いです。
河川敷の湖畔林などではエノキやハリエンジュ、クルミなどからなる林の縁に生えていました。イボタノキが点在するように生えていればウラゴマダラシジミが生息している可能性は高いです。
このウラゴマダラシジミは幼虫も成虫もイボタノキを利用する蝶であるため、イボタへの依存度がかなり高い種であるようです。
イボタから離れることがほとんどないため、本種の発見にはイボタの発見が絶対に必要です。
ということは食草であるイボタノキが生える環境を把握することがそのまま遭遇率に匹敵するということで、これぞスペシャリスト(特定のものを食べる)の昆虫を探す醍醐味という感じがしますね。
ウラゴマダラシジミの活動特性
まずウラゴマダラシジミの活動傾向を述べますとこの蝶の活動は「日本産 ミ ド リシ ジ ミ類 5 種 の 雄 の 活動性 とそ れ に 対す る
照度 の 影響に つ い て」にて研究がなされており、およそ6~8時ごろ(晴れの日をベースとする)と14~16時ごろであることが判明しています。
一方で太陽光が遮られ照度を示すルクスが下がると活動が活発になることも確認されています。
この種は明るすぎると活動が抑制されることが示唆されています。(ルクスの低下により活動が高まる)
私的な観察によれば晴れのち曇りの天候の日に河川敷の雑木林でこの蝶がたくさん飛翔している場所を発見しました。
林縁であることから縁と雑木林の内部ではそもそもの明るさが異なり、縁では飛翔が見られず雑木の内部では飛んでいるという状況でした。
少しして太陽が雲に隠れると、この蝶の活動範囲はイボタが広がっている林縁まで広がり、内部で見た以上に数がいることが分かりました。
おかげで数頭採集しても平気だと考えられたのですが、不思議なことにまた日が昇ると縁での飛翔数がお幅に減ってしまったんですよね。
こうした経験からウラゴマダラシジミの活性時間が6~8時と14~16時程度(明るすぎず暗すぎない)であることはかなり説得力があると感じています。
一方でイボタノキが多数生える所ではイボタ自身が生えている周辺環境の高木などの条件により晴れていても十分飛翔が見られる場所、周囲が開けていれば条件次第では全く飛ばない場所などもあるようです。
ウラゴマダラシジミに限りませんがゼフィルスの仲間は照度が大きく関連しているように思えます。非常に面白い生態です。
今年はもうシーズン後半になるとは思いますがまだ出会えるはずです。興味のある方はぜひこの美麗な蝶を観察してほしいですね。
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平地のゼフィルス、アカシジミは最も目にしやすい種類だと思われます。それにはやはり食草が絡んでおり、ウラゴマと同様に出現時間の傾向さえ把握しておけば遭遇できます。
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ウラゴマダラシジミは他ゼフィルスほど高いところにはいません。しかしチョウ類の捕獲には網が大きいほど有利ですよね。
限られた時間のみ現れる蝶を捕まえるためにも良い網を備えておくことをオススメします。
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蝶の展翅などやってみたいと考える方にはこの記事がおすすめです。
引用文献.長谷川 大. 初心者のためのゼフィルスの見分け方. やどりが第250号(2016).
参考文献日本産ミドリシジミ類5種の雄の活動性とそれに対する照度の影響について 江田 信豊