緑の可愛らしい鳥の正体は?
秋になるとカキの木やツバキなどにくっついている小さな緑色の鳥を目にする機会が増えます。

非常に小柄な鳥で、よく見ると目の周りが白く色づいています。この特徴に合致するのがメジロという鳥です。
鳥や自然に詳しくない方でも名前はよく知られているメジロ。
今回の記事では身近な鳥であるメジロを紹介し、バードウォッチングや自然界における役割などをお伝えします。
メジロとは?
メジロは観察している限りではスズメと同様もしくはわずかに小さいサイズ感の鳥です。

普通種の鳥で、街中であっても簡単に目にすることが可能です。
その理由としては餌資源がやはり上げられ、彼らはお花の蜜や果物などをとてもよく好む鳥です。
特に冬の梅、春は桜、秋はカキなどで見かけることが多いですね。

姿は鮮やかな緑色をしており、メガネをかけたような丸い白模様が目を囲んでいます。
この特徴がかなりユニークであり、似た種類の鳥もいないので見分けは非常に簡単な鳥です。
とても大人しい鳥で、特に食事をしている最中は2m程まで接近できることがあります。梅や桜の時期にはぜひ近づいてみましょう。

縄張りを持つようで平均6475㎡であることが指摘されています。結構広く、街中では簡単に重複してしまいそうですよね。
それゆえかメジロ同士がウメや桜でちょっかいをかけている場面に遭遇することもあります。
めじろ押しで知られるように群れる印象があるかと思いますが、単独で見ることの方が圧倒的に多いという印象です。
メジロと植物の花粉運搬戦略
メジロを語るうえで欠かせないのが花粉運搬に大きく貢献する鳥であるという点です。

植物の受粉を助けるという役割ではハナバチ類が有名です。我々が利用する農作物の75%ほどがハナバチの受粉に由来すると言われていますね。
メジロは農作物の受粉(一部バラ科などでは貢献しているかも)には大きく貢献はしていないと思いますが、バラ科のサクラ類などによく来ていることから同じくバラ科の果樹類には貢献しているかもしれません。

メジロはハチ類とはやや異なり、より大きなツバキ科の植物への貢献が良く知られています。
ツバキの花は大人の手のひらの拳ほどの大きさがあります。

ツバキ科の花は茶道具の茶筅(ちゃせん)のように大量のおしべをつけます。
長いおしべであるためふにゃふにゃになってしまうのですが、根元の部分に複数のおしべをまとめることで、倒れることのないおしべに仕上げています。(集約おしべといいツバキ科に見られる)

複数の集約おしべによりツバキの花は中心が空洞、その周辺に大量のおしべという構造をしています。この奥に大量の蜜を準備しているのです。
ハチ類やアリ類がこの蜜を求めてくることがあります。しかし大きさが適切でないため、花粉運搬には適していません。彼らの狙いは鳥です。

ツバキ科の受粉にはヒヨドリやメジロが貢献していると言われています。実際冬にこの2種の鳥はかなり高頻度でツバキ科を訪れています。
鳥は赤色の波長をよく目にすることができると言われていますよね。秋の果実に赤色のものが多いことやツバキやサザンカに赤色が多いのもこれが理由だと思われます。

花を訪れたメジロは蜜を求めて羽毛にまみれた体を突っ込みます。するとハナバチの細かい毛に花粉が絡まるように鳥の羽に花粉が大量につくのです。

めしべはツバキ科の中心にあるので、次に花を訪れると受粉することができますね。 こうした営みによりツバキ科は受粉し、我々のもとへツバキオイルなどがやってくるというわけです。
ツバキオイルの存在は知っていても、メジロやヒヨドリに感謝の気持ちを持っている人はいないのではないでしょうか?

皆様も冬に椿を見かけたら少し待機してみてください。ヒヨドリとメジロの2種はとてもよくこのお花を利用していますからね。
ちなみにですが三宅島のツバキを訪れる鳥類を調査したものでは78%~96%はメジロが占めると指摘されていました。メジロ様様です。

メジロは餌資源の少ない時期に花蜜を確保でき、ツバキ類も送粉者によって受粉が助けられるというwin-winの関係ですね。
また、種子の運搬にも貢献しているものと思われます。果実利用で種子運搬のものとしてはムクドリやヒヨドリの方が強いと思いますが、メジロもカキなどの一部果物を利用しています。

