コオロギはバッタ。バッタはコオロギ?
秋も深まり、鳴く虫の声が賑わいはじめれば特に都市部でよく耳にするのがコオロギの鳴き声ですよね。

コロコロリーでおなじみのエンマコオロギ、ジッジッジと鳴くミツカドコオロギ。黒くて可愛らしいコオロギたちですが、コオロギって何の虫の仲間でしたっけ?
コオロギはバッタでしたよね、でもバッタはコオロギではありません。そもそもバッタとコオロギの違いって何なんでしょうか?
今回の記事ではそんなふと湧き出るコオロギとバッタの違いについて紹介し、コオロギたちを通じて世界の問題も見てみましょう。
バッタって何?
バッタとは昆虫の内の直翅(ちょくし)目(バッタ目ともいう)に所属する昆虫の総称を指します。

バッタの仲間にはバッタ亜目(あもく)とキリギリス亜目のものがおり、自然界で普通にバッタを目にするとトノサマバッタやショウリョウバッタ型のフォルムのものとキリギリスやコオロギのようなフォルムをしたこのどちらかに該当するケースが多いと思います。
前者がバッタ亜目の仲間であり、後者がキリギリス亜目(コオロギ亜目とも呼ぶ)と呼ばれます。
バッタ亜目のバッタはイネ科を利用しているケースがとても多く、多くがイネ科を中心とした草地に出現します。

一方でキリギリス亜目のバッタは雑食性であることが多く、草を食べることも多いのですが他の昆虫類などを捕食する肉食性の傾向も持ち合わせています。
バッタ亜目が平地の草地や荒れ地などの完全に草だけではない土交じりの場所に出現するのに対し、キリギリス亜目では葉の上や薮の中、樹上などより生活環境にうるさい印象があります。
バッタ亜目のバッタは主に地面にいる事が多く、脚はジャンプ力に富み飛翔することをとても得意としています。

これらにはトノサマバッタのように環境に応じた孤独相や群生相といった色の違いや形質が異なるものが出現するものもいます。
キリギリス亜目では葉の上に留まる種類が多いために足先に吸盤上の形質を持ち、葉の上で生活することに特化したようなものやコオロギのように社会性を持つ物なども出現します。
単純に見えるバッタですが、このように複雑でたくさんの種類がおり非常に面白いカテゴリー群となっているんですね。これら2つの亜目をまとめてバッタと呼んでいます。
コオロギって何?
コオロギとはすなわちこの直翅目のバッタの仲間の内キリギリス亜目のコオロギ科に該当するバッタの仲間のことを指します。

めちゃくちゃ単純に言えばコオロギはバッタと言えます。が、バッタといったときにコオロギのことを指しているとは言えません。
色合いはおおよそ黒字に茶色や白が混じったものが多く、基本的には地上を徘徊しています。
この点でトノサマバッタやショウリョウバッタなどのお馴染みのバッタとは大きく異なります。


出現環境はうっそうとした草地の中やイネ科草本の茂みの中、堆積した落ち葉がふんわりと積もっている場所や穴の中などにいる事が多く、明るい環境よりは暗い環境を好んでいる場合が多いです。
この点もバッタ亜目の日当たりを好む性質とは異なりますね。
コオロギは古くから鳴く虫として愛される虫であり、スズムシと同様に秋の日本の原風景として人々の記憶に残る昆虫です。
そんな華々しい思い出があるのは実は日本だけであり、東南アジア地域などでは食料としてよく用いられていたりコオロギの仲間を使用した闘技大会なんかもあったりします。
国が違えども身近な昆虫として広く活用されていたことが分かりますよね。

バッタの仲間はトノサマバッタのように大型のものが目につきやすいです。
そんなバッタの中でもコオロギは最大種のエンマコオロギでも体長が40mm程度しかありません。
他のツヅレサセコオロギやミツカドコオロギは2㎝に届くかどうかというサイズ感であり、その生息環境が地面の上であることや隠れ家に潜んでいることと相まって意識的に探さないとその姿を見ることができません。

声は聞こえるけど姿は見えない。いい声を聞かせてくれる恥ずかしがり屋というような奥ゆかしい日本人のような(勝手な私のイメージ)品のある昆虫です。
代表種エンマコオロギのコロコロリーンを聞いたときに、どこか懐かしいような記憶が呼び戻されてしまうのは日本人あるあるなのではないでしょうか。
鳴く虫の衰退とコオロギの探し方
コオロギは身近な環境にも出現します。

