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キツツキの仲間は木から何を食べているのか?餌となるカミキリムシ幼虫の視点と捕食戦略を紹介。

キツツキが木を突いている理由

最も身近なキツツキのコゲラ。雑木環境があればいる。

キツツキの仲間といえば身近な公園でも見ることができるなじみ深い鳥ですよね。

その特有の行動といえば木を突く行為です。

大型種では谷を挟んでも聞こえるほどの大きな叩き音を出すわけですが、彼らはいったい何をしているんでしょうか?

今回は身近で目にするキツツキの仲間と彼らが利用している餌資源の生活を覗いてみましょう。

キツツキとは?

キツツキはキツツキ科に所属する鳥の仲間の総称です。

大型種もいるのですが、写真の都合上コゲラばかりになります。

科の特徴としては足の指が後ろに回る点や木を突くことに特化した体の構造などが挙げられます。

キツツキは木々に垂直方向でも止まることができるという荒業ができます。

よく考えるとこのように止まれるのはすごいこと

仲間としては小型種のコゲラ、大型種のアオゲラ、山地ではアカゲラが有名です。

一年中見ることが可能な鳥であり、小型種のコゲラはちょっとした雑木林環境があればシジュウカラやエナガなどと混群を成していることもあり、観察は容易です。

コゲラと共に群れを作るエナガ(左)とシジュウカラ。この子達を探すのもコゲラを見つけるうえで役に立つ。

体長は大型種でもヒヨドリと同じ程度のサイズ感で大きくはありません。コゲラに至ってはスズメと同程度です。しかししっかりと木を突く行動が観察できます。

キツツキが食べる物の生態

キツツキは餌を食べるために木を突くというのはよく知られたことですよね。

大型種ヤマトタマムシを初め、タマムシの仲間は樹皮下に穿孔する代表的な虫。

彼らは樹皮下に潜伏してるタマムシやカミキリムシなどの幼虫を中心とした昆虫を捕食しています。

これも話としてはよく知られていますよね。しかしながら幼虫サイドの生態的な面を知る機会が少ないのでなんでこんな行動を取るのだろうか?と疑問が湧いてきます。

木に空いているこのような穴。実は内部で成長した成虫が出た痕。

イメージとしてカミキリムシやタマムシの仲間は木の内部、その中心部である心材部に潜伏しているという認識のある方は多いかと思います。

事実として材内に穿孔するタマムシやカミキリムシは蛹化する際に材の中心部へと移動するものもいます。

しかしながら卵から幼虫期に関しては必ずしもそうではありません。

ヤマトタマムシの産卵シーン。枯れたコナラに産み付けていた。

2種の成虫は樹皮のめくれや割れ目に産卵をします。孵った卵は樹皮下へ穿孔し、そのまま樹皮のすぐ下を食べ進みます。

植物になじみがない方は樹皮下というのはかなり木材の内部であることを想像するかもしれません。

写真の丸太でいうと黒くなっているあたりが内部のイメージ?

しかし実際には二の腕程度の枝であっても2㎜ない程度しか樹皮はありません。(樹種にもよる)

そのため、枯損した部位などを剥いてみるとかなり簡単にキツツキが食べている者たちを見つけることができます。

今回はケヤキに樹皮下の様子を見てみましょう。

やや乾燥した枝。外周の黒い部分が樹皮下となる。

太めの枝ですが、この通り、ある程度時間がたつと樹皮の下の部分まではボロっと向けてしまいます。

その下には枯れ木に穿孔するカミキリムシもしくはタマムシの幼虫が樹皮下を食べた痕がはっきり残されています。

この材に空いている穴の部分に潜んでいた幼虫

人の手でも剥がせる程度の樹皮下にこれだけの痕が残されているわけですから、キツツキの嘴であれば容易に樹皮を貫通し餌を確保できるのは想像にたやすいですよね。

樹皮下で成長した幼虫はあるときに材内部(中心部)へと侵入します。

外周から中心へ移動する。

種により蛹で越冬、材内部で成虫となり翌年に脱出など異なります。

この期間が長いのでおそらくより深部で成虫になるのではないかと思います。

そうすれば天敵である外部からの捕食者に襲われにくいですからね。

深部にいることは天敵に狙われにくいことに加え、内部を流れる樹液にも飲まれにくくなるという利点もあります。

モラルが問われるカミキリ採集。つまり樹皮下にいる幼虫の痕と木くずで種類を判別しているということ。

針葉樹食いのオオトラカミキリなどで顕著ですが、針葉樹の樹液は粘度が高く、幼虫が絡まれて死んでしまいます。(半数が樹液に飲まれて死ぬともいわれる)

