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春に目にする灰色で目玉模様がある大きな蛾の正体は? 珍しいイボタガ

春、外灯や壁に大きな蛾

春に特に山地にお住まいの方は壁や外灯に大きな蛾が来ているのを目にするかもしれません。

憧れのイボタガ。今年ついに出会えて感無量。あまりにもいい蛾すぎる!

大人の指位の大きさがある灰色の蛾なのですが、どこか模様が幾何学的と言いますか迫力を感じさせます。

この蛾こそ春の三大蛾の一つイボタガ。多くの虫愛好家が探し求める非常に人気な春の代表的な昆虫です。(今回生態写真がパターンありません)

イボタガとは?

イボタガはイボタガ科に属する単一の蛾です。

他に類似種がいない蛾。昔はヤママユの仲間扱いだったとか。

その特徴は非常にユニークであり、ヤママユを連想させる大人の指の長さ以上の大きさを持つことと、翅にフクロウを真似ているとされる複雑な模様と目玉模様を持つこと、出現時期が早春の時期であることと、早春の遅い時間に活動することが挙げられます。

イボタノキ。イボタガの幼虫は見たことがない。

利用樹種はモクセイ科であり、名前のイボタガの通りイボタノキも利用しますが、その辺に普通に生えているネズミモチや植栽されることの多いクロガネモチなども利用するとされていますので、自然が残る場所においては平野部でも出現の可能性があります。

その模様、出現時期、大きさ、程よい難易度から虫好きからの人気がとても高く、愛好家が多い種類です。

モクセイ科を利用するイボタガ

イボタガはモクセイ科の樹木を利用するとされていますが、関東都市部においてはその個体数はあまり多くは無く、幼虫が実際にどういった植物を利用しているのかは分かりません。

ヤマメがいる沢があったので斜面などにあるのかも

イボタガを観察したエリアではイボタノキが少なくとも見える範囲では目視できませんでしたが、周辺の外灯にやってきていました。

林内に生えるモクセイ科としてはネズミモチがまず候補として挙げられそうです。

これに水辺沿いのイボタノキが加わると幅広い範囲でモクセイ科が見られるようになるので、この辺を利用していると思われます。

イボタノキのお花。歯医者みたいな匂いがするので分かりやすい。

モクセイ科の写真を見ていくとイボタノキはこんな感じです。

河川沿いなどで目にしますが、林縁などにも出現するそうで、その存在は各所でウラゴマダラシジミというイボタを利用する蝶の情報を頼りにするとわかります

ウラゴマダラの時期はイボタを見つける大チャンス。花も咲いている。

ネズミモチはよくありそうな植物なのですが、葉が対生に出るという特徴があります。ネズミモチは常緑樹であるため、カシの木のように葉が厚いという特徴があります。

特徴が分かれば見分けやすい樹木と言えますね。

クロガネモチは街路樹などで人気があり、公園などにもみられます。ネズミモチに似ているところがありますが、葉の裏の葉柄が赤紫っぽい特徴があり、樹皮はつるつるの白みを帯びています。(写真がないので後ほど)

肝心のイボタノキですが、これは花期となる5月頃だと分かりやすいです。

イボタノキの花は歯医者と言いますか歯磨き粉と言いますか特有の香りがします。

樹形は丸っぽくなっていく傾向が見られます。

イボタは見分けるまでウツギと非常に似ている。写真はイボタ。

葉はやはり対生で小型なのですが、一度正しいイボタに出会えないとウツギとかなり迷います。

5月頃にはイボタノキを利用するウラゴマダラシジミという種類がいますので、大型の白いシジミチョウがいないか確認すると確実ですね。

一度見分けたら簡単にわかります。

イボタガの擬態

イボタガの模様はフクロウに擬態しているものと言われています。

確かに翅の模様はフクロウっぽいモザイク感。樹皮に擬態しているとも考えられそう。

フクロウは樹皮に擬態していると考えられており、フクロウの仲間の中には木にそっくりなものもいます。

イボタガの模様は人間から見てみるとかなり目立つ模様に見えますが、自然界を生きる生き物の中では目につきにくいものなのかもしれません。

イボタガには目玉のような模様があります。

網の中で睨んでいるかのような迫力がある

類似の大型種、ヤママユガにも共通している模様ですが、この手の模様は鳥に効果があることが認められています。

イボタガのケースではありませんが、こうした目玉模様が鳥などの捕食者に対して効果的であることは多くの論文などで述べられており、webで見られるものとしては「ビークマーク:蝶の翅につけられた嘴の跡」(津吹.上田2001)というものがあります。

