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茶色い模様が目立つ赤トンボ! 絶滅危惧種のミヤマアカネ

赤とんぼ、しかし翅に模様が?

夏の終わりの、ミヤマアカネ。体はオレンジだが、翅の模様は明らかに他種と違う。

秋はトンボが人気の季節です。その中でも赤トンボの仲間は古来より秋の訪れを感じさせる存在ですよね。

赤とんぼがたくさんいるなぁと感心していると、その中には低い草丈の中を飛んでいる翅に茶色の模様がある赤トンボに遭遇することがあるはずです。

これこそまさに今回のテーマであるミヤマアカネ。翅の8割ほどのところに茶色い模様を持つ絶滅危惧種の赤トンボです!

ミヤマアカネとは?

ミヤマアカネはトンボ科に所属しているいわゆる赤トンボの仲間です。

非常によく止まる撮りやすいトンボ。

市街地ではまず見かけることは無く、低山地の周辺で見つかることが多いです。

出現期はおよそ8~11月頃となりますが、赤トンボの仲間らしくシーズン初期には薄い茶色のような色合いをしています。


ここからアブラムシを通じて赤色の色素を蓄えることでおなじみの赤色へと変化していきます。

赤とんぼとしては高所を飛行することは少なく、低地の草から草へ頻繁に飛んで移動しています。

いるところにはたくさんいるが、いないところには全くいない。トンボの仲間にはよくある。

神奈川県においては準絶滅危惧湯に登録されていますが、生息地ではそれを感じさせない密度で目にすることが可能です。

最大の特徴は翅に入る茶色の模様です。他の赤トンボ類と見分けられる決定的なポイントであり、かつ飛翔時でもわかることから種の判別はとても簡単です。

絶滅危惧種のトンボ

トンボの仲間は水辺環境を利用します。その際に大打撃となるのが開発や農薬などに寄る人間活動の影響です。

流水性、止水性と種により好みが分かれる。多様な環境が必要。

神奈川県においては田んぼ環境の減少や農薬の使用により水生昆虫層はかなり貧弱であると思います。

特に大型種のヤンマの仲間やサナエトンボの仲間などは局所的な分布を示すものも少なくありません。

ミヤマアカネは止水域と流水息の両方が必要な種類であることが分かっています。

田んぼ周辺は水田の止水と呼び水の流水で護岸も少なくトンボに人気が高い。

都市部などではそれら環境に水草などがある環境が限られてしまうかもしれませんが、低山地や塊の自然が程よく分布している神奈川においては湧水環境も多いからか見かける機会は多々あります。

絶滅危惧種の難しい所は出現の割合です。他の地域で全くいなくても残ったエリアでは多数見られるような種類というのは評価が難しそうだなと思います。

昨今減っている虫の代表格

神奈川の純絶滅危惧でいえばオオムラサキなどが分かりやすい例として挙げられますが、まさにいる所にはいますがいないところにはいないですよね。ミヤマアカネもお住まいの地域によりやたらいる、いないが分かれるのではないでしょうか。

赤とんぼは赤くなっていく。

赤とんぼは最初は赤色をしていません。

10月下旬でも色がついていない個体は多い。赤とんぼの仲間は遅いと12月上旬まで活動している。

アブラムシ由来の成分が蓄積することで色が変わり、それにより紫外線を防御する機能があることなどが分かっています。

有名なナツアカネやアキアカネも実は最初は茶色なんです。

アカネ類の色がついてきた個体。ミヤマアカネも同様に季節の経過とともにとてもきれいな赤へと変化する。

彼らのシーズンとなる秋の初めから活動終了となる12月頭まで、赤トンボ類に焦点を当てて観察していると時期の経過とともに赤トンボの濃度が上がっていく様子が観察できます。

ちょうど10月や11月にはケヤキフシアブラムシなどアブラムシの飛翔が活発となっています。

白い物質を纏うアブラムシ。11月頃にかけて大量に現れる。

自転車をこいていて口に入ったり目に入る経験をした方は多いですよね。

その虫と、食べられる虫の間にある食物連鎖から来るメリットを受けているのが赤とんぼなんですね。

トンボ類と小型昆虫の捕食

ミヤマアカネを始めトンボ類というのは小型昆虫類の抑制にかなり貢献しているのはあまり知られていないかもしれません。

止水の水辺。蚊が発生するポイントだが、この地では驚くほど気にならない。

例えば蚊を例にとると竹藪というのは蚊の密度がとても高いですよね。

蚊が発生する適度な水辺が生まれやすいというのもありますが、入れ込んだ環境には蚊の外的となる生物も入っていきにくいので個体数が減りません。

同じ水辺でも田んぼ環境などは流れの緩い水辺であるにもかかわらず蚊の数がかなり少ないです。

張り込みするオオシオカラトンボ。

試験として6月に半袖で田んぼのある公園に足を運びました。目的は夕時に活動するミドリシジミというチョウの観察だったのですが、イトトンボ類を始めシオカラの仲間がよく飛翔していました。

同じ公園内の雑木林内ではかなり蚊がうっとおしかったのに、発生源である田んぼ周りではほとんど蚊の気配は感じられませんでした。

シオカラトンボの仲間のように止まって張り込んでいるタイプのトンボたちの前では蚊などの小型昆虫はなすすべがないようです。

ミヤマアカネの場合には草地で見ることが多い。草地の小型昆虫を捕食していると考えられる。

蚊はここ最近ではデング熱など熱帯系の病気を始め様々な病気を媒介します。

トンボ層が衰退するということは今後蚊を始めとする病気を媒介する虫が増えていく可能性を秘めていると言えるかもしれません。

糞を分解するオオセンチコガネ。いなければ森はうんちまみれに。目に見えない生き物の連鎖を読むと、知らぬうちに恩恵を受けている。

似た例と言えるかもしれませんが、外国で腐肉食のハゲタカやハゲワシたちの個体数が著しく減った結果、それら腐肉から媒介する病気が増えたという事例があります。

このように実は明らかとなっていない生物間相互作用によるメリットを人間は受けているのでトンボの仲間なども可能な限り衰退させないようにしたいものですね。

赤トンボ類はいる所にはまだまだ多数いますが、平地では移動性のウスバキトンボしか目にしないことが増えてきたように感じます。

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