オオトラカミキリの幼虫は2年一化ですが、樹皮下→心材部→樹皮下→渦巻き模様で心材部に入り蛹化というプロセスがあります。

左の樹液と右の成虫脱出の痕を見て内部の様子を想像していくのが見えない自然を見るポイント

詳細な時期は不明ですがもしかしたら冬の時期に材内部へ移動してリスクを減らしているのかもしれません。

このようにキツツキが狙っている餌というのは樹皮下を住みかとし、天敵捕食の関係を何とか避けようと戦略立てている様が見て取れます。

餌は浅い場所に潜んでいるのだ

今回紹介したケヤキに最も普通に見られるキンケトラカミキリは冬には材内部で成虫となって待機している種類です。

餌資源が乏しくなる冬を深部で耐え、捕食を免れている生態と推測することはは可能性として一つありそうですね

キツツキのレーダー

餌側の戦略はかなり見事なものでした。一方でキツツキ側もなかなかに賢いです。

樹皮にある蛹か何かをつつくコゲラ。昆虫類なら広く食べているらしい。

捕食者であるキツツキの密度が上がると樹皮下を利用するカミキリムシ類の個体数が減る可能性があります。

オオトラのフラスや樹皮下の孔道など教えてくれた方の考察

これは今期オオトラカミキリ採集時に知識豊富な方が考察として述べていたものですが、アカゲラの個体数が増加したことによって樹皮下のオオトラ幼虫の捕食割合が増えて取れる機会が減少しているのではないかというものです。

キツツキの仲間はどんな樹皮下に獲物が潜んでいるか知っているようです。

何を頼りにしているかは不明ですが、キツツキは枯れ木の場所を的確に見抜く。しかし潜んでいる場所はわかってはいない感じ。

それは木の枯れ具合やもしかしたら樹液の反射などの要因によるのかもしれません。

観察して取れるのは彼らは木を突く際に獲物を探る行動と獲物を捕らえる行動があることです。

空洞があるぶん音の響きや振動の伝わり具合、音の高さなどに違いがあるのではないか。

木琴などの道具や中を空洞にして音の違いを楽しめる遊具がありますよね。どうやら木の内部にあるこれら幼虫の坑道や、材内の蛹化時に生まれる空洞などの音の違いを感知しているように見えるんですよね。

枯れ木に来たキツツキは今回の考察のように叩きつつ移動していく

枯れ木に来たキツツキは軽い突きを繰り返しながら音を確かめ、やがてここらへんか?という感じで宝探しをして掘り当てています。

これらの行動は生木よりも枯れ木もしくは枯損部意で見かけることの方が多いです。おそらく枯れ木利用性の虫の方が分母として大きいためだと思われます。

木を突く他の意義

とても大きな木を叩く音は食事ではなく縄張りの主張

キツツキは餌以外にも木を突きます。それが縄張りの主張ですね。

特に冬の時期に耳につきますが、スコココココッ!とかなり強烈な音を出します。

これは反対の谷にいる程度でも聞こえるくらい強烈です。餌利用が目的ではないので気にしないのでしょう。

残念ながらドラミングの写真はありません。また、アオゲラなど大型種で顕著に目につきます。

キツツキの頭は衝撃を吸収する仕組みがあるので思い切り叩いても平気なのです。

音の違いとしては餌確保の際にはココッ、ココッとリズミカルです。鳥本体も適度に移動している様子が見られます。

縄張り主張はそれに比べるとかなり音も大きく、連続的に聞こえるので見分けは簡単です。

今回の記事ではキツツキとその餌資源の両方から木の内部の利用方法を探ってみました。別の視点になるとがらりと変わって面白いことが分かりましたね。

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樹木内部に穿孔しているいろいろな虫を紹介。蛾の仲間などもよく入ります。