寒いのに現れる大型の蛾
夜の気温が一桁台になると現れる蛾がいます。
しかも一般的な蛾に比べるとかなり大きく、恐怖してしまう人もいるかもしれません。
その蛾こそ夜行性で外灯周りに集まるヤママユガの仲間の2種、ヒメヤママユとウスタビガです。
晩秋と初冬という変な時期に現れることから存在を知られていない虫ですが、虫好きから愛され熱狂的なファンも多い昆虫です。
今回は晩秋以降目にする蛾を紹介し、皆様が持つ蛾の偏見を払えような彼らの魅力を紹介します。
ヒメヤママユとは?
ヒメヤママユは主に10月中旬ごろから出現する蛾です。
山地で見つかるヤママユの仲間の中でも小型種であり、小さいものでは大人の親指を除いた4本の指をつけた時くらいの大きさのものがいます。
食草は幅広いと思われますが神奈川では個体数が少ないらしく、幼虫を見かけることはあまりありません。
広食性であることが知られており、クヌギコナラやケヤキ、モミジなど幅広く食べているものと思われます。
成虫は秋の夜、外灯に集まるものを探すのが普通です。山地及び多産地では外灯周辺で目にすることができますが、最近は見る機会が減った種類という印象です。
身近では高尾山でや宮ヶ瀬などで目にする機会が多いですね。
ウスタビガとは?
ウスタビガは11月中旬ごろより出現する蛾です。
ヤママユの仲間の中では中型種で、小さいものはヒメヤママユの最小と同程度、大きいものは翅を広げた際に10㎝近いものもいます。
食草はやや幅広いと思われ、私が観察した地域ではクヌギコナラ、エノキ、イヌシデ、モミジで繭を見かけたことがあります。
広い食性に対して生息地は狭いように感じます。これは実際に狭いのか寒い冬の夜に昆虫を探す機会が少ないからなのかは分かりません。
生息地での個体数はそこそこいるようで、一度ポイントを見つけられれば外灯周辺で継続して見られる傾向があります。
ウスタビガも夜行性で外灯に集まりますが、日差しの指す昼間には♀を求めて飛ぶと言われます。
いずれにせよ出現は寒い時期になるのでウスタビガ、もしくはフユシャク狙いのなかなか厳しい採集になります。
♀は明け方に外灯に来る傾向があるようで、朝方外灯を見て回るのもおすすめです。
朝が寒い時間帯であるため、活性もかなり落ちています。
ヤママユの仲間にみられる特徴
ここでヤママユの仲間に共通する点を紹介しておきます。
まずヤママユの仲間で身近なものとしてオオミズアオ、ヤママユガ、クスサン、ヒメヤママユ、ウスタビガが挙げられます。
この5種は出現期をずらすことで出会いの場としての外灯での競合を避けているのではないかと思われます。
オオミズアオは4~9月と長い出現期を持ちますがヤママユは8~9月、クスサンは9~10月、ヒメヤママユガ10~11月、ウスタビガが11~12月です。
なぜ外灯を利用するかというと彼らの寿命は極端に短いからです。成虫には口がなく、食事を一切取りません。
そのため寿命は数日しかないのです。彼らの様々な機能は出会うために特化しています。
代表的なのが触覚ですね。
♂の触覚は櫛のようにかなり巨大になっており、♀が放出するフェロモンを感知できるようになっています。
♀は逆にひも状の触覚をしています。この仲間は触覚を見るだけで♂♀の判断が可能なので覚えておくと役に立ちます。
翅にはそれぞれ特有の眼状紋(がんじょうもん)を持ちます。
これは鳥などの天敵を驚かせるためのもので、実際にかごの中の鳥に隠していた目玉模様を見せると暴れてしまうという実験がありました。
種の特徴としてはっきり現れている通り、かなり有効な戦術のようです。
眼状紋の中でもウスタビガのものはかなり特殊で、白色のレンズのような見た目をしています。効果の程は不明ですが、ヤママユの中ではウスタビガにだけ見られる変わった特徴です。
♂♀の違いと色彩変異や大きさの違いが楽しい蛾
ウスタビガやヒメヤママユは出会うたびに楽しみがある蛾です。
その要因として♂♀による大きさの違い、色合いの違い、鮮度の違いが挙げられます。
前述の通り♂と♀では触覚の形が異なるほか、大きさや体の形態も異なります。
特に♀は短い寿命の間で次世代につなぐ必要があるため、外灯を出会いの場としており、この段階ですでに卵を抱えています。
そのため体に対してとても大きな腹部を持っています。
まるまるしていてとても可愛いんですよね。
