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黄色いシジミチョウ? ウラナミアカシジミは、黄色、オレンジ、黒が目立つ人気のゼフィルス!

明るい黄色とオレンジを混ぜたようなシジミチョウ

派手派手なシジミチョウ。ウラナミアカシジミという人気の一種。

初夏の雑木林にカブクワ目当てやお散歩のために歩いていると黄色っぽいシジミチョウの仲間を目にするはずです。

この赤色はアカシジミだな?と見てみれば、なんとアカシジミよりも黄色みが強く焦げた模様が入っています。

この蝶こそウラナミアカシジミと呼ばれ、近年都市圏では見かける機会が減少してきた蝶です。

一方で平地性ゼフィルスとしてその特有の模様から人気のとても人気が高い虫です。

今回の記事ではウラナミアカシジミの減少と人間生活の関り、観察の時間などを考察していきたいと思います。




ウラナミアカシジミとは?

ウラナミアカシジミはシジミチョウの仲間の中でもミドリシジミ亜科に所属する人気のチョウです。

黒い線状の模様がかなり目立つ。観察はけっこう大変。

成虫は年1化でおよそ5月中旬~7月上旬程度まで出現します。
類似種としては同じ名を持つアカシジミがいます。アカシジミはオレンジの傾向が強いのに対しウラナミアカシジミは黄色を混ぜたようなオレンジ色をしています。

加えて翅の裏側には黒い波のような模様が入っており、アカシジミとは異質な風貌をしています。

食草はコナラやクヌギなどのブナ科樹木であり、いわゆる雑木林環境に出現します。

クヌギやコナラの若葉、いわゆるヒコバエを好む傾向が知られている。

しかしアカシジミと比べるとめっきり見かける機会が減少してきたように感じますね。

体長はアカシジミと同程度でルリシジミの大型やミズイロオナガシジミなどと同じサイズ感で、ちょっと大きいかなというサイズ感です。

翅を広げて4㎝前後とシジミチョウの中では大きく、色の要素が無くても分かる程度には大きいです。

ミドリシジミ亜科とゼフィルス

アカシジミを始めとする年一化出現のシジミチョウの仲間のことを愛称をこめてゼフィルスと呼んでいる方が多いです。

同じ名を持つアカシジミ。飛翔時は判別が難しいことも。

日本には25種類のシジミチョウが該当することが知られています。

ゼフィルスはミドリシジミ亜科の蝶の多くが該当しているため、ミドリシジミ亜科の蝶はゼフィルスであると思われがちです。

しかしながらこの仲間にはムラサキシジミやトラフシジミ、カラスシジミなどのチョウも含まれておりそれぞれ年複数の羽化や春型夏型があるなどミドリシジミ亜科の仲間にもいろいろといることが分かります。

ミドリシジミ亜科に含まれるトラフシジミ。しかしゼフィルスではない。

この違いに関してwebで見られる論文「初心者のためのゼフィルスの見分け方」では「ゼフィルスの前翅第 9 脈は第 7 脈から派生,共通枝は第 6 脈上から分岐するとある.」と指摘されており、標本や表翅の鮮明な写真があれば支脈の6脈と7,9がはっきり繋がっているゼフィルスと、分岐しているトラフやムラサキシジミと分類することができます。

これ以外にもゼフィルスの仲間は種により時間帯を分けてそれぞれ活発に行動する時間が入れ替わるなどの面白い生態も明かされています。


ウラナミアカシジミの活動特性について

ウラナミアカシジミの観察には同じ平地性のアカシジミやミズイロオナガシジミと比べ苦労することになると思います。

アカシジミとミズイロオナガシジミ。ウラナミアカより見る機会は多い印象。

<原著>三草山におけるゼフィルス類成虫の日周活動性ならびに摂食行動に関する観察」にてこの蝶の飛翔特性が検証されています。

ウラナミアカシジミは夕方の17~18時頃に活動ピークがあるとされており、これは多くはありませんが私の観察経験ともあいます。

夕暮れ飛翔の傾向が強いですが、他のゼフィルスと同じく照度(ルクス)により飛翔が誘引される可能性が考えられます。

曇りの日の栗の花にて正午前後でも入った

例としてアカシジミやウラナミアカシジミが好むクリの花での観察事例を例にとると曇りの日の山間に正午ごろ来ていることがありますし、晴れの日でも2~3時の強い日差しが日の傾きと共に山の影に隠れることで、前述の研究よりも早い15~16時程度の時間でも飛翔する個体を目撃します。

そのため、環境によりこの蝶の出現時間は左右するものの遮るものなどが無い条件下では17~18時にピークがあるものだと思われますね。

7月上旬の19時前の雰囲気。これぐらいの黄昏時に活発になる

一方で曇りの日はチャンスがまばらであり、いつ出るのか分からないという不便な点もあります。

また、この蝶を他のwebなどで調べてみると分かるのですが、薄暗い写真がとても多いです。それほど明るい時間には活動してくれません。

日差しとはなかなか縁がない蝶であり、樹上に止まる性質から撮影難易度がとても高い種類なのです。

ウラナミアカシジミの特徴

まずこの蝶の色合いはかなりユニークなものとなっています。

これほど派手で身近な蝶はいない気がします。

黄色とオレンジを混ぜたような色のチョウは多くはありません。

更にその色に黒い波状模様が入っています。

派手な色に黒ということで一種の警告色なのかもしれません。

後翅が部分的にない。彼らの戦略により致命傷を免れた例

今回の個体は鳥に襲われたと思われる個体で後翅半分がありません。

尾状突起の例としてミズイロオナガシジミの完品を例にします

本来のウラナミアカシジミには尾状突起という針状の突起と頭部を連想させる模様があります。

アカシジミを例に尾状突起が触覚、黒点が目玉に見えて翅の後ろが頭部のように見える

これにより突起と模様を頭に錯覚させることで捕食される可能性を下げているものと思われます。


ウラナミアカシジミの減少?と好む雑木林

広範囲のウラナミアカシジミを観察しているわけではないので、傾向的な話となります。

当地では目視は数度あったものの捕獲は初めて

アカシジミと比べウラナミアカシジミを観察する機会は大きく減っているように感じます。

ある程度育ったクヌギやコナラも利用するアカシジミに対してウラナミアカシジミは萌芽更新により発生する若い新芽などを好む話があります。

ナラ枯れにより胴吹きなどでも新芽が吹き出すようになり、観察できるようになった可能性も考えられそうです

ブナ科に依存する平地性ゼフィルスの中でもこの性質が見られるのであれば、かつての薪炭林環境によく見られた種類なのかもしれません。

現在はナラ枯れや萌芽更新による台場クヌギ減少など様々な要因が雑木林で起きており、若い雑木林というよりは年季の入った大径木が増えていると思います。それによりそうした木々を好むナラ枯れが猛威を振るっていますよね。

とはいえ雑木林の管理も大変なもの。管理の必然性を見出すのは簡単ではない。

ウラナミアカシジミの観察機会が減ったように感じるのもこうした人間生活的な背景が絡んでいるのかもしれませんね。

今回私の観察地域では久々にウラナミアカシジミを発見することができ、嬉しいとともに君いつぶりだよと複雑な気持ちになりましたね。

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ゼフィルスの捕獲には長竿網を利用することが効果的です。

引用文献
長谷川 大. 初心者のためのゼフィルスの見分け方. やどりが第250号(2016).

参考文献
日本産ミドリシジミ類5種の雄の活動性とそれに対する照度の影響について 江田 信豊