一方で自然豊かな場所や限られた環境では珍しいコオロギも出現したりします。
彼らは大抵鳴き声でその存在を認識することになるのですが、現在の日本の秋にはどんな声を聴きますか?
チッチッチという弱い声や高い大きなリーリーリーが主体となっています。
もはや現代ではコオロギの鳴き声も判別することがないぐらい秋の夜の虫の声は少ないと感じます。
そしてその多くはアオマツムシとカネタタキになっています。

一方でこれらは樹上性という性質があり、たいてい木の上から聞こえてきます。
マンションやアパートの木の上、街路樹の上、春を彩る桜の木などなど上部から聞こえてくるものです。


コオロギの仲間は木には上りません(〇〇コオロギ)ので、基本的に音は足元や正面から聞こえてきます。
エンマコオロギのように大きくコロコロリーンと鳴いてくれるものやミツカドコオロギのジッジッジという声は草地で耳をすませば道路わきのイネ科植物や公園の落ち葉がある場所などでも聞くことができます。
しかし見つけるのは少し大変です。

彼らは時折穴の中に潜んでおり、音が反響して非常に場所が特定しにくいのです。
丁度セミの鳴き声が聞こえるのにいる場所を特定するのが大変であることや、鳥の鳴き声が聞こえたのに姿が見えないのと似ています。
そんな時はひっそりと忍び足で近づいてみましょう。ばれなければ彼らはよく鳴いてくれます。その音の出を探るのです。

コオロギが鳴いている場面に遭遇するのは大変ですので、別のバッタ類で紹介するとコオロギもこのように翅を立ててそれをこすり合わせて音を出します。
いったいどのようにこんないい音を出しているのかと不思議に思うものです。CDみたいなものでしょうか。
コオロギの食性と食利用
コオロギはキリギリス亜目です。食性は雑食の傾向が強く、同じケースで飼育をすると共食いをするなどタンパク質にうるさい様子が見られます。

地上を徘徊し雑食で色々なものを食べると聞くと腐肉食なイメージが強く、その性質はスカベンジャー(腐肉食)に近いものがあるかもしれません。
このような印象があるからか、コオロギ食は近年の日本において偏見やこんなもの食えるかというようなマイナスの印象からそれを推進する企業や新規事業への風当たりは随分強いように感じます。
しかし世界におけるたんぱく質の不足問題というのは人口が増加する社会においてはとても重要な問題です。

私は選択肢の一つとしてこうした昆虫食は研究しておくべきだと考えています。なぜなら本当に必要になったときに無いと困るからです。
タンパク質問題は重大な人類の危機です。
増加する人口に対して必要とする家畜を育てるために必要な畑地などが不足し、資料不足によるお肉の人口に対する供給が不足する問題は、早ければ2030年頃にははじまると言われていますよね。

たんぱく質といえばお魚ですが、日本の漁業では近年資源管理ができない管理体制のおかげでどんどん漁獲量が減少しており、肉も魚もダブルパンチでピンチな状況になりそうなものです。

そんな中で倒産してしまったコオロギですが、高いプリン体の含有率を含むものの同じ重量当たりのタンパク質量が牛肉の赤身と同等かやや上回る程度で非常に優れているのです。
食べたくないとか虫は無理という意見が出るのは分かりますが、食料だって需要が供給を上回れば手にするのは難しくなります。
例えばサーモンは安くておいしい人気の食材でしたが、ここ6年ほどでg単価が290円~330円程度からg490~690程度に挙がっています。
サーモンに限らず日本の水産資源はなかなかに悲しい現状になっており、輸入に頼る傾向が強くなればなるほど価格差や買い負けによる価格上昇に苦しむことになります。
タンパク質危機は対岸の火事ではないと私は思っています。

そんな中で食料として期待されるコオロギの食利用の背景にはこうした世界を巻き込んだ食糧事情や、肉や魚の不足の可能性などの背景があるわけですが、そうした事情を知ったうえで意見を上げるのは構わないと思います。
ただ感情で嫌だからとかとんでもないで見過ごせるほど将来のタンパク質事情が良くないことは全ての人が認識しておくべき背景であると思います。

日本の身近な昆虫であるコオロギ君はバッタ類の種類を学ぶ上でも非常に楽しく、鳴く虫としても癒され、そして食料問題の重要なエースになる可能性もあります。
肉や魚が食べられず、コオロギでタンパク質を補給することがないよう資源管理や食糧事情などに目を向けるきっかけとしてコオロギは面白い存在です。あなたもバッタとコオロギの話から少し食料資源としての話を振ってみるとその人の情報収集能力などの一部が見えるかもしれませんよ。
まさに声は聞こえるけど姿は見えない。世界的な危機などの情報鮮度に対するセンサーとして機能するのがコオロギなのです!
自然を通じて世界を見る題材としてとても優れた対象ですね。
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