翅の後ろにあった目玉模様により致命傷を避けたトラフシジミ。この捕食痕をビークマークという。

この中では天敵である鳥から捕食を避ける手段として眼状紋を用いており、イボタガでは眼状紋に標的を向けて致命傷を避けるという可能性が示されています。

イボタガがヤママユと異なり、こうした眼状紋以外にもフクロウに擬態しているのにはやはりそれを持つことで生存に有利な何かがあることは確かでしょう。

羽を閉じない大型蛾は蝶などとビークマークのつき方が違うはず。これも鳥による捕食か。

写真はありませんが、翅を広げて止まっているフクロウに見えなくもありません。蛾の仲間のシンジュサンがその翅の模様で蛇のように見せているのと同じように、スケール自体は違えどもそのように見えることに効果があるのかもしれませんね。

イボタガは非常に人気の高い蛾

ここまでで特徴を述べたようにイボタガは人気となる虫の要素の多くを満たしています。

昆虫のメッカである某山ではこの虫目当ての人とすれ違う。

まずサイズが大きいこと、擬態や模様でユニークであること、春の三大蛾のように分かりやすい指標があること、蛾屋でなくとも春の虫の一角として話題に上がる知名度があることなどなど様々な理由で昆虫好きの多くの方から愛されています。

個人的には春の遅い時間に現れるというのがこの虫の魅力というか魔性具合を引き上げているように感じます。

蛾屋の方はこの時期でも夜狙う種類は多いのでしょうが、そこまで興味がないものからするとこの春の夜、しかも遅い時間というのは副産物もなくイボタガ狙いで挑むことになります。

外灯や自販機などで日没後から長いあいだ待つ。願いながら飛来するそれは素晴らしく記憶に残る。

大抵今回紹介したようなイボタガの魅力を知ったうえで探すことになるのですが、この蛾を探してみると関東都市部のエリアではなかなかに渋いものでした。

時期が早かったかな、遅かったかな、何かコンディション悪かったかな?ピークは過ぎてしまったのか?などなど虫が来ない中で色々考える中で飛来する素早い大型のシルエットを見て、イボタガの飛来を確信するあのタイミングというのはなかなかにインパクトのあるものでした。

知人と採集に行き、きれいな個体の出現に大盛りあがりの瞬間だった。

私はまだ経験が浅いのですが、イボタガは程よく見つけられるのも魅力かと思いましたね。

毎回出会えるものではないものの行けばそれなりに出会える確率はある。そんなギャンブル性と得られた成果の満足感が多くのものがこの虫を求めてしまう魅力なのではないかと思いました。

イボタの採集は強烈に印象に残りましたねぇ。

イボタガではない春の大きな蛾

春を代表するイボタガですが、大きさは大型個体で開帳時に10㎝あるかないかくらいの感覚です。

このサイズで10cm無いくらい。

蛾の中では相当大きい方ですね。

一方でそこまでは大きくないものの6㎝くらいある蛾もいます。それがトビモンオオエダシャクという蛾です。

トビモンオオエダシャクの姿。イボタほどではないが、蛾の中では大きい方。

この蛾は模様や大きさはイボタほどではありませんが、イボタガと同じ早春に出現する比較的大きな蛾です。

色は灰色をしており、検索などをかけて見てイボタガではない場合や都市部の平地である場合にはトビモンオオエダシャクを疑ってみてください。

知らなければ似ている灰色の蛾

利用樹種はサクラ類であるため、意外と身近にいるようです。この個体は都市部のマンションの壁にいました。

一年に一度の春の出会いを大切にしよう

という訳でイボタガを紹介してきました。

おおよそ朝に大きな蛾を壁などで見つける場合が殆どだと思いますが、虫屋に愛されるようにこの虫を求めて夜な夜な自然を徘徊している人たちは多くいます。

イボタガは出現の時間や時期的にもこの虫を探しに行かないとなかなか出会うことができない昆虫です。

春の世に灯に飛来する妖精のような魅力的なこの虫の姿をぜひ虫に興味がある人に見て欲しいものですね。

光沢などがあるわけではないのですが、人を引き付ける何かを持っていますよ。

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そんな現地での採集体験を感じられる観察記もあるので興味があれば読んでみてください。

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参考文献

津吹 卓 上田惠介 ビークマーク:蝶の翅につけられた嘴の跡,2001,2025.4.20 https://mobile.wbsj.org/nature/public/strix/19/Strix19_15.pdf