我々も日々食べる果物は種子散布の戦略の1つです。スイカなど分かりやすいと思いますが、果肉とともに種が混じっていますよね。
家の中では捨てられてしまいますが、野外であれば食べた後に吐き出されるだけでも戦略としては成功です。欲を言えば食べたまま運搬されてウンチとともに出られれば動けない植物が新天地に移動することができます。
目白押しでおなじみのかわいい鳥
ここからは個人の主観的な意見です。

メジロはとてもかわいい愛嬌のある鳥だと思います。
人間の生活にはとてもなじみ深い鳥であり、昔の縁側で一息つくような場面にいても違和感がないほど身近な鳥でしょう。
メジロは単独で過ごしていることが多いのですが、冬になると集団で過ごすことがあるそうです。

私はかれこれ10年ほどフィールドに出ていますが、メジロが団子状に集まっている場面には出会えていません。
しかし「めじろおし」という言葉はこの集団になるメジロたちのことが由来となっています。
団子状に詰まるメジロの様を例えたものですね。
町中では今はなかなか見られないかもしれませんね。


目白押し(メジロ単体の群れ)ではありませんが混群にいることも多い鳥です。
混群とは小さな鳥たち、主にシジュウカラ、ヤマガラ、エナガ、メジロ、コゲラ辺りの鳥たちが種別であるにもかかわらず同一の群れをつくるというものです。

混群は餌資源の多い所で目にすることから、油断やスキが生まれやすい食事中の眼を増やすことで、天敵となる猛禽類などの攻撃を避けているものと思われます。

この時期は特にカラスザンショウが人気で、混群を作る鳥たちが来ています。秋はカラスザンショウ。冬はツバキの仲間を探してみましょう。
留鳥のメジロ
緑の鳥はいつの時期に目にするでしょうか?意識してみれば一年中そこらで目にすることができるはずです。
こうした年中移動せずとどまり続ける鳥を留鳥(りゅうちょう)と言います。
この鳥は季節移動を行わない鳥のことを指す用語です。しかし完全にすべてが移動しないわけではなく、前述の三宅島の例では観察したメジロの9%が本土より渡ってきたものだと指摘していました。
なので留鳥の傾向ですが全くそうではないようです。

似た言葉としては漂鳥(ひょうちょう)がありますね。こちらは季節で平地と山地を使い分けたり、日本国内に来たり去ったりするものです。
冬に平地、夏に山地にいるオシドリやモズなどが例でしょう。バードウォッチングなどをしているとよく聞く言葉なので覚えておくといいと思います。
バードウォッチングの対象としておすすめ
メジロはバードウォッチング対象としてとてもおすすめできる種類です。

初心者のバードウォッチングで重要なのはとにかく鳥というものを観察することだと思います。

鳥といえば色合いの美しいもの!猛禽類!と珍しい種類から入るのもいいとは思いますが、冬の寒いなかで見るのに苦労する体験はハードすぎます。

一方でメジロは各季節に来る植物の傾向も固まっており、見た目のかわいらしさや模様の特徴、鳥との距離感、出会いやすさ、混群などの生態的な面白さなど全てが初心者に向いています。
町中でも観察できる手軽さが最大の魅力だと思いますね。梅やロウバイのついでに観察できれば蜜をおいしそうに舐めている場面などにも遭遇できます。

生き生きとした姿を近くで見られるという意味でこれ以上最適な種類はいないでしょう。
メジロはよく聞く鳴き声として「キョキョキョキョキョキョ」というかなり特徴的な声があるため、それが分かりやすいです。
鳥はいくつかの鳴き声を持つため、メジロの声について調べてみたところ面白いものが見つかりました。
なんとその調査をした方はメジロの声が85種類もあることを指摘しています。
声真似上手なガビチョウは鳥のさえずりを真似して複合させた鳴き方をするので非常に多くの鳴き声を持ちますが、それにも負けないようなレパートリの多さですね。
見た目だけでなく鳴き声も面白いメジロをぜひ探してみてください。
参考文献
配偶様式の違いが現れたメジロとウグイスの夜明けの鳴き声頻度
大坂英樹
植物の繁殖に関わる生物間相互作用:
ヤブツバキとメジロが三宅島の森林生態系回復に果たす役割
阿部晴恵・長谷川雅美
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冬のバードウォッチングのネクストステップにおすすめなオレンジの鳥です。冬鳥というメジロと異なる性質の鳥です。
pljbnature.com
漂鳥のモズは肉食傾向の強い鳥で、高鳴きなどの特徴的な行動も面白い鳥です。