今回は外灯に6匹も来ていたのですが、いずれもかなり小型の個体ばかりでした。過去に見た個体の半分程度の大きさで、あまりにも可愛すぎましたね。
次に色合いの違いです。ヤママユの仲間の最も面白い部分と言えるかもしれません。
まず傾向としてはウスタビガは黄色をベースに、ヒメヤママユは茶色と赤をベースにしています。
今回であった6匹の蛾の色合いを見ていきましょう。まずウスタビガですが黄色に黒を混ぜたような色合いをしていますね。
こちらが♂の基本的な色合いです。しかしこの個体は黒味が強いように感じます。特に翅の中腹あたりに入る黒線が明瞭でかっこいいですね。
翅に僅かな傷がありましたが、鱗粉などは野生のものとしてはかなりきれいな個体です。
♀は鮮やかな黄色というのがぴったりです。♂に比べると色の変異は小さいように感じます。
ヒメヤママユは代表的なものがレンガのような色をしています。しかし今回目にしたのは茶色みの強い個体でした。
♂に関しては色合いの変化が特に面白く、黒味を帯びる黒化型の個体などは特に人気が高いです。
秋の蛾らしい色合いを感じさせますね。
♀もベージュのような色をしていてクリームっぽいです。これまた秋らしい色合いですね。
最後に鮮度の違いです。
昆虫には出現初期~死亡ギリギリまでの期間があり、蛾に限らず様々な種類で鮮度があります。
写真的には初期の個体が最も美しいためぜひ狙いたいのですが、自然下で、僅かな発生期の昆虫にピンポイントで遭遇できることは多くはありません。
それゆえにこのウスタビガのような美麗な個体に出会えることは大変珍しいのです。
逆にこちらのヒメヤママユのような至高のボロボロ個体に出会えることもありません。
ボロボロ個体は標本などのコレクションや撮影対象としては残念がられますが、生態系の中の1種として見てあげればこの子がわずか数日の中で鳥などの天敵から逃げ延びてきたという勲章のように捉えることもできます。
私はこうしたボロ個体が結構好きです。
ひとえに外灯に来ているヤママユであってもその個体の背景から様々なものが読み取れますよね。こうした視点を持ってみると目の前にいる昆虫が持つバックストーリーに目が向き、観察がますます楽しくなっていきます。
可愛らしい魅力あふれる蛾を探してみよう
極端な話をするとこの2種は存在を知らない方がほとんどだと思います。
ヤママユの仲間は国語のエーミールの話で記憶にある方も多いと思います。
しかし蛾は春~夏まで、秋以降に出る昆虫はいないだろうという先入観がこの2種の発見を妨げています。
実際の所ウスタビガとヒメヤママユを探すのは「なにかのついで」では難しく、ウスタビガとヒメヤママユを探すぞという心意気で探さねばならないため、出会うのも大変です。
加えて外灯のLED化に伴い、飛来する個体数がガックリと減っている背景もあります。
しかしながら私が観察した所によるとヒメヤママユに関してはLEDにも来ています。
自前のLEDフラッシュライトにもバッチリ反応しており、LEDの種類にもよるのかもしれませんが山地であれば比較的見つけやすい種類であると思われます。
今回6匹見つけた場所はおそらく普通の白色灯です。
外灯の下に翅が落ちていたら周辺には生息している可能性が高いので、姿が見えなくても「残骸」などをヒントに探していきましょう。
また、葉が落ちた木々につく繭を探していくというのもおすすめの探し方です。ウスタビガやヒメヤママユは、マイマイガのような超広食性ではありませんが、単一の植物を食べているわけではありません。
なので雑木林にある普通の樹木を見ていけば繭の痕跡も見つけられます。
残骸や繭の痕跡を探し、当たりをつけたら周囲の外灯を見ていきましょう。ヒメヤママユは10月中旬ごろ~、ウスタビガは11月中旬ごろからチャンスがあります。
私も推しているようにヤママユの仲間は大変可愛らしい昆虫です。虫に興味のある方にはぜひハンドリングなどをしてその可愛らしさを体験してほしいものです。
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夏の担当、ヤママユガです。クワガタなどの採集ついでに目にすることが多い大型種です。
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北海道などで大量発生し、話題となるクスサンは秋の担当です。